翌朝。さりげなく金次さんにランクの話をしてみた。
話のなかで俺がSランク武偵ってことに驚かれたけど、あなたもSランクですよね? って訊ねたら難しい顔をされた。
何でもSランクの強襲科から転科して、今は探偵科のEランクなんだと。
遠山先輩的には、EランクだからSランクみたいにすごくないんです、って言いたかったんだろうと思う。
むー、転科したことといい、どうやら遠山先輩には何か事情があるらしい。
その事情がなんなのか……。
まあ、諜報科でもないし。基本武偵は詮索がNGなので聞かないけど、ちょっとだけ戦えないのが残念だ。
――と。
今はとりあえずは学校だ。
現在の時刻は7時50分。バスの時間がそろそろ迫る。遠山先輩はメールをチェックしたあとで、自転車でゆっくり寮を出るらしいから、戸締りを任せて先に寮を出発する。
エレベーターで降りて……。あー、込んでるなぁ。やっぱり学校が始まる前に着ける、最終のバスだからかなぁ? 先に並んでいた人たちに習って、列の最後尾に並ぶ。誰にも言わないのに並ぶのって、日本の美徳だよなぁ。
バスに乗り込み、しばらく。
他の生徒たちと同じく、学校前のバス停で降りて校舎へ向う。下駄箱で靴を履き替えて、廊下を渡ってクラスへと。
……ん? 視線を感じる? 見られてる?
んー? 結構珍しいSランク武偵だから見られるのは納得できるけど、視線の感じが妙だ。
何か観察してるみたいな、マジか? みたいな視線。
何か俺やったけ?
首を傾げながら教室のドアを開けてなかに――。
「――だーかーら! あたしとレオンはそんなんじゃねぇんだって!」
「またまたー、『レオン』なんて親しげに呼んじゃって。ライカってば彼氏いたんだねー」
「屋上で彼と色々していたようですしね」
「あっ! 志乃ちゃんっ!」
「――っ!? あかり、志乃……。て、てめぇらまさか……」
「ち、違うよ! ええっと……別に覗きとかはしてないよっ! ただ気になってあとをつけただけで……」
「そ、そうですよ! ただ気になっただけで覗くつもりなんて全く……」
「てめえら……」
ライカちゃんが腕まくりして2人の女子生徒に襲い掛かりそうだ。顔も真っ赤で怒りで我を失ってるみたい。
これは血の雨が降りそうだ。傘は持ってきてたっけ? ……って、まあ冗談だけど。
「おはよう、ライカちゃん」
「――っ!」
ビクッとなってギギギと後ろを振り向くけど無言。なにこの反応、地味に傷つくんだけど?
「どうかした?」
「いや……。お、おはよう……」
少しようすがおかしいが、まあいいか。自分の机に鞄をかけて座る。教師が来るまで時間もあるし、ケータイでも弄るか。
「あのっ!」
――ん?
声をかけられた方に視線をやってみると、小学生?
明るい茶髪の髪を白いリボンでツインテールにしてる女の子だった。ライカと同じ武偵校の制服を着てるってことは、同級生? いや、インターンの可能性があるな。
「はじめまして。私、間宮あかりっていいます。同じクラスで、ライカちゃんの友達です」
これはご丁寧に。
「同じく、私は佐々木志乃といいます。どうぞよろしくお願いします」
間宮という子に続いて、今度は腰下まで伸びてる黒髪を、腰辺りで2つにリボンでまとめてる子が挨拶してきた。こちらは高校生らしい、いや、スタイル良しの美人さんだ。改造制服が横行するなか公立通り上品に制服をきちんと着てる。なんていうか、お嬢さまタイプの子だ。俺の期待を裏切らない、上品なお辞儀してくれた。
「俺は麻倉 レオン。ライカちゃんとは幼なじみで……」
普通に自己紹介をしようとしたところで悪戯心が働く。間宮って子、弄りやすそう……。ちょっとからかってみたいなぁ。
「恋人かな?」
「――ブッ!? ななななっ……!?」
ライカちゃん汚い……。ツバをぶっ掛けないでくれよ……。
「やっぱり! そうなんですね! へー、ライカに恋人かぁー」
「お似合いですね」
ハンカチでツバを拭き取る。間宮さんも佐々木さんも簡単に騙されてるなー。
「れれれれレオンッ! おっ、おまえ何を言ってやがんだ!? あ、あたしとおまえがこっ、恋人なんて……!」
「ちょっ、ライカちゃん。こんなところで迫られると困るよ。ここ教室なんだから?」
「ライカって大胆なんだ……」
「ら、ライカさん。教室ではやめたほうが……」
2人が真っ赤になってチラチラとこちらを覗いてくる。堂々と見ないで恥ずかしがりながらチラチラ覗いてるところが女の子らしい。
「~~っ! おまえらなぁっ! レオンもいい加減に悪ふざけはやめろよっ! どんどん噂が広まっちまうじゃねぇかぁぁぁぁっ!」
ネクタイを掴まれてブンブンと揺らされる。ちょっ、止めて。首が絞まって揺さぶられてって、朝食が戻ってくるから……! ライカちゃんの顔でお好み焼き作っちゃうからっ!
