超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
集団入浴から上がって、エヌラスは自分の部屋に戻ってくるなりベッドへ倒れこんだ。あの後からずっとネプテューヌやプルルートにイジられて気が休まらなかった。
「まったく……元気すぎんだろネプテューヌ」
昼間にモンスター退治をしたというのに、どれだけ体力が有り余っているのか。本人は仕事が大嫌いなようだが、やる時はちゃんと仕事をしている。それでも文句を言いながらぶつくさと、だが不思議とミスはしていない。不思議な事に。本当に不思議なことに。むしろ七不思議。ネプテューヌ七不思議の一つ。仕事はミスしない。だがやりたがらない。
そういえば、と思い出す。自分もミスは無いように仕事はしているつもりだが、その様子を見ていたスピカが言った言葉――。
『ご主人様は普段から粗雑で乱暴な振る舞いと言動なのに仕事はとんとミスしませんね。つまらないです』
『お前後でぶっ壊すからな』
『大変失礼しました。つい本音――げふん、本当の――いえ、取り繕うのは止めましょう。ミスしてくれてもよろしいですよ?』
『死ねよお前……』
『丁重にお断りさせていただきますわ』
最高傑作のポンコツ代表、スピカ――自宅ではメイド長という立場にある。カルネはメイド長補佐、という立ち位置だ。
枕に頭を預けて、重力に身を任せる。程よい寝心地の固さに身体を沈ませてエヌラスは深く息を吐いた。眠気に意識を持っていかれそうになるのをどうにか押し留めながら物思いに耽る。電気を点けていないのは九龍アマルガムで身についたクセのようなものだ。宿などで部屋の灯りを点けていると物取りが銃を片手に押し開けてくる事が多々ある。当然ながら返り討ちにするのだが、最初の頃は脇腹やら腕やら撃ち抜かれてひどい思いをした。今ではすっかり慣れたもので、自室の灯りは極力点けないことにしている。
夜目の方が利く、というのもあるが。
「…………」
家が恋しいというわけではない。あそこには何もないからだ。一財産を築いて、自分の必要なものを必要なだけ詰め込んだ空間。九龍アマルガムにありながら、そこではないどこかに存在する自分の家――その空間編成術も大魔導師からのプレゼントだ。考えるだけでも頭が痛くなる。
教会はいつも無人。大魔導師が一人でいつも仕事をしていた。教祖、と呼ばれる人物もいるらしいがエヌラスはただの一度も会ったことがない。
『師匠。教祖ってどういう人なんだ?』
『人ではないが、お前が会うべきではない』
『なんでだ?』
『会ったところで、何も意味は無いからな。まず喋らない』
『ああ、じゃあ沈黙に耐えられそうにねぇや……』
そもそも教会、と言っても何もない。見た目は病院、中身は教会。大魔導師の用事があるときにだけ他の部屋への立ち入りが許可されるというよく分からない構造をしている。だからこそ教会から自宅への扉を用意したのだ。
大魔導師は――たまに屋敷に来ては飲み食いして、どこからか持ってくる詳細不明のアーティファクトを土産に持ってくる。十中八九、ろくでもない物だったが……。
部屋の扉がノックされる。エヌラスは身体を起こして扉の横に立ち、背中を壁に預けた。
『……エヌラス、起きてる?』
「……ノワールか」
『その、いいかしら』
エヌラスは改めて自分のしている間抜けさに気づいて深く溜め息を吐く。ゆっくりドアを開けると、ノワールが寝間着で立っていた。
「起きてたなら電気くらい点けなさいよ」
「……癖でな」
ノワールを部屋に入れて、静かにドアを閉める。
「昔、ベルボーイが来たのかとノックに応じたら扉越しにショットガン撃たれて死にかけた」
「九龍アマルガムは物騒過ぎるわ……」
「身を持って知ってるし、学んだ。赤の他人が一番怖いってな。どんなバケモノよりもな。何も知らない隣人がナイフ持って飛び出してくる。銃を頭に突きつけて引き金を引いてくる。生きる為に持ってるかもしれない金を狙ってな」
「……暗い話ね」
「地下帝国だからな」
「冗談じゃないわよ」
エヌラスはベッドに腰掛けて、そのまま仰向けに倒れて深く息を吐き出す。時々、月明かりすら眩しいと思う時がある。朝も昼も夜も、一日中真っ暗な闇の中。街を照らすのは人々の生活の営みだけ。――九龍アマルガムは、懐かしかった。あそこは自分が生まれた場所によく似ている。
「――エヌラス?」
