超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「無理無理無理無理無理無理、無ぅぅぅ理ぃぃぃ!? こんなの避けきれないぃ!」
降り注ぐ軍用ミサイル。コンテナミサイルから更に分離して飛来するマイクロミサイルの制圧射撃は絨毯爆撃に匹敵する。プラネテューヌではなく森の外れで良かったと心底思いながら九死に一生を得たネプテューヌが爆風に煽られて樹の幹に受け止められた。
「きゅう~……」
「かわいくねぇパンツ丸出しで寝てんじゃねぇえええ!」
「ねぷー!?」
ネプテューヌの細い足首を掴むなりエヌラスはネプギアとノワールに向けて全身を振りかぶって投げつける。くるくると回転しながら純白のパンツを恥じらいもなく(隠す暇がない)三人まとめて倒れた。結果、分散していたマイクロミサイルが最短距離の標的を捕捉する。
「“
そうして、一手に引き受けたミサイルの山々を迎撃するも撃ち漏らしたものが至近距離に着弾して起爆。爆風に煽られて木々の頭を越えた所をジェットパックに換装したバルド・ギアが追い掛け、ライフル二挺の連射を浴びせかける。軍用ライフルに制式採用された汎用モデルが7.62mm弾を採用するはずもなく、12.7mm弾を採用したのは扱う対象が人間ではなくて人の姿を模した機械人種であることを前提としているからだ。無論、それが突撃銃と同等の連射速度を誇るのは一重に軍事国家の存在が要因している。バルド・ギアの治める国とは同盟関係にあるからだ。
空中で衝突する防御魔法陣と銃弾の応酬は一方的な鋼鉄の凶器に軍配が上がる。土煙が盛大に噴出した。
「やだぁ~もうやだ~! 私がかつてこれほどまでにぞんざいに扱われた事ある!? いいやないね!」
「だ、大丈夫お姉ちゃん?」
「助かったんだからそれくらい我慢しなさい! それより、追いかけるわよ!」
「ふえぇ、帰りたいよぉ……」
泣き言言ってる間もなくノワールがエヌラスの後を追う。ネプテューヌもそれに続く。
アンダーマウントレールに積載したキャニスター弾が更に追撃する。防御魔法陣を展開していた左腕が衝撃で跳ね上げられて無防備な隙を晒した。そこへ脚部ミサイルを斉射してエヌラスの顔が引きつる。そのサイズは先程のミサイルに比べれば明らかに殺傷力は劣るが、オーバーキルである点には変わりない。肉片一つ残さず焼きつくす魂胆で次々と弾薬を使い切る度に再転送している。残っている二挺のライフルもマガジンを交換しているだけの余裕を見せていた、それが挑発の一種であるとは言うまでもない。
爆風と衝撃、爆音に煽られて土汚れに塗れるエヌラスが仰向けで軋む身体に不満を漏らす。だがそれで事態が好転するはずがない。右手の指にはめたシェアリングを見て、かぶりを振りながら起き上がる。
《目は覚めたか?》
「寝起きで嗅ぐ硝煙は格別だなクソッタレめ」
《それは良かったな》
エヌラスの両手にはまだ自動式拳銃と回転式拳銃が握られていた。遠距離砲撃戦仕様で固めたバルド・ギアに対抗できる遠距離手段を用いれるのが自分一人だと判断したからこそ。だが、そもそもが射撃戦に特化している機人を相手に人間が射撃で対等に張り合えるはずがない。
「この逆アイアンマン風情が調子乗りやがって……」
《ならば、彼女達に加勢してもらえばいいだろう? 私は一向に構わない》
「だったらせめて射撃武器外せや! 近づけねぇだろ!?」
《断る》
「だ ろ う よ!」
元より交渉の余地などなかったのだ。射撃で分不相応ならば接近戦に持ち込みたいのは山々だが、今は銃撃戦でしのぎを削るのが関の山。その隙を突いてバルド・ギアに一太刀浴びせてくれれば勝機が見出だせる――そこまで考えたエヌラスが自分を笑い飛ばした。
“女に何を期待してやがんだ、俺は!”
