※この作品はR-18です。

緋弾のアリア K・O・H   作:上平 英

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第7話

 今朝、佐々木家の車で佐々木と一緒に登校することになり、周囲から佐々木との仲を噂される1日となったが、お互い友達が少ないせいか表立って聞いてくるクラスメイトもおらず、無事に放課後を迎えていた。

 

 男子寮へ向うバスに揺られながらため息を吐く。

 

 あー……、いつもよりも気疲れの多い1日だったけど、ライカちゃんと間宮さんが流れてた噂に気づかなかったのか幸いだったなー。

 

 けど、今日か明日には知ってしまうんだろうなぁ……。

 

 何せ、ここは天下の武偵高。人の秘密を暴く諜報科や尋問科、ハニートラップ専門の特殊捜査研究科( C V R )なんて科目を習う場所でもあるんだ。噂話なんて1日2日、早ければ半日もかからず回ってしまう。

 

 あー、どうしようかなぁ。

 

 友達未満なクラスメイトたちは別にいいけど、ライカちゃんや間宮さんの対応は難しい。

 

 特に間宮さんは……。

 

 下手に誤解されて『おめでとう、2人とも♪』なんて笑顔で言われようものなら、佐々木が自殺するか、俺が佐々木に殺されかねない(社会的に)。 

 

 ライカちゃんはちゃんと説明すれば、大丈夫だと思う。まあ、説明ができればの話だけど……。

 

 あー……、誤解を解くには色々と説明する必要があるけど、説明内容に必ず佐々木の恥部を入れて話せないといけなくなるから、話すに話せないんだよなぁ……。

 

 ちなみに佐々木はというと、教務科に戦姉妹契約をしてくれるかもしれない先輩を紹介してもらい、明日の昼から戦姉妹試験を受けるため、その先輩がいるという恐山に向うそうで、それどころじゃないらしい。

 

「はぁ……」

 

 バスを降りて、部屋に向うため階段を昇っていく。

 

 …………。

 

「――アリア先輩」

 

「あら? 気づいていたのね」

 

 そうつぶやいたのは、俺の後ろに立っていたアリア先輩。

 

「さすがSランクね。気配を消してたのに。よくわかったじゃない」

 

 うれしそうにつぶやかないでください……。

 

「一応、バスに乗り込んだときから、まさかな、と思ってましたよ……。今日も泊まっていくんですか?」

 

「ええ、そうよ。金次があたしのドレイになってくれるまで、いつまでもね!」

 

「……そうですか」

 

 まあ、遠山先輩はいい迷惑だろうけど。俺にはそこまで関係ないのでいいか。

 

 部屋に向ってドアのカギを開ける。

 

「どうぞ、先輩」

 

「ありがと」

 

 先輩の接待でもして、遠山先輩が帰ってくるのを待ちますかね。

 

 

 

◆

 

 

 

 アリア先輩にコーヒーを出したりして待っていると、遠山先輩が帰ってきた。

 

 リビングのドアを開け、俺を見みつけて、

 

「遅い!」

 

 と怒鳴ったアリアさんを見て、手で顔を覆う。

 

「アリア……。麻倉、おまえが入れたのか?」

 

「はい。……いけませんでしたか?」

 

 頭の痛そうなポーズをしてる遠山先輩に俺が恐る恐る訊ねるが、遠山先輩が何か言い返す前に、アリア先輩が話し始めた。

 

「なに? あんたはレディーを玄関先で待たせる気だったの? 許せないわ」

 

「逆切れするようなヤツはレディーとは呼ばないぞ。でぼちん」

 

「「でぼちん?」」

 

 俺とアリア先輩の声が重なる。どういう意味の日本語だ?

