羽田空港。国際線のロビー。時刻は6時45分。
ヨーロッパへと向う7時発の便に搭乗するために、搭乗口へ急いでいると……。
「――やあ、レオレオ」
「理子さん!?」
ゴスロリ防弾制服を着た理子さんが現れた。
「なっ、なんでここに!?」
今まで謝罪の電話もメールにも反応を返してくれなかったのに、なぜこのタイミングで!?
「レオレオがヨーロッパに行くって聞いて、来ちゃったんだよぉー」
「着ちゃったって……。俺は数日ほど出張に行くだけで、すぐに帰ってきますよ? ――それに理子さんは俺のこと、怒ってたんじゃ?」
「あー、まあ、それはね。レオレオが教務科なんかで話しちゃうから、学校でレオレオと理子が結婚を前提で付き合ってるー、なんて噂も回っちゃうし。せっかくの単位だってなしになって、キーくんにも誤解しちゃったから、それは怒っちゃうよぉ」
「す、すみません……」
頭を下げて謝罪する。
――って、キーくんにも誤解って? キーくん……たぶん、遠山先輩のことだよな? 金太郎……金次とかそういう名前だったと思うし。
「……理子さん。もしかして本当は、遠山先輩が好きだったり、します?」
「んー? どうだろうねぇ。――そうだったら、レオレオはどう想う?」
頬っぺたに指を持ってきて訊ねる、理子さん。真意が読めないけど……。
「そうだったら……」
んー……。理子さんが他の誰かと……。
「――嫌、ですね」
「嫉妬しちゃう?」
「嫉妬すると、思います……」
情けなくて見苦しいけど……。
「ふーん……へえ、そうなんだぁー」
理子さんがニッコリ笑って背中を向ける。
――っと、搭乗してくださいという案内が流れた。
「えっと……すみません。俺、この便に乗っていかないといけないので……」
この便に乗り遅れるはマズい。この便を逃したら、あとは台風の影響で欠航になっているのだ。……本当は昨日の夜にでも出発しようと思っていたけど、ののかちゃんとの出来事があって1日ずれちゃったんだよな。そういえば今日の授業、ライカちゃんや間宮さんたちが何かの事件に関わってるとかで休んでいたなぁ。
「――ねえ、レオレオ」
「はい?」
くるりと振り返って、顔を近づかせてくる理子さん。
いつもとちょっと違う妖艶な表情で見つめられて、
「まだ理子りんルートを攻略するチャンスはあるよ」
「……え? 理子さん……」
……攻略チャンスって……。
「――ふふっ」
突然漏らした笑い声と共に、理子さんの表情がいつもの表情へと戻る。
その表情の変化に、気づく。
「ま、また、俺をからかったんですか?」
俺の言葉に肯定だと、ニッコリ満面の笑みを浮かべる理子さん。な、何度手玉にとられてるんだ、俺は……。
情けなくなって片手で顔を抑えていると、理子さんは谷間から大粒のあめ玉を取り出して、口に含んで転がした。
はぁ、怒る気にもなれないよ……。
荷物を入れた鞄をからい直す。
「じゃあ、俺は行ってきますね。数日ぐらいで帰ってきますので……」
そう言って、歩き出そうとして……。
理子さんにネクタイを掴まれて引き寄せられる。
「んっ!? ――むぐっ!?」
理子さんの唇で、唇をぴったりふさがれて、
――コロンッ。
あ、あめ玉を渡された。口移しで……。
「り、りほはんっ!? な、なひを……」
顔を真っ赤にして戸惑う俺。
だけど理子さんは俺に背を向けて、顔だけこちらに振り返り、
「またね、レオレオ。――そのあめ玉、あげるからちゃんと溶けてなくなるまで舐めるんだよ」
かわいらしい投げキッスをすると、帰って行ってしまった。
「…………。~~~~っ!?」
い、今のは!? ……え、な、なに!?
ゆ、夢!? だっ、だけど……口の中に飴が……。ぴ、ピーチ味だ……。
真っ赤になってるだろう顔を片手で覆いながら、俺は飛行機へと急いだ。
◆
飛行機が離陸してほどなく。
「空飛ぶリゾート」とテレビでも紹介された超豪華旅客機の一室に、ひとりで乗っていた俺は、ちょっとだけ眠くなってしまい、部屋に置かれているベッドで寝ていたのだけど……。
飛行機が突然揺れたので、目覚めてしまった。
「んー? 何か起こってるのか?」
立ち上がって背伸びをひとつ。
周りを見ながら状況を理解していく。――って、飛行機の高度が落ちてる!?
