超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ステッキをトンファーのように構え、右手は黄金の粒子を集めて金色の十字架を構える。師弟共に共通した異種二刀流。だがしかし、その構えはエヌラスが攻撃一辺倒なのに対して、大魔導師の構えは攻防一体を主体としたもの。
ブシドーとバトラーが仕掛ける。それに続けてロメロ。スピカとカルネが大魔導師=ネクロソウルへと。
日本刀が疾走った。その一刀を十字架で受けて捌き、続くバトラーの拳。
「ハァッ!」
気迫の籠もった一撃を、逆手に構えたステッキで防ぎ、蹴り上げが水月を深く突き上げた。咳き込むバトラーをそのまま打ち上げて、死角に潜り込んだロメロ。人狼局に配備されている銀のナイフを突き出す。
「ふっ……」
「チッ!?」
鼻で笑い、手元で回転させたステッキの先端でナイフを受け止めて十字架で肩口から脇腹へ抜けていく。
「がッ!」
ロメロの身体に先端を突き刺して、それをカルネに放り投げた。スピカが髪留めを外す。スカートを翻して、流星の銃弾が降り注ぐ――だが、その全てが空中に静止している。水面のように揺れている空間は重力障壁によって生み出された歪んだ壁。
「弾代もバカにならんだろう。返すぞ」
「そんな――クソ!」
指で弾く。それだけで放たれた銃弾は全て持ち主の身体を打ちのめした。ロメロを受け止めたカルネが緋色の太刀に魔導燃焼機関の炎を纏わせる。
「くぉんのぉぉぉ!!!」
ネクロソウルの右手――金色の十字架が光の粒子となって形が崩れた。
「銃は剣より強し、とな」
ガオンッ!
深紅の自動式拳銃から灼熱の石礫。ルビーのように紅い魔弾がカルネの腕を吹き飛ばす。空中で吹き飛ばされたカルネに向けて、ネクロソウルがステッキを振り下ろした。
重力で延長された刀身がカルネの身体を打ち据えて地面に深くめり込む。
「疾ッ!」
ブシドーの居合が、バトラーの拳撃。その両者をネクロソウルは風のようにすり抜けた。
「踊れ、
二人の身体を縛り上げる、黄色の布はネクロソウルの袖口から伸びている。その二人に照星を合わせて、引き金を引いた。
「フォウマルハウトの炎よ。ウェンディゴの氷よ――撃ち抜け」
そして、二人の身体が爆ぜるように転がって動かなくなる。
「ブシドーさん!? バトラーさん!?」
「次は誰だ? 異世界の女神か? お前達か、神格者」
両手を広げて、呆れたように肩をすくめてみせるネクロソウルに疲労の色など微塵も感じられない。
ドラグレイス、ムルフェストの二人が前に出る。それに続いてブラッドソウルも、偃月刀を担いで並ぶ。
「うっはー、えげつねぇ強さぁ……マジで? ワタシ達あれマジでやる?」
「弱気になるなら帰れ、ムルフェスト」
「足引っ張んじゃねぇぞ、ドラグレイス」
「それはこちらの台詞だエヌラス」
売り言葉に買い言葉。二人の喧嘩腰をなだめることもなく、ムルフェストが駆け出した。その背後で一触即発の空気が流れている。
ムルフェストの爪とネクロソウルのステッキが衝突した。
「吸血姫。大概お前も、暇なやつだな」
「こう見えても忙しいんですよーだ」
「そうか? 俺には暇を持て余しているように見えるが」
吸血鬼である身体能力を活かした高速の連撃も、大魔導師の前ではまるで慣れた組手のようにいなされている。
「うっしゃいな! どんだけこの世に未練たらたらなんだよ、アンタは!」
血を纏わせた爪の一振りでビルが倒壊した。
「この世の終わりをこの目で見るまでは」
「にゃんだとぉ?」
突きつけられる深紅の自動式拳銃の銃口が爆ぜる。閃光と爆音がムルフェストのこめかみを撃ち抜く――ことはなく、その弾丸を指先で受け止めていた。勢いを生かして片腕で身体を回転させると、器用にも下から蹴り上げる。顎を掠めた反撃に肝を冷やしながら、ステッキを振り上げると今度は魔弾によって遠くへ弾き飛ばされた。
「テメェとは後でとことん殴りあうぞ、ドラグレイス」
「望むところだ、先にくたばるなよ!」
どういう経緯かは分からないが、意気投合した(?)二人がネクロソウルへと矛先を変えて駆け出す。その背後には四人の守護女神が見えていた。
「ふむ、これは所謂……ピンチ、というやつだな」
どの口が言うのか、まるで気にしていない普段通りの口調にドラグレイスが魔法剣を振り下ろす。金色に輝く大剣と十字架が鍔迫り合い、ブラッドソウルの偃月刀を、同じ偃月刀で受け止めていた。
「貴方は――貴方は、何故だ。この俺のティル・ナ・ノーグを奪った……!」
「答えは簡単だ、竜騎士。何故ならば、あの楽園は人間しか受け入れない。誰より強く、気高い心の持ち主だけが入ることのできる世界だ。肉体を失い、精神だけが生きる貴様に――黄金の魔女は二度と微笑まないぞ」
十字架を消したネクロソウルの右手が白い輝きを纏う。貫手の形でドラグレイスの身体を貫いた。だが、そこから出血する様子はない。そして、その中身は空洞だった。
「“極冷温”ゼロ・ドライブ――お前の模倣だ、エヌラス。アレは中々に良い技だったからな、俺なりのアレンジを加えさせてもらった」
「――変、神」
目の前で変異していく鎧が奇怪な音を立てて脈動する。だが、その頭に当てられて手から重力の波動を流し込まれてシルバーソウルが転がっていった。
