超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
光に包まれるエヌラスが髪をかき上げる。跳ねた黒髪の中に赤いメッシュが入り、黒のコートがジャケットへと変異していく。その背に「N」字に大きく「/」が入ったマークが刻まれている。フェイスペイントにも赤い十字架。
身体に張り付くボディスーツの上からアシンメトリージャケットを羽織る。右袖が短く、左袖が長い。指ぬきグローブも左右で色合いが違っていた。
赤と黒の右手。白と黒の左手。
そして、足首までを覆う脚甲は前に大きく張り出した装甲を備えていた。
その手に握られるのは、魔術の施された霊装。大きく湾曲した偃月刀を担ぎ、左手には無骨な銀のロングバレルリボルバー。グリップ下部、付け根の位置辺りに備えられたリング。その形状から、トンファーとしても扱えることが窺える。
かくして。バルド・ギアの増援部隊がネプテューヌ達を完全包囲するのとエヌラスが『神化』するのは同時だった――それから一瞬遅れた次の出来事は、包囲網に穴が空いた。それにはその場にいた全員が面食らう。当事者たる一人を除いて。
その双眸が凶悪なまでの赤い瞳をギラつかせている。獲物を前にして堪え切れない笑みを浮かべる獰猛な肉食獣を彷彿とさせるほど、エヌラスが犬歯を覗かせて笑顔を浮かべていた。悪鬼の如く形相で。
「調子こいてんじゃあねぇぞぉ、鉄屑共がぁ! 壊して
――こわッ!? 味方であるはずの三人が同時に思った。
威嚇射撃も警告もない殺意に溢れるエヌラスが増援部隊を踏み台にしてバルド・ギアと肉薄する。偃月刀とサーベルが火花を散らす。だが今度はエヌラスに軍配が上がり、押し負けたバルド・ギアは射撃武装を召喚する。
《そうだ、それでいい。来い、ブラッドソウル!》
「親指立てて溶鉱炉に沈む用意はいいかぁインテリロボット!」
六連装バレルのガトリング砲が回転を始めた。垂れ下がるベルトマガジンは背部のタンクへと繋がっている。秒間千発を超える連射速度は、もはや放つ銃弾が対象を撃ち抜くだけに留まらず、その着弾点からごっそりと掘削していく凶悪な暴風だった。だが、暴力には暴力でもって応えるのが礼儀。礼節で対応するなどというのは勘違いも甚だしい。
ブラッドソウル――エヌラスは偃月刀を眼前に構え、ロングバレルリボルバーを回転させるとトンファーのように構える。元よりその為の武装だ。小さく口決を結ぶ。
「断鎖術式一号二号、解放――“
バチン、――紫電が迸った。次の瞬間、悪夢のような光景が繰り広げられる。偃月刀とトンファーがガトリング砲の弾丸をことごとく弾き、逸し、鋼鉄同士の丁々発止が火花を散らしていた。それでも全ては迎撃出来ないのか、時折手を逃れた弾丸がブラッドソウルの眼前にまで迫る。直撃すれば脳幹を撃ちぬいて即死するはずの弾丸は、まるで見えない壁に阻まれたかのように軌道を逸れて通過する。頬に僅かな裂傷を作るだけに留まった。
本来であれば脚部に纏わせるべき“
《くッ……!》
銃身の加熱に耐え切れず、徐々にガトリングの精度が落ちていく。その冷却に指を離した瞬間、ブラッドソウルが偃月刀を突然地面に突き立てた。
「力を、与えよ――」
剣指を結び、手をかざす。すると、ひとりでに偃月刀が浮き上がり回転しながらバルド・ギアへと襲いかかる。それは腕ごとガトリング砲を切り裂くはずだったが、咄嗟に身を屈めながらベルトマガジンを廃棄して投げつけた銃身とタンクをバターのようにスライスして遠ざかっていった。
「舞踏会のチケットは持ったか? “
赤と白の自動式拳銃と回転式拳銃。だがその刻まれた文様が魔法によって光り輝く。そして、その凶暴性を露わにして吠えた。
赤い飛礫を撃ち出した弾丸は着弾点をグレネードのごとく灼き尽くし、白い飛礫は軌跡を凍てつかせながらバルド・ギアを執拗に追いかける。宙へ逃れた背後を猟犬のように追い立てる弾丸はどのような機動を行っても不条理な物理法則で追撃した。
偃月刀が戻ってくる。しかし、それはブラッドソウルを素通りして、背後で戦闘を繰り広げているネプテューヌ達の前で機人達を真っ二つにしていった。鼻先を掠めたような気がするがきっと気のせいだ、敵の攻撃が掠めていったんだとネプテューヌは思い込むことにした。
「チンタラお遊戯会やってんじゃねぇぞコラァ!」
それは、もはや、言うまでもなく。どう言い訳しようが徒労に終わるであろうヤクザキックだった。ただの蹴りだけで機人の頭部が破片を撒き散らしながら倒れる。
確かに、ゲイムギョウ界の誰もが女神化すれば好戦的になる。だが、それは自信の現れでもあるし守護女神としての自負でもあった。負けるはずがないという一種の慢心や思い込みに近い。性格が豹変するのも、決してまぁ珍しくはないのだ。ネプテューヌ自身も思い知っている。パープルハートとしての振る舞いは変身前とは比べ物にならないほど大人びている。
だが、目の前で変身――否、「変神」してみせたエヌラス。『ブラッドソウル』はそんなレベルではなかった。
「ぷるるんより怖い……」
「あ”? 誰だそれ」
「ナンデモナイデス」
愛称ぷるるん。プルルート――別次元のプラネテューヌを守護する女神『アイリスハート』もまた変身のギャップがこれまた凄いのだが、あちらはドが付くほどのSに変貌するとはいえ飴と鞭を使い分けるよく出来た人なのだが、エヌラスのこれはそれが生ぬるくすら思える。まさに「金! 暴力!