本当に何か起こってるのかッ。
通路を飛び出し、慌てた様子のアテンダントをつかまえて事情を聞くと、何でもアテンダントに扮していたテロリストがいて、突然発砲してガスをまいたらしい。
一応そのガスは無害のものだったらしく、気絶させられた2人のアテンダント以外怪我人はいないそうだけど、テロリストがまだ機内にいるんだと。
今はこの機に偶然搭乗していたSランクの武偵が、現在テロリストと戦っているようで、発砲音がいくつも鳴っているそうだ。
そのSランクの武偵というのは、特徴を訊く限りどうやらアリア先輩のことらしい。
俺と同じくヨーロッパの武偵局に呼び出されたのか? いや、今はそれはいい。
最後にどこから銃声が聞えていたのか聞き出して、走りだす。
気配を探りながら走っていき……見つけた。
ドア越しから声が聞えてくる
『これ以上……怒らせないでくれ』
? 遠山先輩の声? 気配も……そうだ。
もうひとりの気配は……えっ!? 理子さん!?
『――俺は衝動的に9条を破ってしまうかもしてないんだ』
9条!? まさか武偵法9条のことか!?
――武偵は如何なる状況においても、その武偵活動中に人を殺害してはならない――
遠山先輩は理子さんを殺すつもりなのか!?
それだけはさせない! 武偵としても、人としてもさせてはいけない!
ドアを蹴破るように開けて中に入る。
「遠山先輩ッ!」
「――っ! 麻倉か!? なんでおまえが……。理子に睡眠薬を盛られたんじゃ……?」
俺の登場に驚きながらも、理子さんに銃を向けたままの遠山先輩。
「遠山先輩! 何をやっているんですか!?」
「何って、おまえ。状況が……」
「――あれ、レオレオじゃない」
「理子さん!」
見れば、壁に背中を当てて体を両腕で抱きしめてる理子さんが。あれ? 髪がツインテールじゃなくなってる!? それに少し短くなってる!? 壁の周りにつけられてるのって、爆弾?
飛び込むように部屋に入ってきた俺を、理子さんが少し驚いた表情でみた。
「結構強力な睡眠薬を飲ませてあげたのに。なんで起きてるのかなぁ?」
「睡眠薬? 理子さん、それはいったい……」
「ほら、アレだよ。あれ……」
理子さんが妖艶に微笑み、桜色の唇に手を当てる。
唇? 睡眠薬って……。
「――あめ玉……ですか?」
「大当たりぃー! 一応理子のファーストキスだったんだからね」
ニコニコと嗤う理子さん。
「まあ、Sランク武偵でも最強の部類に入ってるレオレオを一時的に無効化できて、オルメスと金次のコンビを戦えたんだから、一応吊り合いはとれたのかなぁ。ふふふ……」
「オルメス? アリア先輩のことですか?」
「うん。アリアとは家系とか色々と因縁があってね。今回は負けちゃったけど――」
理子さんはそこで遠山先輩を見る。
そして、遠山先輩を見ながら笑みを作って……。
「じゃあ、最後にアリアにも伝えといて。――あたしたちはいつでも――2人を歓迎するよ? レオレオも、じゃあね」
そう、理子さんがつぶやいた瞬間だった。
理子さんの周りの壁が爆発して穴が空き、気圧で吸い込まれるように理子さんが飛行機の外へと……パラシュート付けてない!?
「――理子さん!」
「お、おいっ、麻倉!?」
遠山先輩の声を振り切って、機内の外に飛び出す!
仰向けで海上へと落ちて行く理子さん。
「――麻倉 レオン!? なんでお前が!?」
「理子さんッ!」
驚いている理子さんを空中でしっかりと捕まえる。
「お、おい!? 何をして……パラシュートが開けな……!」
どんどん高度が下がっていき、重力によって加速していく。
このままじゃ、海上に叩きつけられる!
不思議筋肉の俺は全然無事だろうが、理子さんが死んでしまうッ!
「麻倉ッ!」
「理子さん! 少し黙って!」
「――っ!?」
怒鳴ってゴメン理子さん。けど、理子さんを助けるためには集中しないと……!
体内の気を溜めて、一瞬で解放!
爆発的に高める!
