【GODEATER】 龍治 -A Ghost of Hero- 作:あとろふ
アナグラの空気にも少し慣れたーーーいや、アナグラの空気に慣れたというよりは、そこで過ごす神機使い達が醸し出す”前線の匂い”に馴染み、ここで命を賭して闘う兵士である彼らと同じ空気を呼吸し、纏うようになった、とでも言うべきかーーー
零はそのような心持ちで、アナグラでの研修期間も今日明日で終わろうという日を過ごし、出発の朝を迎えた。第一部隊やクレイドルの人間とも幾つか会話をかわした。熟練の神機使いたる彼らは皆、決まってこれから青龍で闘う事になる零の身を案じたような言葉をかけた。
現第一部隊長である藤木コウタは、青龍を「あんな所」と謂った。
隊員であるエリナには「青龍に行っても私のほうが先輩だーーー」などと何故か小言を食らわされた。エミールと言ったか、彼はよく解らない、が、自身を激励している事は伝わった。
クレイドルのアリサには、「大変でしょうけど頑張ってください」と喝を入れられた。
やはり青龍の事をよく知る人間にとって、そこは非常に危険でかつ異質な場所であるようだ、と零は飲み込めないながらに事実を感じていた。
唯一、雨宮リンドウだけは何か腹に抱えているような、歯切れの悪い返事をしたのをよく覚えている。それが青龍に感じる深い闇とつながっているような気がしてならない。
それも翌日に青龍へ戻り、喜鴉に問えば済む話だろう、と毎晩の約束の中に落とし込んで蓋をして、零は残りの研修期間を、共に試験を受けた仲間たちとの相も変わらない談笑を楽しんで過ごした。
零は移動用のジープに神機とともに搭乗しアナグラの中央施設の門をくぐった。アナグラを外から見るのは、不甲斐ない思いを俯いた顔にぶら下げて来たあの時の一回と、じゃあまだこれで二回目か、などとにわかに感慨に耽る。
その時、
ビーーッ!!
突如として耳をつんざくようなブザー音が鳴り響く。余りの音の大きさに零は飛び上がりそうになった。南部居住区にいた頃にも聞こえていたが、こんなにも大きい音だったとは。
緊急警報、緊急警報、東部居住区周辺防壁へ向けアラガミ群の襲撃!
聞き慣れたヒバリの声ーーーーそして、東部居住区、青龍の管轄地域じゃないか! と零はすぐに理解した、次の警報は予想通りの内容であった。
アラガミ群到達まで残り予想10分、独立防衛部隊青龍が迎撃します。到達までに第二部隊は東部居住区B地区、第三部隊は東部居住区D地区に出動、敵の侵入に備えてください!
しかし青龍所属であるものの現在アナグラに居る零は、防衛班と青龍、どちらに加勢するべきか、もしくはアナグラで待機するべきかの判断に迷った。
通常ならばアナグラで待機するのが賢明な選択であろう。が、零にはこれが失った「もう一度」の様に感じられたのだ。
繰り返します!ーーー
必要ない。
10分ならば十分間に合う。ならば、と零はジープのアクセルを踏み込み、小さくなっていく警報音を背にまっすぐに最前線、青龍のいるであろう防壁付近へ向かった。
道中、青龍分支部には5分程度で到着した、彼らは今まさに出撃しようという面持ちで、つい先程まで臨時の作戦会議をしていた所に見えた。
滑り込みで合流する零を視認した彼らは、半分驚いたような、いや解っていたかのような反応で、ちょうど良かったとばかりに助手席、後部の荷台へと乗り込んだ。
「永音の言う通りだったな、本当に突っ走って来るとは思わなかったさ。」と後ろからからかう正虎に助手席の隊長は「言ったでしょ、零クンは来るって。」とさほど得意げでもなさそうに言い、全速力で車を飛ばす零に作戦概要の説明を始めた。
「無線のチャンネルを青龍に合わせて。・・・・・いい? 確認されてる敵性反応は大型種2体、中型種1体、小型種は正確には分からないけど10体強、といった所だね、作戦は2通り」
敵に発見されずに当該地区に到達できた場合、喜鴉チャンが大型種どちらか1体に奇襲を仕掛け、気を引いて群れから分断する、直後に私が銃形態で中型種、小型種を出来るだけ討伐して大型種を孤立させる、喜鴉チャンは単独での討伐が危険だと感じたらそのまま私達に合流して。
次、当該地区に到着時点で敵が既にこちらを発見していた場合、これは、仕方ないけれどこちらも固まって相手するしか無いね、回り込まれると危険だから、出来るだけ迅速に済ませよう。
零はこの作戦に違和感を感じた。
「敵がはじめからこっちを発見しているなんて事が・・・?」と聞く。
その質問に永音は返答を戸惑い、一寸の後、後ろの喜鴉が代わりに答えた。
「最近なんか多いんだよなー、示し合わせたように敵が集まってこっちに襲撃してきて、最初から私らの居場所を知ってるような素振りを見せるんだ。感応種による仕業だとするとその群れの中に司令塔である感応種が居ないことの説明がつかないしな。ったくどうなってんだか。」
感応種による仕業ではないのに敵が集まる?しかも最初から臨戦態勢?
