超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「自分で作ったものだから俺が何しても文句はねぇよな」
紫電の奔る足を地面に着けるとすぐに四散して消えた。それに全員が頷く。拳と蹴りを食らってもピンピンしているスピカの耐久力は末恐ろしくなる。
九龍アマルガム表層焼土に到着したエヌラス達を待っていたのは、つい先程蹴り飛ばされたスピカだった。深々と頭を下げる。
「先回りしてお待ちしておりましたわ、ご主人様」
「はは、ぶっ壊してぇコイツ……!」
「というかちゃんと壊せるの?」
「殺す気でやれば五分も掛からない。シャイニング――」
「ヒィッ!? それは流石に耐えられる自信ないですからおやめくださいご主人様ぁ! 靴でもケツでも舐めますから!」
「あんまり俺の機嫌損ねるなよ、変神すんぞ」
エヌラスの不機嫌+変神状態=ここから先はR指定。
「肝に銘じておきますですわ……」
何はともあれ、無事に到着した。ミスカトル大時計塔を見上げて、エヌラスが眉を寄せる。
言い知れない違和感のようなものが込み上げ、目を凝らした。
「どうしたのさ、エヌラス」
「いや……なんか」
嫌な予感、というか胸が締め付けられるような感覚。何も変わらない。そびえ立つ大時計塔に違和感を覚える。大魔導師の手がけた一世一代の時計仕掛け。それによって一度は命を救われた。邪神ズアウィア――人々の絶望と混沌と恐怖が具現化した“神意なき場所”で生まれ、封印された忌まわしい怪物。それも最期は、“銀の鍵”と時計仕掛けによって永久に追放された。その果てがどこなのかは分からない。果てなど無いのかもしれない。
消えたはずなのに。倒したはずなのに、そのはずなのに――最後の一瞬に見た無貌の大魔導師が忘れられない。悲鳴を上げて、抜け出そうとしていた。だが、それは果たして“どちらの意思”だったのだろう。
封印された邪神が二度目の避け得ぬ死を目の当たりにしたからか。はたまた、形だけを真似た大魔導師の意思か。それとも、果たして。
絶望よりもなお暗く深い、無尽蔵の絶望と恐怖から逃れようとしたからか。常軌を逸した偉大なる魔導師であれば生死の境など関係ないのかも知れない。
“忘れろ……忘れろ”
本物の大魔導師であれば、あの程度ではないはずだ。邪神が真似たところで所詮取るに足らぬ贋作どまりが精々のいいところだ。だがしかし、エヌラスの胸の奥に小さな傷がカリカリと警告している。
何故恋人を奪ったのだろう――その疑問と答えだけは、まだ見つかっていなかったからだ。今になって思い出すことでもないのは百も承知である。だが、どうしてか……地表焼土に来る度に思い出すのは答えの出ない疑問ばかり。まるで思い出せない記憶をかき回されているような、言いようのない不快感だった。
「行くぞ」
答えはやはり出ない。その苛立ちを全てぶつけられる九龍アマルガムの明日は――。
「ギャーッハッハッハ! クトゥガ、イタカ! “
到着するなり事情を察したネプテューヌ達が変身して、から僅か十秒後。そこには元気に街をぶっ壊すエヌラスの姿があった。
「スピカ、カルネ! 今日だけは街を好きにぶっ壊していいぞ! 始末書? 焼却炉に放り込んで風呂でも沸かしとけ!」
「かしこまり! よっしゃー、ご主人様から直々にぶっ壊し宣言もらったぁ!!」
朱い太刀を引き抜いてカルネが走る。スピカは一礼すると、クリスヴェクター・コンバットカスタムを構える。
「そういうことでしたら、遠慮無くいきますわ」
――九龍アマルガムに入国したその瞬間からブラッドソウルが大暴れを始めて、阿鼻叫喚から地獄の黙示録へ早変わりした。国王が帰還するなり街の破壊活動に精を出すという事態に反抗勢力も戸惑いを隠せない。螺旋砲塔を解除して、偃月刀を召喚して担ぐと首を鳴らす。
ネプテューヌ達も上空から見下ろすその光景にはドン引きしている。
「今まで無双ゲームとか派手なアクションが取り柄だと思ってたんだけども、いざリアルでやられると結構エグいことになってるわね」
「流石はアダルトゲイムギョウ界、内臓とか色々飛び散ってるわ……」
嬉々として頭を掴み、壁に叩きつける。壁に赤いインクを撒いたような模様が広がり、頭が消えた人間は崩折れた。幸いなことに車道を走る姿は何もない。避難勧告でも出てるのだろう。
