超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ネプテューヌ達が報酬を受け取って宿に戻ってきてからも、エヌラスは心ここにあらずと言った様子でボーっとしていた。ソファーにもたれかかって、天井を眺めている。
“どうしちゃったんだろ”
“さぁ……?”
そんなエヌラスの隣にプルルートが座り、声を掛けてみても曖昧な返答しかしなかった。
「エヌラス、今日の晩御飯どうする~」
「んーなんでもいい」
「怪我、だいじょうぶぅ~?」
「あぁ……」
「もう、しっかりしなさいよ。どうしちゃったのよいきなり」
「そうだよ! このロリコンめ!」
「…………」
「あ、あれ? いつものツッコミ期待してたのにどうしちゃったの? 本当に大丈夫?」
「テメェは人を心配するところはそこかよ……何でもねぇよ、気にすんな」
腰を上げてコートを脱いでハンガーに掛けてリビングを後にする。それを誰も止めなかった。
「うーん、調子狂っちゃうなぁ。やっぱりアルシュベイトとの決闘のダメージが響いてるのかな」
「戦闘中も注意力散漫でしたから、多分そうなんじゃないかな」
「本当にそれだけかしら……」
「えー、だって他に何かある? 銀鍵守護器官で怪我を治したと言ってもやっぱり見えないところでダメージ残ってると思うんだけどなー」
ネプギアがミニちゃんと手を合わせて遊んでいると、思い出したようにNギアを取り出す。端末のカバーを開けて、ケーブルを繋いだ。カチカチと画面を切り替えながら鼻歌交じりに操作している。
「ネプギア、何してんの?」
「ミニちゃんに繋ぐ汎用ケーブルをいただいたので、早速データを確認してるんです。あ、こっちのプロテクト結構固いなぁ……」
「ネプテューヌ、アナタの妹。段々機械好きからハッカーになってない?」
「う~ん、このまま悪い方向に転がることはないと思うんだけどなぁ。それはそれでちょっと心配だよ」
しばらく画面と睨み合いを続けるネプギアを放って、今はエヌラスのことが気がかりだ。
「あ、そういえば」
「なに? どうしたのよ」
「私だけエヌラスとお風呂イベントこなしてない! やっべ、これ私だけフラグ立ってなくね?」
「なんで今になってそういうことを思い出すのよアナタはー! どういう状況かも分かってるでしょ!?」
「ノワール、吊り橋効果って知らないの?」
「知ってるわよそれくらい! 馬鹿にしないでよね」
「そうと決まれば突撃隣のお風呂場ー!」
階段を降りてくるエヌラスの手には着替えが用意されており、そのまま脱衣場へと消えていく後ろ姿を呼び止める。
「エヌラス、一緒にお風呂入ろー!」
「……別にいいけどよ」
「よっしゃー、フラグ成立!」
「なんでそんなテンション高いんだよお前」
「エヌラスがいつもに比べて沈んでるだけだよ」
「いつも通りだろ」
「そう思ってるのエヌラスだけだよ。ほら、早くお風呂入ろう?」
「……はぁ……お前に振り回されてばっかだな……」
疲れたような笑みを浮かべてエヌラスはネプテューヌが着替えを持ってくるまでの間に脱衣場で服を脱いで先に入った。
「エヌラスー、背中洗ったげるね」
「ん? あぁ、悪いな」
「んもー、そこは素直に「ありがとう」じゃなくていつもみたいに何かカウンター決めてくれないと私の調子が狂っちゃうんだってば」
「人が素直に感謝してんのにどんだけアマノジャクなんだよテメェ!」
「うんうん、その調子じゃないとやっぱエヌラスらしくないね。じゃあ洗うよー」
「この野郎……はぁ」
ネプテューヌの小さな手がスポンジを泡立たせてエヌラスの背中を洗い始める。
「うーん、普通に洗うんじゃ刺激足りないかなぁ……」
「別に刺激的な洗い方しなくていいぞ」
「ほら、変身しておっぱいで」
「もうプルルートでやった」
「マジで!? クッソー、じゃあ今の姿でやるしかないかなぁ」
「やらんでいい。普通にやってくれ」
「やーだよ。せっかくのアダルトゲイムギョウ界、楽しまないと損だもん! それに残り一週間しかないんでしょ? それなら楽しめるだけ楽しまないと」
「お前の気楽さには世界の滅亡も敵わねぇな……」
「無抵抗な今がチャンス! えーいっ」
ぺたん。つるーん。しょぼーん。
「うぅ……なんだろう、すごく空しいことしてる気がする……これじゃただ甘えてるだけの元気な美少女の妹みたい」
