超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
朝食を摂ってからいつものように街でクエストを受けようとして、にわかに騒がしい。毎度のことだとは思うが、人だかりが気になって近づくものの、背の低いネプテューヌ達はよく見えないのかジャンプしたり背伸びしようとしているが見えないようだ。
「エヌラス、おんぶして」
「却下」
「お姫様だっこ~」
「却下ぁ!」
「じゃあ肩車!」
「地獄行きで良けりゃやってやろうか」
「素直にしてくれてもいいじゃん!」
冗談を挟みながらネプテューヌを肩車で担ぎ上げると「おー」と言葉を漏らしている。エヌラス自身、背丈はあるものの人だかりに阻まれてその中心がよく見えていなかった。
「で、なにが見える?」
「うーんとね。人混みかな!」
「このまま倒れるぞテメェ」
「やめて! 打ち所悪かったら記憶喪失でラブコメ展開待ったなしだよ!」
「そんときゃ洗脳してやる、心配すんな」
「不安要素しかないってば!」
「どうして、こう口を開けば漫才なのよアナタ達……」
呆れるノワールをよそに、ネプテューヌが人だかりの中心に目を凝らす。
「うんとねー、なんか大道芸? みたいなのやってるみたい」
「そんなん飽きるほどやってるだろ。具体的には」
「んー……多分だけど、人形劇みたいなのかな」
「そりゃ珍しいな。今時」
「なんかー……メイドっぽいよ」
「はは、何の冗談だ」
「マジマジ。ほら、エヌラスも見ればいいよ」
「飛べと?」
しかしメイドで人形劇とはまた酔狂なことをする芸達者もいるものだ。客引きの為にメイド服を着用しているのだとは思うが、それにしても狙い過ぎではなかろうか。エヌラスがどんな神経でそんなことをしているのだろうかと思った直後、ネプテューヌと大道芸をしていたメイドと目が合った。
「あ」
「どうした?」
「目が合ったけど……もしかしてあの二人」
「二人?」
メイドで二人組で大道芸? ますます正気の沙汰を疑う。いくらなんでも訳が分からない。エヌラスはネプテューヌを下ろした。
「いくら見えないからって冗談が過ぎるぞネプテューヌ」
「もー、冗談でも嘘でもなくてまるっとマジなんだってヴぁー!」
「大体そんなことするメイドなんてどっからどう考えても頭おかしいだろうが! 仮に職業メイドじゃなくても神経疑うわ! そうだとしたら何してんだと聞いてやりたいわ!」
「ごぉーーーーーー主人様ぁああああああーーーーー!!!」
人混みから影が飛び出してきた。正確には、飛び越えてきた。エヌラスは咄嗟に防衛本能が働いてハイキックで受け止め「ぐぇッ!?」続いて上段回し蹴りを二段、重ねた「はぐっあぐぉ!?」トドメと言わんばかりに蹴りあげて「はふん!?」足に紫電を纏わせた回し蹴りがメイドを大きく吹き飛ばして人混みの中心地まで叩き戻した。
「しまった、つい癖で蹴り返しちまった!」
「今の声……」
「もしかしてぇ」
「カルネさん?」
通常のモンスターなら即死級の連撃を受けても平然と起き上がる最高傑作のポンコツ、その片割れであるカルネが飛び起きた。パンツは赤のレース。見られても平然としている。
「イッタイじゃないですかエヌラス様!」
「うっせぇ! 神経通ってねぇだろ!」
「でもゲームやってる時にダメージ食らったら「痛い」って言いません?」
「言うな」
「ゲーム感覚なんだ!?」
案の定、自分が作ったメイドだったことに精神的ダメージを若干負いつつ、エヌラスは人混みをかき分けながらカルネの傍へと歩み寄る。その隣には、やはり居た。
無数の鋼糸を巧みに操りながら大量のデッサン人形で演劇を舞わせていたスピカが造物主を前にして深く頭を下げる。
「探しておりました、エヌラス様。朝も早くから【自主規制】な内容でこってり濃厚【バキューン】をいたいけな少女たちに与えて」
「ここがユノスダスじゃなけりゃあシャイニング・インパクトもんだぞテメェ」
「ユノスダスだったら?」
「こうするんだアホタレがぁぁぁぁぁぁ!!!」
神性の炎熱を込めた拳で顔を殴られたスピカが名前通りの星となって強制国外退去となった。
「で? なんの用だ最高傑作のポンコツ共」
「はぇー……スピカお星様になってる……へ? え、ああ。ご用件ですね! 実は九龍アマルガムが今ヤバイんですよ!」
「どれぐらいヤバイかジェスチャーで頼む」