「あ、麻倉? なんだその髪と眼は……」
「絶対に理子さんは死なせないッ!」
体勢を整え、斜め前に体を向ける。
目的地は近くの砂浜! 何もない空中で、足を踏み出す!
――ドンッ!
何もないはずの場所から踏み切る音が鳴り、俺と理子さんが落ちる方向が変わる。
「――なっ!?」
理子さんが驚いているようだが、説明している時間はない!
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!
何度も空中を踏んで、駆けるように砂浜へと向う。
落下の勢いを殺しつつ、速度を落としつつ、砂浜へと向っていく。
「――くっ」
砂浜を前に、目眩がした。やっぱりスーパーモードより先の明鏡止水の境地に到らず、長距離空中走りはマズかったらしい。
そういえば、ののかちゃんに気を送ってからほとんど回復しきれてもなかったな……。
現在の体調は最悪だ。
すぐにでもベッドに入って眠りたい。
――でも……。
「理子さんは死なせないッ!」
「――っ」
気合を入れなおして空中を駆ける!
そして、やっと砂浜へと着地しようとしたところで……。
――足が空を切った。
「クソッ! ガス欠かッ!」
スーパーモードが勝手に切れる。――くっ、このままじゃ、砂浜へと落ちる! 速度はあんまり出ていないし、高さもそれほどないから、2人とも死なないかもしれないけど……。
「麻倉!?」
背中を砂浜へ向けて、理子さんを胸に抱きしめる。
それとほぼ同時に、ドンッという衝撃が背中から伝わり、肺から息を吐き出させる。
「――クッ!」
疲労がピークに達するかというところでの衝撃に思わず気を失いそうになるが、何とか耐える。
理子さんを離さないように、怪我しないように抱きしめたまま、スザザァーっと、背中を擦りながら砂浜を滑っていき、やがて止まった。
うー……背中が熱い……。
怪我は……ほとんどしなかったみたいだ。さすが不思議肉体だな。
「理子さん、無事ですか?」
「――っ」
――パンッ。
いきなり上半身を起こした理子さんに、平手打ちをされる。
「いきなり何をやってんだ、おまえは! 死ぬ気なのかッ!?」
ものすごい剣幕の理子さん。は、はじめてみる……。
「そ、それは言うなら理子さんが、自殺しよとしてたから……」
「自殺ぅー? オルメスも倒してないあたしがそんなことするわけないじゃん!」
「ですが、パラシュートも背負わないで外に飛び出してたから……」
「この制服がパラシュートだったの!」
「制服がパラシュート?」
「ほら! こうすると――」
そう言って背中に手を回して、制服の背中につけられたリボンを引っ張ると、ボンッ、という音と共に理子さんの制服が分解して、パラシュートへと変形した。
「本当に、改造制服だったわけですね……」
自分の早とちりに気づいた俺は砂浜に手足をなげだして大きく息を吐く。
そんな俺を指差しながら、理子さんが大声で言う。
「だーかーら、レオレオがやったことは無駄だったの! ありがた迷惑だったの!」
プンプン怒ってる理子さん。
「あははは……。すみません。――ですが、理子さんが無事で本当によかったです」
「――なっ!?」
理子さんの顔が真っ赤になる。
顔を逸らして、ツンっと説明してくる。
「あたしは『武偵殺し』の真犯人なんだぞ……。今回もアリアと金次を殺そうとして、飛行機をハイジャックした」
「そう……だったんですか?」
「やっぱり知らなかったのか」
「起きてから異変に気づいて。それからハイジャック犯を探していたら、遠山先輩に撃たれそうになっていた理子さんを発見したので。理子さんがハイジャック犯だったんですね。――そういえば、アリア先輩との因縁があるって言ってましたけど、あれは?」
「…………。……理子は……、理子の本当の名前は、理子・峰・リュパン4世っていうんだよ。レオレオならそれだけ言えば、わかるでしょ?」
「オルメス、リュパン……。先祖からの因縁ですか……?」
「うん、そうだよ。キーくんがアリアのパートナーになるように焚きつけたのも理子」
理子さんが『武偵殺し』でハイジャック犯の犯人ね……。
「――それで、レオレオ」
「なんですか?」
すうっと上から体を寄せられる。理子さんの改造制服はスカートも含めてパラシュートと化していて、今はハニーゴールドの下着姿だから、すごくエッチだ。
理子さんは胸を俺に押し付けながら訊いてくる。
「――あたしを、逮捕する?」
「…………」
「レオレオなら私なんて瞬殺でしょ。なにせ――文字通り『キング・オブ・ハート』なんだから」
理子さんが言った言葉の真意は……その言葉の意味通りだろう。俺は、ガンダムファイター並みのトンデモ超人武偵だからな。
「――それとも、このまま理子と一緒にイ・ウーに来る? レオレオみたいな超能力者や特殊な血統をもってる人がたくさんいるよ」
