午後の授業もあと少しで終わりだ。
よく考えたら今日一日、教科が変わってもずっと吉谷先生が担当していた。普通の高校だと教科ごとに先生が変わるのに、ある意味ここの学校の先生は凄いんだな。
と、次の授業の準備をし急いで用足しを済ませようと席を立った。
『どこいくの?』
キョトンとした顔で聞いてきたのはやっぱり山倉さん。休み時間のうちにトイレを済ませると伝えると、『私も行く〜』って…
いわゆる連れションです。
もちろん同じトイレに入るわけもなく、ドアの所で笑顔で手を振る山倉さんを見て少し照れてしまう僕がいた。
壁に向かって仁王立ち。ゆっくりと用を足してると他の生徒が入ってきた。何故だろう…この沈黙の気まずさは。そんなことを思ってると更に二人の生徒が入ってきた。そしてその二人が近づいて来た。
『山野、今日、学校終わったら付き合わない?』
二人の生徒が耳元で呟いてきた。
僕は思わず驚きと緊張で動けなくなってしまった。
『山倉とかと凄い仲が良さそうだから僕達も仲間に入れて欲しいんだ〜』
僕は急いでチャックを閉め、振り返った。二人はニヤニヤと囲むように立ち尽くしていた。そこに最初に入ってきた生徒も加わり不穏な空気が立ち込める。
『あ、あの…ごめんなさい。帰る約束してるから今日はダメなんだ』
と、断りその場を去ろうとするも通してくれそうもない雰囲気。ジリジリと近寄る生徒に恐怖さえ感じた。
コンコン…コンコン…山野君?
外から呼ぶ山倉さん。
僕は急いで『はい!今行きます』と強引にトイレから飛び出した。
同時に鳴るチャイム。
そして、そこには吉谷先生も立っていた。
僕は『すみません』と今にも泣き出しそうな顔をして教室へと戻って行った。
その後、先生と共に教室に入る三人の生徒。少し気まずそうに席に着き俯いていた。何処の学校にも苛めっ子はいるものだ。目を付けられるなんて…これから本当にやっていけるのかな…
僕も不安で俯いた。
『はい!皆!チャイムが鳴ってから着席ではない!鳴る前に準備をして待機する!何度も言ってるでしょ!』
先生は黒板の前に立ち、真剣に怒っていた。
『こういう事が二度と無いように!』
そう言うと小さく溜息をついた。
『この時間は予定を変更して色々決めていきたいと思います。当たり前ですが、山野君は今日入ったばかりで何もわからないまま一日が終わろうとしてます。不安な思いも沢山してると思います。山倉さん、小牧さん、渡辺さん。今日一日、山野君のお世話ありがとね。先生は凄く助かりました』
と、今日一番の笑顔を見せた。
山倉さんも仲良しの小牧さんも渡辺さんも、少し照れた表情をしながらも先生を見つめていた。
締める所はしっかり締めて、褒める時はめいっぱい褒めてあげる。僕は感動のあまり目に涙を浮かべてしまった。そして思わず『いいな〜』と口を滑らせた…
はっ!と我に返り先生を見ると優しく微笑む先生がいた。そんな先生を見て思わず溜め込んでいた涙が頬をつたっていった。
『では…
僕は急いで涙を拭い、再び前を見る。山倉さんの視線を感じてはいたが恥ずかしくて見ることは出来なかった。トイレの出来事なんてもう記憶の中にはなかった。こんなに学校が良い場所だなって思ったことがなかった。この学校に居たい。吉谷先生の元で勉強がしたい。
そう強く願った。