超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
Episode116 国王御一行様移動中
九龍アマルガムへ向けて歩く八人の男女。七:一というちょっとおかしい比率でありながら、誰も特に疑問に思っていなかった。
「そういえばこれってハーレムじゃね?」
……と、言うのはさっきまでの話だったが、誰も何も言わなかった。ネプテューヌがチラリとネプギアを横目で見れば、九龍アマルガムで起きた事件の当事者――エヌラスの妹を惨殺した張本人であるクロックサイコに誘拐された思い出が蘇ったのか、顔色があまり良くない。そんなネプギアの手を繋いで、ネプテューヌは満面の笑みを見せた。
「大丈夫だよ、ネプギア。今度はちゃんと守ってみせるから」
「お姉ちゃん……」
「絶対だよ。いざって時はエヌラスが脱いでなんとかしてくれるから」
「そこに一肌って付け足せよ! 俺が露出狂みてぇになってんだろうが!」
すかさずツッコミが飛んでくる。先頭を歩く黒髪に赤い瞳の見るからに凶悪そうな風貌の青年、エヌラスがコートを翻して段差を飛び降りた。そこめがけて飛び降りるネプテューヌを素早く避けて、最後に降りてきたプルルートを受け止める。
「イッタ~イ! なんでわたしは受け止めてくれないのさ!」
「人の上に飛び降りてくる奴が悪い」
「ぷるるんは受け止めたのに?」
「転けそうだし」
「も~、あたしそこまで間抜けじゃないよ~」
「見てて不安になるんだよ」
プルルートをそっと降ろそうとするが、首に手を回して降りようとしない。それでも降ろそうとすると、頬を膨らませて唇が触れる。やんわりと離れてから嬉しそうに笑った。
「えへへぇ~」
「ご主人様って、結構手の掛かる子が好みですよね」
「そういえばそうでした。本人も生活基盤ガバガバな方ですけれども」
「だからこそロリコン呼ばわりされるんだけどご本人様全否定ですし!」
「そこのポンコツ。ちょっと頭出せ」
ガンッ! ゴンッ! 響き渡る鈍い打撃音。地面に埋まる二人のメイド。素材は自動人形の基本として使用されるものにエヌラスが自宅の工房で手を加えた特別製――ヒヒイロカネ。当然ながら違法であるが知らぬ顔。
「カッテェ!」
そして自分で作った自動人形を殴って拳を痛める間抜けな造物主がここに一人。基礎骨格だけでもトラックに轢かれようが機関銃を撃たれようが傷一つ付かないという代物だけに、その強度は折り紙つきだ。
「なんたってご主人様の特別製、ですし私達」
「その程度では傷一つつきませんわ」
「この二人の強度って一体……」
「骨格はヒヒイロカネ。人工筋肉は特別製超硬度ワイヤーですわ。その気になればコレで敵をなます切りに出来ますし」
そう言いながらスピカが左手の皮膚を取り外し、その中で動く筋肉を見せる。そこに内臓的なグロテスクさはないが、一種の生命に対する冒涜感が溢れて嫌悪感を隠し切れないノワールが眉を寄せた。
「これ、全部エヌラスが手がけたのよね」
「髪の毛一本から足の爪一つ残さず、全部だ。文字通りのハンドメイドってわけだな」
「……こういうので稼いでいけるんじゃない?」
「あくまでも、俺が俺の為に造った俺の為のメイドだから他人の為とか死んでもゴメンだ」
「クズだわ……」
「クズですね」
「クズー!」
「グズグズ言ってるとぶっ放すぞ」
両手に顕現する真紅の自動式拳銃、白銀の回転式拳銃を見てスピカとカルネ、そしてノワールが降参のサイン。
「へ~、凄いなぁエヌラス。こういうの作れちゃうんだもんね」
「そうですね」
「九龍アマルガムじゃ、人間に取って代わる労働力のひとつとして広く扱われてるからな。人形工学は一通り学んだ。人工生命体として人権主張するバカもいるが、どうだか」
