超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
お昼時。それぞれが仕事に向かい、集合したのはノワールがバイトをしている喫茶店。落ち着いた店の風格ながら、利用客もまた物静かな雰囲気を好んでいる者が多い。
「ぴょん……ぴょん……」
――変人も多数いるが、基本的に善人なので放置。
「……それで、午前中の稼ぎだけでお昼食べに来たわけ?」
「サンドイッチだけでも頼む……」
「はいはい」
午前中に稼いだ金額だけでも昼食を摂る分には十分な金額となっていた。それだけエヌラスの仕事がハイリスクという事であるが、ユノスダスの基準で判断されているために参考にならない。午後からはユウコの言っていたユノスダス周辺に出没するモンスター退治。その為に集合場所をノワールの喫茶店としていたのだが、プルルートしかいない。
「はい、これぇ~」
「ん?」
「先にギルドでモンスター退治のクエスト、受注しておいたんだぁ~」
「そりゃ助かる。普段ぽやっとしてるのに有能だな」
普段が普段だけにイマイチ信用ならないが、やる時はやるようだ。
テーブルの上に置かれるセットメニューはサンドイッチとコーヒー。一番安いセットを頼むのを見て、ノワールが不満そうにしていた。
「……なんだよ」
「もうちょっと高いのでもいいじゃない」
「俺は庶民派なんだよ」
「ほんとにぃ~?」
「お金ないだけじゃないの?」
「あるっつうの」
単純に、金に困っていた頃の癖で注文したとは言えない。
「…………」
「ノワールちゃん、どうかしたぁ~? エヌラスのことぉジッと見てるけどぉ~」
「べ、別になんでもないわよ。昨日の今日でよく食事できるわね。あんな大怪我してたのに」
「まぁな」
考えてもみれば――自分たちと出会う前から一人でずっと戦っていたのだ。
「死ななきゃ安いって言葉があってだな」
「もう。これからモンスター退治なんでしょ? しっかり食べなきゃダメじゃない」
ノワールが伝票を取り、メニューを付け加えてテーブルを離れる。それからオーナーと話をつけて、ケーキとサラダとスープを二人のテーブルに置いた。
「今はもう、アナタ一人の問題じゃないし、私達の問題でもあるんだから少しは頼りにしてくれてもいいのよ」
「……頼ってばっかじゃ悪いだろ」
「助けられてばかりよ、私達」
「こっちの台詞だ」
疑問符を浮かべるノワールから視線を外して、テーブルの上に置かれた皿を平らげ始める。
「すいませーん、注文いいですかー」
「はーい! それじゃ、ゆっくりしていってね」
別なテーブルに向かう姿を見てから、エヌラスはケーキをプルルートの方に寄せた。
「いいのぉ~?」
「ああ」
「じゃ~「あーん」して、ほしいなぁ~」
「…………」
「エヌラスのだしぃ、ダメェ~?」
「わぁったよ。まったく」
「……ほぇ?」
チーズケーキをフォークで刺して、プルルートに差し出す。思いの外あっさりと承諾されたのが意外だったのか、固まっていた。
「ほら、あーん」
「……あ、あ~ん」
小さな口を大きく開けて、差し出されるチーズケーキを一口。モグモグと咀嚼する……が、味が分からない。
「どうした? 顔赤いぞ、プルルート。今更照れるようなアレでもないだろ……」
「そうだけどぉ……なんだか恥ずかしいよぉ~……」
「……女ってのは分かんねぇなぁ……」
攻撃は最大の防御、ゆえに“攻め”は攻められるのに弱い。
「――で、以上でお願いします」
「ご注文を繰り返します。ブレンドコーヒーとパニーニのBセットメニューで宜しかったでしょうか」
「は、はい……お願いします」
「オーダー入りまーす」
ノワールがカウンターに戻ってきて、初老のマスターが朗らかに笑っていた。
「ノワールちゃん。ヤキモチ焼くのはいいけれど、お客さん仕事だからね。出来る限り笑顔で頼むよ。今、すごい顔してたからね」
「えっ!?」
「ハハ、まぁ恋する乙女は複雑だから仕方ないか」
「……すいませんでした」
「そこのテーブルでイチャつくボウズも。うちはそういうのが似合う店じゃないんでね、できればよそでやってくれないか」
オーナーの言葉に、エヌラスが「へいへい」と相槌を適当に打ちながらコーヒーを冷ます。口ぶりから察するに、知り合いなのだろうか。
「オーナー、知り合いなんですか……?」
「そりゃあね。以前は一人で一番安いメニューを頻繁に頼んでて印象的だった、というのと九龍アマルガムの国王だからそりゃあ知ってるさ」
「ノワール。知らねぇと思うから言っておくが、そのオッサンは元・
「昔の話だろう? 今はしがない喫茶店のオーナーだよ。老骨にはハードワーク過ぎる」
「ユノスダスって一体……」
――九龍アマルガムの黎明期において跳梁跋扈した吸血鬼の群れを一人で半数壊滅させた。