「イ・ウーですか……。そういえば少し前にも勧誘に着ましたよ。そのときは手ひどく断わってしまいましたけど……」
「ふふ、そうなんだ。理子の勧誘も断わっちゃう?」
「俺は……武偵で、『キング・オブ・ハート』ですから……」
「……着てくれるなら、本当に理子が結婚してあげるよ」
「えっ!?」
「……すごいくいつきだね、レオレオ」
「う……だって……」
本当に結婚だなんて……。さっきのは本気みたいだったし。
「ふふっ」
理子さんが愉しそうに微笑み、首に手を回して抱きついてくる。
「――っ」
耳を唇で挟まれ、熱っぽくつぶやかれる。
「アリアとレオレオの相性が最悪だったけど、理子とレオレオは最高に合うと思うんだぁ。常に前線で戦う最強の戦力のレオレオと、情報集めと作戦担当の後衛として理子。いいコンビになれると思わない?」
「そ、それは……。前の仕事でもすごくやりやすかったですけど……」
「じゃあ……」
「それでも――すみません。武偵としてなら歓迎しますが、犯罪者としてのコンビにはなれません」
「……ふーん、そうなんだぁ。残念だなぁ」
くっ……、耳元で囁くように言わないでください。あ、あれが反応して……。
「ん?」
「――っ」
「へぇ……」
ニンマリ笑顔を浮べる理子さん。き、気づかれた!?
「なに? 理子に覆いかぶさられて興奮しちゃったの? ――いいんだよ、レオレオが理子と一緒にイ・ウーに着てくれるんなら……」
「――っ」
腹から下半身へと理子さんの手がゆっくりと撫でるように移動していく。
「――理子がえっちいことたーくさんしてあげるよ」
ズボン越しに触れられる。
触れられて撫でられて……。痛いけど、気持ちよくて……。
「ふふっ、すっごく硬くなってる」
「――っ」
「ズゴン越しじゃ痛い? レオレオが一緒に着てくれば直接してあげるよ」
「理子さんにはついて行きたくなるけど……。やっぱりゴメンなさいッ」
「んー、これでも堕ちないかぁ。――なら、お預けだね」
パッと手を離され、おまけとばかりに頬にキスをされる。
「~~っ」
「ふふ、初心初心だね、レオレオは」
そう笑うと理子さんが起き上がり、
「じゃあね、レオレオ」
パラシュートを回収して去っていく。
「理子さんッ!」
「なあに、レオレオ」
「……あの、行ってしまうまえに……助けを呼んでくれませんか? 力を使いすぎちゃって、実は全く動けないんです」
「へー、そうだったんだぁ。今なら理子でもレオレオを倒せるのかなぁ?」
気をコントロールすれば、ミサイルでも打ち込まれない限り倒されないと思うけど……。
「できれば、素直に助けを呼んで欲しいです……」
「仕方ないなぁ。まっ、無駄だったとしても助けてもらったことには変わりないんだし、呼んであげるよ。――あと、代わりに理子が『武偵殺し』だってことは内緒だぞ?」
「……わかりました」
◆
ある人の通報から、砂浜で伸びているところを無事に発見された俺が保護されてから、翌日の夜。東京武偵高校の屋上に連れて来られていた。
その屋上には現在、軍用ヘリが止まっていて、俺は……。
「それで、あんたは本当に仲間じゃないのね?」
――軍用ヘリの中でアリア先輩に尋問を受けていた。
「さっきから何度も言ってますが、違います。俺は事情を何も知らなかったんです」
「本当に? 金次は親しそうだったって言ってたわよ? 学校で噂にもなってるらしいじゃないの」
「そ、それは……。知らなかったんですよ。まさかハイジャック犯だったなんて……」
「つまりハニートラップを受けてたわけ?」
「うっ……。この場合はそうだと、言うしかないです……」
つぶやいた俺に、アリア先輩はあからさまに呆れた様子を見せる。
「あんたねぇ。武偵が気をつけなければいけないもの3つ、知っていないわけないでしょう?」
「……闇、毒、女でしたよね」
「あんたは毒と、女に引っかかったわよね?」
「毒は、普段だったら効かない体質なんですけど……」
「――言い訳しないッ!」
「うう……、すみませんでしたぁ……」
「だいたい男は、ちょっと胸が大きいぐらいで鼻の下を伸ばして……。あんなのただの脂肪の塊じゃないの……どこがいいんだか……」
アリア先輩の説教という名の愚痴が始まってしまう。
あー……それにしてもなんでアリア先輩と同じヘリで移動しないといけないんだよぉ。しかも、ヘリからイギリス海軍の空母まで行って、そこから艦載ジェット機コースだし……。
飛行機のハイジャックがあったからって、ロンドン武偵局に『武偵殺し』の犯人を追うため帰るアリア先輩と空の旅は遠慮したいです。
あー、こんなときに身代わりになってくれそうな……。あっ……。
「そういえば、アリア先輩。遠山先輩は結局パートナーにしなかったんですか?」
「――っ」
アリア先輩が固まる。え? 地雷だった?
