超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「俺の勝ちだ、アルシュベイト。テメェの負けだ」
《――フッ》
アルシュベイトは、笑う。腹の底からの笑い声だった。なんの苦もなく上体を起こし、立ち上がる。それにネプテューヌ達も身構えた。
《幾星霜、繰り返してもお前との決闘は血沸き肉踊る真に迫る血闘よ――そして俺は何度敗れても学ばんなぁ……俺の負けだ、エヌラス。敗北を認めよう》
「ありがとうよ、最強――」
「エヌラス!?」
倒れそうになる身体をノワールが支える。立っているのが奇跡的だ。もう一歩も歩けない。
《血肉を糧とする人の為せる技、か……――だがなエヌラス。お前少し無理し過ぎではないか?》
「うっせぇ。こうでもしなきゃ倒れなかったテメェが言うセリフかバーカ!」
《自らの血を電気分解して魔力に変換とは、またとんでもないことをする。一歩間違えれば死んでいるぞ》
「魔術の心構えの一つ、魔道は踏み外せば破滅行きだアホンダラ」
急に砕けた口調で談笑する二人にノワールが顔を見比べる。
瀕死のエヌラスと、まるで先ほどの一撃を苦にもしていないアルシュベイト。
これで……決着? なにか腑に落ちなかった。
「えーっと、決闘は?」
「俺の勝ち」
《俺の負けだ》
「……アナタ、まだ全然戦えるじゃない」
《うむ。敗北を喫したが戦闘行動に支障は一切ない。勝って兜の緒を締める、負けて涙を飲むのなら切磋琢磨は基本だろう》
「最強、なのよね?」
《勝利の美酒も敗北の苦汁も味わってこその“最強”だ。勝利一辺倒だけでは最強足り得ぬよ》
つくづく怪物で傑物であると痛感する。ネプテューヌ達も戦闘が終わった和やかな空気を察したのか、ほっと胸を撫で下ろす。最強の称号に何一つ偽りはなかった。
「私達が今まで戦った中で、一番強かったです……」
《賞賛、痛み入る》
地面が揺れ、アゴウの城壁の一部が崩れていく。奈落の闇へと落ちていった。
《直に限界か。間もなくアゴウは陥落する。世界の滅びに選ばれたとあっては致し方あるまい》
「なら、早く逃げないと……」
《いいや》
アルシュベイトは首を横に振る。
《俺は軍事国家アゴウ国王、アルシュベイトだ。王が国を捨て、民を見捨てて背を向けるなど言語道断。俺が愛した国だ。滅び行くならば共に受け入れよう。あの無尽蔵の絶望を滅ぼすにはそれしかない。俺が食い止める。お前達は行け》
「そんな――そんなことで」
《そんなこととはなんだ、戯けッ!》
ピシャリと怒鳴られてネプギアが身体を竦めた。
《共に散る覚悟もなく俺は愛さぬ! 俺はアゴウを愛した。故に、愛と共に滅ぶ! 愛なき世界など愚昧にして醜悪! そんな世界、生きるに値せんッ! 大いなる“C”への挑戦権など俺はいらん》
胸部装甲を開いて宝玉を取り出すと、エヌラスが受け取る。それは淡い光となって身体へ溶けこんでいき、やがて静かに消滅した。
「アル――」
《生きろ、エヌラス。生き抜け。生き続けろ。何があっても、彼女達と共に未来を拓け。敗北も敗退も俺が赦さぬ。お前が未来へ生きる限り、俺は過去と戦い続けることを誓う》
「――――……」
《埋葬の華に誓って――俺は絶望と戦い続ける。さらばだ、我が最愛の
アルシュベイトは背を向ける。無尽蔵の絶望が巣を突かれた蜂のごとく溢れ出る。見上げるほどの巨体も確認できた。だが、それに立ち向かう鋼の鬼神に恐れはない。なぜならば――彼は絶望を恐怖させる無限の輝望。
《軍事国家アゴウに生きる最愛の民よ! 賞賛せよ! 喝采せよ! 勝者に一時の祝福を!》
エヌラス達に浴びせられるアゴウ国民からの大喝采。勝者へ送られる凱歌が城壁から轟く。胸の奥まで響くような名前も知らない英霊達の叫び。そして、彼らはこれから滅び行く。
トライデントがネプテューヌ達の前に着地して跪いた。
《乗れ。俺達が城壁の外まで送り出す》
《時間がありません。お急ぎを》
