超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
左手の壊れたブリューナクを捨て去り、バルド・ギアは新たに拳銃を転送する。小回りの利くハンドガンだが、その照準からパープルシスターは避けた。パープルハートが銃弾を弾いて一直線に突撃する。そこにサイドワインダーを召喚して迎撃しようとするも、閃光が走ったかと思った次の瞬間には速度を失って失墜していく。
ブラックハートが大剣を担ぎ直して、パープルハートを打ち出す。
「これで決めなさいよ、ネプテューヌ!」
「もちろんよ!」
一気に速度の増した突進にバルド・ギアは電界突破稼働限界が迫っていることに危機を覚えた。
――どうする!? 思考が光よりも速く駆け抜ける。ともすれば、打つ手は一つ。逃げるわけにはいかない。
《EXE FORCE!》
次元装備による突貫攻撃。だが、それすらもパープルハートは長剣を正面に構えて衝突して防いだ。互いに大きくバランスを崩し、プロセッサユニットが大きく損傷するも肉薄する。
「人の恋路とゲームを邪魔する奴は、電源引っこ抜いて、こうよ!」
飛行ユニットが切断され、ジェネレータが暴発した。背面から衝撃をまともに背負う形となったバルド・ギアの身体が宙に投げ出される。重力に従って落下する身体めがけてブラックハートが更に斬りつけて地面に叩きつけられた。
脚部のアクチュエーターが衝撃を受け止めきれずに損壊する。パープルシスターがM.P.B.Lを構えて最大出力で放つ。それに対し、バルド・ギアはブリューナクを放った。拮抗する光と光。
紫電が奔る。頭部カメラが、左肩のレドームが小さな爆発を噴き出していく。全身から発せられる高熱にアラートが鳴り止まない。
パープルシスターとバルド・ギアの間で閃光が爆発する。衝撃に煽られて木々が戦慄いた。
「ハァ、ハァ――これで……!」
M.P.B.L.から湯気が立ち込めている。限界まで稼働させた結果として銃の発射機構が故障してしまった。
バルド・ギアのブリューナクは銃身が溶解している。あれでは銃どころか剣としての機能も使用できない。使い物にならなくなった銃を見て、膝を着いた。全身から火花が散っている。展開した装甲も半開きのまま冷却中なのか、黒煙を吹いている。
「どうするの、まだやるつもり?」
《……流石に強いな、君達は。守護女神を名乗るだけはあるよ》
ギギ、――。
もうまともに動けないのだろう。顔を上げるだけで精一杯だった。ブリューナクを取りこぼし、バルド・ギアは項垂れて自らの手を見つめる。
《……人を辞めれば、彼女が取り戻せると思っていた。機械の身体であれば、ステラを助けられると思っていた――だけど、ボクにはダメだったよ……好きな女の子一人、救うことが出来なかったんだ》
「……ソラさん」
《ありがとう。ボクの最後のワガママに付き合ってくれて……行ってくれ。彼の下に。エヌラスの所に》
頷き、パープルハートとブラックハートはアゴウへと向かった。パープルシスター=ネプギアはそんなバルド・ギアの手を取る。
「こちらこそ、ありがとうございました」
《……どうしてだい? お礼を言われるようなことは何一つ》
「ソラさんもアダルトゲイムギョウ界の戦争で時間がないのに、私達の世界を救おうとしてくれました。だから、その御礼です」
《……あれはボクが勝手にしたことだよ》
「それでも。ありがとうございます」
深々と頭を下げて、ネプギアはゆるりと手を離す。
《アルシュベイトは、強いよ。だから、彼を支えてあげてくれ》
「はい」
《どうしようもなくクズで度し難いバカで、人に迷惑ばかりかけるような奴だけど……》
思い返せば、それでもあの毎日は楽しかったのだ――。
《エヌラスは、ボクの友達だから。……彼を、頼んだよ――》
「……はい」
