超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
崩折れ、地に伏せるエヌラスを見て、ネプテューヌ達は立ち上がろうとする。シャイニングソウルはその様を帯電しながらただ見つめていた。長刀を地面に突き刺して、柄頭に手を置いて律儀に待っている。呻きながら何とか立ち上がろうとする少女達がシャイニングソウルと目が合い、やがて力なく俯く。――勝てない。そう思ったのだろう。
《……“諦める”のか?》
そこに敢えて、シャイニングソウルは自ら愚策を弄した。一人の男の起爆剤を踏み抜く。
《この俺にかすり傷ひとつ付けて、それで満足か。これで終わりか。それで全力を尽くしたか》
国内の圧倒的支持によるシェアエネルギー。機械の身体に、類まれな剣術と射撃の腕前。そこに電撃も無効化されれば打つ手は無い。勝ち目すら。
立ちはだかる鋼鉄の絶望にネプテューヌ達は立ち上がる気力すら起きなかった。
ゲイムギョウ界を守る為に戦うのは、良い。何度でも立ち上がろうと思う。どんな敵が相手でも負けない。しかしこの決闘になんの意味がある? ただの喧嘩だ。ただの意地の張り合いだ。どちらが強くて、どちらが弱くて。白黒ハッキリつける為だけの喧嘩に、何故殺し合いじみた事をしなければならないのか。――それでも、エヌラスは立ち上がる。
「エヌ、ラス……?」
――諦めるのか? その言葉が、どうしてか。何故か心をこんなにも叩き起こす。
何も諦めていない。何一つ諦めていない。この世界をやり直すことも、ネプテューヌ達と笑顔でお別れも、復讐も何もかも。決着はまだ早い。早すぎる――!
「テメ、ェと一緒に……すんじゃねぇ……! こちとら弱くて脆い人間様だ……少しくらい、休憩させろよ……何時間テメェと張り合ってると思ってんだ……!」
「無理よ……エヌラス。勝ち目なんて」
「そうだよ……。あの鍵でも使わない限り、無理だってば」
《……銀の鍵か。確かにな。それを使えば俺に為す術は無い。防ぐ手立てはないだろう》
「使わねぇよ。安心しろ、アルシュベイト」
倭刀と偃月刀を召喚して、杖代わりに身体を押し上げる。立ち上がり、二刀流の剣礼に返礼する。それにシャイニングソウルは長刀を担ぎ上げた。エヌラスはふらつく足取りで歩き出す。歪曲した刃を持つ偃月刀を逆手に構え、防御に専念する。倭刀で攻防一体の剣技を踊らせながら長刀の一撃必殺を凌ぐ。二天一流の胴薙ぎを防いで、防御障壁が破壊された。それに伴って偃月刀が折れ、だが長刀の間合いには近すぎる距離。その鼻っ柱に鋼拳が打ち込まれてエヌラスの身体が地面を転がった。
《立てェいッ!!》
シャイニングソウルの喝に、ネプテューヌ達が身体を竦ませる。
《お前らの守りたいものはなんだ! お前達の愛は、そんなものか! 勝てぬと屈し、膝を折り、頭を垂れて赦しを乞う誇りはもはや冒涜だ! 愛への冒涜だ! そんなものは俺が赦さぬッ! 立ち上がれ、武器を取れッ!! 世界の全てを秤に掛けてなお足らぬ信念、見せてみろ!》
それでも、立ち上がれない。こんな戦い、意味が無い。
無駄だ。だが、しかし。果たしてそうだろうか。エヌラスはまだ立ち上がる、羽織っていたコートを脱ぎ捨てて血を流しながら。
「変――神……っ!」
その指先から血が滴る。それがすれ違うノワールの頬に掛かり、拭った血がネプテューヌの前に垂れる。プルルートの頬を濡らした。
――どうして?
