『ちょっとごめんね』と、いきなり僕のシャツを脱がせる山倉さん。手のひらに乗せたクリームを上半身に塗り始めた。
甘い香り。
山倉さんの匂いと同じ匂いがする。
『蒼太って結構筋肉質なんだね』
マジマジと見つめる渡辺さん。その横で少し視線をそらす小牧さん。
『バカ!俺のがすげ〜んだぞ!』
と、自ら脱ぎ出すヒロ。ボディビルダーのようにポージングを決める背中には、何処か見覚えのある刺青がはいっていた。
『はい、服着てい〜よ〜』
僕は、無言のままシャツを着た。何でクリームを塗ってるのかもわからないまま…
『あの後…どうなったのかな…僕、記憶なくて』
気になっていたからだ。
僕のせいで皆に迷惑をかけた…と思っていた。
『あ〜』ヒロと渡辺さんがハモるように声を揃えると強引に話続けたのはヒロだった。
『全然気にしなくて大丈夫だよ。美奈が皆やつけたから』
『はっ!?』
間髪入れずにヒロをあしらう渡辺さん 。
あの後、山倉さんが僕を押さえ込んでる間に渡辺さんがドアを開いたんだ。グチャグチャに曲がった指を庇(かば)い、泣きながら謝る男の顔に蹴りをいれる渡辺さん。男は後ろに転がると頭を押さえながら怯えていた。その後ヒロが出て行き、その男を再び蹴り飛ばしたんだ。
外には八人いたのだが、そんな二人を見て腰を抜かす男達。情けない声を出しながら逃げてく姿は負け犬同然だった。
逃げ遅れた…と言うより腰が抜けて動けない女性。その女性を見ると何も言わずに顔を蹴り飛ばす渡辺さん。彼女の後ろ姿は鬼だった。泣いても喚いても顔だけ蹴り続ける渡辺さんは徹底的に締め上げる。外出が出来ないほど、仕返しなんて考えられないくらいまで追い込んだんだ。
その女性は受付の場所で揉めていた三人の中の一人。男を集めて仕返しを試みたが門前払いで泣を見た。
『その時の美奈は小悪魔どころかデビルマンだったよな!ヤンキーはこえ〜』
『はっ!?マジ『は』だよ!』
そうふざけ半分に話す二人。
どこまで本当なのかはわからないが、皆の反応を見ると嘘とは思えなかった。
だとしたら、全てばれてしまっているってことでは?
『じゃ!学校にばれちゃってるじゃん!』
今更、何を言っても遅かった。でも、僕だけ退学すれば皆は許してもらえるのでは…
『それは大丈夫。』
静かに喋る山倉さん。
あそこの地下メロは私達の秘密基地みたいなもの。地下3階まで潜り、防音対策されたあの分厚い壁とドアからは盗聴される心配は無かった。
本当はあそこで色々と話したかったけど、美奈のストレス発散と邪魔者のおかげであっけなく幕切れとなった…
今も油断はできないからクリーム塗って盗聴器に膜をはったの。少し音楽を流して音とクリームで妨害。私達、多分、二、三年生はそれくらいの対策はしていると思う。それなりの知識は備わっている。
『まだ、話したいことはあるけど、ここで話すのは危険過ぎて私でも怖いの…』
色々な場面でも動じなかった山倉さんが怖いって…
『また、地下メロ行こ?時間作るから』
笑顔で話す渡辺さん。
僕は、内心ホッとしていた。学校にバレるとかではなく、僕自身の欠陥が知られなくて…
『じゃ〜、もう遅いから〜寝よ〜よ〜蒼太〜』
少し甘えた声を出す山倉さん。さっきまで真剣に話していた人とは思えなかった。
『へ〜へ〜。勝手にナイトスポーツでもしてろ〜』
呆れた顔をするヒロ。その隣で変顔をし、少し眠そうな表情を見せる渡辺さん。ソファーを見れば晴也と小牧さんが眠りについていた。
時計を見れば四時を回っていた。
欠伸をしながら『じゃ〜明日ね』と荷物を担ぎ玄関に向かうヒロ。『じゃ私も』ヒロを追うように外に飛び出す渡辺さん。『寒い!』と叫ぶと同時にドアが閉まった。
幸せそうに眠る二人。そんな二人に寝室から持ってきた毛布をかけるとなんか優しい気持ちになった。
『蒼太〜、眠いよ〜』
目を擦りながら眠そうにする山倉さん。
気がつくと昨日と同じような格好に着替えていた。そんな山倉さんをベッドに連れてき『先に寝ててね』と電気を消した。
そして一人、無音の世界で思う…
皆、今までどんな人生を歩んできたんだろう…と…