「ゴメンゴメン。謝るから、な。手を離してくれ、お願いだからっ」
「うう~……」
渋々手を離してくれる。いや、俺と恋人だって勘違いされてそんな涙目になられるのは、かなり心にグサグサくるんだけど……。顔には出さないけど、心がズタズタですよ?
「まあ、ということで、俺とライカちゃんは恋人じゃないんだよ。ゴメンね、嘘ついて」
「「そうなんですか?」」
2人そろって首を傾げなくても……。それに間宮さんに佐々木さん。
「あと、2人とも敬語とか使わないでいいから。同じクラスの仲間なんだからさ」
「いいんです……じゃなかった、いいの?」
「私は普段敬語なので……。でもありがとうございます」
「うん」
それにしても間宮さん、ちっこいなぁ。140cmもないんじゃないか? 丁度いい位置に存在する頭に手を置いてみる。
「?」
頭に手を置いた俺を間宮さんが疑問符を浮べながら見上げてる。えーと、なんだったけ? 視線を合わせるんだっけ? 言い聞かせたりする時って。
しゃがんで視線を合わせる。
「例えインターンで入学してきた小学生でも、俺は差別しないからね」
と、微笑む。
「――っ!」
『――っ!』
ん? クラスの空気が凍った? あれ? 何か俺間違えた?
間宮さ――。
「あたし……15歳だよ」
「え? 15歳?」
視線だけ動かして同い年のライカを見る。佐々木さんを見る。2人ともうなずいてる。周りのクラスメイトたちも『そうなんだよー』と苦い顔でうなずいてる。
「本当に?」
幼児体型って本当にいたんだ。あ、そういえばアリアっていうSランクの武偵も幼児体型だったような? ……ん? その他にもたくさん思い浮かぶぞ? 考えてみればそこまで珍しくないか、幼児体型。
「…………」
視線を戻してみたら間宮さんの無言での肯定と目が! 俺を見上げる間宮さんの目が、いつの間にかレイプ目になってるぅぅぅっ!?
「あっ、いや、そのっ! ご、ごめん! え、えーと……」
どうしよう!? こういうときってどうすればいいんだ? 慰める? 笑う? 土下座する? まったく思いつかない。気の効いた言い訳も見つからない! どうすれば目に光が戻ってくるんだ!?
「そんなにあたしって中学生に見えないのかな……? もうすぐ高校生なのに……。うう……ひぐっ……。うわああ……」
な、泣いたー!? ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 女の子泣かせちまった!? ていうかじわじわ目に涙溜めていくところが幼児みたい……じゃなかった!
「ゴメン! ゴメンね! えーと、間宮さんはまだ成長期が着てないだけなんだよね! ほら、飴ちゃんあるよ! 食べるかい?」
「う、うう……」
「なんでおまえ、ペロペロキャンディーなんて持ってるんだよ?」
ライカちゃん、そこはスルー! もっと大事なことあるだろ! それとあとペロキャンは俺のおやつだから!
ペロキャンを受け取ってくれた間宮さんだけど、まだ暗い。涙が今にもこぼれ落ちそうだ。
「どうせ私はライカや志乃ちゃんみたいに胸大きくないし、小学生みたいな幼児体型よ」
「確かに今はそうだけど、大丈夫! うん、これから成長するって!」
「でも、全く成長しないんだよ? 胸だってギリギリAカップだし……」
「まだ15歳だからだって! これからこれから!」
切なくなるから胸の前で手をスカスカしないでください。2人もフォローくれよ! ペロキャン上げるから!
俺のアイコンタクトが通じたのか、佐々木さんが手を差し伸べてくれる。
「大丈夫ですよ、あかりさん。あかりさんはそのままでも充分に可愛いですから」
ニッコリ笑顔で頭を撫でてる。……佐々木さん。
「……遠まわしに成長しないって言ってるみたいに聞えるよ」
「え!? わ、私は、そんなつもりは……」
「成長しない? ……するもん。絶対するもん……。成長してやるんだからぁっ……」
ガリガリ無言でペロキャンをかじる。歯軋りしてるみたいだ。
「クッ!」
そこでなんで俺を睨む、佐々木さんっ!? さっきの上品な笑顔はどこに!? ライカちゃんも助けてー! え? ダメ?
