超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
決戦の地は、どんな因果か九龍アマルガム。その地上焼土。かつて大魔導師とエヌラスが血で血を洗う死闘を繰り広げて消滅した土地。神意なき場所に佇むのはミスカトル大時計塔が
その全長は見上げるほどであり、背丈にしておよそ六十メートル。大時計塔の質量では成し得ない超魔導的、呪術的に精通した大魔導師が成し得る偉業で作り上げられた異形。
ネプテューヌ達はユノスダスで一通りの装備を整えてから決戦の地へと赴いていた。
「ねぇ、ぷるるん。エヌラスと何してきたの?」
「え~っとねぇ。頭ナデナデしてもらってきたんだ~」
「いいなぁ……」
「それならわたしもしてもらってくればよかったなー。ずるいぞー、ぷるるん」
「じゃあ~、あたしがねぷちゃんなでなでする~。な~でな~で~」
「はぁ……気楽でいいわね。これから大魔導師と決戦なのに……」
「ま、まぁいいじゃないですかノワールさん。お姉ちゃん達らしくて」
「それもそうね」
ノワールが肩に止まった虫を払いのける。
「それにしても……長いようで短かったわね」
「そうですね。一月もいなかったはずなのに……」
ネプギアは自分の前を飛んでいた羽虫を追い払い、ノワールは足元に潜り込みそうになっていたムカデを避けて歩いた。
「……ねぇ、私の気のせいかしら?」
「どうかしたの? ノワール」
「なんか、虫が多い気がするのよね」
「虫……というと、クロックサイコだよねぇ……」
「あたしぃ、苦手~」
「わたしもだよー、ぷるるん」
「というか、得意な人の方が珍しいと思うんだけど……どうせ居るんでしょ、クロックサイコ。隠れてないで出てきなさい!」
ノワールの言葉に応じるように、木の幹に虫が集まり這い上がる。太い枝の上で人の姿に形作ると、そこから一人の魔人が現れた。
「やァ☆」
まるで親友同士の気さくな挨拶に、ネプテューヌ達は警戒心を露わにしている。クロックサイコは大仰に身振り手振りで嫌がる仕草でおどけてみせた。
「つれないなぁ、つれないネ。君達と戦いに来たわけじゃないんだヨ。ちょっと忠告をね」
「忠告? アナタが、私達に?」
「そうだよ。なにかいけないことでも?」
「どうして?」
「どうしてかって聞かれると、どうしてだろうネ~? ただ僕が困るだけってだけかな? そうかな? どうだろうねぇ」
ケタケタと不快な笑い声を挙げてクロックサイコは飛び降りると、音もなく着地する。
「それで。挑むつもりかい? あの大魔導師に」
それにネプテューヌ達は頷いた。アレさえ倒せば全てが解決する。そんな考えはクロックサイコの落胆の吐息によって疑問が浮かんだ。
「大魔導師はあくまでも始まり。終わりじゃないんだヨ。元凶ではあるけれど解決じゃないのサ」
「それってつまり……」
「大魔導師を倒しても世界の滅亡は止まらないってことですか?」
「ソウっ! なぜなら大魔導師はこの聖戦、塔争から既に脱落してるからね。エントリー外の乱入じゃ意味はないのさ」
だからこそ、そこに目をつけた。部外者としての存在に。神格者としての地位も名誉も捨てて、国王という椅子すらも投げ打って。
「じゃあ、一体どうすれば」
どうすればこの戦いを終わらせることが出来るのだろう。塔争を。世界の滅亡を止める為には大魔導師という敵はあまりに強大過ぎた。クロックサイコは笑いを堪えている。
「簡単サァ。この世界を司る大いなる“C”に挑めばいい。勝てばいいのサ。簡単な話だろう?」
「それはそうだけど……」
「その為には、まず神格者が持つシェアエネルギーをこの世界に還元して、キンジ塔を喚び出さなきゃ、ネ。計算外だったのはムルフェストが自分のシェアを使いきったことなんだけどネ~」
それさえなければ今頃はキンジ塔が出現していた。そういうことらしい。
「ドラグレイスさんは?」
「サァ? 生きてるかどうかは知らないヨ。バルド・ギア、アルシュベイト、そしてムルフェストがいなくなったことで出現する予定だったんだけど、ボクとしては?」
その目論見が外れて、クロックサイコは大仰に嘆いてみせた。
「嗚呼まったくヤんなるね。上手くいかないものだヨ」
「あなたの目的は何?」