ネプギアは変身して、パープルハート達の後を追う。
バルド・ギアは空を見上げた。青い空、白い雲。彼女が大好きだったソラを見ながら、一人の機人が静かに機能を停止する。
アルシュベイトとエヌラス、アイリスハートの戦闘は防戦一方のまま状況は好転していなかった。二挺拳銃を突撃砲でいなして蛇腹剣の変幻自在な攻撃を長刀一本で捻じ伏せる。不退転の進撃を前にして二人が吹き飛ばされた。
「ティンダロス!」
ハンティングホラーが長刀の切っ先から突然出現して喉元に食らい付こうと顎を大きく開いて飛びかかる。だが、その頭を鷲掴みにしたかと思うとアルシュベイトは地面に叩きつけてから放り捨てた。
《小細工不要ッ! 己の剣で来い!》
「デタラメ過ぎるわよ……」
「だから最強なんだよアイツ」
長刀一本。突撃砲一門。武装はそれだけだ。それなのに――万策を練ってもなお超えられぬ壁がある。鋼の鬼神、護国の軍神、最強の守護神にして国王アルシュベイト。己の土俵以外での勝負以外は一切言語道断。不退転の震撃を繰り返す怪物だ。
そんなものを相手に三時間。対等に張り合っていたエヌラスを盗み見て、アイリスハートが呆れた溜め息を吐いた。自分が加勢してからも劣勢は続いている。それどころか庇おうとされて逆に足を引っ張っている。守ることも勝つことも諦めていない男がひた駆ける。
剣戟を鳴らす。一手、二手、三手――丁々発止。一撃加えれば勝てる、そのはずだ。
“紫電”鬼哭掌。かつてアルシュベイトを敗北に追いやった鬼を哭かせる掌打。それが今、届かない。必殺に必滅を重ねた一撃を超えて、ようやく届いた魂の一撃だ。
それが、こんなにも遠い。
エヌラスの倭刀が砕かれ、膝をついて頬っ面に鋼拳が打ち込まれた。エヌラスが吹き飛び、地面を滑りながら二挺拳銃を構えて連射するが全て震撃・陽炎の前に無駄弾に終わる。
《リアクティブ》
返礼のベアリング弾が殺到した。防御魔法で防ぎ、アイリスハートを抱えてその場から離脱したエヌラスの掌からは血が滴っている。質量攻撃が魔術障壁を突破していた。そのダメージは術者の基点となる手にも与えられている。
その出血を煩わしそうに振り払うと、歩み出す。
「なんでよ……」
その背中を見送って、アイリスハートは歯を食い縛った。目を背ける。
傷つき、吹き飛ばされ、立ち上がり、挑んで。また繰り返す。倭刀が砕ける度に再錬成する。膝が折れる度に身体を起こす。勝機も作戦も何もない。
「なんで、そうまでして」
グレネードランチャーを足元に撃ちこんで二人が距離を離した。鋼鉄の身体を持つアルシュベイトはともかく、エヌラスは爆風に煽られて衝撃で身動きが止まった。そこに腰部ブースターを吹かした強烈な飛び蹴りが突き刺さり、城壁に身体を張り付ける。崩折れて、やはり立ち上がった。倭刀を杖代わりにして、銀鍵守護器官で身体を再生しながら前に進む。その手を取ってアイリスハートは引き止めた。
「そうまでして、愛してるって言いたくないわけ!?」
「……プルルート。俺を愛してるか?」
「な、なによ突然……そりゃ、好きよ……?」
「そうか。なら、アイツの愛に負けるわけにゃいかねぇな。理由はそれで十分だ」
宝玉を手にして、エヌラスの身体に押し付ける。砕け、溶けこんでいく力の充実感に胸が掬われれた。
「……言葉にしなきゃ伝わらない思いってのはあるのよ、分かってる?」
「知ってるさ」
「直接聞きたいの」
「俺が“最強”の称号を手にしたらな、いくらでも言ってやる。メガホン片手に街のど真ん中で一日中叫んでやるよ」
アゴウ城壁上が騒がしい。すると、パープルハート達がアルシュベイトへ向けて急降下しながら剣を振り下ろす。三人の攻撃を長刀で防ぎきると、押し返した。
「エヌラス!」
「……なんだよ、まったく。お前ら揃いも揃って人の親切無駄にしやがって……」