「師弟水入らず、と言いたいところだが邪魔が多いな」
「っせぇな……! 死人はおとなしく、死にやがれェェェェ!!」
剣戟。幾千にも及ぶ七重の偃月刀によるその全てをネクロソウルは溜め息ひとつ吐いて、僅か二振りで凌いでみせる。
「殺意だけは一流だな、怖いものだ」
「っの野郎……!」
「俺を誰だと思っている? お前の師だぞ」
金色の十字架と偃月刀が火花を散らし、そしてパープルハートがその横から長剣を斬り上げる。だが、ステッキで防がれていた。その上段からエヌラスを飛び越えるようにブラックハートが大剣を振り下ろす。
「こぉの……!」
「ほれ」
足で二人の剣を持ち上げてブラックハートの攻撃を防ぐなり、掌底を打ち付けると引っ張られるように三人が飛んだ。パープルシスターのM.P.B.L.を白銀の回転式拳銃で相殺しながら、蛇腹剣を片手であしらう。十字架で絡めとると、それをパープルシスターに放って視界を防ぎながら深紅の自動式拳銃で二人まとめて引き離した。
「変な体勢で寝るなよ?」
大魔導師が片腕を上げる。それが、何よりも物語っている。次の一手を。
「
まるで巨人に踏み潰されているかのような重力に、全員が身動きを封じられた。その魔術を構成している核を探り当てて、ブラッドソウルが即座に破壊すると意外そうな表情をしている。
「舐めんな!」
そして、深紅の自動式拳銃がネクロソウルの無防備な胴体に撃ち込まれて――血が爆ぜた。熱で焼かれた不快な異臭に顔をしかめながらも、ネクロソウルは風穴の空いた自らの腹を見て、間の抜けた顔をしている。
「……――お見事、というべきか」
パチ、パチ。拍手。手を叩いてブラッドソウルの健闘を褒め称えていた。
一撃――たった一撃がこんなにも遠い。致命傷を与えるまでにどれほどの障害と苦難を乗り越えなければならないのかと考えるだけでも気が遠くなる。だが、ネクロソウルはそんなことはお構いなしに笑っていた。
「そもそも、絶望の始まりは何処だと思う?」
唐突にそんなことを語り始める。誰もが眉根を寄せた。
「アダルトゲイムギョウ界の崩壊は、どこから始まっていたと思う」
「何の、話だ……!」
「この世界の
大仰に手を開いて演説を始める大魔導師の言葉に、耳を傾ける。
「絶望だよ、エヌラス。諦めが人を殺すのだ。それが、世界を殺すのだ。誰もが思うだろう。誰もが苦難を前に挫折を味わい、膝を折り、頭を垂れていつかは地に果てる」
「私達は、絶望なんかに屈したりは――」
「ああ、そうだろう。異世界の守護女神。お前達と同じ事を、あの女は――先代のアゴウ国王、守護女神は言っていた。だが現実はどうだ。アイツは死んだ。無尽蔵の絶望を相手に、ヌルズを相手にして朽ち果てた」
ヌルズ。アゴウを脅かす無尽蔵の絶望。いや、今は過去の話。アレはもう、アルシュベイトが討った。そのはずだ――だが、何かが引っかかる。
「そもそも、ヌルズとは“何だ”? 無尽蔵の絶望とは何か。答えは簡単だ」
ネクロソウルが指し示すのは……。
「虚無だ。“何もない”ということこそが、絶望だ。分かるか、エヌラス……絶望の魔人」
「――――…………」
エヌラス。この世界に生きる一人にして唯一の
「お前だけがこの世界の事象を記憶“しない”」
他の神格者は覚えている。記憶している。
「お前だけがこの世界の事象を前に“諦めない”」
他の神格者は諦めた。受け入れてさえいる。あのアルシュベイトでさえ。
「なら、お前は何だ? エヌラス。俺がお前を、そうだと名付ける以前のお前の名前はなんだ」
覚えていない。覚えてさえいない。記憶に無い、在るはずがなかった――“名前が無かったのだから”
「…………」
「エヌラス。お前は自分が“何者”であるかを知らないだろうな。記憶すらしていないだろう。当然だ。俺が願ったのだ、この世界の終わりを。アダルトゲイムギョウ界の滅びを。そして、お前が喚び出された――いいや、違うな」
「エヌラスが……」
「魔人……?」
「正確には“お前達”か――エヌラス。いや、
――フフ…………アハハ……!
少女の笑い声が響き渡る。それはまるで九龍アマルガムを鳴らすように。絶望の鐘の音のようにパープルハート達の頭に直接聞こえてきた。
――アハハハハハハ! そうよ、兄さま。そうなの……!
「…………」
血の霧が濃くなる。ネクロソウルの姿を覆い隠すほど。一寸先も見えないほどの濃密な魔力の気配に、ブラッドソウルが立ち上がる。
「ァ――――――」
そこに、居た。ネクロソウルは消えて、その代わりに立っていたのは小柄な少女。
全身を血のように紅いドレスで着飾った真紅の少女が、そこに立っていた。
「そうよ、兄さま。わたし達は“そう”なの……それなのに、酷いわ……。わたしと兄さまは、その為に生まれた。その為に生きている。人々の営みを妬み、憎み、憤って、破壊して、蹂躙して、駆逐して――そうして生きていくだけのはずだった。そのはずだったのに……」
少女は、泣いていた。血の涙を流して慟哭している。嗚咽を押し殺して。
「その、はずだったのに……兄さまは、この世界を気に入ってしまった。この世界で生きていこうとした」
「お前は……どうして……?」
「決まっているでしょう、兄さま。緑竜会が本当に望む世界の滅びは、わ・た・し。大魔導師は都合が良かったの。この国を脅威に晒すのに、これほど適した人もいないでしょう?」