超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ネプテューヌ達が朝のユノスダスを走る。いつになく賑やかなのは、間違いなくユウコの放送を聞いたからだろう。ふと耳を傾ければ――。
「おい聞いたか! ユウコ様が世界滅亡キャンペーンやるってよ!」
「勿論聞いたぜ! 乗るしかねぇ、このビッグウェーブに!」
「そうと決まれば倉庫から商品引っ張りだして在庫処分セールだ!」
「おお! 俺も倉庫売り払うぜ!」
「テメェふざけんな! それ反則じゃねぇのか!?」
「稼げばよかろうなのだァーーー!!!」
朝の喧騒も不安からは程遠いものだ。ユノスダスの人間達は心底強いと、ノワールは思う。脳天気とも言うが。
「みんな~、走るの速いよ~」
「ああ、もう! プルルート、もっと速く走れないの!?」
「無~理~! 変身してもいいなら~……」
「ペース落とすから変身するのは待って!?」
ふと、ネプギアが上から聞こえてきた足音に顔を上げる。そこではやはりユウコがスカートなのにも関わらず屋根を飛び移っていた。
「洗い物終わったから来ちゃったユウコです! おらー、守銭奴どもー! 今夜のセール準備はできてるかー!」
『オオオォォォォーーー!!!!』
「よっしゃーーー!! 気合は足りてるかーー!!」
『うおおおおぉぉぉーーー!!!』
「じゃあ喋ってないで店の準備しろぉぉぉっ!!」
『理 不 尽 過 ぎ る!!』
ケラケラと底なしに明るい笑みでユウコはプルルートを背負うと、中央病院を指差す。
「ふえ~?」
「よーし、しっかり掴まってー、ぷるちゃん。ゆうちゃんタクシー発進! 風になーれー、私!」
「あ~~~~~れ~~~~~~…………!」
あっという間に遠ざかるプルルートを見送って、我に返ったネプテューヌ達が慌てて駆け出す。
「ぷるるんに先越されるー! ネプギア、急ぐよ!」
「は、はい!!」
「アクセス!」
「ちょっ、ノワール。変身しちゃう!?」
「速けりゃいいのよ! お先!」
「もー、負けず嫌いなんだからぁー!」
持ち前の機動力を活かして、ブラックハートがユノスダスの上空を疾走した。こうしてはいられないとネプテューヌとネプギアも変身して後を追う。しかし、それでもゆうちゃんタクシー(ほぼ全力疾走)には追いつけなかった。
中央病院前で合流したものの、プルルートは目を回している。
「きゅう~……フラフラするぅ~~……」
「ああ……またタイムを縮めてしまった……こりゃ世界記録も狙えるね」
続いて二番手にブラックハート。最後にパープルハートとパープルシスター。変身解除して病院に入り、エヌラスがいる集中治療室へ急ぐ。病院の廊下を走らないでくださいという注意を無視してユウコまでもが走っていた。
「エヌラス!」
扉を開けると、ちょうど呼吸器を取り外して点滴を抜いていたエヌラスがこめかみを押さえる。
「……」
眉を眉間に寄せて、睨むようにネプテューヌ達を見つめていた。
「いや、悪い。よく見えなくてな、えーと……多分ちんちくりんはネプテューヌ、だよな。となると……ノワール、ネプギア、プルルートも一緒か……で、そっちは……ああ、ユウコか。テメェ朝っぱらからなんつう頭の悪い放送流してんだ」
再度点滴を抜こうとして、空を掴む。空振った手に血を巡らせるように軽く振ってからもう一度掴もうとして、また外す。手を顔に近づけて、面倒になったのか点滴を口で引き抜いた。心電図に繋がれた電極も片端から外していき、立ち上がろうとしたエヌラスの身体がたたらを踏む。
「お?」
そのまま力が入らないのか、ベッドに座り込んだ。
「……参ったな。動きづれぇ」
まるで他人事のようにボヤくと、ごまかすように包帯を外し始める。
「んで、いきなり朝からなんの用だよ。仮にも重病人だぞ、俺」
本当は分かっている、それでも聞かずにはいられなかったのだろう。
「……エヌラス」
「心配すんなよ。大丈夫だ」
包帯の下。無理矢理引き剥がされた魔術回路の跡がミミズ腫れのように赤くなっていた。何もしなくても指先が震えている。
「大丈夫じゃないでしょ。満足に立ち上がれなくて、なに強がってるのよ」
ノワールに言われて、苦虫を噛み潰したように顔を渋らせたエヌラスは頭を掻いた。一朝一夕で治るような怪我ではない。今までならともかく、今の身体では常人のように時間を掛けて療養すべきだ。
その様子を見ていたユウコが大股でズカズカと近づくなり、頭を叩いた。
「絶対安静。いいな」
「ふざけんな。時間がねぇんだよ」
「そのためなら死んでもいいって?」
「その質問は聞き飽きた。タダじゃ死なねぇよ」
「当たり前でしょ。葬儀代だってお金かかるんだから」
「エヌラス。銀鍵守護器官がなくても戦える?」
「ああ。いける、問題ない。ただ、今はちょっと目が霞んでな……メガネ買ってくるか」
「そういう! 問題じゃ! ないっての!」
ユウコの頭突きにエヌラスが悲鳴を挙げてベッドに沈む。
「戦えるとか戦えないとか、私が聞きたいのはそういうことじゃないんだよ! 戦うなって言ってんだよ! お前どんだけ自分を追い込めば気が済むんだよ! 締め切り直前の漫画家とか同人作家じゃねぇんだからちょっとは休め!」
「ユウコ」