 

「額のでかい女のことだ」

 

 へー……、そうなんだ。感心する俺に対して、アリア先輩は怒り心頭。

 

「――あたしのおでこの魅力がわからないなんて! あんたいよいよ本格的に人類失格ね」

 

 とまで言って、遠山先輩にベーッと舌をつき出した。

 

 遠山先輩があんまりの言い草と態度に無言になってるが、アリア先輩は気づかず手鏡を取り出し前髪を手で整え始める。

 

「この額はあたしのチャームポイントなのよ。イタリアでは女の子向けのヘアカタログ誌に載ったことだってあるんだから」

 

 あー、そういえばアリア先輩の戦姉や毒舌幼女から見せてもらったことあるなぁー。前髪特集だったけ? 確かまだ持ってたはず。間宮さんにあげたら喜びそうだけど、佐々木が怒りそうだなぁ。

 

「さすが貴族さま。身だしなみにもお気を使われていらっしゃられるわけだ」

 

 皮肉が込められた遠山先輩の言葉。鞄をソファに投げるように置いて、防弾制服の上着を脱いで、廊下へ出て洗面所のあるほうへ。

 

 そんな遠山先輩を、アリア先輩は前髪を弄るのを止めてあとを追う。

 

「……あたしのこと調べたのね?」

 

 その問いに遠山先輩は「ああ」と肯定する。調べられたのに先輩は若干、うれしそう。

 

「本当に、今までひとりも犯罪者を逃がしたことがないんだってな」

 

「そんなことも調べたんだ。武偵らしくなってきたじゃない。……でも」

 

 一拍開けて、言う。

 

「――こないだひとり逃がしたわ。生まれて初めてね」

 

 と。

 

「へぇ、凄いヤツもいたもんだな」

 

 遠山先輩の言葉に俺も同意する。まったくだ。Sランクの武偵、しかも逮捕率100%の武偵から逃げ切るなんて、どんな犯罪者なんだよ。……ちなみに、今の俺の逮捕率も100%近いけど、ものすごく弱かった時代は逮捕なんて満足にできてなかったから、総合してぎりぎりで80%ぐらいです。

 

「誰を取り逃がした?」

 

 遠山先輩が興味からか、軽く訊ねると――。

 

「あんたよ」

 

 と、遠山先輩に向かって言った。

 

 ……へ?

 

「お……、俺は犯罪者じゃないぞ! なんでカウントされてんだよ!」

 

「強猥したじゃない、あたしに! あんなケダモノみたいなマネしといて、しらばっくれるつもり!? このウジ虫!」

 

 えー……。何したんですか遠山先輩ー。ケダモノみたいなマネって……。

 

「だからあれは不可抗力だっつってんだろ!」

 

「うるさいうるさい! ――とにかく! あんたならあたしのドレイにできるかもしれないの! 強襲科に戻ってあたしから逃げた実力をもう一度見せてみなさいっ!」

 

「あの時は……。偶然うまく逃げられただけだ。俺はEランクの大したことのない男なんだよ。はい残念でした出て行ってくれ」

 

「ウソよ! あんたの入学試験の成績Sランクだった!」

 

 ……あー、また遠山先輩がリビングまで戻ってきた。アリア先輩を引きつれて。

 

 2人の言い争いがヒートアップしていき、アリア先輩がとうとう、

 

「なんでもしてあげるから!」

 

 お決まりのセリフを叫んで遠山先輩に詰め寄った。

 

 力を意図的に隠しているフシがある遠山先輩に、アリア先輩は言う。

 

「教えて……。教えなさいよ。金次……!」

 

 真っ直ぐと、遠山先輩を見つめるが……。

 

 遠山先輩はアリア先輩をソファに向って両手で突き放した。

 

「キャッ!」

 

 その対応は予想してなかったと、短い悲鳴をあげてソファに転ぶアリア先輩。足をM字開いてスカートが捲れてて……パンツが見えてます。白とピンクのシマパンか。チョイスが微笑ましい。

 

 部屋に響くのは天気予報のテレビの音だけ。

 

 気まずい雰囲気のなか、遠山先輩は小さくつぶやいた。

 

「……1回だけだぞ」

 

「1回だけ?」

 

 起き上がったアリア先輩とは目をあわそうとせずに、遠山先輩は指を1本立てて言う。

 

「戻ってやるよ。――強襲科に。ただし、組んでやるのは1回だけだ」

 

 遠山先輩が強襲科に戻ってから、最初に起きた事件を一件だけ、アリア先輩と一緒に解決するのが条件らしい。1回だけだから、転科はせずに自由履修として、強襲科の授業を取るんだと。

 

 そんな条件で、一応アリア先輩は納得したらしく、遠山先輩の要望通りに部屋から出て行った。

 

 まあ、アリア先輩にはなぜか時間がないらしいし、どんなに小さな事件でも一件といわれてるけど、遠山先輩が自分のパートナー足りえる存在なのか、その一件で見極めるそうだ。

