あれから大変だった。ライカちゃんの指摘に間宮さんの表情が無表情になって、 ずっと無言で睨まれたよ。何とか謝り続けてお菓子を渡して機嫌を直してもらったけど、佐々木がいなくて本当によかった。いたら俺が佐々木に切りかかられてたよ……。
まあ何はともあれ、今は放課後。
戦姉であるアリア先輩のところへ向う間宮さんと別れて、俺はライカちゃんと2人で帰宅することに。
「しっかし、おまえ強くなりすぎだろー。昔はあんなに弱かったのによー」
「だから言ってるじゃないか。死ぬほど修行したって」
現在歩いている場所は、ライカちゃんの部屋があるマンション近くの道路。俺の部屋がある男子寮のマンションとは違う位置に建っていて、俺の帰り道とは正反対なんだが。久々に、本当に久々に誰かと一緒に話しながら帰れるので、全然苦にならない。
俺の少し前を頭の上で腕を組んで歩くライカちゃん。今みたいに、ライカちゃんのあとを、半歩ほど遅れて歩きながらいつも帰っていた頃が懐かしい。
「それにしても。男女なんて呼ばれてるこのあたしが手も足も出せなくて負けるなんてよー。正直、Sランク武偵舐めてたぜ」
「というか、ライカちゃんは俺がSランク武偵だっていうこと自体忘れてたんじゃないか」
「まあ、それは……。全然Sランクとか見えねえし……」
「酷いなー。……俺に負けたのに」
「うっ……」
ふふっ、ちょっと弄ってあげようかな。
「そういえばペナルティがどうとか言ってなかったけ? 確か、何でもしてくれるんだよな?」
「そ、それは……」
視線を顔ごと別の方向に背けて黙るライカちゃん。その姿がかわいらしくて、ちょっとおかしい。
「あはははは、冗談だよ。冗談。ペナルティなんて最初から負ってもらうつもりはないから安心しなよ」
「~~っ」
ライカちゃんが立ち止まり、俺が追い越してしまう。
後ろを振り返ってライカちゃんの様子をうかがってみると、顔を真っ赤にしてた。
「どうかした?」
「……いい」
「ん? なに?」
「ペナルティ……上等だってんだッ!」
「へ? ……えっと、別に無理しなくてもいいぞ? さっきも言った通り、冗談だったんだから」
刺激しないように言った言葉だったが、ライカちゃんには逆効果だったらしい。
カツカツと靴を鳴らしながら近づいて、俺の制服の襟を両手で掴み上げ、
「あたしがいいって言っててんだ! すべこべ言わずになんでも要求しやがれ!」
そう怒鳴ってきた。……ライカちゃん、それじゃ恐喝だ。
けど、まあ。せっかく要求させてもらえるんなら、要求させてもらおうじゃないか。
「本当に何でもいいんだな?」
「ああっ! なんでもこい!」
いいお返事だことで……。かなり頭に血が昇ってるみたいだ。
「じゃあ、ライカちゃんには俺とデートでもしてもらおうかな?」
「……は?」
「いまクエスト受けてて土日は忙しいから。来週……週の間に祝日があったよな? その日にデートしようよ」
「あ、あたしとおまえがか!?」
「いや、それ以外に何があるって言うのさ?」
「そっ、そうだけど……。あ、あたしみたいなお、男女なんかとデートとか……」
襟から手を離して、小さくなってもじもじとつぶやいてるライカちゃんだけど、
「? 男女? ライカちゃんは女の子だろ?」
まさか『チェンジ』で入学してる女装男子とか、男装女子とかじゃあるまいし。昔、お風呂に一緒に入ったとき『付いてなかった』のを覚えてる。
「~~っ!」
……ライカさん? 顔がものすごく真っ赤になってますよ?
「それで、ライカちゃんの予定は空いてる? ダメだったら違う日でもいいけど……」
「その日は、あたしも開いてるけど……」
「なら決まりだな」
「あ、う……。……わかったよ」
視線を逸らしながらもうなずくライカちゃん。よしっ、ライカちゃんとのデートゲットーっ!
思わずガッツポーズをしてしまう。
「うー……、あたしなんかとデートしたいなんて、物好きすぎんだろ、おまえ」
「ハッ、物好きで結構。ライカちゃんとデートできるならね」
「……ふんっ、そうかよ!」
先ほどよりも明らかに早い足取りで歩きだしたライカちゃんを追って、俺も歩き出す。
◆
ライカちゃんを女子寮まで送り届けたあと、俺はご機嫌で帰路につく。
何といっても初デート。海外を飛び回ってた頃、コスプレ大会出場やアニメショップ巡りとか、アリア先輩の戦姉さんに連れて行ってもらったりしたのもデートに入るかもしれないけど、こちらは意味合いが違う。
普通の、デートなんだ。しかも相手はライカちゃん。
あ、そうだ。
ケータイを取り出しメールを発信。
メールの相手は理子さん。来週の祝日に作戦決行だったりしませんよね? いつぐらいに強襲かけることになりそうですか? という確認メール。
ほどなくして理子さんからメールが返ってきた。
……よかった。デートの日に作戦決行はしないらしい。今、暴力団の行動パターンや関係者を洗い出してるところだから、作戦決行は再来週の頭ぐらいに予定してるそうだ。まあ、急な出動があったり、デートの日が強襲の日と重なれば、ライカちゃんとのデートを延期になるだろうが、そのときはまたデートの約束を取り付ければいい。
理子さんに了解メールと、他のメンバーにも通達しておきますねとメールを送信。
さっそく他のメンバーたちに、再来週の頭辺りにでも作戦決行予定だから、このメールを確認したら返信してほしいと書いて送信。
通信科の先輩がまず返信してきて、続いて車両科の武藤さんが。狙撃科の生徒は、結局見つかりませんでした。実質カルテットでの仕事ですね。
――っと、電話?