「大体銀鍵守護器官を奪われたお前が――って、なに?」
「えっと。エヌラス……気絶しちゃってる……」
「え?」
ユウコは仮にも吸血鬼であり、エヌラスは絶望の魔人とはいえ、そのスペック自体は人間とさほど変わりはない。その身体能力の差が顕著に現れているのは、頭突き一発で気絶したエヌラスを見れば一目瞭然だった。それにはユウコも思わず涙目で狼狽えている。
「えっ嘘、なんで? マジコレ? な、なんで? あれ? だっていつもなら、え……銀鍵守護器官ないとコイツこんなにもろいの?」
「あたしもビックリだよぉ~……」
「驚いてる場合じゃないでしょ!? エヌラス、大丈夫? しっかりしなさいよ、もう!」
「刻が見える……」
「なんか見えちゃいけないもの見えてない!? エヌラス、しっかりー! 傷は浅いよ!」
「あのー、病室では静かに……あと、その人重傷なのでできればあまり身体に負担は……」
五人の背後で看護師が申し訳無さそうに進言していた。
意識を取り戻したエヌラスに、体の不調を主治医から説明すると、苦い顔をする。無理もない。この先に待っているのはかつての恩師と、死んだはずの妹だったのだから。そして、クロックサイコもキンジ塔で待つと言ってそれきり姿を見せていなかった。この土壇場にリタイアでは浮かばれない。
「……なぁ、先生。どうにかならねぇか」
「無理ですね。ユノスダスの医療技術ではこれが限度です」
専門の医師が言うのだから、これ以上というのは有り得ないのだろう。その原因が銀鍵守護器官の強制摘出であるのはエヌラスも身体を見て十分理解している。回路の損傷も酷く、再生は不可能と診断された。それは、つまり死刑宣告に等しく。
「今の俺は魔術が使えない。そういうことか」
「ええ。残念なことに」
ネプテューヌ達も覚悟していたことだが、改めて突きつけられるエヌラスの身体状況に言葉が出てこなかった。
「完全に足手まといだな、こりゃ」
自分を客観的に観察して、自分のことをそう判断する程度の冷静さは失ってはいない。以前のように、無理矢理“螺旋砲塔”神銃形態で両腕の回路を焼き切ったのとは理由が違う。そもそも精製と貯蔵が出来ないのだから。アクセル・ストライクですら使用できない状態である。エヌラスは気まずそうに言葉を探していたが、どうにもならないのだ。怪我そのものですら命に関わる状態で戦闘に参加すら出来ない。今まで無理をしていたツケが全てやってきた結果が――コレだ。
無力感に苛まれて、それでも考えて、考えて。考え抜いて……エヌラスは、うなだれる。
何もかも無くしてしまった。大魔導師に全て奪われてしまった。当然の報いだ。自分は大魔導師から未来を奪ったのだから。
「エヌラス…………」
「……俺は、ここまでか。先生」
「そんな身体で戦おうとする精神力は認めます。が、無理です」
「……俺は」
「“諦めてください”」
「――――――――――――」
何か言い返そうとして、それでも材料がなくて。エヌラスは何も言い返せなかった。
無理なのだ。そう、戦えない。自分に出来るのは“諦める”しかない。それだけが残された。
空いた左胸を掴んで、そこに在るはずのものがなくなって、たったそれだけでエヌラスは何も出来なくなっている。脆くて、弱い人間として。
「ネプテューヌ、ノワール、ネプギア、プルルート……」
「……エヌラス。いいよ、分かってるから」
「そうよ、私たちに任せなさい」
違う――自分が聞きたいのはそうではない。言いたいことは、そうではないのだ。
「ここから先は、私達が頑張ります!」
「だからぁ、安心して~」
「……」
彼女たちは戦おうとしている。挑もうとしている。大魔導師に、妹に。
それを止める是非もない。ただ、そこに自分が共に行けないということだけが辛かった。
無力だと、言葉にされなくても言われているような気がして。
「ねぷちゃん達、ホントに行くつもり?」
「もちろん! これ以上待っててもアダルトゲイムギョウ界が滅ぶだけだからね!」
「そうならない為に私達がいるんだから、当然でしょ、ユウコ」
「じゃあ、エヌラス。わたし達行ってくるよ」
「今までで一番きつい戦いになると思いますし、準備はちゃんとしていきましょう」
ネプテューヌ達が中央病院を後に去っていく。ユウコとエヌラスはそれを見送った。
「あれ、ぷるるん? 置いて行っちゃうよ?」
「え~っとねぇ~、すぐ行くから~」
「そっか。じゃあわたし達先に外で待ってるから抜け駆けしないでよ?」
「え~。どうしよっかな~」
頬を赤らめるプルルートは、うなだれるエヌラスの頭に手を置くと髪を梳くように撫でる。
「よしよし~」
「……慰めてるつもりか?」
「そのつもりだったんだけどぉ~……イヤ、だった~?」
「いや……ありがとな」
「じゃ~、あたしにもしてほしいなぁ~」
「……ほら」
寝癖だらけのボサボサに跳ねた頭を撫でると、プルルートは嬉しそうに笑った。
「えへへ~」
「プルルート、悪いな。最後に全部、お前達に押しつけて」
「ううん、いいよぉ。だってエヌラスはぁ、今まであたし達の為に頑張ってきてくれたから~」
ニコニコと笑いながら頬を指を当てて。
「だからぁ~、今度はあたし達がエヌラスの為に頑張るよ~」
「お前達だって、頑張ってきただろ。お互い様だ」