 

 アリア先輩がいなくなってから、部屋のリビングには疲れた表情でソファに腰掛けている遠山先輩と、テレビを見つめる俺の2人がいた。

 

「はぁー……」

 

 重たいため息を吐く、遠山先輩。俺の存在に気づいてくれたのか、そういえばとソファに置いた鞄から書類の束を出してきた。

 

 テーブルの上に置かれた書類の束。視線だけ向けて覗いて見ると、調査報告書と銘打ってあった。

 

「アリアのことを調べるついでに、おまえのことも調べてもらったんだ」

 

「へ?」

 

 まあ、俺はSランク武偵だし、同居人だから調べて当然、なのかな? 俺は別に興味ないから調べないけど……。

 

 遠山先輩が書類を捲りながら呼んでいく。

 

「麻倉レオン、現在15歳。父親がアメリカ人で母親が日本人のハーフでアメリカ育ち。強襲科のSランクで2つ名は『キング・オブ・ハート』。近接戦闘と徒手格闘に特化した武偵で、流派東方不敗の継承者。母親が武偵で、アメリカにある武偵大付属の小学校に入学。12歳の頃から頭角を現し始め、14歳のときに強襲科Sランクに認定される。その活動は国を選ばず世界全土に渡る……」

 

 さらに書類を捲る遠山先輩。……流派東方不敗や、『キング・オブ・ハート』の2つ名については突っ込まないんですか? まさか遠山先輩はガンダムを知らない? それは人生の半分を損してるぞ!

 

「それにしても凄い経歴だな。英才教育の賜物というやつか?」

 

「いやぁ……。小さい頃から武偵学校に通ってましたけど、英才教育ではなかったと思いますよ。ほとんど自分で鍛えてましたし」

 

「? 流派東方不敗には師匠はいなかったのか?」

 

 ま、真顔で聞かれるなんて……。

 

「りゅ、流派については模倣というか、正直想像したりの我流みたいなものでして……。師匠と呼べる人は……」

 

「つまり、流派東方不敗というのは、おまえの流派ということか」

 

「は、い……。そうなりますね……」

 

 くっ、苦しい……。苦しいよ、元ネタを知らない人に説明するのは……!

 

「だが、師匠の項目に『マスターアジア』、兄弟子に土門カッシュと記されてるぞ? 『キング・オブ・ハート』の2つ名もその兄弟子から受け継いだものとあるが?」

 

「――ブフッ!?」

 

 だ、誰だよ!? 明らかにネタ扱いの調査報告書じゃないか!

 

「遠山先輩……その資料見せてもらってもいいですか?」

 

「ああ」

 

 書類を受け取ってパラパラ捲りながら読んでいく。

 

 おいおいおいおい、3割がたネタが入ってるじゃないか! 俺は、アメリカンドリームなボクサーや、中華鍋背負った中国人や、髪型ヤバいローズな貴族さまや、囚人船長とかとシャッフル同盟なんてパーティを結んだことなんてないぞ! ……シャッフル同盟のメンバーが全員Sランク武偵と記入されているところに、書類の製作者による悪意を感じる。――って、そもそも英才教育って、東方不敗から来たのかよ! 大方幼少の頃から『マスターアジア』の弟子になって~、などと予想したんだろう、この人は。

 

「何か間違ってる情報でもあったか?」

 

 はい。明らかにニセでネタな情報が挟まれてます。

 

 無言で、笑顔での肯定。

 

「おかしいな。理子のヤツがミスったのか?」

 

「え? 理子さん?」

 

 理子さんって言った?

 

「ああ、その資料な。アリアの情報もだけど、理子に依頼して調べてもらったんだよ。理子と知り合いだったのか?」

 

「はい。理子さんとは今、一時的なパーティを組んでて。クエストを受けてる最中なんです」

 

「そうだったのか」

 

 興味なさそうに深くソファへともたれかかる遠山先輩。

 

 俺はそのまま最後まで書類を読み終えて、後ろに書かれた小さなイラストに気づく。

 

 女の子と犬? もしくは狼のイラストで、女の子が犬に首輪をつけて銃を手に笑ってる。

 

 ……これ、まさか俺に対するメッセージじゃないよな? 違うよな? 今度やったら首輪付けて銃で撃つよってメッセージじゃないよな?