「麻倉さん、少し……お話いいでしょうか? できればそうですね、2人っきりなんてどうでしょう?」
2人っきり!? お話!? このタイミングで何を言ってるんだ、佐々木さん!
「……えっと、まだお互いを知り合ってもないんだし、そういうのはもっとお互いを知り合ってから……」
「? 何を言ってるんですか?」
それは俺のセリフだよ……。
「キミの気持ちには答えられない」
「……つまり、あかりちゃんを泣かせた責任を取らないと?」
「? あかりちゃんを泣かせたことについては謝るつもりはある」
「なら……」
一振りのポン刀を取り出す、佐々木さん。……え? それどこからだしたよ、おまえ?
「――死んでください」
「――っ!?」
刀が横一線に振られる! 危険察知! 体の時間が、思考が引き延ばされる!
刀の機動が手に取るようにわかる。一瞬で戦闘態勢を整えた俺から見れば、銃弾ですらスローに映り、体も時間を無視した速さで動くことができる!
まさにザ・ワールド! 時よ、止まれッ!
実際には止まっているように見えるだけで、ちゃんと動いてるけど。
その止まっている時間のなかを、極限まで鍛え上げて人間の限界すら超えた俺の肉体は自由に動くことができるのだ!
パラパラ漫画やアニメの原稿みたいに1コマずつ動いていく刀の軌道を見切り、周りとは別の時間で体を動かし対処する。
刀の機動の先は肩。防弾制服は同時に防刃でもあるから狙いは上からの打撃か。よかった、殺すつもりは一応ないみたいだ。
ゆっくりと、俺の体内時間では降りてくる刀を両手で捕らえる!
「真剣白羽鳥!」
パンッと刃を両手で挟む!
「――なっ!?」
佐々木さんが驚愕の表情を浮かべてる間に……刀を取り上げる!
怪我をしないように気をつけて刀と腰の鞘も取って、しまう。
よし、これで丸腰だ!
「そんな、一瞬で……」
「スゲェ」
佐々木さんとライカちゃんがポカンとした表情で俺を見ている。ハハハハハ、なんのこれぐらい。『キング・オブ・ハート』という2つ名はダテではないのだよ。
「うわぁ……」
む? 間宮さんも泣くのを止めてこちらを見てる? ……チャンスじゃないか!
「間宮さん」
「ん……?」
う……、こちらを見てる目が少し赤い。小さいぶん罪悪感がハンパない。
「たとえ身体的な特徴で周りよりも劣っていても、世界の武偵には間宮さんと変わらない体型の人がSランクにまで上り詰めたり出来てるんだから、焦らなくても大丈夫だよ」
「それって……」
「ちょっと待っててね」
えーと、確かケータイに画像が入ってたはずだよね。
「ほら、この人」
画像を間宮さんに見せる。
「あ、アリア先輩!?」
「あれ? 知ってたの?」
俺の手からケータイを奪い取り、食い入るように画面を見つめる間宮さん。あの、返してくれません? あんまり見られたくないデータもあるので。
「あああ、ああああ麻倉くんっ!」
「えっと……なに?」
すごく顔が近いんだけど……。
「この画像どうしたの!? 撮ったの? 撮らせてもらったの!? カメラ目線だから撮らせてもらったんだよね!? 麻倉くんとアリア先輩ってどういう関係なの!?」
「ちょっ……こ、怖いよ、間宮さん」
「ねえ、どうしたの!? ねえねえねえ! この写真、どうやって撮ったの!?」
ライカちゃーん、ヘルプー。この子の目が怖いよー。レイプ目以上だよー。
「なんだ? そんなにヤバイ写真だったのか?」
「ライカちゃん……」
俺がそんな真似をすると? 幼児体型相手に? しないよ……。
間宮さんが両手で持っているケータイ。その画面を見ようとライカちゃんが……、佐々木さんも加わって後ろから覗き込む。佐々木さん、正気に戻ったんだね! 安全が確保されたらポン刀返すから!
「うわ……」
「これは……」
画面を覗き込んだ2人がそれぞれリアクションをとった。2人とも何ともいえないような表情をしてるところが共通してる。
「幼稚園児のコスプレって……」
「……怖いぐらいに似合ってますね」
うん、俺もそう思う。似合いすぎてむしろ怖い。それで現在16歳なんだから。ちなみに撮った時はアリアさんが14、15歳の頃。1年で急成長するわけもないので、そのまんまです。悲しいかな……。涙がでちゃう。
「なんで麻倉くんがこんなレア画像を持ってるの!?」
レア画像って……。なんですか間宮さん、その手は? 何かをもぐような……!? ていうか怒ってる!?
