私立の学校に行くという選択肢もあったのですが、お嬢様の頑ななご意志で地元の中学校に通うこととなりました。
中学から習い事を本格的に始めたお嬢様は部活動等することなく授業が終わるとともに帰路に着くのです。
『ただいま帰りました』
中学生にもなると皆大人になったのかイジメは無くなっていたのです。小学生の頃は毎日汚れて帰ってきたお嬢様も綺麗な制服に身を包む女性。ずっと伸ばし続けた髪の毛を靡かせながらお家に入るお嬢様は少し大人になったようにもみえました。
ただ、そう見えただけだったのです。
中学生になると子どもっぽいイジメから陰険なイジメへと変わっていったのです。私達は外見だけで判断してしまいイジメは無くなったと勝手に思ってしまったのです。
ある日、手ぶらで帰るお嬢様。
『鞄、学校に忘れてしまいました』
えへへっと笑うお嬢様は本音を表に出さない性格が当たり前となっていました。そして、ある日の少し気温が高くなりつつある初夏を迎えた頃でした。
私が道に水をまいていた時のことです。
遠くの方からお嬢様のお姿が見えた時、少しいつもと違う…何か違和感を感じたのです。それは近づくにつれその違和感の正体が明らかとなったのです。
『お嬢様!』
お嬢様の長くて綺麗だった髪の毛が乱雑に切られていたのです。私は驚いて聞いてみると
『ちょっと焼却炉で髪を焦がしてしまいました。ごめんなさい』
自慢の髪の毛を焦がしてしまったと少しショックを受けた表情を見せるも私に気を使うお嬢様。ニコッと笑顔を見せてお家に入って行くのです。
私は思いました。また始まったのかと…
再び使用人に頼んだ結果は思った通りの結果。やり方があまりにも酷くて私は聞いていられませんでした。
子どもは残酷と良く言いますが本当に酷いです。
『お嬢様、申し訳ありません』
話を聞き、お嬢様が習い事をしているうちに私物を確認させていただきました。そこにはお嬢様の私物のほぼ全部に油性ペンで悪口が書かれていたのです。
女将様に買って頂いたペンケースやノート、教科書がカッターで裂かれていました。挙げ句の果てには習字に使う墨汁を鞄の中に撒き散らすということまで。
それでも辛い表情を見せないお嬢様。私達と顔を合わせる度『ただいま』『今日は天気が良いですね』『いつもありがとうございます』と、気遣う言葉をかけてくれるのです。
イジメはやはりエスカレートしました。
制服が夏服に変わる頃、いつものように笑顔で帰宅するお嬢様。首元から黒い線が顔を出していたのです。
『マジックを使ってました。ちょっと遊びでついてしまったのです』
と…
シズさんに話したところ、急いでお嬢様のお部屋に向かわれたシズさん。私も走るようについて行くと
『服を脱ぎなさい!』
怒鳴るように叫ぶシズさん。
お嬢様は嫌がりました。シズさんは私を部屋の外に追い出すと勢い良くドアを閉めたのです。部屋の中からは嫌がるお嬢様の声とシズさんの泣き声のような声が聞こえてきたのです。
私は拳を握り締め、ドアの外でひたすら堪えていました。
使用人の目の届かない場所でのイジメ。
お嬢様の身体中には油性ペンで書かれた様々な文字や記号のようなものが書かれていたのです。制服を着たら見えないだろう位置を計算されたイジメは、下着の中にまで埋められていたのです。
そんな姿を見たシズさんは泣き崩れ『ごめんなさい』と何度も何度もお嬢様に謝られたのです。
いままで何年間、ずっと耐えて耐えて耐えて…我慢し続けたお嬢様。心配をかけたくなかった。本当に優しく育ったお嬢様の性格は、自らが我慢すれば皆が笑顔でいられる。自分が犠牲になれば全て丸く治まる。生徒はそんなお嬢様の性格につけ込んでやりたい放題やっていたのです。
『転校します!私が責任をとります!』
部屋の中から聞こえる叫び声。そんなシズさんにお嬢様は『それはダメです!お願いだから!シズさん!お願いします!それだけはダメなのです!』泣きながら必死にお願いするお嬢様。
何故この学校にこだわるのか。何故そこまでされてもこの学校に留まりたいのか。歯を食いしばりながら何も出来ない自分自身に腹立たしかった…