そんなことがあったんだ…
僕は静に話す渡辺さんを見つめながらただ頷くばかりだった。
事件後、嵐の中たくさんの救急車が学校の職員玄関に並ぶ。そして、重傷者は病院へ運ばれ、軽傷者は保健室で手当された。
幸いにも軽傷ですんだ私は、手当もせずに小牧のそばにいた。
泣き疲れて眠る小牧に寄り添うように座る黒髪の子。私を見つめ…
『美奈さん、ありがとうございます』
と、小さな声で呟くと目を擦りながら小牧の頭を優しく撫でた。そんな二人を見つめる私。なんて声をかけたら良いのかもわからず、壁に寄りかかり腕を組みながら無言で外を見つめていた…
どのくらいだろう…会話もなく時間だけが過ぎていった。なんとなくそばに居てあげたかったし居てほしかった。一人で居たら嫌な事ばかり思い出してしまいそうで…怖かった。
『私…綾乃です。山倉、綾乃』
黒髪の子がポツリと呟いたのは自分の名前。
『あ…綾乃…ちゃん…ね』
いきなり話しかける黒髪の子、綾乃は私のことをジッと見つめていた。
『やっと…名前教えてくれたね』
私は口元を押さえ唇を震わせた。そして、ニコッと笑みを浮かべると目頭を熱くした。
小牧と仲が良かった金髪ギャルと綾乃。私も小牧が好きで、小牧が好きなこの二人とも仲良くなりたくて、何度か名前を聞くも教えてはもらえないでいた。
普通の学校とは違う施設。信頼関係はすごく大事だった。小牧のように簡単に人を信用してしまうのも危なっかしいが、綾乃のように用心深い人も少なくはなかった。
『おう、遅くなりました!』
大声を出すヒロ。
少し肩で驚く私。急いで目を擦ると思わず吹き出してしまった。
『ふふふっ』
そんな私を見て笑う綾乃。
私は、笑みを浮かべる綾乃を抱き締め、そして『やっと認めてくれたんだね』とおもいっきり抱き締めた。
『何やってんだ?お前ら』
ノシノシと歩み寄るヒロはあちこち包帯で巻かれていた。張り詰めた緊張感と、ヒロが来たことによる安心感から緊張の糸がほぐれたのだろう。私は綾乃と小牧を抱き締めたまま泣いたんだ…
この事件での死者は40人を超えた。そして、その中に金髪ギャルの春奈も犠牲者の一人にあげられていた。
悔やんでも悔やみ切れなかった…
『あの時、私が守ってあげれていたら綾乃も小牧も…ここまで辛い思いはしないですんだのかもしれない』
あの時のことを今も悔やんでいた。
『あの時はどうすることも出来なかった。自分を責めちゃダメだと思う。春奈もそんなこと望んではいないよ』
廊下の方から声がする。振り向くと山倉さんが立っていた。そして…
『明日、真理の顔見に行こ?』
と、優しく微笑む山倉さん。そのまま何も言わずに寝室に向かう山倉さん。そして、僕のベッドに潜り込むと声を殺しながら泣いていた…