超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「……慣れたくないけどな」
エヌラスはそう付け加えて、ノワールに身体を預ける。何も言わず、ただ頭を抱きしめて撫でていた。
「アナタは真面目に考え過ぎなのよ。ネプテューヌくらいに気楽になれとは言わないわ」
「あそこまでいくと逆に清々しいな」
「シリアスも度が過ぎると呆れられるわよ」
「む……」
一理ある。
「ノワール、俺のことどう思ってるんだ」
「へ? 突然、なによ……」
「いや、まぁ……一応聞いておきたかった」
「……好きよ」
「……ありがとな。俺もだ」
「じゃあ、私達の中で誰が一番好き? 全員、ていう答えは無しよ」
「マジかよ……」
「曖昧な答えより、ハッキリ言った方が男らしいわよ?」
「ふむ……」
誰が一番、とまで考えてはいなかった。ノワールと抱き合いながらエヌラスは考える。
「……お前以外選んだらロリコン確定じゃね?」
「そういうのいいから」
「あー……そういうことなら、プルルート」
「…………」
「なんか言いたげだな」
「ちゃんと理由も添えて」
ヤキモチを妬いているのか、少しだけ不機嫌そうに言った。
「そうだな……やっぱり、なんだかんだ言って放っておけないんだよな。それにかわいいし、抱きやすいし。まぁ、変身後はちょっとアレだが……嫌いじゃない」
人のことは言えないのでそこはごまかしておく。
「と言っても、別に誰が嫌いとかは無いからな。正直、お前か迷った」
「そ、そうなの? どうして?」
「髪色とか似てるからだ。親近感湧いてな。名前も黒いし。スタイルいいし……髪、綺麗だしな」
指で掬いあげて、サラサラと垂らす。ノワールの顔色は胸板に埋められて分からない。
「い、いいから。もう言わなくていいからぁ……」
「そうか? 照れてるお前は可愛いぞ」
「う、うぅぅぅ~…………もう!」
突然起き上がり、エヌラスの上に跨ったノワールの身体が光に包まれる。そこには変身してブラックハートとなった白髪の美女がいた。
「お、おい。なんで変身した!?」
「そうやって人のことまで褒めて、言い逃れしようったってそうはいかないわよ。プルルートが一番好きなら好きでいいじゃない。でも絶対に私が一番になるんだから」
「だからと言ってこれは反則じゃねぇかな……」
「なにか言った?」
ぐりぐりと擦りつけてくる秘部からは熱い愛液が精液と混ざり合ってエヌラスの陰茎を濡らしていく。その柔らかく、熱い刺激だけでいきり勃つ息子には呆れを通り越した怒りすら湧かない。むしろ憐憫の情すら湧き上がる。「どうしてそう我慢できないのか」と聞いてやりたいが「男ですから」と言わんばかりに硬くなるモノにブラックハートが得意げな笑みを浮かべた。
「ふふん。口はそうでも体は素直ね」
「それ、俺が言うべき台詞だと思うんだけどな」
「今夜は寝かさないわよ」
「おま言う」
唇に指を当てて、小首を傾げるブラックハートの目は優しかった。子供をあやすような、そんな慈愛に満ちた瞳。
「言ったでしょ、慰めてあげるって。だから私に任せなさいよ。コレくらいしか、できないけど」
言いながら秘部に陰茎をあてがい、飲み込み始める。ゆっくりと奥まで挿入して固い感触に触れた。そこが子宮なのだと分かった。
そこで、やっと傷ついた自分を慰める為にノワールが身体を張っているのだとエヌラスは理解する。腰を持ち上げて、落とす。それだけで耐え難い快感に襲われた。まだ少しぎこちない動きで何度も腰を振る。
「不器用なヤツだなお前も」
「なに、よ。何か、文句でもあるの?」