「なんだと思う?」
「そうね。敵なの、味方なの」
「ぼかぁどっちでもいいじゃないか。時と場合によりけり、カナ」
「エヌラスさんに、正しく怒ってもらうって言ってましたね。あれはどういう意味ですか」
「そのままの意味サ」
肩をすくめて、壊れた懐中時計を見るとクロックサイコは遠方にそびえ立つ巨人を見上げる。
「だけど、どちらにせよ大魔導師はキミ達の前に立ち塞がる最大の障害になるだろうネぇ」
「アレに挑むのかぁ……説明不要なくらいデカすぎて、部位破壊とか考えてらんないなー」
「アナタ、こんな時でもよく言えるわね……」
「まぁ、エヌラスのおかげかな。諦めなかったら絶対になんとかなるよーノワール」
「はぁ……そうね。主人公補正でなんとかなるんじゃない?」
「珍しくノワールさんがツッコミ放棄してる」
「どうしちゃったの~?」
「ネプテューヌと同じよ。エヌラスに感化されて、なんとかなるんじゃないかって思ってるの」
医者は諦めろと言っていた。だが、エヌラスが諦める姿を見たことがない。挫けそうになっても、折れそうになっても必ず立ち上がってきた。そのボロボロで、お世辞にもカッコいいとは言えない青年と今まで共に戦ってきて、ここまで来れたのだから。だから、今度はこっちがボロボロになっても戦う番だ。絶対に諦めたりなんかしない――そう胸に誓うネプテューヌ達に、クロックサイコは小さな拍手を送る。
「いいね。いいねぇ。それでこそ、女神様☆ そんなキミ達にボクから一つ贈り物をしようかな」
マントの下から取り出したのは小箱。その中には指輪が四つ。その装丁には見覚えがあった。
汚れを知らない乙女の純潔のような白さ。透き通るようでありながら確かな存在感を見せる指輪は、エヌラスが身につけていたシェアリングと瓜二つだった。
「これ、エヌラスさんが付けているのと同じ……」
「そうサ。彼はああ見えて手先が器用だからネ」
「でもどうしてアナタが持ってるの?」
「そうだねぇ……なぜ、と聞かれたら答えられないね。答えたとしてもキミ達には関係がないだろうし、どちらにせよ敵に塩を送るのも悪くないかな。まぁまぁいいじゃないか。キミ達に死なれてもボクは困るのさァ」
「……どうして?」
「彼には正しく怒ってもらいたいからね☆ じゃあ一足先にキンジ塔で待ってるヨ~~!」
「あ、ちょ!?」
呼び止める暇もなく、クロックサイコはネプテューヌ達の前から姿を消している。立っていた場所には四つのシェアリングを残して。
ノワールは小箱を拾い上げてシェアリングをひとつ手にする。注意深く観察するが、何か仕掛けのようなものがあるわけでもなさそうだ。魔術的な仕掛けも施されていない、まっさらな指輪。
“エヌラスと、お揃いなのよね……”
そう考えるだけで――ノワールの視線は自然と左手の薬指に向かっていた。頬が熱くなる。
“や、やだ何考えてるのよ!? 別に婚約指輪ってわけじゃないし! け、けけけ結婚を前提にお付き合いしてるわけでもないしこれはあくまでも装備よ装備! アクセサリ! 装備欄!”
悶々と悩んでいるノワールの横からネプテューヌとプルルートが指輪を取り、迷うこと無く左手の薬指に嵌めた。
「あっ!」
「装備してみたけど、特に変化はないかなー。ぷるるんは?」
「え~? あたしぃ~? う~ん……そうだなぁ~……」
プルルートはしばらく左手を見つめて、頬を赤らめる。
「なんだかぁ、胸がポカポカして頭がホワァ~って感じかな~」
「えーっと、お姉ちゃんが聞きたいのはそういうことではないような気が……」
そうは言いつつも、ちゃっかりネプギアも左手の薬指に指輪を付けていた。そうなると引くに引けないノワールはやはり同じ指に。
装着してみても、確かに変化は感じられない。ただの指輪だったのだろうか? そんな疑問が浮かび上がるが、自分の薬指に付けているというだけで特別な感情が湧き上がってきた。
そして、九龍アマルガム地表焼土にネプテューヌ達は辿り着く。空を覆わんばかりの月を背負って立ちはだかるのはミスカトル大時計塔が“変神”した時計仕掛けの亡霊。そのコックピットに坐するは、大魔導師。エヌラスの師にして全ての元凶。もう一人。絶望から生まれた魔人の片割れであるエヌラスの妹――無尽蔵の絶望、ヌルズ。