 

 とりあえず、見なかった事にして書類を綺麗に整えて、テーブルの上に戻しておく。

 

 あ、そういえば……。

 

「遠山先輩」

 

「なんだ?」

 

「アリア先輩に強制わいせつしたって本当なんですか?」

 

「――ぶはっ!?」

 

 このあと、遠山先輩は『俺はやってない! あれは不可抗力だったんだ!』と訴え続けた。

 

 あー……でも、チャリジャックからの詳細をまるで話してくれないから、イマイチ信用できないです。昨日はアリア先輩の洗濯物を漁っているところも見たので。

 

 

 

◆

 

 

 

 翌日の昼。佐々木が戦姉妹試験を受けに恐山へ向うのを、ライカちゃんと間宮さんの3人で見送ったあと、俺は入学してはじめて強襲科の訓練施設へと向った。

 

 ちなみに、ここで強襲科についてもう詳しく説明すると、強襲科というのは通称『明日なき学科』と呼ばれ、その名の通り犯人を強襲して迅速に無力化、確保するという、事件の最前戦で活躍する武偵を育成する学科であり、その厳しい訓練や任務遂行中など何らかの理由でよく武偵が死亡する、卒業率97,1%の危険な学科である。

 

 俺たち3人が強襲科の訓練施設に着くと、すでに数十人が組み手や射撃訓練、筋トレなどを行っていた。

 

 まずは決められたノルマをこなして、それからトレーニングルームへと向う。

 

 一般的に強襲科でのトレーニングは最低限のノルマをこなした後は自由とされている。ノルマさえこなしていれば、あとは組み手をしようが、射撃訓練をしようが筋トレしようが自由なのだ。

 

 一見すると生徒任せの放任のような授業に見えるが、武偵は自分が何の訓練をすれば生き延びられるのか、自ら考え自ら実践するという習慣を早くから身につけさせるためのものである。

 

 佐々木の戦姉妹試験の会場が恐山で山籠りってヘンな戦姉だよねー、なんてことを話しながら、それぞれ自分にあったトレーニング器具へ向う。

 

 間宮さんは自転車のような足腰やスタミナを鍛える器具に乗り、ライカちゃんは床につけられた取っ手を握って腕立て伏せをするようだ。

 

 俺は……。

 

 俺も腕の筋力トレーニングだな。30kgダンベルを2つ持って、下から上へと上げて上腕などを鍛える。あー……昔はすっごく重かったのに、少し力を入れるまったく重さを感じない。

 

「なあ、レオン」

 

「ん? なに、ライカちゃん」

 

「志乃とは実際、どこまでいってんだ?」

 

「え? 佐々木さんと?」

 

「付き合ってんだろ、おまえら」

 

「――ブッ!? い、いきなり、何を言ってるんだよ!?」

 

 思わずダンベルと落としそうになったじゃないか!

 

「あーっ、あたしもそれ気になってたんだよ」

 

「間宮さんまで!?」

 

 ていうか、間宮さんが1番マズい!

 

 俺や佐々木の気なんて知らないで、2人はニヤニヤした笑みを向けてくる。

 

「噂じゃもう家を行き来する仲なんだってな?」

 

「志乃ちゃん家の車に乗って、一緒に登校したんだよね」

 

「いやー、志乃のヤツが『間違い』起こさないか心配してたんだけどなー」

 

「間違い!? え!? それって志乃ちゃんと麻倉くんが……!?」

 

 間宮さーん、真っ赤なって俺を見ないでください。俺との『間違い』って考えてるならすごい勘違いですからねー。ライカちゃんも心配は続けてください。佐々木の狙いはぶれてないからさ。

 

「一応言っておくけど、俺と佐々木さんは付き合ってないから」

 

「そうなのか?」

 

「でも一緒に登校してきたって噂だけど?」

 

「一緒に登校したことついては偶然。たまたまだから。そもそも出会って1週間ぐらいしか経ってないのに、付き合うはずがないじゃないか」

 

「「え?」」

 

 おい、そこ。何で2人そろって意外そうな顔してるんだよ。

 

「いやー、あの志乃のヤツが、あたしたち以外で、しかも男と一緒にいるのに全然平気そうにしてるから、なぁ」

 

 間宮さんに同意を求めるライカちゃん。間宮さんも同意して、

 

「う、うん……。志乃ちゃんと麻倉くんってすごく仲良さそうだったから……」

 

 ……へ? 仲良さそう?

