超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――ユノスダスまでどうにか戻ってきたが、既に夜が訪れている。中央病院に急患で担ぎ込まれたエヌラスを見て、ナース達は慌ただしく手術の準備を始めた。その報せがユウコの耳に届いたのか、やはり屋根の上を飛び移りながら病院前へ滑り込んでくるなりネプテューヌ達に事情を尋ねる。それに、九龍アマルガムで起きた一連の事件を話した。
「……大魔導師が復活して、それにエヌラスの妹が関わってて、エヌラスがヌルズねぇ……」
「信じてもらえるか分からないけど、わたし達も頭がどうにかなりそうだよ」
「エヌラスがあんな状態じゃ信じる他にないでしょ。銀鍵守護器官もないんじゃ」
「ゆうちゃんはぁ、大魔導師のこと知ってるの~?」
「知ってるよー。そりゃもう知ってるよー。超知ってる」
ユノスダスと九龍アマルガムの輸出入ルートを開拓したのが大魔導師であり、建国したその時から自国の発展に尽力していたという。その結果があのような無法地帯では本人も浮かばれない。とはいえ、その目的を知ってしまった今となってはなんとなしに理解出来てしまう。アダルトゲイムギョウ界に未来が無いことを知ってしまった男は、世界を滅ぼすことにした。
「うちで貴金属や薬品の取り扱いがあるのも大魔導師のおかげなんだけどさぁ。半分近くグレーゾーンなんだよね」
「え、いいのそれ」
「まぁね。私もユノスダスが潤う分には文句ないし」
とはいえ、だ。それとこれとは別問題。
「エヌラスさん、大丈夫なんですか?」
「万一に失敗はあり得ないからだいじょーぶ! もし失敗したら金銭と社会的に抹殺して二度と太陽拝めない姿にするから」
親指を立てるユウコに、ネプテューヌ達は背中を震わせた。
“ユノスダス国王、おっかねぇー”
全員がそう思ったという。
「着々と世界滅亡へのカウントダウンは始まってるし、刻一刻と月は落ちてきているし」
「どうするの?」
「うーん、そうだねぇ……」
真剣に悩み始めたユウコだったが、すぐに顔を上げた。何か閃いたようだが――。
「あ、それならそれでお月見パーティーとかやればいいか。スーパームーン現象並にデカく見れるんだし盛大にやれそう」
「ちょっと!! エヌラスが瀕死で、世界が滅びようとしてるのにお祭りのことなんて考えてる場合!?」
「あのバカが簡単に死ぬわけ無いでしょうが! それに、前みたいに応急処置から自己再生ですぐに完治出来るわけじゃないんだし! 大体アイツがヌルズだろうがなんだろうが、私の国に担ぎ込まれた以上はユノスダスの法に則ってもらう! 金は命より重い!」
根っからの守銭奴――ユウコの商売根性には世界滅亡ですら金銭勘定の対象であるらしい。
「じゃあ、エヌラスは……」
「悪いけどここでリタイアかもね。今までは銀鍵守護器官で他の神格者と渡り合ってたけど、それがないんじゃアイツはただの人間だから」
「絶望の魔人って話、ユウコは知ってたの?」
「うぅん、今さっき初めて聞いた。っていうか金にならない情報だからどうでもいい」
「ど、どうでもいい!? 割りと衝撃の事実なのに!?」
「いいかぁ、よく聞けねぷちゃん! 私は! お金を落とすモンスターとお金を落とさないモンスターと国を脅かすモンスターとモンスター・ペアレントその他大勢の連中に、どうやったら自分の利益を守れるかを常に考えて国を運営してる! だからアイツが絶望の魔人だとか人間だとか二十代無職ホームレスだろうがなんだろうが――金を出してくれりゃ何ひとつ文句は、ないッ!!!」
先述の通り、金は命より重い。その鬼迫に、ネプテューヌ達は言葉を失った。
「それに、私はさ。どうあってもこの聖戦に生き残れないのを知ってる」
「あ……」
「だからどうするかって? そんなもん、運に任せてる。私は帳簿と向き合うので忙しいの」
「ユウコ……アナタもしかして」
「まぁね。私はどんな形でエヌラスとお別れになっても悔いがないようにしてる。お互い好きにやるだけ」
喧嘩するほど仲が良いとは、この二人の為にあるのかもしれない。
ユウコはユノスダスの為に。エヌラスはこの世界の未来の為に。
「まぁー、死ぬのは怖いよ? “次”に会ってもエヌラスは忘れてるし、辛いと思ってる。でも二度と会えないより私はずっといいと思ってるから」
