超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「なんかもう、全て投げ出して逃げたい……」
「あの日と同じ事を言っておるな……」
それでも、だが、なぜかは分からない。ユノスダスに来る都度、顔を合わせる度に喧嘩して、嫌だの何だのと愚痴を言いながらも結局はお互いに会ってしまう。インタースカイに行く途中でも、アゴウに行く寄り道でも、居心地がいいのだ。ユウコの傍は、その隣にいるのは。神格者であり同時に国王と聞いた時は度肝を抜かれたが。
神に値する力で何を願うのか。そう尋ねた。
『私が願うのはただひとつ――! 世界が平和でありますように!』
『ハッ、ありえねぇ。九龍アマルガム来たことあんのかお前』
『誰が行くかあんな犯罪国家! スラムダンクシュートの掃き溜め! ゴミ!』
『お前仮にも最強の大魔導師の国をスゲェ言いようだな……』
『ハッハァン! 何が最強だ! ゼニ持ってる奴が偉いんじゃい!』
冗談だと思っていたが、あながちそれは嘘ではなかった。現にユノスダスは平和なのだから。不思議な事に、ユウコを前にするとアルシュベイトもドラグレイスも、あの大魔導師でさえ頭が上がらなかった。
「だが、あの日と違うのは……そうだな。お前さんの顔か」
「え?」
「今はとても幸せそうだ」
「…………」
“幸せ”という言葉の意味が、よく分からない。運がいいとか、幸福だとか。実感が湧かなかった。
「そう、なのか……?」
「この歳になるとな、人生の酸いも甘いも噛み締めた分、他人の幸不幸に目聡くなるものだ」
「俺は、幸せなのか……」
「ハッハッハ、絶世の美少女たちを引き連れて何を贅沢言うか。世が世なら世界中の男を敵に回しているところだ」
「んじゃ、男らしくまとめてかかってこいって言えばいいか? 大体、言うほど良いものでもないんだぜ。ネプテューヌはやかましいし、無駄に元気だし。いやマジでなんであんな元気なのか分からねぇくらい元気有り余ってるし。ネプギアは真面目過ぎてなんかちょっとイジメたくなるし、あれはあれで結構意外にスタイルいいし、機械の事になると周り見えなくなるのは玉に瑕だが……ノワールは口うるさいところもあるけど一番まともだしな。あれもあれで結構苦労してるみたいだ。俺みたいに。プルルートだって、変身前も変身後も振り回されっぱなしだ」
「朝からノロケ話を聞かされる老骨に身にもなれ」
「知るかよ。大体、惚気けてねぇよ」
「やれやれ……自分では気づいていないのが尚更……」
「?」
重い溜息を吐いて、オーナーは言う。
「戦禍の破壊神と呼ばれ、畏れられるお前さんがそれだけ他人を語るということは、つまり、そういうことだ。口に出せるほど身近な存在だと何故気づかん」
「――――」
「もう少し、自分と話をすることだな、青二才。では私はランニングの途中でな。まだ後半が残っとる」
「何キロ走るんだよ……」
「ん? 街をぐるりと一周だが?」
朗らかに笑って走り去る背中が小さくなっていく。それが完全に見えなくなってからエヌラスは呟いた。
「……バケモンかよ」
しかもこの早朝から走って、昼頃には店の準備を済ませている。どんな脚力をしているのだろう――とはいえ、人狼局の伝説と呼ばれる御仁。常識の範疇外が常識なのだろう。そうだと納得しなければエヌラスは九龍アマルガム国王であるという職責に耐えられそうになかった。バケモノ勢揃い過ぎて泣き出したくなる。むしろ国王不在でよくね? そんな事を思いながら、帰路に着いた。
宿に戻ってきてからリビングに入ると、ネプテューヌ達が寝ぼけ眼を擦ってだらけている。朝食の用意すらしていなかった。
「おはよ~エヌラス……」
「お、おう……どうしたお前ら。そんなに眠そうにして」
『…………』
ネプギア、プルルートからの視線が痛い。ノワールはまだ寝ているのかリビングには来ていなかった。責めるような視線にエヌラスは苦笑いを浮かべる。
