超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「目くじら立てて私を怒ったって時間は進むし月は落ちている! もうやったことだから反省してない!」
「あぁぁぁぁもう! ほんっとうに腹立つわねこの吸血姫! ネプテューヌ、ネプギア、プルルート! ムルフェストを迎え討つわよ!」
「なんで貴方が仕切るのよ」
「別にいいでしょ!? とにかくあの頭がおめでたい吸血姫をどうにかしないことには現状、どうすることも出来ないんだから!」
「どうにかしてもどうにもならなかった場合はどうするつもり、ノワールちゃん?」
「後で考えるわよ!」
「それってムルフェストさんと変わってないような……」
「なにか言った、ネプギア」
「なんでもないです!」
怒り心頭のブラックハートには聞こえていないのか、大剣を構えている。渋々パープルハート達も武器を向けるが、相手がやる気なさそうにしていた。
「ワタシ、ご飯食べたいんだけどな……」
「アナタの都合なんて知らないわよ」
「むー。じゃあいいや、仕方ない。そこら辺ので我慢しよ」
フラフラと歩くミッド・グレイの一匹に赤い針のようなものを投げる。それは首筋に突き立ち、やがて干からびていく。血液、というよりは体液を抜かれてミイラのように乾いた屍体が崩れた。ムルフェストの表情が苦い。
「うっげぇ……美味しくない……」
「思ったより小奇麗な吸血ね」
「もっとこう、首筋に噛み付くのを想像してたのだけれど」
「それはそれでいいんだけどねー、こぼすと勿体無いし」
暗くてよく見えないが、その手には確かに赤い針が握られていた。ユノスダスの城門を背負ってネプテューヌが斬りかかる。それを十字剣で受け止めて離れた。
「いくら自分が楽しいからって、やっていいことといけないことくらいあるわよ! わかってるの!?」
「もー、なんで揃いも揃って人のこと怒るかなー……」
肩を落とすムルフェストにブラックハートとアイリスハートが迫り、二人の剣を同時に躱す。赤い針を投げるも、それをパープルシスターが弾き落とした。
「なんでワタシってこう、邪魔ばかりされるんだろ。キミ達と戦っても楽しくない!」
「アナタが周囲の迷惑考えないからでしょう!」
「ふんだ! もういいよ! 別に相手する必要ないし、放っておいてもどうせ世界は滅ぶんだからいいもんね!」
べー、と舌を出して逃げようとするムルフェストの動きが止まる。城門が開かれていき、そこから現れたのはユウコだった。腰に手を当ててこちらも怒り心頭、といった様子である。
どうやらユノスダスでも突然の出来事に大騒ぎになっているようだ。それに国王本人が我慢できずに出てきたのだろう。ムルフェストが同じ吸血鬼であるユウコを見て不機嫌そうな表情から一変して手を振った。
「あ、やっほーユウコ。元気にしてる?」
「元気だけど大絶賛ご機嫌斜めだ! 何が起きてるのか順番に説明してもらうから!」
「えーっと、太陽が邪魔だから夜にした」
「またそんなことしたの!? 電気代跳ね上がるから今すぐ戻して!」
「で、電気代……」
というよりも、また、ということは以前もやったことがあるようだ。
「だってぇ」
「だってじゃないよ! 何考えてんの! 一日中夜だったら洗濯物は乾かないし新聞読めないし電気代は跳ね上がるしゴミ出しだって面倒だし犯罪者はあちこち悪さするしで私の仕事が増えるばかりなんだよ! わかる!?」
「え、えっとユウコ。夜が明けないよりも月のほうが……」
「月!? 月がなに!? 月が落ちてくるからなんだっての! だから何! 私はそんなものより先に国内の電気代維持の方が大事なんだよ!」
ユウコの脳内では「電気代(国家予算)>>(越えられない壁)>>月が落ちてくる(世界の危機)」ということになっている。流石は商業国家というべきか肝が座っていた。金は命より重い。
「だ・か・ら、とっとと元に戻せこのアッパラパー! 月はいいから夜は戻せ!」
「う、ぅぅ……」
ムルフェストが気圧されていた。事実、ネプテューヌ達も唖然としている。
「出来るの! 出来ないの!? やるの、やらないの!? どっち! さっさとしろ!」
眉を吊り上げて睨むユウコにムルフェストが涙目になっていた。折角自分がやったことを盛大に頭ごなしで叱りつけられてしょげている。ネプテューヌ達が言っても気にしなかったムルフェストが鼻をすすり始めた。
「やります……」
「うん、じゃあやって」