そんな疑問がアゴウの国民達も含めた全員が首を傾げる。
偃月刀が長刀と鎬を削る。一撃を受けるだけで大きく姿勢が崩れ、持ち直した矢先に返しの一刀が迫った。それを受け流してヒザ蹴りをまともにもらうブラッドソウルが吐血する。柄で殴りつけて、続く前蹴りが距離を離した。そこへ、長刀を振り下ろす。
直撃を受けて袈裟懸けに剣閃が走り、血が噴き出す。それでも寸でのところで回避したが、避けきれなかった。倒れそうになる足がたたらを踏み、歯を食いしばって踏み止まる。偃月刀の切っ先が地面から土を跳ね上げてシャイニングソウルの顔に浴びせられた。
《ぬっ!?》
一瞬だが視界を塞がれ、やぶれかぶれに振るった一刀が避けられる。燃える偃月刀を防ぎれないと察知したシャイニングソウルが背負った二門の突撃砲を前面に展開してグレネードランチャーを発射した。爆風に呑まれて二人の距離が大きく離れる。
「――“
激痛をねじ伏せて、冷酷なまでに自らの身体を総動員して体細胞が悲鳴を上げた。鮮血が傷口から噴き出す。両手を真っ赤に染めて、杖とも砲とも取れぬ棒状の物体を赤く塗り潰しながら構えた。シャイニングソウルもまた、逆手に一刀を構えてもう一方を担ぐ。
紫電が奔る。
《チェストォォォオオオオッ!!》
爆炎。閃光。二重螺旋に絡まる炎熱と極寒の属性が純粋な破壊力となって差し迫る。衝突する二刀と一門の最大火力が爆ぜる。世界が白く染め上げられ――そして、未だ健在の白銀の武神と戦禍の破壊神はどちらともなく駆け出した。
丁々発止。剣戟が鳴らされる。鮮血を浴びて赤く染まる機体に、自らの血で赤く染まる人間。荒野を駆ける風は血と鋼と硝煙の香る荒唐無稽な決戦場。
二天一流を凌ぎ、刹那の隙。偃月刀が振り下ろされる。胸部装甲に走る一閃だが、それも致命傷には至らない。まだ届かない。この武神の魂には、届かない。まだ足りない。“覚悟”が足りていないのだ。それでも、果たして勝てるのか。この最強を豪語する白銀の武神に。
《エヌラァァスッ! 貴様が本当に恐れることはなんだ!》
偃月刀が砕ける。間もなく再錬成される。
《愛したものが殺されることか! 愛したものに裏切られることか!》
偃月刀が砕け散る。再錬成している暇もなく倭刀で凌ぐ。
《愛とは奪うものだ! 奪われるものだ! 一時、この世から己の手中に収めるものだ!》
――何が足りないというのか。
《ならば、何を恐れることがある! 守れぬ時があったのならば、守り抜け! 今度こそはと、次を“諦めるな”! 歩み続けろ! 未来へ不退転の進撃、生まれ持った二本の足でひたすらに駆け抜けろ!》
――覚悟か、否。違う。本当に足りていないのは……。
《その足が止まったその時、支えるものがいるのなら! 人である貴様を愛するものだ! “人間”だからこそだ! 愛を恐れるな、エヌラス!》
倭刀が折れる。偃月刀が砕かれる。膝が崩折れ、それでもまだ身体は起き上がる。
《恐れるな! 愛するものに愛される時、世界は素晴らしい!