――真祖と呼ばれる吸血鬼の親玉と相打ちになった。
――拳で吸血鬼を半殺しにした。
――単身、一大麻薬組織を素手で壊滅させた等、功績を挙げればキリがない。とにかく凄い御仁で大魔導師の旧友とも噂されていた。
「アレ、でも確かユウコって……」
「吸血鬼だな」
「国王様をどうこうしようってつもりはないんだが。もし、万が一彼女が暴走した時は私の出番かもしれないねぇ……」
「その時は見せてくれよ、“
「ハハ、その時は身を持って教授してあげよう」
グラスを磨いている様はまるで喫茶店のオーナーというよりはバーテンダーだ。元々この店も古いバーを改装したものらしく、店内の色合いがシックにまとめあげられているのもその色合いが濃く残されているからである。
昼食を終えて、会計を済ませたエヌラスとプルルートの二人がモンスター退治の準備をしているとネプテューヌとネプギアが小走りでやってきた。
「遅ぇぞ。なにかあったのか?」
「いやー、ごめんごめん。収録が思ったより長引いちゃってさ。でもお弁当は美味しかったよ!」
「いや、弁当の感想は聞いてねぇ」
「私はミニちゃんに接続できるケーブルについて聞いてたらこんな時間に……」
「どんだけ機械好きなんだよ……」
「ノワールは?」
「昼時は混むらしくてな、遅れるってよ」
「そっかー。じゃあ私達だけで行こっか」
ノワールからは後から合流すると聞いているので四人はユノスダスの城門を抜ける。
「すいませーん、注文いいですかー?」
「ウェイトレスさーん。こっちもお願いしまーす」
「心がぴょんぴょんするかもしれんじゃ~……」
「お会計ー」
一気に混み始めた喫茶店では息をつく暇もなくノワールが忙しなく注文を取っていた。
「なんで今日、こんなに忙しいんですか!?」
「う~ん。心当たりはないねぇ……」
「そうですよね。エヌラスとプルルートが来たくらいですし……?」
もしかして、それが原因なのだろうか?
「おー、本当だ。美人のウェイトレスさんがいるって噂」
「あれ、でもさっきネットからの書き込みで『幼女キタコレ』とか『九龍アマルガム国王ロリコン疑惑』とかあったのにいなくね?」
“なんで世界が崩壊に向かってるのにこんな呑気なのよこの国!?”
ノワールは胸中でツッコミを入れながらテーブルに次々と注文通りの品を運んでいく。
「はは、ノワールちゃん一人じゃ流石に厳しいかな」
「は、はい……すいませんオーナー」
「じゃあ、少し下がってもらえるかな」
「……?」
言われて、ノワールがカウンターから二歩、三歩下がる。オーナーの手にはサンドイッチの載せられた皿。
「ほっ」
そして、何を思ったのか突然それを放り投げた。向かっていく先は注文されたテーブル。だが、挟み込んだ具材が空中で散らばる――かと思いきや、オーナーの投げ放った爪楊枝によって串刺しにされて皿の上に滑りこむ。そのままテーブルの上へスライディングして止まった。
「へ?」
「次は、四番か……ふん」
水の入ったグラスを回転を利かせて投げるとテーブルの上へ寸分違わぬ正確さで着地する。グラグラと回転して水が零れそうだったが、表面張力ギリギリで落ち着いて止まった。目を白黒させていたノワールと、静まり返る店内。
伝票を確認して、メニューをテーブルの上に投げるオーナーの手際は正確無比なコントロールによって全ての注文を片付けた。
空中でサンドイッチを完成させ、投げたグラスは一滴も零さず、それはもはや神業と呼ぶに相応しい所業である。
「では、どうぞごゆっくり。お客様方」
会釈して、何事もなかったかのようにお気に入りのグラスを磨き始めるオーナー。
「……オーナーって一体、何者なんですか」
「私かい? ははは、ただの人間だよ。九龍アマルガムじゃこれぐらい出来ないと店なんて開けないからね」
「向こうの飲食店ってどうなってるんだろう……」
一度も利用したことはないが、この先一生利用したいとも思わない。頼まれたって勘弁願いたい――エヌラス曰く『九龍アマルガムの危険人物は大概の経営者』とのこと。ノワールはユノスダスが改めて平和な商業国家であることに心底感謝した。
「さて、ノワールちゃん。お昼のラッシュもさっきのお客さんで最後のようだからね、今日はもう上がって大丈夫だよ。これからモンスター退治なんだろう?」
「あ、はい……でもいいんですか?」
「構わないよ。それとこれは私から、ほんの心ばかりのお給料さ」
そう言ってオーナーが差し出したのは、サンドイッチとコーヒーにケーキのセットメニュー。
「朝ご飯食べてないのに頑張ってくれたからね。お昼くらいはしっかり食べておきな」
「心遣い、ありがとうございます」
「小さな子に負けないくらいの魅力でしっかりハートを掴んであげるといい」
「ゴッホゴホゲッホッ!?」
むせた。