超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――アサイラムのメンバーと合流を果たしたエヌラス達は一度教会へ撤退し、人狼局のメンバーとも合わせて作戦を練るべく移動している。スピカとカルネの二人は陽動、ならびに威力偵察という名目で街中を走っていた。
寂れた廃病院、という外見ながらその中も同じようなものである。正面エントランスから病室代わりの室内には大魔導師が趣味で集めている謎のアーティファクトが並べられていた。室内には強力な防御壁が拵えてある為、一度破れた場合は……想像もしたくない。
「教会っていう割には、本当に誰もいないのね」
「ああ。俺も師匠以外にここで働く人間見たことねぇ」
不思議な事に、教祖すらその姿を見たことがなかった。だが今はそれよりも目の前のことに集中する。
アサイラムからはブシドーとバトラー、そしてクイーンの三名。人狼局からはタクシーの運転手であった男性一人が現在テーブルを挟んで座っていた。エヌラスの隣にはムルフェスト、そしてネプテューヌ達が並んでいる。
「さて、それじゃ改めて情報を整理しよう。まずは他のメンバーがどうしてるか聞かせてくれ」
「市民を避難させるべく奮闘中ですね」
「どれぐらい終わってる?」
「半数はどうにか。なにしろ急な出来事でしたので……」
「こっちはテロリスト達の身柄を割ってる。所属はバラバラ、だが共通してある一点を主張……の前にタバコいいかい?」
「ああ」
「あんがとよ。――んで、その内容だが。世界の崩壊が起きている手前、原因である守護神達はいらねぇんだと。アホくさ。テロリストどもの主張じゃ、生存競争も何もかも蚊帳の外の話だからそういうこと言えるんだろうな。元は市民だ、貧富の差は関係なく」
女神不要論――そんな事を唱えていた団体があったことをネプテューヌは思い出していた。それがもし実現していたら、こうなっていたのだろうか。そう考えるだけで寒気がする。九龍アマルガムは、こうなってしまった。
「エヌラス……」
「ハッ、馬鹿馬鹿しい。言わせとけ。俺が大魔導師の代わりを務められないくらい知ってらぁ」
「ま、だからこそ俺達の仕事が増えて忙しいんだけどよ」
「うし。次は――相手方の戦力だ。聞いた話じゃデモンスレイブユニット奪われたらしいな」
「そのユニットって何なの?」
「物理で除霊装置」
「これ以上ないほど分かりやすい説明ありがと……」
霊的物質に対する物理攻撃を可能とする装置。本来なら通じない攻撃を通じるようにする、整波装置のようなものだ。一種の空間歪曲とも言える。それを可能とするものが奪われるとなるとどんな形で悪用されるか分からない。
「
「向こうは技術頼みなところがあるゆえの慢心。同情の余地はない」
「現在確認出来てるだけでも聖騎士は十六機が奪還されている。工場も潰されてるらしい。随分と周到な手の回し方だ、どうすんだい、ボウズ」
「面倒クセェ、街ごと潰すか」
「地表焼土の二の舞いは勘弁だぞ、俺ァ」
「街中でシャイニング・インパクトは二度とぶっ放さねぇよ。師匠でも出てこねぇ限り」
本人は冗談のつもりだったらしいが、全員の表情が深く沈んだ。
「……悪かったよ、冗談が過ぎた」
「――いや、あながち過ぎた冗談と笑い飛ばせぬ」
今度はエヌラスの顔から血の気が引く。口端が引きつり、力のない笑みが浮かべられた。
「どういう――」
「そこから先は私がお話します。エヌラスさん、貴方なら身に沁みているはずです。血の怪異事件のことが……当事者として」
暴走したエヌラスが引き起こした事件。その犯人であるエヌラスが捕まっていないのは、現在国王の座に着いているからに他ならない。だがすでに事件は解決済みだ。
「ああ、覚えてる」
「交戦中、何度か見かけたのです。動く血の化け物を」
「血が動くって普通じゃない?」
「はいそこ黙れよー吸血姫ー。テメェと一緒にすんなー?」
しかし、動く血の化け物――気になる話ではある。
「あれは一体……」
「……俺の場合は、自分の血液が魔力の源だからな。そいつに軽く魔力を流して、即興の使い魔代わりにできる」
「へ~、エヌラスって思ってたより器用なんだね~」