徐々に世界が白んでくる。創りだされた夜が明け始めていき、太陽が昇ってきた。ムルフェストが泣く泣く“闇色の夜明け”を解除したらしい。だが、月は落ちてきている。そればかりはどうしようもない。
「よしよし、それでいいの」
「グス……」
頭を撫でて、ムルフェストが涙ぐんでいた。傍目から見れば明らかにユウコの方が年下のはずなのだが、どうにも立場は遥かにユウコが上らしい。
「……で? なんで月落としてるの?」
「ヒィ……」
「な・ん・で、こんなことになってんのか聞いてるの。さぁー元気よく答えよっかー、ムルフェスト? ことと次第によっちゃあ私の堪忍袋の尾が限界迎えてストレスマッハパンチがテメェの顔面ぶち抜くぞー? いいのかなー? んー? いいのかなー?」
それがよもや「楽しそう」という理由などでは鉄拳制裁不可避。完全にムルフェストは詰んでいた。自業自得である。
「お……怒らない?」
「あはは、コレ以上怒ったりしないから。素直に言ってご覧」
「……楽しそう、だったから」
「そっかー楽しそうだったからかーそっかそっかーへぇ~……」
ユウコは、笑っていた。
満面の笑みだった。
「……ユウコ、メチャクチャ怒ってない?」
深々と、深っ々と溜め息を吐いてムルフェストの肩に手を置く。
「ねぇ、ムルフェスト。私さ、コレ以上怒ったりしないって言ったよ」
「う、うん……」
「それってね。つまり、今の私は限界突破してブチ切れてるって意味なんだ」
ユウコの拳が震えていた。顔がひきつったムルフェストの頭にゲンコツが叩き込まれて、舗装された地面に吸血姫が哀れにも突き刺さっている。綺麗な金髪を掴んで引き起こすと、流石は神格者。原型を留めていた。ユウコはその顔を横から鷲掴みにするなり頭突きでもう一度地面に叩きつける。
「バカかテメェは! 何考えてんだ馬鹿! バーカ! そんなことして私が黙ってると思ってんじゃねぇぞ! 何もしないから今までユノスダスの周辺で彷徨いてても黙ってたのにこんなことしでかして! 調子に乗ってると天日干しにするぞこんにゃろう! いいか! インタースカイとアゴウが無くなって商売相手がいなくなった今のユノスダスの経営状況は結構傾いてる! 予算の下方修正に国内の労働力でどうやりくりするか考えないといけない一日目! それでテメェは何をしやがった!? 夜にしてどうする! 太陽が邪魔なのくらい私だって知っとるわボケェ!」
「で、でも」
「ふんがー!」
「あぎゃぱ!」
鼻っ柱に頭突きをかまして胸ぐらを掴みあげて揺らしながら、ユウコの説教は続く。
「電気だって無料じゃねぇしガスと水道はまだいい! だけど電気代は街灯その他設備に使う重要な生活の灯りなの! つまり国の全体的な予算占有率は自然と電気代が一番高いんだよ! そこら辺の電力会社とかでまかなえる電気だって国内全体に行き渡ってるわけじゃないからあちこちで節約してるのにテメーはこのやろう! どうしてくれんだ! 数分とはいえこっちは予定が大いに狂って国内の騒動を収めるのにどれだけ仕事を後回しにしないといけないのか分かってんのか!? 分かってんの!? 九龍アマルガムだけが商売相手じゃこっちだってどうにも出来ねぇんだよどうしてくれんだゴラァァァァァァッ!!!」
首を締め上げていただけでなく今度は振り回し始める。
「……ポカーン」
「ユウコ、キレると怖いわね……」
「あたし、やっぱりゆうちゃん苦手だわ……」
「そういえば壊れた城壁まだ修復作業途中だったような」
それもムルフェストのせいである。
「アンタと違ってこっちは暇を持て余してるわけでもなけりゃあ力を持て余してるわけでもねぇんだよ、忙しいんだよ! 聞いてんのか住所不定無職の吸血姫! テメェの働き口なんて水商売以外に幾らでも用意出来んだよこっちは! ごめんなさいも言えない反省出来ないようなら身体で返してもらうぞ!! 吸血姫だからそう簡単にぶっ壊れたりしないだろうから顧客はいくらでも拾えるだろうしなー! アハハハハハハ! ちくしょーーーーう!!!!」
怒りの余り我を忘れて泣きながら笑っているユウコが何よりも恐ろしい。なだめようとパープルハート達が近づいて、ムルフェストが地面に叩きつけられて「ぐぇっ」潰れたカエルのような鳴き声をあげた。
「で!? ねぷちゃん達はそこでなに突っ立ってんの?」
「へ!? わ、私達はムルフェストがユノスダスに逃げ込もうとしたから止めようと……」
「モンスター退治は?」
「えっと、ボチボチ進んでます……」
「へぇ……」
自分たちも何か怒られるんじゃないだろうか? そう思っていただけに腰が引けていた。だが、そこへモンスターを片付けてきたエヌラス=ブラッドソウルが戻ってくる。状況を見て、大体の事情を察したのだろう。
