超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――翌日、やはりというか当然というべきか。エヌラスが退院していた。ユウコはその隣で口をへの字に曲げて不機嫌さを隠そうともせず、頬を膨らませている。
「あのさー、私さぁ。言いたいことめっちょあるんだけど、オーケー?」
「言いたいことは言ったもん勝ちだ」
「銀鍵守護器官の魔力を治癒能力にガン振りするってのもどうかと思うんだ。そうまでして私の看病受けたくないってか! こんにゃろう、一体どれだけツンデレなんだ! ふざけんあ!」
「別にお前の看病受けたくないわけじゃねぇよ」
「ほへ!?」
「ただ単純に寝てる場合じゃねぇってだけだ」
『…………』
四人はそんなエヌラスとユウコのやりとりを見ていた。
「ねぇ、エヌラス。銀鍵守護器官の魔力を治癒能力に回すって……」
「治癒ってのとはまたちょっと語弊があるが、正確に言えば自己再生。アルシュベイトから取り返した能力のオマケってわけだ。本来はただの必滅呪法だけどな」
「魔法とは違うんですか?」
「制御が難しくてな。下手すりゃ国一つ滅ぶ」
「撃つなよ? ユノスダスでぶっぱすんなよエヌラス」
「撃たねぇよ……そんな睨むな」
国一つ滅ぶような必殺技、なんで取り戻してしまったのか。ノワールはこめかみを押さえる。だが、それを奪っていたのがアルシュベイトというのは不幸中の幸いだ。もしこれがドラグレイスの手にでも渡っていればどうなっていたことやら。
「じぃ~……」
「なんだ、プルルート?」
「二人共ぉ、仲良いよねぇ~」
「ま、まぁねー。コイツとかほら、アレじゃん? 不躾な犬みたいなもんじゃん? 誰かリード握ってやんないと何しでかすか分からんじゃん?」
「人のこと犬呼ばわりかよ」
「うっさい駄犬! お手!」
「誰がするか!」
「じゃあぁ~、ちんちん~」
「や ら ね ぇ よ!!」
ネプギアが顔を赤くしていた。
自己再生能力によって一晩で完治したのはいいが、それでもやはり無茶をしているんじゃないかと心配になってネプテューヌがペタペタとエヌラスの身体に触れる。
「な、なんだよネプテューヌ。くすぐったいだろ」
「えー? エヌラス、また無理していないかなーって触って確かめてるんだよ。嘘言ってないかどうかなって」
「だから、もう怪我は治ってるっつうの」
「じゃあ脱いで」
「どうしてそうなった!?」
「服着てたら分かんないじゃん? ほら早く脱いで脱いで」
「え、えぇぇぇ……なんだこの公開処刑……」
「そうね。念のためチェックさせてもらおうかしら」
「治ってなかったらぁ、グリグリィってしちゃうからねぇ~」
「あの、脱いでもらってもいいでしょうか……」
「――お前ら、顔を赤らめてるのはどういうことだ…………!」
『まぁまぁいいから』
「…………」
明らかに、怪我の確認以外の意図が感じられる。だがしかし、ここで従わなかった場合は女神化してでも服を剥ぎに掛かるであろう人物が容易に想像できた。エヌラスがコートを脱ぎ、ソファーの背もたれに掛ける。下に着込んでいた上着は半袖なので、それだけで十分かと思っていた。――だが、予想に反してジト目でネプテューヌ達が睨んできている。
「……そこだけ?」
「お前ら……俺になんか恨みでもあんのか」
「恨みはないけど」
「嘘吐いたしぃ~」
「ちゃんと見せてもらわないと安心できないわ。別に恥ずかしがる理由ないじゃない」
「そうです。それより恥ずかしいこと沢山してきてるじゃないですか」
ネプギアの言葉に、笑顔でユウコがフライパンを構える。
「ほっほう」
「待てユウコ。ストップ。怪我増やす気か」
「大丈夫大丈夫。今更たんこぶ一つくらい……ね?」
「あれ……もしかして私、言っちゃまずかったですか?」
「でぇじょうぶだよ。たんこぶ一つくらい傷の内に入らないって、キミの場合」
「怪我は怪我だし傷は傷で俺だって普通の――ぉぉぉああああッ!?」
「にゃぁああああ!?」
ギリギリのところでエヌラスはユウコのフライパンを受け止めた。その後、つい癖で反撃に出てしまい、手首を捻られて投げ飛ばしたユウコがソファーごと倒れる。
「あ、やっべ……大丈夫かユウコ」
反撃のおたまが飛んできてエヌラスの額に見事直撃した。