何もない。何も言えない。言えるはずがなかった。ただひたすらに愛おしいと思っている。
「どうしたのよ、泣いたりして」
「え?」
ブラックハートの指が触れた目尻からは、どうしてか涙が流れていた。自分でも分からない。どうしてこんなにも涙が溢れてくるのか。
「なんでだろうな」
「嫌だった?」
「嫌なはずないだろ――嬉しいんだ」
嬉しくて涙が出てくるなんて、初めてだった。愛されるのも、愛するのも初めてではないのに。
忘れて久しい感情に、エヌラスは笑った。それを意外そうに見ていたブラックハートが突然持ち上がる腰に驚いていた。
「動き、止まってるぞ」
「だって、アナタが笑うの……初めて見た気がするから」
「そうか?」
「そう、よ。あん!」
「……ノワール」
頬に手を添えて、名前を呼んで。心に誓う。心の底から、誓った。誰にでもなく。
必ず守り抜く。誰が相手でも。最後は笑ってお別れをしようと。その為にならこの生命を燃やし尽くしてもいい。
「今夜は寝かさないからな」
「それ、私の――うそ、ちょっと……止め――こんな格好……恥ずかし……っ!」
「丸見えだしな」
「言わない、でよぉ……!」
体位を変えて、ブラックハートを四つん這いにする。それだけでも耐え切れないとでも言いたげに顔を真赤にする。だが、それでは完全に無防備になって攻めてくれと言わんばかりだ。エヌラスは腰を掴んで奥まで何度も突いた。その度に締め付けてくるブラックハートの膣のヒダが亀頭を擦って腰が抜けそうな快楽に襲われる。
「や、だぁ……! ダメぇ! 私が、するのぉ!」
「ノワール、そろそろいいか……?」
「え、もう……? あっ」
「っ――、お前がそんな声出すから……我慢出来ないだろ……!」
「ふぅ、あ……んぅぅぅぅぅッ!」
半ば不意打ちに近い形で精液を受け止めて、ブラックハートが力なくベッドに身体を伏せた。息を荒くして、責めるような視線で唇を尖らせる。
「ハァ……ハァ、ハァ……むぅ~もう、イジワルするんだから……」
「悪い……」
引き抜くと、仰向けになってエヌラスの首に手を回す。そのまま抱き寄せて、火照った身体を重ね合わせる。
「謝らないでよ。私が悪いみたいじゃない」
「いや、お前が悪いわけじゃ……」
「冗談よ」
「このヤロ……! そういうこと言う女神は、お仕置きだ」
「あっ――――」
――翌朝。
白んできた外の風景に、エヌラスは朝からシャワーを浴びてリビングに入る。まだ誰も起きていないようなので、その間に外の空気を吸い込む。空を見上げれば輪郭が昨夜に比べて大きくなった月が迫っていた。忘れそうになるが、現在進行形で世界の危機が迫っているのだ。二重の意味で。
月光城。神格者、ムルフェストの教会兼居城がある月。シェアエネルギーを使って落とした、と言っていたが――本当に後先考えていない行動には頭を痛める。基本的に昼間は寝て過ごし、夜は気の向くままに動く。自由奔放な吸血姫。だが、その天敵とも言える機人――機械人類達は全滅した。無尽蔵の絶望を道連れにして。
アルシュベイトは、それが目的だった。異世界との邂逅に望んだのは絶望を打ち砕く手段。だが本当はそんなことを望んでいなかったのかもしれない。無尽蔵の絶望、ヌルズ。アゴウを侵す無限の侵略者――思えば、アレを倒すのに異世界の助けはいらなかったはずだ。
“なぁ、アルシュベイト……本当は、あの場でお前だけは……お前だけが望んでいたんじゃないのか……世界の終わりを”
しかし、次元連結装置の起動失敗は既に予期されたものだった。シェアエネルギーを束ねてキンジ塔を喚び出し、装置を設置して――その起動の為に先を急ぐ自分の前に現れたのはクロックサイコ。一も二もなく交戦した去り際に残した言葉。