 

 まあ、出会って初日から佐々木の恥部を見て回ったし、何度も学校外でも会ってるからアレだけど、どうなんだ? 俺たちの関係は……。

 

 ……やっぱり、よくて協力者か友人だよな?

 

「んー、まあ、友達ってことに間違いないんだろうけど、付き合ってはないのは確かだから」

 

「友達、ね……」

 

「付き合ってないのかぁ」

 

 ライカちゃんから未だに疑いの目を向けられる。間宮さんからは残念そうな目を……。

 

 間宮さん……。

 

「俺と佐々木が付き合ってるとか、佐々木さんが迷惑するだろうし、そういう噂は信じないでくれるとうれしいよ」

 

「あー……、そうだな。まあ、噂だしな」

 

「うん、わかったよ」

 

 もちろんだよ! とうなずいてくれる間宮さん。これで何とか、死亡フラグは回避できたか。

 

 ――と、ライカちゃんの腕立て伏せの回数が100を迎えた。

 

 ライカちゃんは一旦休憩するらしく、そのまま寝転がるように、床に仰向けになった。

 

「プハーッ」

 

 大きく息を吐いて、自転車のペダルを回し続ける間宮さんを見る。

 

「まあ、志乃が戦姉妹試験でいない間。あかりはあたしが独占出来るけどな……。――ウヘヘヘェー」

 

「……?」

 

 ライカちゃんの奇妙な笑い声に後ろを振り返る間宮さん。ライカちゃん、まさか……。

 

 俺の予想通り、カメラマンがよく行なう、両手の親指と人差し指をくっつけて間宮さんのお尻へ狙いをつけて……、

 

「うわー、白木綿(しろコットン)。ガキッぽ」

 

「!?」

 

「白木綿……」

 

「――麻倉くん!?」

 

「あ、ごめん」

 

 目を逸らす。つぶやいたのがマズかったけど、俺は見てませんよ。ライカちゃんの声に反応しただけ。俺は立ってるから見えません。

 

「はははは! こりゃ『パンツ』というより、『ぱんちゅ』だぜ」

 

「~~!」

 

 真っ赤になってスカートを抑える間宮さん。トレーニング器具から飛び降りて、両手を上へつきだし、「コラー!」と逃げるライカちゃんを追いかける。

 

 ライカちゃんも間宮さんをからかうのが楽しいのか。

 

「はんちゅ~~丸見え~~。キィーン」

 

 と、アラレちゃんのような走りで間宮さんから逃げる。

 

 間宮さん……。追いかけながら『バカライカ』とか『ローアングラー』って叫ぶのはいいけど、『金払え』はないよ……。佐々木が聞いたら、いくらでもお金払いそうだ。

 

 ダンベルを棚に戻していると、

 

「おい聞いたか?」

 

「金次が強襲科に帰ってくるって!?」

 

「マジかよ! 金次って、遠山金次だよな?」

 

「強襲科の首席候補って言われてたアイツか!」

 

 という話し声が聞えてきた。どうやら他の生徒が遠山先輩が強襲科に一時的に戻るという情報を掴んだらしい。

 

 ライカちゃんも遠山先輩について知っていたのか、走るのを止めて立ち止まった。……急に立ち止まるから間宮さんが背中に顔をぶつけたことは、スルーなんだ。

 

 その間に2人に近づく。……知り合いとか、友達いないからな。ひとりでいるのはまだ慣れない。

 

「……ライカ?」

 

「遠山金次……。あの人が帰ってくるのか」

 

 独り言のようにつぶやいたライカちゅんに間宮さんが訊く。

 

「金次……? 誰それ?」

 

「2年の先輩。任務でいつもいなかったし、あかりがインターンで入ってきた頃、探偵科に転科しちゃったけど……」

 

 ライカちゃんは言う。言葉に畏れを含ませながら。

 

「去年は強襲科でSランク武偵だった。入試で教官を倒したらしい。伝説の男だよ」

 

 ……伝説の男ね。そういう風には全然見えないけどなぁ。アリア先輩の洗濯物漁って返り討ちにされたり、強猥犯だとか言われたり。

 

「い……1年でSランク!?」

 