「なんだ……」
人々の温もりを。
人々の灯りを遥か遠くから眺めていた。それが、愛おしいと思った。羨ましいとも。人の生きる世界を星の瞬く夜空のように眺める。
「……何考えてるの」
「昔と――今までのこと」
「話してくれる?」
「どうしてだ」
「私はアナタのことを知りたいの。それじゃダメかしら」
覆いかぶさるようにノワールが顔を覗き込んでいた。
「……今になって、なんでだよ」
「今だからよ……ずっと戦ってばかりで、エヌラスは入院したりして、落ち着いて話をしている暇もなかったじゃない」
「話すことが多すぎて、どれから言えばいいか分からねぇな」
思えば、ノワール達には何一つ肝心な事を言っていない。ひたむきに過去を隠してきた。口にしなかった気がする。頬に手を添えて、撫でる。髪を手櫛で梳かす。それだけで胸が満たされた。
「ゆっくりでいいわ。ちゃんと順序立てて話してくれたら聞いてあげる」
「今夜はやけに優しいな。いつもはツンツンしてるのに」
「……ネプテューヌ達に言われたからね。「今夜はエヌラス独り占めしていいよ」って」
「俺の意思完全に無視かよ……!」
「だから、今夜は私が慰めてあげる。いっつもイジられてるし」
――失うものなど、なにもないと思っていた。妹を奪われ、恋人を奪われ、恩師を失い、救いなどこの世界には無いのだと。何も失うものなど無い。だから、何が起きてもどうでもよかった。そのはずだった。だが、今は違う。
「ノワール……」
名前を呼んで、指を絡ませて、深く繋がった身体を重ねるだけでノワールが跳ねた。
「んぅ! はっ、あっ! エヌラス……!」
目尻には涙を浮かべて微笑む顔に、自分ではどうしようもない感情が湧き上がる。なんと言えばいいのか分からない感情。きっと、無くしてしまったものだ。失った感情が胸を満たす。空洞を満たす充実感は、失ってから久しい。
「熱いな、お前の中」
「ひぅ!? そんなコト……言わないでぇ」
「本当のことだからいいだろ」
「そんなこと言ったら、アナタのだって……こんなに硬くして、熱いじゃない……!」
「そんな締めつけるな……! 出る……」
深く繋がった陰部同士がノワールの愛液で熱く濡れていた。まだ受け入れるのに慣れていない秘部は程良い締りでエヌラスの射精を促す。それだけでも我慢できそうにない。お互いに身体を重ねて、裸で抱き合うだけでエヌラスはノワールの子宮にまで精液を注ぎ込む。
「ハァ……あぁ……ん……出てる」
「だから、言ったろ……出るって……」
ぬるりと秘部から引き出すと、白く染まった陰茎をティッシュで拭き取る。それを見ていたノワールが小さく声を漏らした。
「あ……勿体無いわね」
「下だけじゃ足りなかったか?」
「それ、アナタの方じゃないの。そんなに勃てて」
「こればかりは俺も困ってる……」
「性欲旺盛というか、絶倫というか……満足するまで付き合ったら身体が持たなそうね」
「だから相手にペースを合わせてるんだよ」
「………………」
ノワールの視線が陰茎に集中している。ツバを飲み込む音が聞こえてきた。
「……その、あのね……エヌラス」
「ん?」
「私……アナタとするの、二回目じゃない」
「ああ、そうだな」
「それで、その……ネプテューヌやプルルートばっかりだったみたいだし……私だけ不公平だと思うのよ」
「……それは、そのー……なんだ。つまりは」
今までの穴埋めをしろと? それはそれで素晴らしく魅力的な提案だ。――提案なのだが、断る理由もないのだが、エヌラスはなにか引っかかった。なんだか、少しノワールらしくない。
「ノワール、どうしたんだ」
「な、なによ……?」
「お前らしくもない、と。ちょっと思ってな」
「アナタの思ってる私ってどんな感じなのよ」
「勝ち気で一生懸命、真面目でツンデレ。自分のことを大切にするのだとばかり思ってたが――」
「……ないの……」
「……ノワール?」
「悲しく、ないの……?」
「悲しいさ。辛いに決まってるだろ。何度味わっても慣れないな」
それでも立ち止まってる暇も、泣いている暇もなかった。きっと、自分は涙を流すことはこの先ないのだろう。エヌラスは、自分の中から何かがゴッソリと抜け落ちていることに気づいた。
失うものが多すぎた。失うことに慣れすぎた。妹も、恋人も。奪うことに慣れすぎて、奪われた時にどうしたらいいのかも分からない。――ただただ、純粋な怒りだけが残った。