「この、バカ! アホ! なんで一人で来たのよ! あれだけ一緒に行くって言ったじゃない!」
「そうよ! 一人で来るなんてどうかしてるわ! アナタ本格的にバカでしょ! 救いようがないバカでしょ、呆れて文句しか出てこないわ!」
「そうですよ! どうしてこんな無茶するんですか! 今回復しますからジッとしてください!」
「テメェらいっぺんに喋るんじゃねぇ! 俺は三人の話も同時に聞けねぇ!」
『黙って聞きなさい!』
「あ、はい……」
ひどい剣幕で怒鳴られてエヌラスがパープルシスターの手で回復している間、パープルハートとブラックハートが剣をアルシュベイトに突きつけてアイリスハートも蛇腹剣を担いだ。
「貴方がどれだけ強かろうと、私達は負けないわよ」
「女神が四人。加えてエヌラスが一人。どう、これでもまだ決闘を続けるつもり――」
《無論だ》
「なの……えっ?」
《数の不利がどうした。無尽蔵の絶望を前に相手しているこの俺が、たかが両手の指に届かぬ人数で攻め入られて音を上げるとでも思ったか》
「何を負け惜しみ言ってるのかしらね、この鉄面皮は。ガッチガチなのは身体だけじゃなくて脳みそまでそうなの?」
《記憶媒体がメモリーカードならあながち間違いではないな》
「いや、そこで素直に返答されても困るんだけど……」
《それとも、お前達はまさか――この俺に、頭数を揃えれば勝てると思っているのか》
その言葉にカチンと来たのか。ブラックハートが眉をつり上げた。
「ホンットウに大層な自信ね」
「貴方が最強であろうと関係ないわ」
《ああ、そうだな。最強という称号に意味は無い。俺にとってはな。何故ならば俺は最強であり続けなければならなかったからだ》
長刀を地面に突き刺し、アルシュベイトは剣礼を保持したまま続ける。
《無尽蔵の絶望に、ヌルズの終わりなき侵略を防ぎ、止め続ける我がアゴウの国民がどれほどの犠牲と血と涙の上に立っているかも知らぬだろうな。だからこそ俺は皆の希望であり続けたのだ。世界の滅びを目前にしても諦めぬ英霊達の為に! 俺は最強であり続けたのだ! この一戦がアゴウの愛の証明となるならば、これ即ち俺が全力を出すに足る理由となる!》
そこで、パープルハート達は思い出した。
――アルシュベイトは、まだ変神していないことを。
《思えば貴様らを相手に変神していなかったな。それがその自信となるならば、俺は示さねばならん。その目に灼き付けろ! 遠からずば音にも聞けェッ! これが俺の変神だ! いざ仰げ、これが絶対勝利の輝望だッ!》
轟ッ――! 閃光が突風と共に召喚される。シェアクリスタルを目にしたアゴウ国民が声を張り上げた。
《我が愛するアゴウの民よ! 三唱!》
――軍事国家アゴウ万歳!
――アゴウ国王アルシュベイト隊長万歳!
――シャイニングソウル様、万歳ッ!
《その万来の喝采に、この俺は応えようッ! 刮目せよ――
――――オオオオオオオォォォォォォッ!!!
ダークグレーの装甲が白く染め上げられていく。閃光の中でアルシュベイトが神化していく姿は白銀の武神として顕現する。穢れを知らぬ白、恐れを祓う白。残酷なまでに闇夜を照らす白銀の装甲に赤のツートンカラー。日の丸を彷彿とさせる武神が長刀を担ぎ上げる。その背には二挺の突撃砲を背負って、大地を踏みしめた。
《我が魂に一点の曇り無し! 我が名を讃えよ、無限の輝望をッ!》
――シャイニングソウル様万歳! 我らが国王、シャイニングソウル様万歳! 軍事国家アゴウ国王最強の武神、シャイニングソウル様万歳! 万歳! 万歳ッ!
《国家一丸となった我が一刀、阻むものなし! これでもなお、吠えるか守護女神! 己の勝利を絶対のものだと信じて止まぬか! ならば証明してみせよ! 貴様らの信念、この俺を折るに足りえる物であるかどうかッ! 推して参るぞ! 我が不退転の神撃、止めてみよ!》