超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
やはり、と言うべきかノワールは改めてムルフェストを横目で見やる。主な攻撃方法は格闘だった。ドラグレイスの大剣すら拳で弾くほど、それに時折魔力を使って範囲を広げている。
「ブルース・インパクトー! とやー!」
空を振るった足から青い魔法が放たれてモンスター達をなぎ払う。
「ちょっ、危ないわね! こっちまで当たったらどうするのよ!?」
「あ、ごめん」
ただ本人が楽観主義の過ぎる所があるかも知れない。ひと通り周囲のモンスター達を駆除し終えて、幾らかの砲撃の痕を残しながらノワールとムルフェストは移動を始めた。
「お、棒きれ見っけ」
「子供じゃないんだから拾わないでよ……」
「んもぅ、口うるさいな。いいじゃん」
どことなくネプテューヌを相手している気分になるノワールが重い溜息を吐く。どうしてこんなのが神格者なのだろうかと疑問でならない。
「アナタ、本当に神格者なの?」
「そうだよー。吸血鬼で神様候補」
「……候補?」
「そう。候補。神格者って言うのは「神に値する者」って意味。キミだって女神でしょ?」
「それは、そうだけど……」
「アルシュベイトやエヌラス、ドラグレイスはそのシェアエネルギーで変神できる。私やユウコ、クロックサイコは変神できないんだけどねー」
「どうして?」
「んー。バルド・ギアは自分のシェアで仮想現実のインタースカイを繋ぎ止めてたし、使い方次第なんじゃないかな? 変神するのは純粋に「力が欲しい」ってことだろうし」
それが何のためかは知らないけどねー、と拾った棒切れを振りながらムルフェストは話を続ける。つまり、神格者は神様候補であり、自分たちの女神候補生のようなもの。だが、それにしても妙な話だ。国王が神格者であり「神格者=守護女神」であるならばその当人達が神様候補、と何か噛み合わない。
「私が聞いた話とちょっと噛み合ってないわね。国王って神格者なんでしょ? つまり、国を守る守護神なのよね?」
「あ、それってあくまでも代表的な例のひとつだから必ずしもそうじゃないじゃん? ほら、私とか私とか私とか」
「それで自分を棚に上げるのはどうかと思うわ……まぁいいけれど」
「ドラグレイスは亡国の教会職員、クロックサイコは狂気の魔人。私はー……まぁ吸血鬼のお姫様だし」
「どこの世界にラフなシャツとジーンズで拾った木の棒を楽しそうに振り回すお姫様がいるのよ」
それを言ったら生活のためにバイトする女神というのはどうなのか、というツッコミは敢えて伏せておく。
「人は見た目に寄らないもの」
「だいたいね。お姫様って言うならお城とか、国とか、側近とか色々いるじゃない。自由奔放に歩き回ってて大丈夫なの?」
「そこら辺は全然大丈夫。だって城も国も私一人しかいないし」
「……それ、国って言えるの?」
「そだよー。だって私以外“皆殺し”にしたし」
背筋が凍るような言葉だった。
「眷属はいくらでも増やせるし、シェアも困ったら取り出せるし」
そう言いながらムルフェストが棒切れで指し示した先――壊れた空の上に、月が薄らと浮かんでいる。
「あれが、私の国。あれが私の城。あそこが、私の治めている月の都。誰もいないし、何もないからこっちで遊んでるの」
「…………」
ノワールは言葉を失っていた。楽観的な言葉で誤魔化しても、その倫理観は人間から大きく外れている。吸血姫――そんな言葉が脳裏をよぎった。
「神格者同士が殺しあって、最後の一人になれば大いなる“C”への挑戦権が得られる。世界をやり直せるかもしれないって話なんだけど、私は正直どうでもいいんだよね~。興味無いし。今が楽しかったらそれでいいの。あ、モンスターだ。ラッキーエンカウント、どりゃー!」
投げた棒きれが回転しながら頭に直撃して、首の骨が折れたミッド・グレイが音もなく倒れる。
「人生に
「じゃあ、アナタはこれからどうするの?」
「んー、どうしよっかなー。何も考えてないんだよね。いっそ世界が滅びに向かってることだし加速させるのもいいかもしんない」
「私がさせると思ってるの?」
「んじゃ、止めてみたら? “もう実行した”から」
そんな挙動は、一挙一足見逃していなかったはずのノワールが怪訝な表情を見せて、ムルフェストが笑った。口から大きな犬歯が覗いている。眩しい無邪気な笑顔だった。
「涙がこぼれないように空を見上げてごーらーん」
「――――もしかして」
「うん、もう何もないし。帰るつもりもないから、今落としたところ。多分衝突まで一週間くらい? まぁそこは私のさじ加減かな。もしかしたら気まぐれで加速させるかもしんないし中断するかもしんない!」
「この――」
