超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「坊主! すまねぇ、ドジった!」
「んなもん見りゃあ分かるわボケが! デモンスレイブユニットはどうした!」
「回収が困難だったから車ごとぶっ壊した。手遅れだったみてぇだがな」
「後でクイーンが頭抱える姿が目に浮かぶ」
アサイラムの戦闘要員、人狼局。エヌラス、ネプテューヌ達。ドラグレイス、ムルフェスト。神格者三名、女神が四人。それだけの大人数に囲まれる中で血の化け物が徐々に形を整えていく。今ならばまだ――そう睨んだブシドー達が動こうとして、突然の地響きに体勢を崩した。
「今度はなに!?」
地面から現れるのはいつぞやの巨大な破壊ロボット。今回はドラム缶にスタイリッシュな手足が付いている。しかし如何せん、胴体と顔面が一体化しているためにどうにもならないアンバランス感に溢れていた。瓦礫を押し退けて見下ろすその姿に一同が一斉に溜め息を漏らす。
『またお前かッ!!!』
その場にいた全員が叫んだ。本当に余計なことしかしないはた迷惑な破壊ロボである。
《さぁ皆様お待ちかね! 九龍アマルガム破壊活動のお時間でございまぁす! テレフォンショッキング! 今回の目玉商品はこちら、天災超合金メタルジェノサイダー第ン号~本編別売り劇場版特典~でございます!》
「んな悪徳商法止めちまえ!」
「犯罪王がなんか言ってるわよ、ねぷちゃん」
「説得力皆無ね……」
《んナ!? ききき、貴様は犯罪王! 九龍アマルガム国王ではないですか! 今じゃ豆粒のような目の上のたんこぶ!》
「おできじゃねぇか!! つぅかコックピットから出てこいこのクソが! 焼滅させてやる!」
「なんか物騒なこと言ってる!?」
しかしながら――不定形の輪郭で漂流していた血の化物が今やハッキリとその姿形を整えつつある。色彩もかつての大魔導師と同じく、容姿もさることながら、その言葉にし難い本人特有の雰囲気。属性、とでも言うべきか。君臨するだけでその場を圧倒するプレッシャーにムルフェストが固唾を飲み込む。
「……大魔導師……」
「死んだはずだ……貴方は」
「…………?」
自分が何故蘇ったのかすら理解していないように、不思議そうに自らの手を見つめ下ろす半裸の大魔導師に、ブシドーが一閃を滑らせる。それは液体を切る手応えを返して、元通りになった。
「此奴……! まだ形が定まっていない!」
「殺るなら今のうちってわけね! ドラグレイス、共闘しない?」
「ふざけろ、吸血姫!」
「うわったぁ!? あっぶな!」
それとなく持ちかけた話を大剣で切り捨てたドラグレイスは飛び退くと大魔導師の近くで着地する。
「大魔導師!」
「…………」
言葉はなく、瞳は虚無を見つめていた。その視線がさまよい、騎士甲冑の姿を目に入れてもまるで気にした風もなく周囲を見渡す。
「退けぃ、竜騎士!」
「断る!」
ブシドーの日本刀とドラグレイスの魔法剣が拮抗する。
“それ”がヤバイ代物であると誰もが知っていた。蘇らせてはいけないのだと。あらゆる条理を逸脱した禁忌だ。
その背景ではブラッドソウルが天災超合金メタルジェノサイダーとまだ喧々囂々と口論を続けている。それどころではないというのは目に見えいているが、何やら譲れない一線がある模様。
《ぶひゃひゃひゃひゃひゃ! 片腹どころか吾輩の腹筋大崩壊、貴様のような若造が国王を務めてからこの国の政治は悪い方向にどんぐりどころかおむすびコロコロどんぶらこ! 万年オイルショック事情であーる!》
「っせぇな! こっちは勉強なんかろくにしたことねぇんだよ! 書類にハンコ押してそれでどうにかなると思ってたらどうしてこうなってんだよ分けわかんねぇ!」
「え、でも人形工学は……」
「あれは俺が俺による俺だけの勉強だ。ぶっちゃけ趣味の範疇、ノーカウント! ノーカン!」
《つまりは! この国がメチャクチャでハチャメチャが押し寄せてくる這いずりまわる混沌な治安と化したのは貴様のせいなので、死んで罪を償うがよろし! 喰らえェェェェーイ! スタイリッシュアームパーンチ!》
迫り来る巨大な鉄の拳に向けて、ブラッドソウルは拳を引いた――だが、その横を通り過ぎるのは大魔導師の姿を模した血の化物。
「――――」