「人工生命体かー……いーすん、どうしてるかな」
「いーすん?」
「あ、イストワールさんのことです。過去のプラネテューヌの女神が造った人工生命体。プラネテューヌの教祖を務めてるんです。私はいーすんさんって呼んでます」
「へぇ……会ってみてぇな」
「でも、ここまで大きくないですけど」
スピカとカルネの二人は成人女性相応のサイズをしている。だが、ネプテューヌ達の知っているイストワールは人形のように小さい。
「だったらエヌラスもプラネテューヌに来ればいいんだよ! 歓迎するよー、盛大にね!」
「そうしたいのは山々だが、まずは手前の仕事を片付けねぇとな。仕事も片付けないで遊びほうけてられるか」
「内政放置して大惨事になっている人がなんか言ってるわね……」
耳が痛い。人のことは言えなかった。
そこでふと、エヌラスがムルフェストの姿を探す。振り返れば確かにいたのだが、いつものお気楽さはなりを潜めて静かなのが気にかかった。
「どうした、ムルフェスト。なんか静かだが……」
「うん? いやー、エヌラスってモテるんだなって思ってた!」
「うーむ、あまり自覚はないんだけどな」
「そりゃもうモテモテだよ。男性から殺意抱かれるくらいには」
「いや、殺意抱かれるのは日常茶飯事だし」
「皮肉が通じない……」
常日頃から九龍アマルガムのような狂気に満ち満ち溢れた異常が日常の国で過ごしてもいれば神経が太くもなる。
「しっかし、緑竜会の連中も懲りねぇな。本部ぶっ壊されてそれでもまだ復興しようなんて」
「や、むしろガソリンにニトロぶち込んで火炎放射器ぶっ放したようなご主人様が言う台詞じゃねーですと思ったりします」
「大体どこのバカだよ、対悪魔憑き専門機体ギッたの」
「人狼局の調査によればテロリストとのことです」
「所属は?」
「まだ明らかにされていませんが……反抗勢力に間違いはありませんので、思う存分ぶちころがしてよろしいかと」
「それな」
「なんでエヌラス周りの話ってこんなに物騒なの?」
「お国柄、って奴じゃない? それでも聞いてて明るい話題じゃないわね」
「テロリストとか、私達の世界の比じゃありませんよね……」
「毎日がお祭りで楽しそうだねぇ~」
「プルルートが想像してるお祭りとは程遠いとは思うけどね」
しかし、アサイラムと人狼局を総動員しても拮抗状態とは。一体どんな相手なのか。
「……」
「どしたノワール?」
「略さないでよ。エヌラスは、もうちょっと戦いから離れた方がいいと思っただけよ。平和という言葉を知らないんじゃない?」
「少なくとも俺の知ってる平和はユノスダスだけだ」
そこの滞在期間よりも戦いに明け暮れる方が長い、というのが問題だ。
「この戦いが終わって、アダルトゲイムギョウ界の戦争が片付いたらゲイムギョウ界に遊びに来なさいよ?」
「……ああ」
「どうしたの~?」
「ん? いや、なんていうかな。平和に暮らす、っていうのがイマイチ思いつかない。どんな生活なんだろうなって。知っての通り俺は戦闘能力以外ダメダメだからな」
「そうだよねぇ。料理出来ないし」
「甲斐性ないし」
「仕事ほったらかして旅してるし」
「ちっちゃい子大好きだもんねぇ~」
「やめろぉ!」
「国王じゃなかったら野垂れ死にしてそうね……って考えるとネプテューヌそっくりじゃない」
「えー、わたしでもここまで酷くないよ!」
「俺はそこまで酷くねぇぞ!」
「そっくりだわ……」
ノワールに言われて二人が睨み合うが、ネプテューヌの髪をくしゃくしゃにしてエヌラスはそっぽを向く。そんな姿を見ていたスピカが小さく笑った。
「なんだよ」
「ふふ……いえ、ご主人様がこのような微笑ましい風景の中にいるのが嬉しいのでございます」
「そうかよ」
「口で言っても体は素直なロリコンであるのが」
スピカが星となったのは本日二度目である。