駅から10分くらいの場所にあるマンションに僕は一人で住んでいた。そして、今日初めて出逢った山倉さんが僕の家にいる。この状況が正直言ってよくわからなかった。
『お茶で良いかな?』
周りをキョロキョロと見回す山倉さん。荷物をソファーに置き僕の問いに答える素振りも見せずに…
『お風呂は何処?』
お風呂?あちっ!
僕はポットの熱湯を指にこぼしてしまう。そして『廊下に出て右だけど…なんで?』と聞いてみた。
またしても僕の問いには答えずにお風呂場を目指した。
僕は一人無言のままお茶を入れた。
もしかしたら、僕に気があるのか?学校でもほぼずっと一緒に居たし、優しくしてくれるし。でも、そんなわけないよね。
なんてことを考えニヤニヤしていると
『今、お風呂入れてるから溜まったら一緒に入ろ?』
ふざけてる風には見えない。照れている風にも見えない。やはり何を考えているのか全くわからない。
『ちょっ!ちょっと待ってよ!僕達は付き合ってる訳でもないのにそれはダメだよ!』
慌てた。
男として女性と交わる、いわば性行為は誰もが望む欲望だ。ただ、唐突過ぎて…心の整理がまるで出来ていない。
『私は山野君が好きなの。山野君は私のこと…嫌い?』
そう真剣に話す山倉さん。
ブレザーを脱ぎ、セーターまで脱ぎ始めた。
僕は急いで手を掴む!そして!
『どうしちゃったの!?』
謎だらけの環境から信頼出来そうな仲間が出来て、やっとの思いで落ち着きを取り戻した矢先に新たなる謎!山倉さんは特に信用出来る人だと思っていた。その本人がいきなり突拍子の無い行動をとるなんて…
好きと言われて嫌な人はいないと思う。だけど…だけど、心のこもってない告白は辛いだけだよ!
僕は山倉さんの手をギュッと掴んだまま俯き歯を食いしばる。
『どうしたの?何かあったの?』
不思議そうな表情を見せる山倉さんは本当にわかってないように見えた。
ゆっくりと手を離し、僕は愕然とした。
僕は今まで女性と付き合ったことがなかった。もちろんキスもなければ性行為もない。そんな幸せな生活が送れるような、許されるような人間では無いからだ。
真剣な僕をジッと見つめ、少しムッとした表情を見せる山倉さん。口を尖らせ少し俯く。そして、脱いだ着衣を拾い集め鞄の所に置くと荷物をあさりはじめる。メモ帳とペンを取り出しそのまま椅子に座るとなにやら書き始めた。
今から絶対に声を出さないで下さい
バッとメモ帳を破り僕の目の前に突き出す山倉さん。僕は、目をこすり頷いた。
絶対!絶対に声に出さないで!
僕は同じように頷く。
絶対だからね!
さすがに三度も同じ内容だと…と、山倉さんを見た時、優しく微笑む…学校の時の山倉さんがそこに居た。少しホッとし、指で目をこすった。
とりあえず先にお風呂に入って?
え?
すぐ椅子に座り急いで書き始める山倉さん。
誤解しないで!大丈夫だから(笑)
と、指が疲れたのかブンブンと手を振りながら苦笑いする彼女はいつもの山倉さんだった。
僕は言われた通りにお風呂に入ることにした。
頭を洗い、体を洗い、湯船に手を入れるとちょうど良い温度。ゆっくりと浸かり『ふぅ〜』と息を吐く。と、脱衣所の方からガタッと物音がした!
お風呂場の電気が消え、ガタッとドアが開くとそこには裸の山倉さんの姿があった。