『次元連結装置は失敗する』
そんなはずはないと切り捨てた。だが、それに続く言葉が背筋を悪寒で貫いた。
『大魔導師がそれを赦すと思うかい? ――じゃあ、急いだ方がいいヨォ! 手遅れになる前に、サ☆』
殺した――。大魔導師は、死んだのだ。心臓に剣を突き立てたのは他でもない自分だ。なのに今でも心の何処かでまだ生きているのではないかと勘ぐってしまう。邪神ですらも畏怖したその存在はかつてのアダルトゲイムギョウ界において先代アゴウの守護女神と肩を並べていた。
エヌラスは思う。アゴウがヌルズの侵略を受け、先代アゴウの守護女神が成せなかった事をアルシュベイトは引き継いだ。そして、成し遂げたのだ。ならば自分は、九龍アマルガムを奪った自分は何をすべきなのだろうかと。
ユノスダスの通りで腰を下ろし、ボーっと人の少ない早朝の町並みを眺める。答えはまだ出ていない。
ネプテューヌ達と出会い、そして別れの時が近づいている。それは、そう遠くない話だ。
今更ながらに別れを惜しむ自分がいることにエヌラスは呆然とする。そんな感傷的な自分は似合わないというのに。彼女達と別れるのがこんなにも辛い。胸が締め付けられる思いだった。
独りだった。戦う時も、寝る時も食う時も、何をする時でも。ずっと、孤独だったのだ――慣れてしまってからは苦にもならない。そのはずなのに、やかましいと思っていた頃の自分は、もうそこにはいなかった。今はただ、ひたすらに彼女達が愛おしい。
「おや、こんな朝早くに珍しいのに会った」
目を向ければ、そこにはジャージ姿の初老の男性。シワの刻まれた顔に笑みを浮かべていた。ノワールのバイト先の喫茶店、そのオーナーであり九龍アマルガムに存在する人狼局の生きる伝説。
「シルヴィオの爺さん」
「ハッハ、オーナーと呼べ小僧。こんなところで日向ぼっこという歳でもあるまい?」
「アンタだってそうだろ? いま幾つだよ」
「数えるのも億劫になったわい」
ふがふが、と冗談めいて言いながら伝説のヴァンパイアハンターはエヌラスの隣に腰を下ろした。毎朝欠かさずランニングしているらしい。身体に悪いぞと忠告すると、そんなヤワな肺活量をしていないと笑った。
「して、どうした? 以前ここに座り込んでいた時は頭を抱えていたが」
「思い出させないでくれ……」
ユノスダスに初めて来た頃。紹介される仕事のあまりの多さに嫌気が差して全力で逃げようと考えていた。その理由というのも、エヌラスが大魔導師とちょっとした好みの違いで大げんかをしたからである。
『冷やしたぬきは人類の食べ物じゃねぇぞこの糞馬鹿ナメクジみじんこ!!』
『なめくじなのかみじんこなのかどっちかにしやがれ!』
『うっせ! そんなものを頼もうとする貴様は破門どころか瀕死にしてくれる!』
『冗談じゃねぇ!』
……今にして思えば。非常にくだらないことで店一軒どころか数少ない九龍アマルガムの安全地帯である食堂通りを壊滅させてしまったものである。今は完全リニューアルで通常営業している。
ユノスダスに来たのは――本当に偶然だった。九龍アマルガム以外の世界を知らなかった自分が、初めて立ち寄った他の国。そして、ユウコに出会ってしまった。お互い第一印象は最悪。
『あっぶねぇなお前! フライパンは武器じゃねぇよ!?』
『うるさいよ、この顔面どころか風貌犯罪者!』
『とんでもねぇ冤罪じゃねぇか!!!』
『ほらー、お嬢ちゃん。お姉さんが怖いお兄さんどうにかしちゃうから離れてママのところに行こうねー? え、迷子? もしや誘拐犯!? 成敗!』
『なんだよテメェはぁぁぁぁ!?』
――うん、思い出すべきではなかった。エヌラスは頭を抱える。