「も、貰ったんだよ、先輩に……」
慌てて弁解する。
「アリア先輩に!?」
「ち、違うから! アリア先輩を指導してた戦姉妹でSランクの武偵から送られてきたんだ!」
「アリア先輩じゃないの?」
「そうだよ。アリア先輩本人とは会ったこともないから」
「そうなんだ……」
構えが解かれた。ふう、男の象徴をもがれずにすんだか。
「だけど、なんでアリア先輩の戦姉妹がレオンにその画像送ってるんだ?」
ライカちゃん蒸し返さないで!
「それは……アリア先輩の戦姉妹の方がオタクというか、中二病で……」
「ああ、そういうことか」
「……ああうん、察してくれてうれしいよ」
俺、元中二病。
先輩、中二病。
基本友達いないSランク武偵。
同族嫌悪せずに、意気投合。
秘蔵のコスプレ写真交換。入手といった流れです。
――って、もうすぐ本当にHRが始まるじゃないか。
「じゃあ、ケータイ返して、間宮さん」
「ちょっと待って!」
え? なに? なんでスカートのポケットからケータイ取り出してるの?
間宮さんはそのままカチャカチャとケータイを弄り、一仕事したなぁと、額の汗を拭い、
「はい、麻倉くん。あたしのアドレス登録しておいたからね♪」
「えっと……、あ、ありがとう?」
有無を言わせない満面の笑みにケータイを受け取る。そのとき、間宮さんのケータイに着信を知らせる震動が。
パカッと二つ折りのケータイを開いた間宮さんは満面の笑みを……。
「送信したな」
うん、俺もそう思うよ、ライカちゃん。画像を送信するために間宮さんは色々操作してたんだな。
「うへへへ~、アリア先輩のレア画像だぁ」
「…………」
幸せそうだけど、大丈夫なのだろうか、この子。
「あかりちゃん……っ! ううっ、麻倉くん」
あーさーくーらーくぅぅんッ! という副音声が聞えた。佐々木さん、発音がおかしい。あと、睨まないでくれ。雰囲気が怖すぎて前髪で隠れた瞳が赤く光って見えるから。鬼みたいだよ、キミ。俺、全然悪くない。
佐々木さんが手を手刀のかたちにして、無刀でもってして俺に襲いかかろうとした瞬間――。
「よーし、HRを始めるぞ」
女神が現れた。佐々木さんは女神を恐れて構えを解いて、俺から刀を回収してから席へ戻っていった。
まったくもって女神さまさまだな! 女神にしてはいささか肉食系すぎるが、今は関係ないっ! あなたは俺の女神です!
「おーい、麻倉ぁ。教師に熱い視線送ってんじゃねぇぞ。おまえにはあたしが女神にでも見えんのかぁ?」
「はい! まさに女神さまです!」
タバコをスパーっと噴いていようとも! ヒョウ柄タンクトップで背中にポン刀を差していようとも! あなたは俺の女神さま!
「あっはっは。そうかぁ。そりゃあよかったな。あとでキツメの指導でもしてやろうか?」
笑顔でつぶやく、蘭豹先生。まさか……。
「キツメの指導って、教師と生徒なんですよ!?」
「教師と生徒だからだろ。なーに、勘違いしてんだ、おまえ」
佐々木さんだけじゃなく、先生までっ!? これがモテ期というヤツなのか!?
(あー、やっぱこいつ、ド天然なところ変わってねぇなぁ)
ライカちゃんまで俺を見てる!? クッ、俺はどうすれば……!
「あー、とりあえずHR始めるぞ。あと、麻倉はあとで指導室な」
「指導室!? だ、ダメですよ! そんな指導室なんて! 日本では女教師が何もしてない生徒を指導室に呼び出すときは、大抵その部屋でHなことをするためだって聞いてますよ!」
「……おまえ、マジでSランク武偵か? ていうかどこからの知識だよ?」
「同じSランクの先輩武偵からです! 他にも今の日本ではメイドさんが熱いとか教わりました! あと電気街に秋葉原という聖地があるとかで。リュックを背負った巡礼者がいつも徘徊してるんですよね!」
「…………。あー……、やっぱおまえSランクだわ。いや、忘れてたよ。変人ばっかだもんな、Sランクになる奴らって」
何とか納得してもらえたみたいだ。これでまだ清い体でいられる。
クッ、だけどすごくスタイルいい先生と一夜の過ちというのも……。いやっ、ダメ! ダメだ! 冷静になれ! 相手は妙齢の女性。結婚までの直行ルートかもしれないぞ!
「じゃあ、HR続けるからなー。麻倉のほうは、火野、おまえが日本の正しい常識について教えてやれ」
「げっ!? あたしがですか!?」
「幼なじみってやつなんだろ」
「そ、そうですけど……」
「じゃあ、頼むからなー」
「うう……わかりました」