 間宮さんが声をあげて驚く。ライカちゃんは言う。

 

「……プロ武偵に勝てる中坊なんて、バケモノだろ」

 

「……。バケモノ……」

 

 間宮さんは小さくなって怖がる。

 

「あのー……俺もね、よく忘れられてるみたいだけどSランク武偵だからね」

 

「…………。あー、そういやそうだったな」

 

「そうなの!?」

 

「自己紹介で一応話さなかったけ? 間宮さん……」

 

「え……。あっ! そ、そういえば……」

 

「まあ、そんときのあかりは、どうにかアリア先輩と戦姉妹契約できないかて悩んでたからなぁー」

 

「フォローありがとう、ライカちゃん。けど、ライカちゃんも忘れてたよね?」

 

「あはははは……」

 

 笑って誤魔化すなっ。

 

「いやあ、Sランク武偵ってことは信じるけど、雰囲気が昔とあんまし変わってなくてなぁ。スマン」

 

「なんなら試してみるかい、ライカちゃん。昔、色々とやられてた仕返し、してあげるよ」

 

 俺の言葉に、ライカちゃんが少しだけムカッとしたようだ。

 

 好戦的な表情を浮かべてつぶやく。

 

「――ハッ! いいぜ! 昔みたいに返り討ちにしてやるよ! なんらなペナルティでもつけるか?」

 

「それこそ望むところだな。俺がどれだけ強くなったかその体に教え込んでやるよ!」

 

 ヒートアップする俺たち。そのまま一階にある組み手用の広場に向おうとするが――。

 

「ちょっ!? ちょっと落ち着きなよ2人とも!」

 

 間宮さんが間に入って止めてきた。

 

「止めるな、あかり」

 

「そうだよ、間宮さん」

 

 間に入って何とかしたそうだけど、それぐらいじゃ俺たちは止まらない!

 

「え、えーと……そうだ! ライカ! あたし、遠山先輩の顔知らないんだー。教えてくれない? ね、お願いだから!」

 

 必死に止めようとぴょんぴょん飛び跳ねる間宮さんに、ライカちゃんは頭をかいて息を吐いた。現在いる2階のトレーニングルームを出て、手すりが設けられた通路へ向う。

 

「話したことはないけど、顔は知ってるよ。……ほら、あれだ」

 

 そう言ってライカちゃんが指を指す。間宮さんは手すりに体を乗り出して指差した方向を見る。

 

 俺も覗いてみると、多くの生徒たちに囲まれてる遠山先輩が……。

 

 す、すごい……。探偵科に転科したというのに、いまだに多くの強襲科の生徒から歓迎受けてる。

 

 さっ、さすがイケメン先輩だ。アリア先輩との件で評価が下がっていたけど、一気に上がったぞ!

 

 男女関わらず周りから慕われる先輩。これをリア充と呼ばずなんと呼ぶ? マジで、リア充先輩だな。

 

「なんか想像と違う……」

 

 間宮さんが小さくつぶやいた。……キミはいったい何を想像してたんだ?

 

「そう見えるんだよな。上勝ちすると大手柄だから狙っている1年もいるけど……。なんか勝ちなさそうな気がするんだよなあ」

 

 ……あの、ライカちゃん? それは俺だったら勝てるって意味ですか? 同じSランクですよ、俺。

 

「戦妹は諜報科の陽菜だし」

 

 あれも闘いにくそうなんだよなー、なんて言ってないで。おーい、ライカちゃん。

 

「ま、あたしは勝てないケンカはしない主義!」

 

「……つまり、俺には勝てるって言いたいのかな?」

 

「――っ。……そうかもな」

 

 ハハッと笑うライカちゃん。……うん、いいよ。わかった。

 

「――じゃあ、勝負してみようか?」

 

「――ハッ! 望むところだ」

 

「ちょっ!? 2人ともまたなの!?」

 

 ゴメン、間宮さん。でもこれは止められないんだ!