《最後の戦争に遅れちまう。頼むぜ》
それに頷いて三人が背に乗ると、今度は見慣れない漆黒の機影が降りてくる。
《お乗りください、戦禍の破壊神》
「お前ら……」
左肩のエンブレム。第666部隊、通称“
アゴウの城壁外でネプテューヌ達は降ろされる。踵を返してアゴウへ戻ろうとしたトライデント達が呼び止められる。
「どうして……戦いに行くんですか?」
「国内に留まっていたら、そのまま消えちゃうんだよ?」
《…………それが“何故”かと聞かれれば、我らはそうと決めていたからとしか答えられません》
「じゃあ、もしかして最初から」
《はい。アルシュベイト様も、我らアゴウ国民一同。その為に》
《ま、そういうこった。無尽蔵の絶望相手に俺達はやれることやり切るだけだ》
《それではな、異次元の守護女神達よ》
背を向けて飛び去ろうとする機人達に、ネプテューヌは声を張り上げた。
「ありがトライデント!」
《《《略すなっ!!!》》》
三人の同時ツッコミに、“黒の獣”部隊が笑いを堪えている。
「だから――頑張って!!」
――トライデントがアゴウ城壁内部。要塞格納庫へ帰還すると総動員で武装を運び出していた。城壁上へ続く昇降機に載せるだけでなく、フォートクラブ達の背中にありったけの武器・弾薬を積み込んで最前線へ送り出す。
《……頑張って、か。聞いたかお前ら》
《無尽蔵の絶望相手にする俺達に向かって、よりによって“頑張れ”か……》
《そんな事を言われたのは今日が初めてですね》
《ああ――俺は今、初めて心の底から思っているよ。出会って良かったと》
《大将はロリコンだったのか?》
《彼女なら、或いは悪くないかもしれんな》
そんな冗談のような言葉を投げ合いながら推進剤を補充して、弾薬と長刀のメンテナンスを確認して万全の態勢を期して三人は歩みゆく。絶望の戦場へ勇み行く。
《勝つぞ、お前ら》
《何が無尽蔵の絶望だ、馬鹿馬鹿しい。こちとら両手の指以上数えたこたぁねぇよ》
《数えてる暇あったのかい、ランス03》
“
彼らが元・九龍アマルガムの国民であったという事実を知るものは限りなく少ない。そんな彼らの複眼型網膜ユニットの端に捉えたのは、電脳国家インタースカイ国王の姿。
電池の切れた玩具のように横たわり、その身体には無数のケーブルが接続されている。
《……
《五分でしょうか》
《そうか》
淡々と感情の欠落した電子音声が何よりも機械的な挙動で――突然、バルド・ギアの頭を叩いた。それに何事かと目を向けるトライデントが覗き込む。
《叩いて起きたら苦労しねーよ》
《考えてみればそうだな。テレビじゃあるまいし》
彼らが冗談を言うのを初めて聞いたランス03が《は?》と間の抜けた声を出して背中を見送っている。
《今日は死ぬにはいい日だ。冗談の一つ、口からも出てくる。行くぞ、最強の三叉槍》
《貴様らに言われるまでもない。行こう、我らの輝望が待っている》
《――時は満ちた! 我がアゴウの民達よ! 今日この日まで戦い続けた英雄たちよ!》
アルシュベイトが長刀を大地に立てて声を張り上げる。それは整列した全ての機人、軍人、要塞ガニ達に響き渡った。世界に宣誓する演説である。今、この瞬間から彼らの戦争が幕を開けた。
第一幕は、演説。
《俺はこの国を愛しているッ! 俺はアゴウを愛している! アゴウにお前達を愛しているッ! 俺の愛は、奪われ続けてきた! 無尽蔵の絶望に、ヌルズ達に! ならば、取り返す! 俺は、俺の愛するアゴウを取り戻す! 奪い返すぞっ!!》
一斉に沸き立つアゴウの全国民達が思い思いの武器を掲げて喝采する。
《虚無の彼方より飛来したあの絶望に、無限の輝望を見せつけよう! 人の輝く願いは聞き届けられた! 神は居ない! 神は、居ないッ! だがしかし! それでもお前達の願いは聞き届けられた! この俺に、鋼の軍神に! 俺の名を言ってみろォ!!》
――軍事国家アゴウ国王アルシュベイト様!
