超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
……いや、はっきり物申してしまえば、これだけ万全を期した上で“外す”という事自体あり得ないのだが、起こりえるはずがまったくないのだが。
結果から言ってしまえば、誰がどう見てもそれが外したものだと認識できてしまう以上認めざるを得まい。
バルド・ギアは健在だった。直撃は免れた――と、いうよりは意図してブラッドソウルが外した――とはいえ『超電磁抜刀術・壱式』を食らって左腕と脇腹がまるごと消し飛んでいる。
荷電粒子を圧縮し、その臨界点に到達と同時に抜き放つ抜刀術。その外観から剣撃だと高を括って余裕を見せた相手が抜刀の瞬間には上半身ごと消し炭にしてきた。それこそは必殺だった、現時点でエヌラスが持ちうる最大火力と言っても差し支えない必殺技だったのだ。
よりにもよってそれを外したとあっては痛恨のミスである。そもそも外すはずがない。ところがどっこい
《…………》
「…………」
奇妙な沈黙が流れた。抜刀と同時に解放された荷電粒子のプラズマ砲による“砲撃の爪痕”は、地面を黒く焦がしている。その直線上にあったのはバルド・ギアの左半身。そして生い茂る緑の木々達。――もし、万が一。ここで決着を着けるつもりであったのならばその上体がまるごと消えていたはずだったのだ。背後に控えるネプテューヌの頭ごと。
《なぜ、外した……?》
「手元が狂ったんだよ!」
半ばやけくそになりながらブラッドソウルはまだ紫電の奔る両腕に自動式拳銃と回転式拳銃を召喚してバルド・ギアを狙う。背中に新たにジェットパックを背負うとすぐさま急上昇して魔弾から回避しようとするが白銀の追尾弾だけは残された右腕の腕部シールドでしっかりと防ぎきる。これ以上の交戦でバルド・ギアに勝機はない。
《やはり、貴様は危険すぎる……此処は退かせてもらうぞ》
「二度と来んな!」
馬鹿正直な本音だった。それにちょっと傷ついたのか《いや、それは……》と口ごもっている。
「これ以上俺の邪魔するようならマジでスクラップにすっから覚悟しとけ」
銃口を突きつけて警告するブラッドソウルに、バルド・ギアが小さく頷いた。
《だが、私の目的は果たした。貴様がそれだけの強気でいつまでいられるかな》
「…………」
《あと何回、“
「――テェメェェェェェ!!」
それは、本気の絶叫だった。それこそが目的なのは分かりきっていた。だが、誘いに乗るしかなかったのだ。あの場を切り抜けるにはこれしか方法がないのもまた事実である。
激情のままに撃ち出される呪術を込めた弾丸は全て避けられ、防がれた。
《貴様がシェアエネルギーを消費し切ったその時にまた来るぞ、エヌラス!》
全身にクリアー成形された羽根を展開するなりバルド・ギアは光の尾を引いてその場から姿を消した。超加速が可能とする長距離巡航形態。引き出しの多さがバルド・ギアの特徴であり最たる長所である。それをただ見送ることしか出来ないブラッドソウルは憎らしげに青空を睨むばかりだ。
「……けっ、クソが……! セコい真似しやがって」
変神を解いて、ブラッドソウル/エヌラスは首を慣らした。その横を走り抜けてネプテューヌがネプギアとノワールに抱きつく。
「うわぁーん怖かったー! さっきのあれで「もしかして私ごとやっちゃう気!?」とか思って軽く失禁しそうだったよー!」
「お、お姉ちゃん……そういう報告いらないから……」
「そうね、それはそれでドン引きは禁じ得ないわ……」
「だってひどくない!? 私だけ投げられたり下着かわいくないとか批判されたり名前間違えられたりしてるんだよ! これほど主人公の扱いが地上最強の五歳児に出てくるうさぎのぬいぐるみ並の扱いなんだよ!?」
「お前全部気にしてんのかよ!?」
「当たり前でしょ! 乙女心はデリケートゾーン並に丁重に扱ってもらわないと」
「テメェのデリケートゾーンがどうだろうと興味はねぇけどな」
「そこで突き放しちゃうとかちょっと困るよ私!」
何はともあれ、周囲に敵の追撃はないようだ。今のうちに拠点に戻ってしまおうと提案するエヌラスに三人はすんなりと頷いた。
エヌラスが拠点にしているという場所は洞窟だった。元はモンスターが住み着いていたらしいが、今は綺麗さっぱり跡形もない。置いてあるのは毛布に携帯食料とキャンプ用品が数点。身軽さを重視しているのか荷物は邪魔にならない程度の量だ。此処が見つかっていないのはそのせいかもしれない。
「わぁ、殺風景」
「うっせ」
「素直な感想言っただけだよ?」
「俺も思ってんだから言うなよ……」
「まぁそうよね。一人で動いてるなら食料とかも最低限の量で済むわけだから、仕方ないんじゃない」
適当な場所に腰を下ろして、ようやくネプテューヌ達が落ち着いた。その三人を見比べて、エヌラスが顎に手を当てる。それから、残りの携帯食料を見てやれやれとため息を吐いて三人に水を渡した。
「?」
「アナタは?」
「今夜の食料採ってくる。携帯食料だけじゃ足りねぇからな。おとなしく待ってろよ」
そう言うなりその場を後にするエヌラスを見送ったネプギアが顔を赤らめながら手を挙げる。
「ん。どうした、ネプギア?」
「あの……その……落ち着いたらなんだか、トイレに行きたくなっちゃって……」
「……あー…………その、なんだ。スマンがそれについては、人目の付かないところで適当に済ませてくれ……」
「え、ええっ!? も、森の中で!?」
「しょうがねぇだろうが。それとも何か、携帯トイレでも持ってろってか。生憎とそんなもん持ち歩いてねぇんだ」
「う……うぅ~~……!」
羞恥で顔を赤くするネプギア。年端もいかぬ少女には酷な注文だった。
「じゃあじゃあ、今までエヌラスはトイレとかどうしてたの?」
「タレントだってトイレ行くだろ」
「タレント!?」
「そこら辺で済ませてた」
「え、じゃあもしかして野生動物のとかに混じってエヌラスのもあったりするの?」
「お前別にそこ掘り下げることじゃなくねぇ!?」
「まぁしょうがないよね。女神様だってトイレくらいいくもん、楽屋裏とかで」
「楽屋裏……!?」
ボケたりツッコんだりとエヌラスも忙しい。ネプテューヌのペースに飲まれかけていたのを咳払い一つで取り戻すと、ネプギアに掛ける言葉を選んでいた。
「そうそう誰か来るような場所じゃないから、早いところ済ませてこい。拠点で漏らされても困るしな」
「は……はいぃ……ぐすっ」
「……なんか、すまん」
泣かれても困るのはエヌラスだって同じだ。そもそもネプテューヌ達が一方的な迷惑を掛けているのだからこれでもまだ譲歩している方だろう。そもそも誰かを気にかけている暇などないはずだ。
たった一人で戦場の最前線に乗り込んでいるエヌラスの目的が分からないが、少なくともエヌラス自身は外見ほど凶悪な人ではない。残されたネプテューヌがノワールの制止を振り切って拠点の中を調べて回る。
「ちょっと、ネプテューヌ。やめなさいよ」
「えぇ~だってさぁ。こんなとこに男一人だよ? もしかするとお約束で良い子に見せられない本の一冊や二冊くらい見つかるかもしんないじゃん?」
「それ、見つけてどうするつもり? 読むの?」
「うぅん、考えてない!」
悪気はないのだろうが如何せん疲れているノワールも止めるのは口だけで留めていた。