「えっとさぁ、エヌラス……一晩中あんなギシギシアンアンされてたらわたし達、全然眠れないのは当然だよねぇ……」
ネプテューヌが恨めしく欠伸をもらした。
「そうだよぉ~。ノワールちゃんの声、かわいくって我慢するの大変だったんだから~」
「そ、そうですよ……しかも、外が明るくなるまで……あ、あんなの激しすぎます!」
「えぇぇ……そこかよ……いや、まぁその……悪かった」
とりあえず謝っておく。というよりも、なぜずっと聞いていたのか――いや、聞こえていたということが問題だった。もしかすると宿屋自体が防音性に問題を抱えているのかもしれない。と、思ったのだがよく考えて見れば外に声が漏れていたわけではないので防音性については問題なさそうだ。あのユウコがまさかそんなずさんな宿の設計をするはずがない。
「ノワールが、あー……なんだ。色々溜まってた……みたいだったからな? それに付き合ったらその、あんな時間になっちまった」
「なんとなくわかるんだけどさー、エヌラス。あんなにして大丈夫だったの。出しすぎは命に関わるよ?」
「ん、あぁ、問題ない。そのための銀鍵守護器官だ」
サムズアップで応えるエヌラスにネプテューヌがガバッと顔を上げた。その表情は輝いている。
「じゃあエヌラス! 薄い本の「オラ!孕め!俺の子を孕め!」とかそういう種付けおじさ――」
「宿の中でレイジングブルをぶっぱなせない憤った俺の拳が怒りで唸るパーンチ!」
「ねっぷぁぁぁぁぁぁごめんなばいッ!?」
パンチと言っておきながら実際はアイアンクローである。魔術により強化されたエヌラスの右手がネプテューヌの頭をしっかりとロックしていた。そこに力を込めればこめかみから無惨な姿へと早変わりするであろう。具体的には潰れたトマトのように。
「それでー、今日はどうするの~?」
「ふむ……」
「とりあえずー、わたしの頭から手を離してくれると好感度上がるよー」
「お前の頭握りつぶさないとイベントCGが埋まらないんだ、許せ。回収したらリセットするから。な?」
「なにそのロマンのないゲーム攻略方法! 駄目だよエヌラスそういうの!」
「うるせぇ! 何度同じ選択肢を繰り返せばいいんだよ! ゲームは何も答えちゃくれないんだからな!」
「クリアするまでだよ――って微妙に力入れてない!?」
「チッ、気づきやがったか……」
さりげなく恐ろしい事を呟くエヌラスは、離した手でネプテューヌの寝癖を直す。だが、髪がまた跳ねたので同じように押さえると。
ぴょん。
「…………」
すっ……ぴょん。
「エヌラス、どうしたの。わたしの髪がそんなに気になる?」
「髪がぴょんぴょんしてるんだよ。気になって仕方ねぇ」
「くすぐったいってばぁ~」
ぴょんぴょん。髪が跳ねる度にエヌラスが手で押さえて、まるでイチャついているような光景にプルルートがぬいぐるみを投げつけた。
「ずるいよ~。ねぷちゃんだけじゃなくてあたしもぉ~!」
「へっ!? いや、別にこれは」
「あ~た~し~も~」
「分かった! 分かったからそのヌイグルミで殴るの止めてくれ! それ本当に綿だよな!? 中身綿なんだよな!? なんかイテェぞ!」
やけに鈍い音を鳴らすぬいぐるみはプルルートお手製である。どうやって作っているのかが気になるが、頬を膨らませてこれ以上機嫌を損ねるのはあまり良くない。エヌラスはプルルートの小さな身体を軽く抱き上げるとそのままソファーに座り込んだ。
「ほら、これでいいのか」
「む~。なでなでしてくれないとやだ~」
「ああ、はいはい」
髪を撫でればすぐに気持ちよさそうに擦り寄ってくる。
「でもどうしたのエヌラス? なんか今日はいつもより甘いよ?」
「そうか?」
「うん。生クリームたっぷりプリン・ア・ラ・モードくらい」
「胸焼けするな……別に大したことじゃねぇよ。お前達との別れが近づいてきてると思うと、少し寂しくてな」