「どうなってんだこりゃ……生活リズムとち狂うっつの」
「そういう! 文句は! コレに言え!」
「ぐえ! あう! ひぎぃ!」
背中を三回も踏まれているムルフェストは土と涙とその他でボロボロになっていた。
「っつーかエヌラス! テメェもなにやってくれちゃってるんだ!? なんかあっちの方すごい見晴らし良くなってない!?」
「シャイニング・インパクトぶっぱなした。スッキリした」
「スッキリした、じゃないよ! なに清々しい顔で大自然破壊してくれてんだよ! 一応あの辺り森林保護地区だよ!? モンスターだけじゃなくて自然動物とか――」
「尊い犠牲だったな」
「んもぉぉぉぉっ!!!」
「牛みてぇに喚くな、うっせぇぞ乳牛」
「胸は関係ねーだろが!」
ギャンギャン叫ぶユウコの足元から抜けだしたムルフェストがブラッドソウルに泣きつく。
「びぇぇぇぇ、ユウコ怖いぃぃ……! エヌラス助けてぇぇぇぇ……ぐすっ、エグッ」
「なんだか子供みたいになってるわね」
「中身はガキみてぇなもんだからなコイツ……鼻水流しながら人に抱きつくな汚ぇな」
髪を梳いて汚れを落としてやりながらエヌラスが変神を解いた。
「おこってない?」
「別に」
「別に、ってエヌラス。アナタね、このまま放っておいたら」
「むしろ感謝してる。キンジ塔はこのままじゃどうせ出てこないだろうしな。世界が滅びに向かう中での救済措置として出現するなら崩壊を加速させてくれた方が俺としては助かる。どちらにしろ次の目的地はそこだしな。出てくるまでこっちも動きようがない」
「でも、エヌラス。ムルフェストは敵なんじゃ」
「俺の敵はクロックサイコだけだ。それ以外の神格者は――あぁ、まぁいいだろ……」
涙ぐむムルフェストを立たせて汚れを払い落とす。
「別に俺、こいつのこと嫌いじゃねぇしな」
「ほんと?」
「お前と敵対する理由なんて生存競争ぐらいだ。後先考えない行動のせいで迷惑って点では、多分全員と同意権。そこだけ直せ」
「…………ぅゅ」
「エヌラス。キミ……何考えてるの」
「なんでもいいだろ、うるせぇな。今日はもう疲れた、モンスター退治の報酬分もらってくる。テメェはいつまでひっついてんだムルフェスト、離れろ」
エヌラスは呼び止める声も聞かず、そのままユノスダスの城門をくぐって消えた。ネプテューヌ達も変身を解き、眉を寄せる。
「なんか……エヌラス、様子がおかしくなかった?」
「そうね」
「いつもなら「月を落とすとか何考えてんだテメェ!」とか言いそうなものなのに……」
「ゆうちゃんの怒り方、エヌラスそっくりだったねぇ~」
四人の視線が集まる先のユウコはムルフェストを正座させてお叱り中だ。その姿はまるっきりお母さんである。
「……ハァ。もういいや。これ以上怒っても時間の無駄だし。時は金なり、タイムイズマネー。ムルフェスト、これ以上勝手なことしないでよ。いい? わかった?」
「はい……」
「じゃあ、ごめんなさいは?」
「ごめんなさい……もうしません……」
「うん、良し。次やったらぶちのめすからね」
「はい……」
すっかり意気消沈したムルフェストの頭を撫でて、ユウコが手を引いて立ち上がらせる。
「じゃあ、まずはお風呂入ろうか。汚れたまんまじゃお仕事できないし」
「仕事……!?」
「大丈夫大丈夫。逃げないように私の仕事手伝ってくれるだけでいいから。……ね?」
最後の「ね?」にどれだけ多くの意味が込められているかと言うと「私の目が黒いうちに他所様に迷惑かけたらただじゃおかねぇから黙って従え。オメーの拒否権ねぇから」である。それとなく察したムルフェストはただただ頷くことしか出来ない。
「じゃーねぷちゃん達もお疲れ! モンスター退治を引き続きやるならいいけど、気をつけてね」
「あ、うん……」
「ほらー、じゃあ行くよムルフェスト」
そう言いながら、月を落とした張本人の手を引いてユウコも教会へと足を運んでいく。
「…………ねぇ。アダルトゲイムギョウ界最強ってアルシュベイトじゃなくて、本当はユウコなんじゃない?」
「うぅ、胃袋握られている側の人間としてはユウコは怖いなぁ……怒らせないようにしよ……」
「……ひとまずは、一件落着……なんでしょうか?」
「でもぉ、お月様は落っこちてきてるんだよねぇ~」
「はぁ、結局世界滅亡まで一週間っていうのは変わらないわけね……」
だが月ばかりはどうしようもない。それよりも、今はエヌラスが気になっていた。明らかに様子がおかしい。