「えーっと、えーっと! と、とにかくなんかもうスゴイパネェでスモイことになっていてヤバイんですよ!」
「もういい、具体的に説明しろ」
「初めからそれでいいじゃないですかーやだー!」
言われてみれば確かに、なんかヤバイことが色々起きている国ではあるが――内政は最低限しかやってこなかっただけにえらいことになっていそうではある。それでもアサイラムと人狼局が動いているだけまだマシだ。
「対悪魔憑き専門のX-AT聖騎士が違法生産されていて、それでデモンスレイブユニットが奪還されて、街中にエーテルが溢れて怨霊警報が勧告、更には壊滅した緑竜会のメンバーが復興を目指して国中でクスリばらまいててとにかくもう大惨事大戦なんですってばー! どうしてこんなになるまで放っておいたんですかご主人様!」
「知るか」
「三文字!?」
とにかく国家滅亡レベルの危機が迫っているようだが、エヌラスはなんとわずか三文字で片付けた。
「世界が滅ぼうとしてる一週間前に国一つ滅んでも知ったこっちゃねぇ」
「最低」
「最悪ね」
「流石に責任取りましょうよ……」
「ダメだよ~。めっ」
「いや、だってなぁ……俺、九龍アマルガム帰る気ねぇし。誰も困ら――」
「私が! 困るんだよぉーーーー!!」
「おぶぎゃ!?」
どこからともなく飛んできたユウコによってエヌラスが潰れた。その後を追うようにしてムルフェストも寝ぼけ眼を擦って着地する。
「街のど真ん中らへんで許可もなく無断で大道芸で大儲けした挙句交通機関麻痺させている二人組のメイドがいると聞いて飛んできました、ユウコです!」
「ユウコにボコボコにされた方の吸血姫、ムルフェストです!」
ふたりはヴァンパイア!
「はい責任問題! そこの二人の稼ぎはボッシュート! 寝てんな起きろエヌラス! はいシャキッと!」
「お前、人のこと踏んでおいて酷くねぇか!?」
「ムルフェスト連れてって国内の騒動を治めるまで帰ってくんな! いいか、今ユノスダスの商売相手は正直もんのすごくご遠慮願いたい犯罪大国家九龍アマルガムしかないんだからな! 商売相手がいなかったらユノスダスはユノスダスとして商業国家の機能を失って自給自足の生活しか出来ないんだからな! 食料自給率は六割で、つまり十人中四人は今日の飯にありつけない! 分かったら行ってこーい!」
「人の命より金勘定かよ!」
しかしユウコは他国の滅亡=自国の崩壊という危機感があるだけまだマシかもしれない。
「どうせすっことないんだろ! じゃあ私の為に頑張れ」
「テメェのためとか死んでもごめんだ」
「じゃあ自分の命の危機だと思って頑張って」
「その返しは新しいな、やべぇ」
包丁を首元に当てられて両手を挙げたエヌラスは深く深く溜め息を吐いた。拒否権はない。ユウコが相手では尚更である。
「カルネ。アサイラムと人狼局はなにしてんだ」
「全戦力を総動員してますけど拮抗状態でっす!」
「しゃあねぇ……行くか。ドラグレイスとキンジ塔探すついでだ、ついで」
せめて今日一日くらいはゆっくりとしていたかった。
「一応、聞くが……手伝う気か?」
「もちろんだよ!」
「そのつもりよ」
「お手伝いさせていただきます」
「ずっと一緒だよぉ~」
「ありがてぇこと。んじゃ、行くか。カルネ、スピカ引きずって来い。ムルフェストも来るんだろ?」
「もちろーん! ぶっちゃけユウコが怖いし……」
「なんか言ったかなームルフェスト」
「なんでもない!」
首を横に振るムルフェストに、ユウコは疑いの眼差しを向けていたが、腕を組む。
「いーい、ムルフェスト。吸血姫だからってあんま調子乗ってると痛い目見るからね。特にエヌラスから」
「俺 か よ!」
「上も下も前も後ろもいいようにされてちょっと人に言えない辱め受けるからね、絶対怒らせないように! 分かった?」
「その上下前後注意報はなんだよ!? なんなんだよ! 俺そんなことしてねぇだろお前に!」
「されてたまるかバカー! 正直あれだけでいっぱいいっぱいだよ!」
「どれだよ!?」
「ど、どどどどどれってそりゃ……もう、その……アレだよ」
「どれだよ……」
「いいから行けー! 逝ってこい!」
「なんか腑に落ちないが仕方ねぇ、殺される前に行くぞ!」
半ば追い出される形でエヌラス達はユノスダスを出て、現在大惨事大戦絶賛勃発中の九龍アマルガムに(非常に嫌々ながら)進路を向けた。