 

 

 

◆

 

 

 

 遠山先輩の探偵科から再び強襲科への再来事件も、少しだけ静まった1階広場。

 

 俺とライカちゃんはそれぞれ構えをとって向い合う。

 

 無理矢理審判役をかってもらった間宮さんが中央に立って言う。

 

「時間は10分間。武偵柔術ルールで投極打、全部あり。銃、ナイフ以外の道具使用はアリ。ギブアップするか、背中が地面についたほうが負けだよ」

 

「昔みたいに倒してやるよ」

 

 手を胸の位置で打ち鳴らすライカちゃん。自信たっぷりみたいだけど……。

 

「そうはいかないよ。俺は、昔よりも強くなったんだ。あまり舐めないほうがいいよ」

 

「……へっ、大した自信だな」

 

「まあね。――さっき言った通り、ペナルティありでも問題ないね」

 

「ハッ! だったら、卒業まであたしの舎弟でもしてもらおうじゃねーか! 代わりにあたしが負けたら何でもおまえの言う事聞いてやるよ、レオン」

 

「魅力的な提案だけど。それじゃあハンデが足りなさ過ぎて吊り合わないよ」

 

「ふ、ふたりとも~……。そろそろはじめてくれないかなぁ……」

 

 間宮さんの言葉をキッカケに、ブチッとライカちゃんがキレて俺に向って飛び出す。

 

「くらえッ!」

 

 ライカちゃんお得意の回し蹴り。体を逸らしてかわすと、続いて拳が飛んでくる。

 

 拳を横に逸らして、ステップで背後に回る。

 

「――っ! なかなかやるじゃねーか!」

 

 振り返りざまの拳打を、受け止め、飛ばされる膝や蹴りも全て無効化して打ち落とす。

 

「チィ!」

 

 ライカちゃんがイラつき始めた。

 

「す、すごい……」

 

 間宮さんの言葉に続くように、いつの間にかにできたギャラリーが騒ぎだす。

 

「あの男女の猛攻を全部さばいてやがる」

 

「あいつ、1年のSランク武偵じゃないか?」

 

「キング・オブ・ハートだろ。マジでこの学校にいたんだな」

 

「あいつ、機関銃の弾を素手で受け止めるらしいぜ」

 

「素手で戦車とかも倒せるんだと。もはや、アニメとか二次元の存在だよな」

 

「いくらあの男女でも相手が悪すぎだろ。こりゃ、負けるな」

 

 気合の掛け声と共に、大振りの蹴りが放たれる。顔面狙いはわかるけど、上段の蹴りはあんまり放つなよ。黒のTが見えてるぞ、何度も……。

 

 バックステップで距離を取る。

 

 息が荒いライカちゃんと比べて、俺は全く疲労なし。汗すらかいていない。

 

「はぁはぁ……。なかなか……やるじゃねぇか」

 

「ライカちゃんと別れてから、ずっと何度も死ぬ思いをしながら鍛えたからね」

 

「はぁはぁ……はぁはぁ……。……そうか」

 

 力を抜くライカちゃん。実力差を感じて諦めたかと思うところだが、相手はあのライカちゃんだ。

 

 実力差を感じてなお、戦意を燃やして再び向ってきた。

 

 何か策があるのか? 攻め手に回れば一瞬で終わるが、それでは納得しにくいだろうと、受身に回る。

 

「オラッ!」

 

 ライカちゃんから突き出される左のストレートパンチ。受け止めて衝撃を無効化すると、止められると予想してたと言わんばかりに右の蹴りが放たれる。

 

 顔に向ってくる右足での蹴りを、その場にしゃがんでかわす。

 

「なに!?」

 

 驚く声を出すライカちゃんだけど、右足は止まっていない。右足の勢いを使ってその場で1回点すると、もう一度、今度は真上から振り下ろすかかと落としを放ってきた。

 

 空いているサイドに避けようと一瞬思うが、ライカちゃんの両手が今にも、太ももにつけてる2丁の拳銃に手がかかりそうだ。逃げ場を塞いでる、もしくは拳銃を出す場所へ誘導ってわけか。

 

 バカ正直にかかと落としをサイドによけてかわせば、待ってましたと銃が放たれる。後ろに逃げるのは体制的に無理。倒れればルール上その時点で負けだから危ない。相手が迷う間にかかと落しを決める。

 

 そういう作戦か。銃の使用許可を有効に使ったみたいだ。

 

「だけどッ!」

 

 ライカちゃんのかかと落として片手でキャッチする。

 

「――っ!?」

 

 常人なら腕が折れるレベルの蹴りだが、巧みに勢いを殺し、衝撃を受け流す。

 

 驚愕の表情を浮かべて絶句してるライカちゃんに追い討ちをかける。

 

 キャッチしているほうの手を立ち上がりながら上へとあげて、ライカちゃんのバランスを崩したところを狙って、そのまま取り押さえる。

 

 股の間に体を入れて、上から覆いかぶさるように二の腕を辺りを押さえ込む。

 

「これで、俺の勝だね」

 

「…………」

 

 まさかあっさり負けると思ってなかったのか、ポカンを俺の顔を見上げてるライカちゃん。えと……?