手術が終わったのか、手術室のランプが消えた。出てきた主治医がマスクを外しながら深く息を吐き出す。
「彼があそこまでの重傷を負ったのは初めて見ました」
「全治までにどれぐらい?」
「……魔術回路が無理矢理引き剥がされた際に、神経を傷つけたのでしょう。以前のように、というのは無理ですね。それが全身に至っている」
「そんな……!」
「何とかならないの!?」
「残念ながら……」
主治医は申し訳無さそうに首を横に振る。それにユウコはうんうんと唸っていた。
「ちなみに。どんな状態?」
「意識は鮮明、五感はほぼ薄れ、手足は満足に動かすことが出来ない状態になりますね」
「あー、そっかぁ……魔術回路に頼りっきりだった弊害だね。うん、自業自得」
「怪我も治るまでに何ヶ月か……」
「なんとか、ならないんですか……」
ネプギアが涙ながらに主治医に懇願する。だが、それでも重く首を振られるだけだった。泣き崩れそうになる身体を、ネプテューヌが支える。それから、沸々と怒りが湧いてきた。
「とにかく、今日はもう遅いから四人とも。明朝までしっかり休むこと、いい?」
「今すぐにでも大魔導師を倒さないと」
「まぁぶっちゃけ無理だから止めといたほうがいいよ。アイツ、シェアエネルギーで生きてるし」
「へ? 神格者って人間なんじゃ」
「うん、基本的にそうなんだけどね……九龍アマルガムがなんで地下にあるか、知ってる?」
「確か……エヌラスさんからの話だと、地下に巨大なシェア……なんとかがあるって」
「そう。それが一際厄介な代物でね。シェアクリスタルってあるじゃない? シェアの結晶」
「ええ」
「それが液状になった、シェアブラッドってのが発見された場所が、九龍アマルガム。どうして厄介かって、それさ。誰でも守護女神のような力を得られるってのが問題なんだよね。そんなものがあるって知ったらどうなると思う? 誰も彼もが求めて戦争おっぱじめるに決まってんじゃん」
国民の信仰心に頼らないシェアエネルギー。それがどれほどの脅威かは女神であるネプテューヌ達がよく知っている。信仰心に左右されることのない女神の存在。
「大魔導師は、それを自分にぶち込んだ。だからアイツにとって自国の信仰心なんて副産物に過ぎない。常に全開の状態なんだから。それと肩を並べてた先代アゴウの女神はもういないし」
「じゃあどうやって倒すの?」
「そうだねぇ。消耗戦になるけど、大魔導師の体内からシェアブラッドを全部引っこ抜けば消滅するんじゃないかな」
「で、でも! シェアエネルギーはどうあっても」
「うん、十割が限界。だけどそれに追加でシェアエネルギーが足されたら? 答えは簡単」
「私達四人でも足りないわね……」
「……エヌラス……」
敗北感だけが重くのしかかる。どうにか……どうにかして勝つ方法がないか。シェアエネルギーを打ち消す方法……――――そこで、ノワールが唐突に思いついた。
「ネプテューヌ。アナタ、覚えてるかしら」
「え? なに? 今まで食べたパンの枚数?」
「違うわよ。無理にネタぶち込まなくていいから。ほら、マジェコンヌに捕らえられた時のこと」
「うーん、マザコングは毎回出てきてるからちょっとどれのことだか……」
「アンチクリスタルよ!」
「あ、それなら確かにシェアエネルギーを打ち消せますね! でも、私達じゃ使えないんじゃ」
「うっ……そうだったわ……」
シェアエネルギーを打ち消すアンチクリスタル。その存在を忘れていた。だが、それを使う手段がない。どうあっても絶望が立ちはだかる。それでも――“諦める”わけにはいかない。
「クロックサイコなら知ってるんじゃない? 不気味だからわたしとしてはあんまり会いたくないけど……」
「神出鬼没なアイツが、話の通じる相手だといいけどね」
「そもそも~、会えるのかって話だよねぇ~」
勝算だけが薄れていく。そんな敗色濃厚な空気をかき消すようにユウコが手を叩いた。
「はいはい、この話はこれまで。やめやめ。まずは、ご飯! 腹いっぱい食べて、お風呂入って、朝までグッスリ寝なさい! 疲れてるから俯いちゃうんだよ。顔上げて!」
「ユウコはホント、強いわね」
「あったぼうよー。ユノスダス国王舐めんなって! 教会に連絡入れておくから四人とも、好きに使っていいよ」
「あの、ユウコ様?」
「なに?」
「病院内では携帯電話のご使用を控えてください……」
「あっはい、ごめんなさい」