零は更に疑問を感じたが、すぐにそれをかき消すように無線の向こうの洲が
『そんなこと今考えることじゃないでしょう。今はとにかく敵を倒して防壁の損傷を抑える事が重要です、既に度重なる奇襲で所々の耐久性が低下しているとの報告があります、これ以上の損傷は避けた方がいいですよ。』 とただした。
そうこうしている間に防壁の門が見えてきた。零のハンドルを踏み込む足により力がかかる。
勢い良く防壁のトンネルを抜ける、その先に見下ろす光景に零は唖然としてジープを停めた。
遠くから、アラガミが、群れを為して、足並みを揃えてこちらへ向かってくる。
軍隊の行進のような整然さと、雪崩のような勢いで。
「チッ・・・・やァっぱりか・・・・」 ガシャンと一番に神機を肩に担いで正虎が荷台から降りる。
「勘弁して欲しいよホントにー・・・」 続いて喜鴉も降りる。
「落ち着いて、零クン、私達がいるから大丈夫。それに、君ならあれくらい一人でも倒せるようになるから・・・・さ、行こうか」
横から優しく肩を叩く隊長に少し勇気をもらい、それまで硬直していた零も覚悟を決めて神機を担いで運転席から降りた。
「うん。流石零クン・・・・・よいしょっと」 隊長も助手席から降りて、4人で防壁の麓へ降りる。
敵の群と同じ高さに降りてくると、その雪崩はより大きく恐ろしく見えた。しかし、零には自信があった。根拠はないが、隊長と訓練に出た時の自信よりは明確としていた。
防壁の損傷を軽微にするためには、極力防壁から離れつつ、かつ一斉に敵を討たねばならない、4人は防壁から40mほどの瓦礫の少ない場所で敵を迎撃することにした。
『敵の数は分かりますが、交戦までに敵の種を特定するのは無理そうです、申し訳ありません、その目で確かめてください!』 と洲が謝る。
上等だ、と零は意気込んだ。
雪崩の中の敵それぞれの輪郭がはっきりとしてくるーーー
刹那、
ダダダン!ダン!
後ろからの発砲音。
咄嗟に振り返ると、スコープを除く永音が微笑みかけ、神機から片手を離し親指を立てた。「大丈夫」か何かのサインだろう。
それに微笑み返し、すぐさま視線を前に戻すと、敵の群れの戦闘から数歩後ろに居たオウガテイルとその変異種の群れがまばらになっている。やはり恐ろしいほどに正確な狙撃だ。
その射撃を合図に正虎が敵軍に対して突進し始めた。敵はもう目の前に迫っている。先頭の大型種、トラのような外見の「ヴァジュラ」が鋭利な爪を振りかざして大きく
正虎に跳びかかるーーー
ガィン!
と、正虎は背中に神機を逆さに背負って盾を展開し、ヴァジュラの跳びかかった衝撃を背中から受け流して見せた。
それだけではない。
ズォオン!!
受け流しきれない、いや、あえて”受け流しきらない”力で神機を大きく横に振り回し、ヴァジュラを、そして強い「剣気」とでも呼ぼうか、神機の長さの2倍は優にある黄金色の刃で周囲の小型種をも一閃、その一太刀の下に断ち切った。
ヴァジュラとオウガテイルが倒れた奥に見える大型種は同種、これもヴァジュラであり、伴走する中型種は「コンゴウ」と呼ばれる仁王のような風体の巨大な猿型のアラガミであった。
正虎が神機を振りぬく時には零と喜鴉は走り出していて、既に正虎の5歩手前辺りまで来ていた。
ゴオォォ・・・
コンゴウが立ち止まり、巨大な口から大きく息を吸う、次の刹那背中の丹色のパイプから強い圧力の空気弾が喜鴉に向かって打ち出された。
喜鴉はこれを軽々と飛んで躱し、中空で前方向に大きく一回転しながらそのままコンゴウに跳びかかり
ザン!!
背中に両の手で深く、根本まで短刀型の神機を突き刺した。それが致命傷となりコンゴウは活動停止。
その横で2頭目のヴァジュラがこちらに向けて光の球を飛ばして来る、避けようとしたがーーー神機を振りぬいた正虎が踏み込んできて
ドン!
と神機の横っ腹で強く殴って爆発させた。
その隙に零はヴァジュラへ向けて突進を続け、真正面、3歩手前へ大きく足を踏み込み、
バキッ!!
突進の勢いを乗せたハンマーをぶん回して頭部へと見舞った。
しかし僅かに浅かったようで、ヴァジュラは怯みつつもすぐさま体制を建て直して前足で零を切り裂こうとする、大きく振り抜いたせいで零は瞬時に飛び退くことが出来ない。
「やってしまった」と思った瞬間、
ザシュッッ!!!!
と零の隣から何かが飛び出してきてヴァジュラを下から縦に切り裂いた。
永音だ。
隊長は「作戦終了」の合図のように振り上げた長刀を片手で大きく血振りしてみせ、零の方を見て微笑みかけ、
「お疲れさま、大成功だね。」 と言った。
最初の射撃から、わずか20秒程度の交戦だった。
その後、討伐したアラガミのコアを摘出して、ジープをゆっくり走らせて青龍へと帰った。