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うぐっ…がっ…がはっ…
変な声が聞こえる。なんて生々しい声なんだ。恐る恐る近づくとそこには数人の男とボロ雑巾のようにボロボロになって横たわる女の子の姿があった。泣きながら僕のことをじっと見ている…だけど……だけど君は誰?
…!!
目を開くと自分の部屋の天井…。外からはスズメのチュンチュンと鳴く声がした。
…夢か。
春先とは言え寒さの残る季節に身体中から汗する嫌な夢を見た。あそこで助けに入っていたらどうなっていたのだろう。僕も同じようにやられてしまうのか…僕の知ってる子が虐めを受けていたとしたらどうしてたのだろう…
ゆっくりと起き上がりカーテンを勢い良く開けると外には沢山の桜が咲いていた。凄い綺麗だけど、なんかな…なんか心が重たい朝だった。
この街に来たのはつい最近で、色々あって僕は新しい高校に転校することになった。そして、今日が転校初日の朝なのだ。
夢のことは忘れるようにしよう。
初日から遅刻するわけにもいかなく急いで支度をする。新しい制服に新しい教材。そして、新しい友達がいる学校へと向かうのだ!
玄関を出ると涼しげな風が吹く。
前に住んでいた田舎町とは違い綺麗な住宅地に沢山のお店。なんといっても驚いたのが沢山の人だ!電車に乗る時なんて押されては中で潰される。まるで心太の飛び出す前のような状態。さすがに夏は気が引けるな…
学校が近付くにつれ、同じ制服が目に付く。この中に、もしかしたら同じクラスの子が居るのかな?なんて思いながら職員玄関をくぐった。
学校内はホノボノとした雰囲気で生徒同士が話している。窓から見える桜も凄く綺麗で少しテンションが上がる。職員室に入れば先生達がHRの準備をしていた。その中の女性の先生が僕に気がつき歩み寄る。
『君が山野君だね。よろしく』
『よろしくお願いします』
第一印象は、小柄で軽いパーマのかかった可愛らしい先生。名前は吉谷。少しサバサバとした男口調にギャップを感じた。そんな僕の担任となる先生と少し会話を交わし教室へと向かった。
階段を一段一段ゆっくり歩む。
ふと思いだしたんだ…今朝の夢を…。先生が何か喋ってるのにも気付かずに考えながら歩いていると…
『山野君?』
先生は足を止めて優しく微笑んだ。
『肩の力を抜いて、そんな緊張してたら手と足が一緒になっちゃうぞ』
軽く冗談を言いながら僕の肩を叩いた。
僕は『すみません』と苦笑いし再び歩き出した。
転校自体は何度もしているのでそれほど緊張はしていなかった。ただ、この学校に入ってからちょっとした違和感を感じていた。と同時に今朝の夢が頭から離れないこの不安感が神経を尖らせている事に気付いた瞬間でもあった。
『山野君。少し待っててね』
と、先生だけ先に教室に入る。教室内では前々から知らされていたのだろう。ドアの前に立つ僕にまで聞こえるざわめき感。
毎回そうだった。
この時だけは少し足が震える。初めての土地に初めての人。知ってる人が誰もいない空間に入る時だけはさすがに慣れなかった。
ガラガラ…
『山野君?大丈夫。皆、良い子だからね』
と、また軽く微笑み肩を叩く先生。そのまま連れられるように教室内へと入った。
注目を浴びた。
『前に話たけど今日からこのクラスの一員となる山野君です。じゃ自己紹介よろしくね、山野君』
今度は軽く背中を叩く先生。
『はい、初めまして山野蒼太です。よろしくお願いします』
と、ゆっくりお辞儀をし頭を上げると先生が拍手をした。それにつられて皆も拍手で迎えてくれた。
指示された席。窓際の後ろの席。ゆっくりと歩き席に向かうと少し笑い声がした。それと同時に徐々に大きくなる声。
僕はなんだ?と思い周りを見渡すとやはり皆が僕を見ていた。
え?え?
『ほら、皆、しーずーかーに!』
教室内のざわめきを一掃する先生。
『山野君は少し緊張してるんです。手と足が一緒になったってしょうがないでしょ』
と軽く笑みを浮かべながら注意した。
僕は苦笑いしながらゆっくりと席に着く。
けして嫌な雰囲気ではなかった。逆に暖かい、心地の良い風に包まれた心境でもあった。先生の雰囲気。皆の笑顔。明るいこの空間は僕を受け入れてくれたんだ。そう思いこわばっていた表情も少し緩んだ気がした。
ただ、ざわめきが治まると同時に起こる沈黙。と同時に目覚めるあの夢…
ただの夢。
いつもならすぐに忘れてしまう夢なのに今朝の夢だけはずっと忘れずにいた…