吹き飛ばされ、転がり、無様に五体を投げ出す。
空の青さだけがひたすらに腹立たしい。血に濡れ、土に汚れ、体は砕け……――それでもまだ、心が叫んでいる。
何が足りていないのか。そんなものは、とうに知っている。
『エヌラス、私ね――』
脳に残響が響く。それは、かつてこの手で愛した伴侶の言葉。
『雨の降る日に傘を捨てて踊るのが自由なら。人が人を愛する日は永遠だと思うの』
犯罪国家と称される九龍アマルガムで、その少女は生きていた。地下帝国で起こる騒動、暴動、凶悪事件の渦中で生き残るには健気で綺麗なその人を、愛してしまった。奪ってしまった。奪われてしまった。それでも彼女は、その胸に剣を突き立てられたその時に――笑っていたのだ。
『――エヌラス……私、貴方の笑顔が見たかったな…………』
“…………嗚呼”
思い出した。
泣きもせず、笑いもせず、あの頃の自分はひたすらに憎悪と憤怒に身を任せていた。
世界が憎いと思った。世界が醜いと思った。“こんな世界壊れてしまえばいい”とさえ、思った。事実、そうしようとしていたのだ。地上に出て、そして――己の恩師が、恋人を掻き抱いているのを見たその時、全ての憎悪と憤怒の矛先が決まった。過去の贖罪を求めても、誰も裁いてくれない。この痛みが、救いようのない胸を深く穿つ痛みだけが自分を唯一苛む。
“俺は――――死んだほうがいいのかもしれねぇな……”
諦めるのか? ――もういいだろう。
諦めるのか? ――もう、休ませてくれ。
……諦めるのか。
自分を呼び起こす声が聴こえる。遠のく意識が、繋ぎ止められていた。
嗚呼、チクショウ――静かにしてくれ。これじゃあ眠れない。
「――――!」
「――、――――!」
“……ド畜生が”
「――……! ――て――!」
人の耳元でギャーギャーピーピー泣き喚いて、うるせぇことこの上ねぇな……。
諦めるのか? 答えは出ている。――諦めきれるものか!
「エヌラス――起きてよ!」
「うる…………せぇ、な……ホンットウに、テメェらはよ……」
ボロボロと涙をこぼして、顔をクシャクシャに歪ませて、ネプテューヌが泣いていた。ネプギアも涙を拭いながらヒールで傷口を塞いでいる。ノワールは変身してシャイニングソウルと剣戟を鳴らしている。
プルルートの膝の上に頭を乗せられて、額に手が当てられていた。心地よい温もりに身を任せそうになる。だが、足りない。全くもって足りていない。
「……エヌラス」
「なん、だよ……」
「あたし達を愛してるって言わないならぁ~、死んでも勝たなきゃ駄目だよぉ~」
「…………ああ……ああ――分かってる」
この心を打つ鼓動の熱さを鎮めるには、全くもって足りていない。
エヌラスは身体を起こして、立ち上がる。その口は笑っていた。血を吐き、血を流し、血に濡れて、それでもまだ立ち上がる。身体の骨が軋み、筋肉が悲鳴をあげている。それがこんなにも心地良い。生きている――自分はまだ、生きている。それが、こんなにも心を高鳴らせる。
人が人を愛する日々が永遠に続くなら、悲劇と絶望と恐怖に彩られた世界などどうでもいい。
ブラックハートがシャイニングソウルの一撃を受けて吹き飛び、その身体を抱きとめられた。目尻に涙の跡が残っているのを土まみれの指先で拭い、変神する。
「エヌラス――」
親指を立てて、歩み寄る。最強の国王に、白銀の武神に。
紫電が奔る、右手には長大な野太刀。左手には撃鉄の付いた長大な鞘。右肩に担ぎ上げて納刀する。銀鍵守護器官が唸りを上げた。心臓の鼓動が脈打つ。
《……“
「ったりめぇだ」
《死ぬぞ》
「死んでも勝つ」
《で、あろうな。ならばその死力に俺も応えねばなるまい》
シャイニングソウルもまた、同様に構える。右肩に長刀を担ぎ上げ、左手の長刀を横一文字に構えた。紫電が奔る。
互いの身体から奔る電流が地面を駆け巡っていた。
次の一撃が雌雄を決すものだと、そう直感する。
エヌラス=ブラッドソウルはこれが限界だった。
アルシュベイト=シャイニングソウルもまた、臨界点を超えそうになっていた。
互いに、疲弊している。だが、それでも彼我の実力差は圧倒的である。
人は脆く、弱い。機人は強い。疲れも知らず眠りも恐れも知らぬ。
「……一手、馳走――」
《いつなりとも、参れ》
「応――ッ!」
人間は、脆い。弱い存在だ。いつでも淘汰される存在だ。人々を守るのが守護女神の役割。彼女達は守らねばならない。だが、女神は誰が守るのか。守られている人々の願いが守ってくれるのだろうか。
「“
人は、無力だ。いつでも淘汰される存在だ。
最強とは遠い存在である。絶望に打ちのめされ、恐怖に竦み、混沌に苦しみ喘ぐ。立ち止まり、目を背け、耳を塞ぎ、殻に閉じこもる。――それでも、と。エヌラスは思う。
何も持たず。何もかも失い、何も無い無力で愚かな人間だった自分でも――!