あそこまでないがしろに扱ってまだ人に手を貸すほどのお人好しがこんな世界にいるはずがない。
「てぇやぁぁぁぁ!」
《なにっ!?》
――いた。バカと何とかの境界線というか完全に向こう岸に渡ろうとしているお人好し共が。
両手を突き出していたバルド・ギアのライフルが完全な不意打ちによって両断される。頭部のセンサーユニットは確かに捕捉性能を引き出せる。だがそれは視界内の対象に限定されていた。ノワールとネプテューヌの接近を許したのは機械にあるまじき完全なる慢心が引き起こした結果である。
「エヌラス、無事かしら?」
「女神化できなくたってこれくらいよゆーよゆー!」
「テメェら底抜けのお人好しだなバーカ!」
紫電が両足を駆け巡る。それは魔力による奔流、地面を蹴り込む。倍増された大地との反発力によって一瞬でバルド・ギアとの距離が詰められる。周囲の景色を置き去りにした光速の
「アクセル、ストライィィクッ!」
鋼鉄の人影が森の中へ吹き飛び、遠ざかっていく。体重は召喚された武装含めて優に三百キロを超えていた。それが“蹴り飛ばされた”のだ。ネプテューヌもノワールも口をポカンと開けている。
電磁力の反発は言うなれば磁石の同極同士を無理やり叩きつけることと同じ、ましてや相手は機械。引力ではなく引き離す力、すなわち斥力。魔術的な体幹制御によって為されるアクセル・ストライクは単純な物理攻撃だけでは引き出せない威力を誇る理由だ。
着地と同時に膝を着いたエヌラスの額がじっとりと汗ばんでいる。
“酷使しすぎたな……”
ただでさえ連日連夜の戦闘。休息も十分に摂っていない。更には想定外の“神格”との邂逅はエヌラスの臓腑を締め上げていた。本来であればこの付近に拵えた拠点から引き上げているはずだったのだ。この
咳き込んで俯くエヌラスの視界に入るのは、純白の指輪。穢れ一つ知らない乙女のような輝きが眩しい。
「さぁ、こっから大逆転を決めさせてもらうよー! かかってきなさーい!」
ネプテューヌが刀の切っ先を消えたバルド・ギアに突きつける。だが、相手はその宣言に呼応するかのように薙刀を片手で振り回しながら上昇。急降下で仕掛けてきた。ネプテューヌがそれを受け流して後ずさる。
《ならば、遠慮なく!》
「大人げない!? わっ、わわっ!? ――いつのまに二槍流!?」
薙刀と長槍。バルド・ギアが振り上げる槍捌きにネプテューヌとノワールが踏み留まる。交差して火花を散らし、二人が柄に手を伸ばした。重石代わりとなった二人の奇策に動きが鈍った瞬間、ネプギアが剣を構えて接近してくる。その刀身を防ぐだけの防御力を持ち合わせていないことを悟り、咄嗟に槍を粒子に分解して背後へ飛び退った。三人の奇襲も胸部装甲の表面を僅かに溶解させただけで止まる。だが、確信した。あれは高機動型の例に漏れず、装甲自体は薄い。
当たりさえすれば、勝機はある。
《なるほど。エヌラスが選んだだけはある》
「別に選んでねーよ、成り行きだ」
《なら、お前の目が確かなのだろう。確かに、これは仕損じるな》
空いた右手に電子の光が集まっていく、新たな武器を呼びだそうとしているバルド・ギアに改めて構えるネプテューヌ達だったが――それは大口径のハンドガン。見るからにマガジンに弾が入りそうもない一発限りのずんぐりむっくりな奇妙な銃だった。
「……?」
それを、無造作に上空へ高く掲げると引き金を引く。ピンク色の尾を引きながら空高く撃ち上げられたのは、信号弾。
《ならば、私も救援を請い願うことにしよう》
「最初のボスでここまで強敵っていいの!?」
“……、マズイな”
情勢は明らかに劣勢だ。それも周到な相手の策の内に違いない。
自分一人だけならば切り抜けられる。だが、今は足枷が三人も付いている。
《どうする、エヌラス? お前はこの窮地。どう切り抜けてみせるのだ?》
「……――」
ガシャッガシャッ。機械の行軍する足音。鋼鉄の軍靴が大地を踏みしめて集まってくるのが気配で分かる。その数は自分達を絶望に叩き落とすには十分すぎる物量だ。
そして、バルド・ギアが何を待っているのかも今のエヌラスには手に取るように分かる。供給が望めない今としては極力温存しておきたかったが、そうも言っていられない状況に刻一刻と自分達が追い込まれているのだ。――正確には、エヌラスただ一人が。
《お前がただ一人。生き残るに相応しいだろう。だが、その場合……そこの三人は、死ぬより酷い目に遭うが》
「……そうかよ――」
「ど、どどどどうするの!? めっちゃピンチだよ! ここまで用意周到で完璧なまでに引き際弁えてるボスキャラとか攻略厳しくない!?」
「落ち着きなさいよネプテューヌ。エヌラス、何か策はないの?」
「ある」
不安と恐怖に駆られるノワール達に、エヌラスが断言したがその表情は渋い。
「本当ですか!?」
「おー、流石! ……でもどうしてそんな表情してるの?」
「茄子押し付けられるネプテューヌみたいな顔してるわね」
「私こんな顔してるの!?」
「…………」
三人を無視して、エヌラスが右手をかざす。そこに浮かぶものを見て三人がまったく同じ表情で驚いていた。
「嘘……」
「それって、もしかしなくても」
「シェアクリスタル!? エヌラスって、もしかして女神だったの?」
「女体化とか誰も得しねぇよ」
「あ、うん。だよね」
「……後で泣くなよ?」
『――えっ?』
とてつもなく不安な一言を残して、エヌラスが宣誓する――。
「そうまで言うなら、お望み通り変神してやろうじゃねぇかバルド・ギア! 負けても吼えんじゃねぇぞぉっ!」
《覚悟の上だ》
「――