 

「勝者、麻倉 レオン」

 

 間宮さんからの勝利者宣言も受けて、俺の勝ちだよ、と視線を送ってみるが、反応はない。

 

「ライカちゃん?」

 

「……ははっ」

 

「?」

 

 どしたの?

 

「アハハハハハッ! まさか、あのレオンがここまで強くなってるなんて思わなかったぜ」

 

 いい笑顔でそう言ってくるライカちゃん。ちょっとうれしくなる。

 

「死ぬほど頑張った。そう何度も言ったじゃないか」

 

「ああ、でもさ。昔のおまえってものずごく弱かったからなぁ」

 

 あははは、と笑われる。それは、まあ、しょうがない。情けなくて弱かったことは事実だ。

 

「いっつもあたしのあとを追いかけてたヤツがなぁ」

 

「ライカちゃん? 追いかけてたのがライカちゃんで、俺は追い回されて虐められてなかったかな?」

 

「そ、そうだったか?」

 

 視線を逸らす。覚えてるだろ、その反応なら。

 

「よく俺のおやつとったり、組み手の練習とか言って間接技きめてきたりしたよな?」

 

「あははは……」

 

「全く。笑って誤魔化すところは変わらないな」

 

「うっ……」

 

 もちろん、図星を付かれたときの顔も。

 

 息を吐いて先に立ち上がる。それから床に仰向けになってるライカちゃんに手を伸ばす。

 

「?」

 

「いや、なんで意外そうに見てるのさ。ほら、立ちなよ。それとも立ち上がれない?」

 

「そっ……そんなことはねえけど……」

 

「じゃあ、ほら」

 

 手を伸ばす。ライカちゃんは渋々といった風に俺の手を掴んだ。

 

 俺は手を引いて、ライカちゃんを立ち上がらせるけど、様子がちょっと変だ。

 

「ライカちゃん?」

 

「あ、ありがと……」

 

「うん」

 

 俺と目を合わせてくれようともしないし、顔が赤い。照れてるのかな?

 

 と、そういや間宮さんは……。

 

 何で人ごみのなかに紛れてるのかな、あの子。あからさま過ぎて逆に目立ってるぞ……。

 

「間宮さーん」

 

「――っ」

 

 気づかれた!? と体をビクっさせると、俺らのほうを向いてギコチナイ笑みを。

 

 疑問符を浮べてライカちゃんと一緒に近き、訊ねてみる。

 

「どうしたの?」

 

「い、いやぁ……」

 

 指を胸の前でツンツンしてる。えーと……?

 

「ふ、2人の邪魔しちゃいけないかなって……」

 

「――バッ!? な、何言ってんだよ、あかり! じゃ、邪魔なんて……」

 

 真っ赤になってあちらこちらに視線をやるライカちゃん。……動揺しすぎだろ。

 

「間宮さんも。誰もキミを邪魔なんて思ってないからね」

 

 そう笑顔で言って頭を撫でる。

 

「?」

 

 顔を見上げてくる間宮さん。あー、気を使わせちゃったんだな。

 

「放っておいてゴメンね」

 

 少ししゃがんで、防弾制服から飴ちゃんを取り出て渡す。

 

「あ、ありがと」

 

「うん。間宮さんはいい子だねー」

 

 よしよし。やさしく頭を撫でてあげる。

 

「えへへ、そう? えへへへ……」

 

 飴ちゃんを舐めながら、間宮さんはちょっと照れくさそうだけど、笑顔を浮べる間宮さん。どうやら許してもらえたみたいだ。

 

 よしよし、いい子だねー。

 

「……おい、あかり。おまえ、レオンからまた子供扱いされてるぞ」

 

「えへへへ……へ?」

 

 ライカちゃんの言葉に、間宮さんの、表情が、固まった。

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