ショートソードで斬りかかって、バックステップで避けられる。踏み込んだ矢先に拳が当てられて背中まで突き抜ける衝撃に咳き込む。
「発勁、だっけ? エヌラスが言ってた。私も実は使えちゃったりするんだよね。それはそれとしても、私を殺しても止まんないよ」
「何が、望みよ……!」
「別に? 私は私が楽しいことをするだけ」
「世界を滅ぼすのが、楽しいの?」
「んー、どちらかって言うと反応が見たいかなー。慌てふためいたりする姿とか見て満足したら止めてもいいだろうし」
「……アナタ、イカれてるわよ」
「失礼だなーもう。そんなこと言ったら楽しんでる人間みんな頭おかしいみたいじゃん」
ぐ~。
あまりに間の抜けた相槌がムルフェストの腹の音だと気づくのに数秒を要して、ノワールが呆れを通り越して怒りを覚えた。
「アクセス!」
「おぉ、変身した」
ノワール=ブラックハートが大剣で斬り抜ける。だが、拳で弾かれた。
「アナタみたいな神格者を最後の一人にするわけにはいかないわ」
「お腹減ってるし、昼間ってダルいんだよね~。太陽は眩しいし嫌なことばっか」
緊張感のないムルフェストに歯噛みしたブラックハートが構え直す。
「……邪魔だなぁ、太陽」
ポツリと呟いた一言が、余りに突拍子のない言葉で思わず首を傾げた。ムルフェストが空に腕を掲げる。
「――夜を始めましょう。終わらない虚言の夜を。明けない人の夢を。覚め覚め止まぬ儚い星を」
それは、聖歌。それは聖句。詠唱の一節。
ブラックハートが本能的に駆け出す。“危険”だと直感的に告げられている。
「輝く星に願いを込めて、煌めく星に祈りを込めて」
舞うように避けて、大剣を受け止めて血風が吹き飛ばす。詩は止まない。
「終わらない夜に人の夢を奏でて。希望を
「くぅ――!」
舞の片手間、ブラックハートへ向けた魔法が次々と放たれる。それを防ぎ、避け、躱して再度ムルフェストへと斬りかかった。
「“
聖歌が止む。聖句が止まる。静かに風が木々を駆け抜けて――世界が止まった。
「朝は来ない。朝は来ない。終わらぬ虚言の夜に塗り潰されて。夜は明けない。夜は明けない。希望を
ムルフェストから溢れ出す途方も無い魔力。それが世界を侵食する。
「月は魔なる太陽。世界に“黄金の夜明け”は訪れない――“
アダルトゲイムギョウ界が、暗転する。
「――嘘でしょ……」
ブラックハートが“夜空”を見上げた。太陽は消えて、星々だけが瞬いている。幻想的な光景ながら、それが有り得ない事だと理解していた。世界の昼夜逆転。信じられない出来事を目の当たりにして顔が引きつる。つい今しがたまで昼過ぎだったはずだ。
「嘘じゃない。これは現実」
「何をしたの!」
「見ての通り。世界を夜にしただけ。だって日差しが邪魔なんだもん」
それだけの理由で世界を闇色に包まれてはたまったものではない。
「だーいじょうぶだって。夜が明けないだけだから。私が本調子でいけるってだけだし」
「それが十分脅威なのよ!」
「そんなこと言ったらエヌラスはどうなるのさ。あいつはその気になれば世界の一つ滅ぼせる」
「アナタも同じでしょ!?」
「違うんだよねぇ。私はほら。アレ、使って落とすし」
現在進行形で落下している月を小さく指差しながら。
「アイツは違う。九龍アマルガム表層を一撃で焼滅させた。それでも生き残ってた大魔導師を殺した。どうやったと思う?」
「……無限熱量、でしょ」
「ううん、違う。“機械仕掛けの神様”を使った。戦禍の破壊神、その権化――それをアイツは持っている。それを使わせない為に私達はアイツから能力を片端から奪った。でもキミ達の協力で取り戻してるみたいだけど」
「だったら、返してもらうわよ」
「悪いけど私は持ってないよ。いらないから捨てちゃった」
「捨て――!?」
「そこら辺にでも落ちてるんじゃない? 誰か拾ってるかもしんないし」
それがマジェコンヌの手にわたっていたとは神のみぞ知る――。
「さーて、これでムルフェストさんは全力出せるわけだけど……その前にお腹減っちゃったなー。誰かご飯おごってくれないかなー、そうしたら気分が変わって月落とすの止めるかもしんないんだけどなー」
「脅しにはのらないわよ」
「ケチ! いいじゃん、タダなんだし! ちょっと血ぐらい吸わせても!」
「嫌に決まってるでしょ! 私まで吸血鬼になるじゃない!」
「しないからさぁ。ちょっとくらい、ね?」
「お断り、よ!」
ブラックハートの大剣がムルフェストに迫り――甲高い金属音で受け止められた。その指に挟むように握られているのは十字剣。
「ちぇー、ケチ。じゃあいいよ、力づくでやるから! ノワール、今日のご飯決定ね!」
「ふざけんじゃ、ないわよぉ! アナタのご飯には絶対ならないからね!」