「死んでもテメェだけは妹だとは認めねぇ」
「そこまで私ウザい!?」
「ウザいとかウザいじゃなくて根本的に妹扱いしたくない」
「まさかのお兄ちゃんフラグへし折り!? えーいいじゃん。お姉ちゃんだって大変なんだよ?」
「ネプギアに比べたら姉の苦労なんてクソのようなもんだ」
「クソ!? 私の活躍クソのようなもの!? ひっどーい、今のはいくら何でも私も怒るよエヌラス!」
「なんだようるせぇ、キレのあるカウンター欲しがったのお前だろうが」
「今のはカウンターと言う名前の暴力だよ!」
「カウンターも暴力だろうが!」
そこでお互いに一旦落ち着いてからエヌラスは背を向けた。
「はぁ……仕方ない、普通に洗ってあげる」
「そうしてくれ」
「せっかくのお風呂イベントなのにあんまり楽しくないなぁ……」
「悪かったな。許してくれ」
「いいか許さない、絶対ニダ!」
「はいはい」
背中を洗っていたネプテューヌの手が、ふと止まる。そのまま身体を抱き合わせてくるのをエヌラスは黙って受け入れた。
「……楽しくないよ。面白くない。エヌラス、どうしちゃったの?」
「だから、なんでもねぇって言ってるだろ。お前までそんな調子じゃ俺まで調子狂うだろ」
「元はといえばエヌラスのせいじゃん! そんな沈んだ調子でこの先生きのこれるの」
「こんな状況下でもネタぶっこむテメェの度胸は認めるがちょっと自重しろ!?」
「わたしは楽しませたいし、人を笑顔にするのが生きがいなのー! 私がこうすることで笑顔にならないものなどいなかったのにー!」
「イテテテ、爪立てるな。そんな強く抱きしめたら動けねぇだろ」
「ぐすん……」
「……泣くなよ」
「泣きたくもなるよ……こんなんじゃわたし……迷惑掛けてる、だけじゃん」
「……考えることとやることが多過ぎて、ちょっと頭と心の整理がついてないんだよ。この数日、ろくに立ち止まれなかったからな」
フォートクラブ生産工場制圧から、ドラグレイスとの交戦。九龍アマルガムでのクロックサイコと戦闘。邪神ズアウィアが変身した大魔導師の模倣体との激闘。失った能力を取り戻す甲鉄鋼殻虫との戦闘――それから間もなくしてアルシュベイトとの死闘。戦って、戦って、戦って。得たのは能力だけ。失ったものは鋼鉄の好敵手。立ち止まっていたら死んでいたかもしれない。
「今にして考えりゃどうやって生きてんだろうな俺……」
考えるまでもなく、間の抜けたことを口にしてることに気づいた。ネプテューヌ達がいたからだ。自分一人ではここまで生き残れなかったのは、事実だ。折れそうな時に、挫けそうな時には彼女達のおかげで立ち上がることが出来た。命に代えて守るべき者がいる――それがなんと心地良いことなのだろう。
「まぁでも、そういうのって結局はお前達がいたからなんだよな。だから……」
「……だから?」
「……あー………あ――」
「?」
「……ありがとな」
沈黙。ネプテューヌの顔が赤くなっていく。そして、エヌラスも自分の顔が赤くなっているのが分かった。
「な、なななななんで今さらそんなお礼とか言っちゃうの!? ズルいよ! ズルくない!? ね、ねっぷねぷにしちゃうよ! されちゃうよ! あれ、私されてる側!?」
「いや待て落ち着け。落ち着けネプテューヌ? お前がそんなキョドるとかちょっと俺も予想外でどう反応したらいいんだコレ!?」
「えっと、えっと困ったときは」
「「変身(神)」」
風呂場で何をしているのだろうかと二人が冷静に戻るまで数秒。
「なにやってるのかしら私……」
「なにやってんだ俺……」
数秒後の二人がこちら。全裸で泡だらけになりながら自分のやったことに落ち込んでいる。ノリと勢いに身を任せた結果がこれであった。ともあれ、改めて二人は向き直る。
「……こうしてみると、結構いい身体してるのね」
「お前もな……」
「…………勃ってる?」
「勃ってねぇよ……」
「なんでよ! ここはスタンドアップでスタンディングオベーション決めておかないとスタートダッシュに乗り遅れるわよ! ウェイクアップ! ウェイクアップ!」
「うるせぇよ! テメェのそのノリで色々ともう台無しだ!」
「ワッツシャット・アップ!」
「なんでそこだけ英語押しなんだよテメェはよぉ!? いいから背中向けろ!」
「まさかの背中フェチ?」
「たわしで洗うぞテメェ……!」