『もしもしー、レオレオ聞えてるぅー?』
「もしもし、聞えてますよ。どうしたんですか、理子さん」
電話の相手は理子さんだった。何かさっきの連絡に不備でもあったのかな?
『ねえねえ、レオレオ。急に日程確認してきたけどぉー、なんか予定でもできたのー?』
「うっ……」
気づかれてる? いやまだ……。
『幼なじみの女の子とデートでもする約束結んじゃったとかじゃ、ないよねぇ?』
「なっ、なんでそれを!?」
何で知ってるんだ!? まさか近くに? でもそんな気配は……。
『あれぇー? 当てずっぽうだったんだけどなぁ。当たってたの?』
「……当てずっぽう? 本当ですか?」
まさか盗聴とかしてないよな、この人?
『んー……っ。今日ねぇ、理子、強襲科の近くに行く予定があったんだけどぉ。そこで偶然、レオレオと幼なじみちゃんが戦ってて、負けたほうが『なんでもしてあげる』とかフラグ立ててたとこ見ちゃってねぇ。幼なじみちゃん倒したあと2人で帰ってたしぃー。理子に確認のメールまで送ってきたから、まさかと思ってカマかけたらぁ』
「……俺が自分で墓穴を掘って、理子さんに知られてしまったわけですね……」
『その通りだよぉ♪』
脳内の理子さんがニコニコ笑顔を浮べてる。あー……。
『それでぇ、デートに行くんだよね? 幼なじみちゃんと付き合うことになっちゃったの?』
「違いますよ。デートの約束を取り付けたまでです」
『ふーん、そうなんだぁ』
公園の抜ければ寮までの近道になるなので、脇に逸れて公園へ入る。
自動販売機でスポーツ飲料を購入。
『ねえねえ、レオレオ』
ん? なんだ、急に声音が沈んだ?
『理子りんルートはどうするの?』
「え?」
思わずスポーツ飲料が入ったペットボトルを落としそうになる。
『レオレオ。理子にあんなえっちいことしたのにぃ……』
「――っ。あ、あれは……」
だ、だが雰囲気に流されていたといっても俺が理子さんにしたことは事実。
『理子は……』
あー……けど男としてこれは責任を取らなければいけない、のか?
いやいや、俺がやったことってかなりアウトじゃないか?
日本人の女性は貞操観念が強いって聞いたことあるし……。
理子さんは金髪だけど、名前からいって日本人らしいし。俺と同じハーフとかでも日本育ちだったら、貞操観念がかなり強いほうなのかもしれない。
…………。
「り、理子さん」
『んー?』
「結婚、しますか?」
『――ブハッ!? な、何言ってるのかな、レオレオは?』
「いやだって……理子さんのを、な、舐めちゃったわけですし……」
『――っ! そ、その話は封印する約束でしょーっ!』
「で、ですが責任取るんだったら、理子さんと結婚して幸せな家庭を築いて、子供や孫を作らないと……。い、一応マイホームと子供を3人ぐらい養えるお金なら持ってるので、籍は……。俺が卒業してから入れましょうか?」
『レオレオ、混乱してるー? 理子が原因だとわかるけど、すっごく混乱してるよねー?』
「とりあえず理子さん」
『……今度はなーに?』
「まずは女性として理子さんを好きになる努力をしたいのでデート、しましょうか?」
『好きになる努力って……。そういうところは無駄に紳士だよねぇ、レオレオって。ほんと無駄に。――でもでも、今までのはぜーんぶ理子りんの冗談だから、気にしなくてもいいよー』
「……へ? 冗談?」
『幼なじみとデートすることになって浮かれてるレオレオを、理子りんが困らせてあげようと思ったんだけどねー。予想外の反応で逆に困らされちゃったよぉー』
「あははは……。そうなんですか。冗談かぁ……」
『なに? ちょっと残念?』
「えーと……正直言えば……』
いや、だって理子さん美少女だし。仕草かわいいし、怒ったときは別人みたいになっておもしろいし。好意はある。明確な、個人として女性として好きかは断言できないけど。
『そうなんだぁ。でも、幼なじみちゃんはいーの?』
「そ、それは……」
ライカちゃんもライカちゃんで好き、なんだよねぇ。
『なーに? レオレオ。もしかしてハーレムルートとか狙ってる? そういえば1年生のお嬢さまともフラグ立ててたよねぇ?』
「それも知ってたんですか……。一応言っておきますけど、お嬢さまのほうとは誤解ですからね。彼女、好きな人いますし。あと、別にハーレムルートも狙ってないですよ」
ちなみにその子の好きな人というのは女性だ。というか、間宮さんだ。
『えー、おもしろくなーい』
