超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
episode101 世は事もなし
――軍事国家アゴウ。並びに電脳国家インタースカイが消失した事により、シェアエネルギーが世界へと還元される形となってアダルトゲイムギョウ界の崩壊は一時的に遅延することとなった。最強の軍神と、箱庭の王を犠牲として……。
ユノスダスへと戻ったネプテューヌ達は瀕死のエヌラスを有無を言わさず病院へと担ぎ込み、即座に輸血と治療に専念させた。脱走の前科有り。監視役として四人の中から一人、ローテーションで見張りを付けることになったのだが、ユウコがその話を聞いて教会からすっ飛んでくる。
「瀕死の重傷で死にかけているどうしようもないバカで度し難いクズ野郎が担ぎ込まれたと聞いて飛んできた! このバカ! バーカ! どの面下げて生きて帰ってきたんだよぅ!」
「うるせぇ……いてぇ……マジイッテェ!? バカかテメェは! フライパンとかシャレになってねぇぞ!」
騒がしくなる病室で、主治医が呆れ「ま、程々にね」と適当にあしらって退室した。毎度のことらしい。
しかし――エヌラスはアルシュベイトとバルド・ギアがいなくなったというのに悲しむ素振り一つ見せなかった。それがネプテューヌ達には不思議でならない。誰だって友達が死んだのなら悲しいのに。それが例え、決闘を果たした好敵手であっても。
「……エヌラス」
「なんだよ」
「辛く、ないの?」
「……なんでそんなことを聞く」
「だって、アルシュベイトは……」
そう言いかけて、エヌラスは毛布をかぶって横になった。
「分かってるが、今はそれどころじゃねぇ……ゆっくり休ませろ……」
アルシュベイトと三時間以上も激闘を繰り広げていたのだ、その疲労は尋常ではない。すでに日は暮れていた。
あれからまだ、一日も経過していない。その事実を改めて実感して、自分たちが無茶を言っていることに気づく。
「とりあえず、今日は私がこのバカ見張っておくから。ねぷちゃん達はゆっくりお休みよ。大丈夫、抜けだそうものなら足の一本くらい切り落とすから」
「サラッと怖いこと言うな、ユウコ」
「駄目だよぉ、エヌラスをイジメるのあたしなんだからぁ~」
「サラッと何言ってんだこの女神。いいからとにかくさっさと今すぐ、休ませてくれ……死ぬほど疲れてる」
「死んじゃ駄目ですからね」
「冗談だ、真に受けるなネプギア」
間もなく、エヌラスの寝息が聞こえ始めるとネプテューヌ達は今までどおりの宿に向かって病院を後にした。ユウコはそれを病室から見送り、溜め息を一つ漏らすと丸椅子に腰を下ろす。
「……あと七日だってさ」
そんなことを呟く。
「ソラが言ってたよ。何もなければ、あと七日でアダルトゲイムギョウ界は消えちゃうんだってさ。だから、その前にキンジ塔で決着つけないといけないよ……エヌラス」
「…………ああ」
狸寝入りを決め込んでいたエヌラスが押し寄せる眠気を振りほどきながら相槌を打つ。
「最後の一人になるまで戦わないといけないんだよね……」
「……んー」
「もしそうなったら……エヌラスはどうするの? 何を願うの?」
「…………」
「世界をやり直そうって思ってる?」
「さぁな……」
「それとも、大いなる“C”に挑むの?」
「願いを叶えるか、大いなる“C”に挑むかの二択なら。俺は後者を選ぶかもしれねぇな」
「どうして?」
「理由は一つだ。ムカつく」
正真正銘のバカなんだな、と。ユウコは笑いを堪え切れなかった。
「俺は掌の上で踊りたくねぇだけだ。それが例え“
「神の摂理に挑むなんて、大魔導師みたい」
「よせよ。俺はあそこまでデタラメじゃねぇ」
「……ねぇ、エヌラス。最後の一人ってさ、神格者のことなんだよね」
「突然どうした。確か、そうだな」
「でもさ、次元連結装置を起動させようとキンジ塔に集まったあの日って皆が居たよね。それは、どうして?」
「……俺が知るか」
「キンジ塔の出現に必要な条件って、なに?」
エヌラスはあくびを漏らし、眠そうに説明を始めた。嘘を言っても仕方ないと思ったのだろう。
「大きく分ければ二つ。一つは神格者がシェアエネルギーを使って“喚び出す”方法。最初はコイツだな」
「もう一つは?」
「……現時点でわかるだろ。世界が滅ぶその時に、最後の一人を決める為だ。救済措置ってやつだよ。聞いた話だけどな」
誰から? とユウコは聞かなかった。その相手が決まって大魔導師と知っている。
次元連結装置を使えば、みんなは自分たちの願いが叶うと信じていた。きっと救いがあるのだと。だが、そんなものはどこにもなかったのだ。自分たちは悪戯に被害を拡大しただけ――その責任を一番重く感じているのはエヌラスだ。それも異次元の守護女神たちと行動を共にしていれば尚更である。
「前よりも怪我する頻度上がったね。毎度毎度担ぎ込まれる気分はどう?」
「もうちょい寝心地の良いベッドにしてくれ」
「じゃあ、テメェの懐からお金出してねー?」
「何ならテメェの部屋のベッドでもいいぞ」
「…………――か、看病くらい付きっきりでもいいけど?」
「なんでそこでしおらしくなるんだよ、似合わねぇ」
「死んだように寝てろよぉう、も~!」
「じゃあ寝かせろよ! うるせェよお前!」