《グ、ぐぐぐぐぐら、グラタ――グランドマスター!? 拳は急に止められない止まらない!》
押し潰される、その瞬間に大魔導師は片手をかざして。
天災超合金メタルジェノサイダーの右前腕を音もなく受け止めて、弾き返した。いくつか部品が散らばっている。それが街中に降り注いでちょっとした大惨事になっているが毎度のことなので最早誰も被害を気にする気にはならなかった。――事後処理を担当するクイーンを除いて。
「……――相も変わらず、この街の喧騒は寝起きの頭に厳しいな」
青年の声だった。凛と通る声色で、だが感情を欠いた声は透き通るようにその場に居た者達の耳に届く。不思議なことに。
大魔導師――かつて、先代アゴウの守護女神と双角を成す最強の魔導師にして国王。間違えるはずがなかった。見間違えるはずがなかった。
エヌラスの恩師にして最大の障害とも呼べる、全ての元凶が今。ネプテューヌ達の前に現れてしまった。全ては緑竜会の思想の為に――願うものはただ一つ『世界の終わり』だけ。
「……師匠」
「よぉ、バカ弟子。まだ生きていたか。とはいえ、あれからどれほどの歳月が流れたかも分からん。……この騒ぎはなんだ?」
「見ての通りだ」
「……まぁ、見ての通りか。街中滅茶苦茶だな」
呆れた吐息を漏らして、体の調子を確かめている大魔導師が、ふと思い出したように破壊ロボットを見上げた。コックピットにいる搭乗者の恐れがそのままダイレクトに動きに出ているのか、一瞬だが身体をビクつかせた気さえする。それに、大魔導師はやはり手をかざした。
「邪魔だ、鉄屑」
静かに手を持ち上げる。それに、何か不穏な気配を感じたのかネプテューヌ達だけが眉を寄せた。この波長はシェアエネルギーに近い何かだと。
「――
《はひ? ははははははハィィィィィィイ!? お、重い! 愛が空から落ちてくるほど重いこの重力は一体――!?》
その異変は、まず天災超合金(以下略)の脚部から起きた。関節から火花を吐いたと思えば、突如膝を着き、次いで装甲がひしゃげた。そのまま垂直に崩れ落ちていく様はまるで倒壊していくタワーのようである。
「……何が起きているの?」
「見て、ネプテューヌ。あの周りだけ風景が歪んでるわよ」
「もしかして、重力操作でしょうか……」
「あり得るわねぇ」
脚部が全壊し、胴体が落下する。今度は接合部が耐え切れずに両腕が地面に落ちた。地響きだけが起こり、土煙はそよ風すら吹かない。そのまま今度は胴体が徐々に潰れていく。まるで踏み潰されたアルミ缶のように。
「ふむ、ここに置いたところで観光名所にもならんな……」
それから胴体を半ばほど潰した破壊ロボットに歩み寄り、大魔導師は装甲表面を軽く触れた。
二、三回ほど軽くノックしてから、若干音の軽い場所を探ると、発見して頷くと拳を作る。そして、殴りつけた――破壊ロボットがまるでカーリングのような滑らかさで地面を滑って遠ざかっていく。途中で瓦礫に乗って宙に飛んだかと思えば、そのまま遥か遠方に放物線を描いて――脱出ポッドらしきものが飛んで行く――大爆発を起こした。
「ヒロイックに作り直して出直せ」
パン、パンと手の汚れを落として気だるげに呟く大魔導師に戦慄する。髪をかき上げる仕草一つとっても流麗で、誰もが見惚れるような魅力に溢れていて――それでも、何故か恐怖が心に語りかけてくる。
全ての元凶――次元連結装置、その本質は次元衝突装置。それを作り出した神格者の大魔導師の目的は何なのか。
「教えてくれ、大魔導師! 何故だ!?」
「なにがだ?」
「何故、何故なのだ! なぜ次元衝突装置など――」
「……ああ、アレか。アレはな、俺が“疲れた”からだ」
「――疲れ、た? 一体、何に……?」
「未来に。全てに」
その短い言葉に大魔導師の全てが込められていた。
「俺はとうに“未来を諦めた”男だ。この世界に、このアダルトゲイムギョウ界に未来などない。あるのはただ惰性的に繰り返される同じ事象だ。結果はいつも変わらない。
『――――――――』
言葉を失う他にない。誰よりも世界の終焉を望んでいたのは、他でもない大魔導師。
「だから、終わらせる。この俺の手で、全てな。お前達に次などない。今生が最期だ。キンジ塔も、大いなる“C”への門も、その鍵も全ては闇の中だ」
「貴方は――!」
「闇黒神話の幕を閉じようじゃないか、お前ら。――