――鋼の軍神、アルシュベイト隊長!
――護国の鬼神! アルシュベイト国王!
万歳! 万歳ッ! 万歳ッ!!
《宜しい! ならばどうする! 俺は王たる者の務めを果たすっ! いざ天に仰げッ! 遠からずば音にも聞けぇッ! その目に灼きつけろ! これが、お前達の願う“無限の輝望”だッ!
――
軍事国家アゴウ国王アルシュベイト様ッ!
白銀の武神、シャイニングソウル様ッ!
我らの無限の輝望、シャイニングソウル様!!
白銀の武神が顕現する。長刀を携えて、剣礼を持って国民たちを歓迎する。
《俺はお前達が人の未来を願う限り戦い続けることをここに宣誓するッ! 明日を“諦めるな”! 人の未来は永遠だ。“死すらも殺せぬ永劫”だッ! ならば――! 今、この瞬間から我らの勝利だッ!! 勝鬨の声を張り上げろオオオオオォォォォッ!!!》
最前線の戦場が熱狂する。それは機人達の願って止まなかった絶望への勝利。
アゴウに生きて。アゴウで死ぬ。そこに絶望も諦観も恐怖も無かった。
《聞こえるか、ヌルズよッ!! 聞こえるか、無尽蔵の絶望よ! これが“アゴウ”だ! これが我らアゴウの“未来への咆哮”ッ! 絶望ですら塗り潰せぬ、熱き人の魂ッ!!》
ヌルズ達が迫る。既に目視できる距離まで接近していた。だがしかし、シャイニングソウルの演説は止まない。
《貴様らに勝利の二文字は無いぞ、絶望! 未来永劫、希望に敗北し続けるがいいッ!》
第二幕が上がる。それは、狼煙だった。開戦の合図だった。
シャイニングソウルが飛翔する。鋼の鬼神が飛翔し、その手に召喚した武装は、長大な電磁投射砲であった。
装弾数一発。
《M.u.V-L――オルタナティヴッ! この俺の愛ッ、受け取れェェェェ――――!!!》
正式名称『マルチプル・アンリミテッド・ヴァリアント・ランチャー=オルタナティヴ』
バルド・ギアの電界突破並びにエヌラスの断鎖術式を同時に複合させた『特異点断裂弾頭』が発射される。光の軌跡を描きながらそれは、アゴウに撃ち込まれた。――かつて、アゴウが軍事国家と呼ばれる以前。国内最大火力とされる『要塞攻略砲門』が自らの一撃に耐え兼ねて歪む。
弾道を歪ませ、軌跡を飲み込みながら突き進む弾丸ブラックホール。ヌルズ達の群れを突き進み、深く穿たれた穿孔の淵に突き刺さり――そして、全てを呑み込んだ。
《火蓋は切って落とされた。征くぞ、貴様ら! 死に場所は何処だッ!》
――
《貴様達の墓標は何処だッ!!》
――
《ならば、己の墓標を突き立てろッ!!》
剣を地面に突き立てる。名前のない墓標が無数に立てられる。
《行くぞォォォォォッ!!!》
――軍事国家アゴウ万歳ッ!
――アゴウ国王アルシュベイト様万歳ッ!
――我らの無限の輝望、シャイニングソウル様万歳ッ!
《我らの希望に遅れを取るな。続けェェェェェェェェェェェッ!!!》
《最強の三叉槍が一番槍は頂くぜえええっ!!》
《トライデント部隊が先に行くぞ!》
ヌルズ戦力、∞。ミニオン型∞、ミッド型∞、ファイター型∞、ヘヴィ型∞、キャノン型∞。
対する、アゴウ戦力、総勢五百万足らず。圧倒的な戦力差、絶望的な戦局にあってなお、それがとうしたというのか。
彼らには無尽蔵の絶望に匹敵する希望を抱いている。人類の明日に、世界の未来に。
《戦うことが人の愚かさの象徴ならば、我らはひたすらに愚かであり続けよう! 何故ならば! 我らは“戦うために造られた”からだ! 戦い続ける悦びを謳歌せよ! 絶望を攻略するぞ!》
作戦名“謳歌”発令。繰り返す。作戦名“謳歌”発令――総員、玉砕を敢行せよ。