「金次は……もういいのよ」
「もういい?」
「元々事件を1回解決したら終わりの約束だったし、あいつならあたしの最高のパートナーになってくれそうだったんだけどね……」
暗い顔になるアリア先輩。
と、ここでヘリが離陸し始めた。
「――そ、それよりも、今はあんたよ!」
「え?」
「ロンドンの武偵局についたら、あんたと一緒にあたしも事件解決の応援に行くことになってるんだから。今度はハニートラップなんかに引っかかったりするんじゃないわよッ!」
「…………。……気をつけます」
思わず『ゲッ!?』と叫ばなかった自分を褒めてあげたい……。
独特の浮遊感が体を襲い、ヘリの高度が上がっていく。
あー、しばらく日本とお別れかぁ。まあ、アリア先輩も手伝ってくれるんだし、意外と早く片付いたり――。
『――! ――! ――!』
ヘリのプロペラ音に紛れて人の声が聞えてきた。
いったい誰が……。
「――金次?」
信じられないとつぶやいたアリア先輩。
「え? アリア先輩?」
いきなり立ち上がって、ヘリのドアを開けた。
「アリアせんぱ……」
「――アリアーーーーーッ!」
俺の声を掻き消すような大音量。
遠山先輩の声!?
アリア先輩はドアの前に陣王立ちして叫ぶ。
「バカ金次! 遅い!」
遠山先輩が来るのを信じていたといわんばかりのセリフ。そのまま……、
「あ、アリア先輩、まさか……」
――バッ!
……と、飛び降りちゃった……。
ちょっ、パラシュートは!? 理子さんみたいな改造制服じゃないよな、あんたの制服!?
俺の心配をよそに金次先輩に向って真っ直ぐ降下していくアリア先輩。
かなりギリギリのところで金次先輩がアリア先輩をキャッチする事に成功した。……本当に、フェンスが衝撃に耐え切れず壊れてたら2人とも地面に落ちてたよー……。ていうか、2人を受け止めたフェンスは今にも壊れそうだ。
そして、ヘリの中ではアリア先輩の突然の行動で混乱している。
彼らは凄腕のSランク武偵のアリア先輩が戻ってくると喜んでいたからねー。逃げやがった!? って驚いてる。
すぐにヘリの高度を落として、アリア先輩を確保しに行こうとするが――。
2人が大人しくしているはずがない。
仲良く口げんかっぽく作戦会議を始めて、遠山先輩がドアを壊し、屋上から飛び降りた。ベルトに仕込んでいたワイヤーを出していたことから、それで屋上から着地するらしい。
アリア先輩も遠山先輩を追って、屋上から飛び降りようとして、
「レオン! あとは任せたわ!」
それだけ言って逃げてしまった。
「――ちょっ!? なんですかそれはぁぁぁっ!?」
◆
このあと、俺まで逃がしたらダメだと思ったのか、ロンドン武偵局に着くまで、筋肉ムキムキの武偵さんたちに監視されながら移動をするはめになった……。
あははは……。
日本では女の子ばっかりに囲まれていたけど、これが本来の俺の日常でしたね……。
忘れていたよ……。ていうか、忘れていたかったよ……。
ああ、白人マッチョと黒人マッチョがすぐ隣でお互いの筋肉を比べ合ってるぅ……。ああ入ってくるな、細マッチョぉ……。唯一の癒しはワトソン、おまえだけだが……おまえも男なんだよなぁ……。