鮮血の舞う戦場を蹂躙する戦禍の破壊神がひとりで大暴れしているそこへ、吸血姫が参戦する。
「あははははは、血が一杯。あはははは!」
「……楽しそうねあの二人」
水浴びならぬ血液浴びをして大はしゃぎのムルフェストを横目にブラックハートは地下帝国である上空に浮かぶ小型の蒸気船を撃墜した。まるで気球のようなソレは、現代で言うドローンのような無線で動く機械。とはいえ、どっかのバカが垂れ流した霊的物質に取り憑かれて半ば自分の意思で動いているはた迷惑な代物であるが数だけの雑魚だ。女神であるネプテューヌ達の敵ではない。眼下で繰り広げられている光景に近づきたいとはあまり思いたくなかった。
エヌラス=ブラッドソウルは背広を着た男性のうなじに足首を掛けて紫電を奔らせる。そのまま放り投げて、偃月刀を投げ放つ。男性を受け止めたテロリストの同胞達がまとめて胴体と別れを告げる暇もなく倒れていった。血飛沫を浴びながら笑い、蹴散らしながら笑い、エヌラスは秘めていた暴力性を惜しげも無く解き放つ。その“おこぼれ”とも言うべき戦意喪失した者達を、まるで鬼ごっこのように追いかけるムルフェストが血の爪で引き裂いた。
「逃がすかー、最近まともに食べてなくてお腹ぺこぺこなんだワタシはー!」
「ムルフェストォ! テメェどうせ吸血するなら屍体から吸え! 生きてる奴は俺の獲物だ! それ以外は屠殺された家畜同然だ!」
「死んでる奴より生きてるのが美味しいの! こまけぇこたぁいいじゃん!」
人の生き死にが細かいことで済まされる倫理観がぶっ壊れる二人の会話に、ノワールが引きつった笑いを浮かべた。街中でエヌラスは変神させちゃいけない、絶対に。惨状を目の当たりにしてしみじみと思っていた。
「溜まってたのかしら、エヌラス。あんなに暴れて」
「ノワールだけじゃ足りなかったのかもしれないわね」
「ちょ、ちょっと二人共! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! ほらドローンの大群来てるから、早く!」
「呆れる性欲よねぇ」
「そうよね~」
「今それどころじゃないの、わかってんでしょー!」
言いながらブラックハートが次々とドローンを撃墜していく。しかし、際限なく送り込まれてくるドローンの群れに辟易してきたところに、炎熱を込めた弾丸が炸裂した。ビルの壁を駆け上がってきたブラッドソウルが合流する。
「クソが! キリねぇな!」
「そうね、流石にこの数は厳しいわ」
「経験値もまずくてレベル上がりそうにないわ」
「今更経験値なんぞ気にしてられるか!」
「それにしても、どうするつもりよ」
「アサイラムの連中と合流! 話はそっからだ!」
飛行能力を取り戻したおかげか、ブラッドソウルの身のこなしは以前よりも軽い。適度に敵を蹴散らしながらアサイラムのメンバーを探して九龍アマルガムを彷徨うこと数分、ネプギアが発見した。
浪人風の男性と執事風の男性二人が大通りを埋め尽くすグールの群れを相手にしている。そこへ降下するなりブラッドソウルは撃鉄の付いた鞘と日本刀を召喚し、構えた。
「国王――」
「
光速で抜き放たれる居合が大通りを埋め尽くすグールの群れを一掃する。しかしそれでも後続の途絶えない姿に舌打ちすると、左手の鞘を右肩に乗せた。紫電が奔り、消えたかと思った次の瞬間には長大な鞘へと姿を変えている。右手の日本刀も打刀から野太刀へと。
「上等だ、消し炭一つ残さねぇ!! 超電磁砲抜刀術・零式――!!」
ガコンッ!
鞘の根元が開き、野太刀を持ち上げる。刀身を覆う電撃が白い閃光となって振り下ろされた。
「“
大通り諸共にグールの群れは焼滅する。その衝撃の余波で左右に並び立つビルがいくつも倒壊していき、目も当てられない惨状となった。瓦礫の山から沸き立つ土煙はまるで入道雲のよう。ぶっちゃけテロリストの被害よりも国王の戦闘による被害の方が圧倒的に大きかった。
「あースッキリした」
「いや、すっきりしたとかじゃなくて!?」
「滅茶苦茶ぶっ壊してますね……」
「自分の国だからってここまでやる?」
「避難勧告は出してあるんだよな、ブシドー」
非難轟々のエヌラスがさも当然のように話題を振るが、重い沈黙が返ってくる。
「……如何にも。しかし、避難が済んでおるとは一言も」
「…………尊い犠牲だったな、以上!」
「このクズゥゥゥ!!!」
ブラッドソウルはブラックハートの大剣で峰打ちで地面に沈んだ。