「あんまりやらなくなったけどな。だから、それがいるって言うならそいつは同じようなことをやっているって考えられる」
「ですが、何のために?」
「知るか。おおかた、混乱を助長させる為じゃねぇかな。見かけ次第ぶっ潰す方向で行こう」
まるで避けたい話題のようにエヌラスは早々に打ち切った。
「その、血の怪異の写真がコイツだ――“それ”でもか?」
その写真は人狼局が撮ったモノだが、エヌラスは言葉を失っている。そこに映っているのは、小柄な少女を真似た血の怪異だった。ぼやけた輪郭に、ドレスのような尾を引いて。
「……いつからだ」
写真を凝視しているエヌラスの表情は険しい。
「アゴウが消滅してから、頻繁に。ですが、何をするでもなくただ彷徨っているようで」
「次、見かけたら俺に教えてくれ」
何かがおかしい――この時はまだ、誰もが思っただけだった。確信もなく。ただ九龍アマルガムで起きている異常事態の“ひとつ”として捉えていた。
「んー、つまりさ。状況をまとめるとー、国王様不要論者(テロリスト)が装置とか奪ってやりたい放題って解釈でいいの?」
「ネプテューヌの見解で大体合ってる。ただ、デモンスレイブユニットだけは厄介だな。何のために奪取したのか目的は不明なままだが」
「物理で除霊ってことは“見えない力”も相手できるって、ことぉ~?」
「え? ああ……」
「ん~っとぉ~……え~っとぉ……それってつまり~、シェアエネルギーも~?」
「――――可能性は、あり得ますね」
バトラーが九龍アマルガムの全体図を指し示す。それは事件の発生現場から、今まで追った足取りをなぞるように。赤いバツ印はその現場だ。それらをなぞる。
「まず、第一事件の発生場所が北区。次に南西、東区、西区、南東区。これらを結ぶと」
「……クソッタレ、街ごと召喚陣にするつもりか連中は」
「それだけではありません。地表焼土の地図も合わせれば、この中央にはミスカトル大時計塔が配置されることとなります」
「そんな大掛かりな召喚陣で何を喚び出すつもりなのよ」
ノワールの疑問に「ふむ……」と唸ったブシドーがもしやと思った。エヌラスも同様に。
「そも、緑竜会は世界の滅びを望む者達の集まり。となれば、その生き残りが喚び出すものは」
「邪神――ってわけね」
頷く。
「うむ。今一度、あの邪神が喚び出されてしまえばどうなるか……」
「…………」
仮にも大魔導師の姿で現れた相手。次はどんな手を使うのか――その恐ろしさを知っているだけに、邪神復活だけは避けたい。それを止めるためには、まずデモンスレイブユニットを奪取しなければ。
大魔導師の姿形を真似るだけでなくその魔術すら行使してみせた相手。できることなら二度と相手にしたくない。
「これからの動きを決めよう。デモンスレイブユニットの捜索。テロリスト共の制圧」
「鎮圧じゃなくて……?」
「制圧」
「制圧……」
「可能なら抹殺」
「抹殺」
恐ろしい圧政もあったものである。
「血の化け物を見かけた場合は俺に知らせろ、いいな」
「私が見つけた場合はペロリンチョしちゃうかもしれないけれどね!」
「そんなことしてみろ。俺ァお前をどうするか分からんぞ」
「ひゃい……」
調子に乗る吸血姫を即座に黙らせる犯罪王。そんな光景も今の状況では頼もしく思える。
「まー、なんだ。仮にも神様が二人もいてくれて助かるな」
「私達も女神だよー!」
「嘘こけ。そんなちんちくりんな嬢ちゃん達が女神なわけあるかい」
「もう、失礼だなぁ。私達そんなチンクルじゃないよ」
「なんだその緑の妖精みたいな聞き間違い!? わざとか」
「あーもう会議がメチャクチャじゃねぇか」
ユウコの時もこうだった気がする。
「ネプテューヌが口を開くとすーぐ真面目な雰囲気ぶち壊しだな」
「ふふん、何を隠そう! わたしはシリアスな空気が苦手なのさ! だからどんなに暗くったって明るくするんだよーっ! 恐れいったか!」
「恐ろしくバカなのは分かった」
「酷くないッ!?」
「それに救われてるのも確かだが、もうちょい自重すれ」
「むー、それならお礼のひとつくらいくれてもいいじゃん」
「指輪とキス、どっちがいい?」
「んー、わたしとしてはゲーム機が一番うれしいかな」
「夢も希望もロマンもねぇ返答で泣くぞテメェ!!!」