「足引っ張るようなら、一本くらい覚悟しとけよ?」
「は、はひ……肝に銘じておきます……」
ネプギアにはまだちょっと早かったのか涙目で小動物のように怯えながらこくこくと頷く。
両手を広げて引き金を引く。それだけで左右の包囲網が蹴散らされていった。バルド・ギアも追尾弾を撃ち落とすことに成功してネプテューヌ達の元へ戻ってくる。
「次で仕留める。手ぇ貸せ。しくじったらどうなるかは……想像に任せる」
「は、はい! 誠心誠意込めて頑張らせていただきます!」
逆らったら、殺される。そんな脅迫概念がネプギアにはあった。
《チィッ――! まだこれだけの余力が残っていたとは想定外だ》
「吠え面かくなっつったろうがぁぁぁ!!」
“理不尽極まりないわね!?”
ノワールが口に出さないツッコミを入れている間に、ブラッドソウルは既にバルド・ギアと肉薄していた。偃月刀とロングバレルリボルバーの体術を織り交ぜた異種二刀流に対して、ビームサーベルを召喚したバルド・ギアが拮抗する。だが、何か違和感があった。
「……あれ、あの人飛べるんじゃない?」
女神化したネプテューヌ達にデフォルトで備わっているはずの飛行能力。それが無いことにノワールが気づく。わざわざ地面を蹴ってまで空に跳ぶ必要はないはずだ。
「ノワール、来るよ!」
「ええ!」
「アクセル・ストライィィク!」
都合二度目のアクセル・ストライクによって蹴り飛ばされたバルド・ギアが真っ直ぐネプテューヌ達の前に落下してくる。胸部は大きく歪み、肩部のレドームも損傷を負って中身が見えていた。だが、今は気にかけている場合ではない。
殺らなければ、殺られる(エヌラスに)のだから。背水の陣とも言うべきか、後が無いネプテューヌ達は力を振り絞る。
「クロス・コンビネーション!」
斬り込むネプテューヌの連撃にバルド・ギアが押し込まれ、その横からノワールが回りこむ。咄嗟に転送した腕部シールドが最後の一撃を防ぐも、腰部バーニアを損傷する。切り抜けたノワールと入れ替わりでネプギアがネプテューヌと切り結ぶバルド・ギアへ接近した。
腰を落とし、背部バーニアを瞬間的に吹かしたタックルがネプテューヌの小柄な身体を吹き飛ばす。
「お姉ちゃん!」
《よそ見している場合か》
“ネプギア……!”
サーベル同士の衝突。反発しながらも繰り返しぶつかる火花と紫電。粒子が飛び散る中でバルド・ギアが左右の手にビームサーベルを転送して交差するように切り払う。
スローモーションのように進む時間の中で、妹の窮地を見ていたネプテューヌの身体が不意に抱き留められた。ブラッドソウルの横顔、そして――目が合う。それが呆れと殺意がまぜこぜになって自分を愚かと蔑むのだと。だが、ネプテューヌの思いとは裏腹に、その眼は焦燥に駆られていた。
頭に一瞬だが置かれた手が、わずかに揺らぐ。
“今、頭撫でて……?”
そう思った次の瞬間にはネプテューヌが突き飛ばされていた。飴と鞭、である。
「ねぷっ!」
尻餅をついて、ネプテューヌは見た。今まさに窮地に陥ったネプギアの前に振り上げられたビームサーベルが振り下ろされるのを。
そして、その間に光速の踏み込みで身体を潜り込ませるブラッドソウルの背中を。
《――そうだ。お前はそういう奴だ! どれほど口で騙ろうとも、お前は!》
「口で言っても身体は素直でな。って、やかましいわ!」
“この状況でノリツッコミ!?”
ロングバレルリボルバーと偃月刀を重ねて攻撃を防ぐブラッドソウルもろともネプギアを斬ろうと出力を上げたバルド・ギアの身体が不意に衝撃に襲われた。
「私を忘れてもらっちゃ困るわね」
背部バーニアに走る横一文字の亀裂。急激に落ちた出力にバランスを崩し、それを押し返したブラッドソウルが武器を転送する。ネプギアがその横をすり抜けてノワールと共にバルド・ギアを逃さない。
「“
右の手には新たに日本刀が召喚される。そして、左手には撃鉄の付いた刀の鞘。
正面で横一文字に納刀すると、両腕に紫電が迸る。腰を深く沈め、対敵を捕捉。
「――抜刀術・壱式」
溢れる電圧が物言わぬ殺意として威圧感を放つ。その眼光が捉えるのはバルド・ギアただ一人。必殺にして不可避の光速を超えた神速の居合はもはや剣術の域を超えた一撃を可能とする。
背筋に走る悪寒と、“危険”だと全身の細胞が総動員して警告してきた。ノワールはネプギアをかばうように押し倒す。
「“迅雷”!」
今まさに抜き放たれんとする必殺の一撃。
――バルド・ギアの背後には間抜けにも尻餅をついたままのネプテューヌの姿。真っ白な無地のパンツが丸見えである。