超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
思いの外、口からすんなりと出てきた言葉に後から気恥ずかしさが押し寄せてきた。ごまかすようにプルルートを抱き寄せる。
「あー……なんでもない。いまのは、わすれてくれ……ええいやめろ! 俺をそんな目で見るんじゃねぇ! その哀れむような慈しむような慈悲にあふれた視線をやめろ!」
「だ、だってエヌラス……大丈夫? 頭打ってない? 別人だったりしない? 脳みそ入れ替えられてたりしない?」
「生憎と知り合いに脳みそ瓶詰めにされた覚えはねぇよ! 仮にそんなこと出来る知り合いは言葉の通じないクリーチャーくらいだ」
「クリーチャーって……モンスターと違うんですか?」
「九龍アマルガムにいるのは
少なくともそれは現地住民を含めて。一部の国民はそんな領域に収まらないが。
「まぁ、とにかく今日の予定を立てるか……」
「たまにはぁのんびり遊びたいな~」
「というプルルートの予定により今日は一日遊ぶか」
「そんなのでいいんですか!?」
正直、まったくよろしくない。こんな状態で遊びに夢中になれるほど豪胆でもない。
「まぁ、気を緩めるってわけにもいかんし……正直、厄介なのはドラグレイスだからな」
「ムルフェストは?」
「その気になれば弾丸一発で殺せる」
「え、そうなの? でも吸血姫……」
「吸血鬼跋扈してる街で対策練ってないわけないだろ? とは言っても、六発限りだ」
当たれば死ぬ。間違いなく、一発で殺せる。問題は「当てられる相手」ではないということだ。
「ちなみに今までで四発使った」
「残り二発!?」
「四発中三発は師匠の作った吸血鬼紛いの合成獣相手だった……」
素材、吸血鬼。その他クリーチャー。出来上がったのは――アサイラムの幹部半数を導入して互角に渡り合うこと五分。体組織耐久力にクリーチャー部分が耐え切れずに自壊した、までは良かった。だがその直後にクリーチャー部位が再生して変異。結果、三時間に及ぶ戦闘。九龍アマルガムの三区画を生活危険領域にまで陥れた。一匹相手にである。合計四匹。半日に及んだ戦闘行為によって被害は大魔導師が頭を抱えるレベルに収まった。
「じゃあ残り一発はどうしたんですか?」
「ムルフェスト相手に撃った。ところが、あの野郎うまく避けやがってな。正直、無駄弾だった」
それが何故なのかは言うまい。全ての神格者を同時に相手して能力を失っただけで済んだだけでも奇跡的だった。
「でも、どうしてドラグレイスが厄介なの?」
「あの野郎は手段を選ばないから相手するの面倒なんだよ。場合によってはクロックサイコのド外道よりも強敵だ。仮にも傭兵組織を率いる長だからな」
クロックサイコはその冗談じみた不死性と卓越した戦闘技術で正面から挑んでくるが、ドラグレイスだけは違う。不意打ち、闇討ち、騙し討ち、なんでもありだ。勝つためならば手段は選ばないところがある。最悪、ユノスダス諸共に狙ってくる可能性もあるが現時点ではその様子はない。ユウコとの一方的な契約破棄は恐らくキンジ塔に誰よりも先に到着する為だろう。捜索に向かっているであろうが、目的は不明だ。
キンジ塔だけでは、意味が無い。それはドラグレイスも知っているはずだ――自分以上に。
「俺が九龍アマルガムの自宅に逃げ込むまで執拗に追ってきたのはあの野郎だけだった。途中で山を爆破してでも殺しに来たからな」
「環境破壊待ったなしですか!?」
「俺も人のこと言えねぇけどな……」
「エヌラス、なんか言った?」
「いや、なんも言ってねぇ」
自然が豊富な山岳地帯を丸裸の荒野にしたことがあるとは言わない。ちなみにそこはユノスダスが指定した森林保護地区であり、ユウコに滅茶苦茶怒鳴られた。
「ムルフェストは対策があるからまだマシだ。クロックサイコのブサイク野郎も手段は選ばず必ず殺す。問題はドラグレイスだ。アイツだけは、どうにも苦手でな……」
そこに、敢えてユウコの名前を挙げなかったことを言及する者はいない。
「だから、目下の障害はドラグレイスただ一人ってわけだ。アイツだけは何をするかわからねぇ」
「でも行方不明なんでしょ?」
「キンジ塔を探してるとは思うが、気が早いことで。そのまま崩壊に巻き込まれて死んでりゃ御の字だ」
プルルートの頭を撫でながらエヌラスは皮肉じみた笑みを浮かべる。まぁ、そんな間の抜けた死に方はしないだろうが。
「飯にしよう。さすがに腹減った」
「たまにはエヌラスのご飯、食べたいなぁ~」
「俺の料理スキルは正直言うが壊滅的だぞ」
「エヌラス、何か作れないの?」
「……うーん。焼き肉か」
「朝から食う料理じゃないよねそれ!?」
「それぐらいしか作れねぇんだよ! 刻んで焼くだけだからな!」
「め、目玉焼きくらいは……」
「焦がす」
「えーと、じゃあ卵焼きは……」
「……まず、俺は卵が割れない」
「うわぁ……」
卵を割ろうものなら殻ごと粉砕する。殻を取ろうものなら異物混入溶き卵が出来上がり、隣で見ていたユウコが泣きそうな顔をしていた苦い記憶。
「焼き肉でもいいじゃねぇか! 切って焼くだけだからな」
「朝から重すぎるよぉ……」
「もうちょっと軽い料理を」
「……俺に作らせるのだけは、マジでやめてくれ。ノワール起こしてくる」
こうなれば作れる人間を台所に立たせる以外に選択肢がない。プルルートも今は料理する気分ではないのか、うつらうつらと頭を揺らしていた。
「すぅ……」
「おい、プルルート? もしもーし」
「むにゃ~……」
「寝ちゃったよ、おい」
寝息を立て始めるプルルートを下ろそうにも、しっかりと服を掴んで眠っている。仕方なくエヌラスは抱えたままノワールを起こしに階段を昇った。ネプテューヌとネプギアはソファーに座ってだれている。
念のためドアをノックして、中から返事がないことを確認してから入室するとノワールがシーツ一枚を羽織ってまだ寝ていた。夜通し抱いた白い肌が朝日を浴びて艶やかに映る。
ベッドに腰を下ろすと、ノワールが薄く目を開けて微睡んでいた。髪を撫でると気持ちよさそうに寝息を立てる。
「……エヌラス」
「もう朝だぞ、ノワール」
「んー……身体が重いわ……」
「大丈夫か?」
「誰のせいだと思ってるの……」
「十中八九驚きの十割、俺」
ノワールが唇を尖らせて睨んでくるが、枕に頭を埋めるとシーツを掴んで身体を隠しながら上体を起こした。
「もう、まさか本当に朝までするとは思わなかったわ」
「誘ったのはそっちだろ」
「~~~~!」
思い出したのか、みるみる耳まで紅潮していく。エヌラスの肩に頭を預けて深い溜め息をひとつ。ゴミ箱をチラリと見れば丸めたティッシュが山のよう。
「シャワー浴びたいわ」
「行ってくりゃいいだろ」
「……そこに居られると着替えられないんだけど」
「いいだろ」
「よくないわよ! ほら、早く出てって」
「分からん……なんでだ」
裸を見せた仲なのだから着替えくらい見てもいいと思うのだが、何故かノワールはそれが嫌らしい。女心はやはりよく分からない――エヌラスは部屋を出ると、リビングでネプテューヌ達同様に朝食を待った。