「にゃにすんだバーカ! 痛いだろー!」
「イッテェだろバーカ! なにすんだ!?」
「こっちの台詞だよ! なんでいきなり投げるんだよぅ! 受け身取ってなかったらソファーぶっ壊れて器物破損含めた借金上乗せするぞー!」
「テメェも調理器具投げるなよ! 料理の時に使え!」
「私の調理器具は武器だし! 調理用はまた別に用意してあるのー!」
「なんでお前武器が調理器具なんだよ!」
「手に馴染んでるからだよ! 文句あっかー!」
口を開けばすぐ口論に転じる二人を見比べて、呆れたようにノワールが溜め息を吐いた。
「アナタ達ね……口を開く度に夫婦漫才しないと気が済まないの?」
『夫婦じゃねーし!』
「息ピッタリじゃない……」
「いいから早く脱いでよぉ~……」
「……プルルート、お前が言うと犯罪臭がヤバイな」
「ほーら、早く脱いでってば。ドキドキ、ワクワク」
言われるままに仕方なく上着を脱いで上体を晒す。全身にうっすらと走る微かな新しい傷口を見て、ネプテューヌが指先でなぞる。
「ホントだ。ちゃんと治ってる……」
「触んな、くすぐったい」
「えーいいじゃーん。それそれー」
「だから、この……くすぐってぇだろ」
ネプテューヌのくすぐり攻撃から逃げていたエヌラスを見て、プルルートも悪ノリして寄ってきた。二人に追われるエヌラスを無視して、ユウコは咳払いを一つ挟んでノワールとネプギアの常識人組に話を切り出す。
「ゴホン、まぁそこのロリコンは置いといて」
――ロリコンじゃねぇ! ツッコミは無視しておく。
「実はさ、うちの警備を請け負ってたドラグレイスの傭兵組織から契約破棄の申請書が教会に送られてきたんだよね。しかもインタースカイとアゴウが消滅してフォートクラブによるモンスターの駆除も出来ないし」
「それで……」
「ついでに言えば行商ルートも閉鎖。モンスターもウジャウジャ。かと言って九龍アマルガムからの救援は絶望的。来るわけねーしあの犯罪国家から協力者なんて」
「でも……アサイラムなら」
「国内の仕事で他のことなんてかまけてらんないでしょ?」
「つまり?」
「つーまーり……今、ユノスダスの周りってめっちゃくちゃモンスターいるんだよね。だからギルドの仕事もモンスター退治だらけ。そこで、テメーの出番なわけですよ、エヌラス」
チラリと後ろを振り返れば――パープルハートとアイリスハートに掴まって足蹴にされている。
「誰ェェェーーーー!?」
背中と顔を踏まれ、鞭を片手に舌を出しているアイリスハートが鳴らした。
「あ~ら、ゆうちゃん。あたしの変身した姿知ってるでしょ?」
「そうよ、ユウコ。それにエヌラスがこんな状態なのも貴方が知らないだけで結構な頻度よ?」
「いつの間にM属性まで付いたんだよぅ、ズルいぞー二人共。イジメていいなら私も交ざる!」
「ダ・メ・よ。エヌラスイジメていいのはあたしだけなんだから。ゆうちゃんもねぷちゃんもぎあちゃんも、ノワールちゃんもイジメちゃダメよ?」
「むー……」
「いい、分かってるエヌラス? あなたも私以外にイジメられちゃダメよ?」
「ふんぬぎぎぎぎ……!」
「聞・い・て・るぅ~?」
「聞いてるわボケがぁぁぁぁ……!」
「……口の聞き方がわかってないわね。躾が必要かしら?」
「いらんわ!」
エヌラスが反撃に打って出るが、そこでアイリスハートがカウンターで跳ね上げられた足に鞭を絡ませて逆に縛り上げる。軌道をズラされ、パープルハートもあっさり避けると、二人は倒れたエヌラスに座り込んだ。
「いつまでも反撃出来ると思っていたら間違いよ、エヌラス」
「そうよ。今回は私達が主導権握らせてもら――」
次の瞬間には鋼糸で簀巻きにされて転がされている二人が何事かと目を白黒させている。
「俺だっていつまでも以前のように遠慮すると思うなよ? こっちだって能力取り戻して本調子出せるようになってきてんだからな」
脱いだ上着を着直して、コートを羽織ったエヌラスがユウコに向き直った。
「それで。俺に頼みたい仕事ってのはモンスター退治か?」
「うんにゃ。未払金返済の為に犯罪者ぶちのめして来いって依頼。急増中でねぇ」
「……んじゃ、朝飯食ってから」
「あのー……エヌラスさん。非常に言いにくいんですけど」
「冷蔵庫の中身、空っぽだから朝ごはんは抜きよ」
「マジかよ犯罪者ぶちのめしてくる」