「お二人ともー、病院ではお静かに」
『アッハイ。すいません』
看護師に怒られて二人は黙った。
ベッドに横たわるエヌラスには点滴が繋がれ、全身に包帯が巻かれている。ネプギアのヒールのお陰で傷口は塞がっていたが、それでも完治には至らなかった。そんな暇もなかったので仕方ないと言えば、まぁ自業自得でしかない。ユウコが少しくせっ毛混じりの髪を撫でる。
「…………おかえり、エヌラス」
「……ただいま」
「生きてて良かった」
「死ぬわけねぇだろ」
「キミはそう言うけどね。待ってるだけって、スッゴク怖いんだから……それぐらい、分かれよこのバカぁ……」
「……なんで泣くんだよ」
「は、はぁー? 泣いてないですし、目にゴミ入っただけの花粉症だし」
「マスク付けて口裂け女ごっこでもしてろ」
売り言葉に買い言葉。そんな話を続けていたが、相手するのが億劫になってきたのかエヌラスからの返事がなくなった。顔を覗くと、すっかり眠りに落ちたらしい。
髪を撫でて、頭を撫でて嫌がらなかったのが少しだけ嬉しかった。いつもなら触るなとか言って嫌がるのに。
「……いつまで撫でてんだ……」
「ずっと」
「そう、か――――」
ユウコは、安らかな寝息を立てるエヌラスの寝顔をずっと見つめていた。空いた手はずっと髪を撫でていたが、やがて頬に触れて唇をなぞって、自分の唇に当てる。ほんのり小さな間接キスでも僅かに感じる相手の温もりに胸が温かくなった。
ネプテューヌ達はここ最近拠点にしているいつもの宿に到着するなり思い思いの行動をとった。ソファーにへたり込むネプテューヌ。お茶の用意をするネプギア。椅子に座ってテーブルに突っ伏すノワール。ネプテューヌ同様、ソファーにへたり込むプルルート。疲労困憊といったムードが漂う。
「ぐぇ~、私もう駄目~、動けない~。今日はもうお風呂とかご飯とかいいからベッドに入って寝たいよ~」
「じゃあそうすればいいじゃない……」
「ノワール~、おんぶ~」
「自分で行きなさいよ。私だって動きたくないわ……」
「とりあえず、お水持ってきたけど……」
「ジュースとかなかったの~ネプギア~」
「う、うーん……でも、私達が今朝宿を出た時に冷蔵庫の中って空っぽにしちゃったし……」
「ゆうちゃんの朝食美味しかったなぁ~」
「はい、すっごく美味しかったです。また食べたいなぁ……」
冷蔵庫の中身が空っぽ…………?
「……ねぇ、私達の晩御飯って」
「はい……炊飯器も冷蔵庫も冷凍食品もお野菜も、全部綺麗に空っぽです」
ハウスキーパーの如く、ゴミひとつ残されていない新築同然の宿から消えた生活感。それに感心したのも束の間、無慈悲なまでに国の基本理念がネプテューヌ達に突きつけられた。
働かざるもの食うべからず――この一軒家の貸出サービス宿屋システムは長期契約者ではない場合はこういった無慈悲な制裁によって涙を呑むものが後を絶たない。それに苦情を申し込もうものならユウコの商魂によって上手く言いくるめられてしまう。
如何なる理由であっても宿から退去した者は中に残した私物など没収される。
「……――ってことはもしかして!」
パタパタとネプギアが階段を駆け上がり、室内を見渡す。ミニチュアHW型フォートクラブも没収されたのかとガックリ項垂れる。そこに、かすかにだがキュイキュイと稼動音が聞こえてきた。
顔を上げて音源をたどると、それはベッドの下に隠れていたようで没収を辛うじて免れている。抱えるように持ち上げて浮かれた気分で戻ってきたネプギアが満面の笑みで全員に見せた。
「良かったぁ、見てください! ちゃんとベッドの下でおとなしくしてたみたいです!」
「うーん、よかったねぇー」
「そうねぇ、賢いわぁ……」
「ベッドの下ってぇ、まるでエッチな本隠してたみたいだよねぇ~」
意気消沈。もうネプテューヌ達には喜びを分かち合う気力も体力も残っていない。
「もうちょっとノッてくれてもいいと思うけれど、さすがに厳しいかな……ねー、ミニちゃん」
《キュイー》
「かわいいなぁ~……あ、充電とかどうしたらいいんだろ……」
どうやらミニちゃんという名前で決まったらしい。機械なので育つとは思えないが。
背面の装甲にツマミがあり、それを開くと様々なポートが隠されていた。メモリーカードやケーブルを繋げられるらしい。
「明日、電気屋さんのバイトで聞いてみようかな」
「そういえば、そっちのシフトってどうなってるの?」
「私は短期で不定期ですけれど、日払いということになってます」
「そう。私と同じなのね」
「それにしてもすごくバイトの採用とか、緩いですよね……」
「そうね。忙しいけれど働き口に困らないってのはいいことだわ。あちこちで仕事できるし」
「ギルドもお仕事沢山貼ってあったよぉ~? 一箇所じゃなくてあちこちにあるみたいぃ~」
「なんで私達女神なのにバイトの話とかしてるんだろ……」
「ま、いいんじゃない? 普段の職務から解放されて普通の生活をしてみるっていうのも」
「えー、私は一日中教会でゲームしていたいけどなー」
「アナタはもうちょっと真面目に仕事した方がいいと思うわよ……」
ネプテューヌにしてみれば、口うるさいイストワールが居ない分、こっちで羽目を外していられる。鬼のいぬ間に何とやら。