「“
《“
愛した相手が守護女神だったのなら、絶望と恐怖に立ち止まり、混沌に挑むその時、世界に向かって叫びたい。
お前達を愛していると――お前達を愛する人が此処に居ると!
《――神雷ッ!!》
電磁圧縮された光速の抜刀術が衝突する。拮抗する。光の奔流が戦場を荒れ狂う。神の裁きが振り下ろされているかのような光景に、アゴウ国民は目を奪われた。心奪われていた。信じていた。
天に仰ぎ見る最強の国王に敗北はない。
最前線の戦場で土に汚れ、血に濡れて女神達は目を奪われていた。心奪われていた。信じた。
ボロボロで、血塗れで、それでもまだ絶望に挑む弱いヒトの背中を。
絶対に負けない。
拮抗する――まだ紫電が疾走っていた。その死中で、シャイニングソウルは見た。
ブラッドソウルが、笑う。
「アルシュベイトォォォッ!」
吼えた。獅子の咆哮だった。
《エヌラァァァスッ!!》
吼えた。軍神の咆哮だった。
「俺の限界に、ついてきてみやがれぇぇぇぇぇぇ――――――ッ!!」
バチリ――! 光の奔流、電撃の暴風雨に新たな音が聞こえた。
ブラッドソウルの左腰に召喚されている撃鉄の付いた鞘――日本刀が収められている。
「“
《バカ、な――!》
知らない。そんな馬鹿げた一撃など今の今まで何故隠してきたのか――!
左手で野太刀を押さえつけて、右手が脇の太刀を掴む。奇しくも同じ構え。ならば次なる一手も必然的に同様。
「“比翼”!」
《チィィェストオオオオオオオォッ!!》
がら空きの懐に打ち込まれる一撃は――“二撃一刀”はシャイニングソウルの長刀を二本とも砕いた。宙に舞う刀身が地面に突き刺さる。
互いに両腕を開く形となった。しかし、決定的な相違点が一つ。
ブラッドソウルの両手には野太刀と日本刀が健在していた。
対して、シャイニングソウル。その豪剣が半ばより消失している。
「――俺の限界を、テメェが決めるんじゃねぇぞォォォッ!」
野太刀と日本刀が転送される。エヌラスが踏み込む――紫電が奔る。この期に及んでまだ放つか“紫電”鬼哭掌――否、それは拳だった。
鮮血が舞い上がる。自ら流した血が帯電する。流れ出た血が霧散する。赤い血風となって血霧が右手に装甲を纏う。両足の断鎖術式が起動。
光速を超えた魔拳がシャイニングソウルの顔面に打ち込まれた。
“電磁特攻”雪風――が、崩し。“刃金”が纏い、“契”
「人間舐めんな、最強。言ったろう、折るぜ――ってな」
アルシュベイト=シャイニングソウルは変神が解かれて仰向けに倒れていく。
そのまま受け身を取ることもなく、五体を投げ出していた。