「おもしろくないって……。理子さん。ハーレムルートって失敗したら即修羅場なんですよ?」
『でもでも、成功したら最高でしょ。男なら挑戦してみようよぉー』
「人事だと思って……。理子さんも攻略メンバーに入ってるのにハーレムエンドなんていいんですか?」
『別にぃー。理子はハーレムとか理解あるほうだから気にしないよぉ。でもでも、理子を攻略するのは難しいから覚悟しとかないとねー』
「ゲームだったら逆に燃えそうなシチュですけどね……」
『あはははは』
電話越しで笑いあう。理子さんはおかしそうな笑い声だけど、俺の笑い声はどこか疲れていた。
電話を耳にあてたまま公園の歩道を歩いていると……視線の先にあるものに気づいた。
「――あれ?」
『どうかしたの?』
理子さんの問いに答えるように、視界に映ったもの正直に話す。
「えっと……今公園の歩道を歩いているんですけど。歩道の先に、同じクラスの間宮あかりさんと、2年生の遠山先輩が拳銃を向け合ってて……。あ、木の上にも風魔さんがいてクナイを手に間宮さんと睨み合ってます。……いったいどういう状況なんでしょう?」
『なになに!? そのおもしろそうな状況! ねえねえ、レオレオのケータイ、テレビ電話使える? 使えたら理子にも見せてー』
「わ、わかりました。すぐに掛けなおしますね」
一旦切って、テレビ電話に変えてリダイアル。
その間に近くの木の後ろに隠れて、気配を消す。
ケータイを木から気づかれないように少し出す。
「どうです? 見えますか?」
『うん、見えるよー。いったいどういう状況なんだろうねぇ』
俺たちの行動は覗き見だけど……。まあ、いいよな。隠してる風でもなさそうだし。
――と。
遠山先輩が銃を向けながら、間宮さんに声をかける。
「お前、出身どこ中だ」
え? 訊くことそれ?
「理子さん、聞えました? 遠山先輩、ナンパするつもりなんでしょうか?」
『銃を向けながら? いくらキーくんでもそれはないんじゃないかなぁー? キーくんって女嫌いで有名なんだよ』
「女嫌い!? でも星伽先輩っていう巫女さんがマンションに着てたりしてましたよ?」
『あー、あの巫女さんね。あの巫女さんは幼なじみだから女の子じゃないんじゃない? キーくんのなかでは』
「あんな美人さんなのに……。信じられないですね」
『まったくだよねー』
俺たちがそんな会話をしているなんて知らないだろう3人は会話を進めていく。
「い、一般出身です。中3の2学期に武偵高付属中に転入してきました」
「
間宮さんの返答に、遠山先輩はなぜか安心したように銃をしまう。
「風魔いい。コイツは大丈夫だ」
「御意」
遠山先輩の指示に従って、木の上に登っていた風魔さんもクナイをしまう。
間宮さんはその対応に自分を舐めていると思ったんだろう。銃を持ったまま立ち上がり……。
「ぱ……
遠山先輩に怒鳴るが、それと同時に間宮さんの背後から強風が吹いてスカートを捲りあげた……。
それは、木の陰に隠れている俺たちからも見えて……。
「……白、
『――ブハッ!? ぱ、
「す、すみません」
さらに、遠山先輩と間宮さんがやりとりを続行する。
スカートが捲れている事に気づいた間宮さんが真っ赤になりながらもスカートを抑えて、もう一度……。
「ぱ……ぱんちゅーが!」
――くっ! だ、ダメ……笑っちゃッ! わ、笑うな、俺ッ!
『プ……ププッ……』
理子さんも間宮さんの言葉にますますツボに入ったのか笑ってる。くっ、ますます笑いそうに……。
「――なっ、なんなんだお前は!」
……え? 遠山先輩?
遠山先輩はなぜか両手で両目を隠し、目が潰れたムスカさんのごとく「うわああああ」と叫んでる。
「し、師匠!」
「うおおおおお……」
「お気を確かに! 傷は浅うござる!」
目を覆い隠しながら逃げていく遠山先輩を、風魔さんが心配して追いかけながら、間宮さんから遠ざかっていく。
完全に取り残された間宮さん。何とか再起動して怒った様子でどこかへ歩いていってしまった。
「……理子さん」
『あー、おかしかったぁ……。――っと、なにかな、レオレオ』
「遠山先輩って、ロリコンなんですか?」
俺は、見ていた。遠山先輩が間宮さんのぱんちゅに顔を真っ赤にしてたところを。
『んー……どうだろ?』
「まさか星伽先輩を女としてみてない理由って、遠山先輩が幼児体型専門のロリコンだからとかじゃ……?」
『…………』
いや、黙らないでくださいよ、そこは。同居人がロリコンってちょっと嫌なんですけど。