※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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episode130 地獄の沙汰も金次第。この世も所詮は金次第

 

「……来たか、別次元の女神達」

 その声は互いの距離など関係なく、ネプテューヌ達の頭に透き通るように聞こえてきた。

 

「コイツ、直接脳内に……!」

「いや、ちょっとした魔術の応用で声の通りを良くしてるだけだ」

「案外ノリが良い方なんですね……」

「まぁ、それは良い。アイツはどうした? 銀の鍵を無理矢理引き剥がされた以上、それなりに身体に影響は出ただろうがな。それで死ぬとも思えんが――キンジ塔はまだ出現しない」

 ネプテューヌ達はその言葉が終わるより先に変身して武器を構えている。だが、まるで構える素振り一つ見せずに時計仕掛けの亡霊は立ち尽くしていた。

 

「ええ、そうよ。だけど貴方が私達の前に立ち塞がる以上、押し通らせてもらうわ!」

「それは殊勝な心掛けだな――ならば俺も相応の手合でいかせてもらうぞ」

 時計仕掛けの亡霊が起動する。全身の歯車がギチギチと回り始め、奇妙に噛み合いながらパープルハート達の前で拳を作ると、大きく振り上げた。

 

「ウォーミングアップだ。コイツを上手く動かせるかは俺もまだ半信半疑でな、上手く加減してくれよ」

「ああ、そう。なら準備体操で完膚なきまでにぶっ壊してあげるわよ!」

 ブラックハートが振り下ろされる拳を軽やかに避けて、装甲に覆われていない内部機関へ向けて大剣を突き刺す。だがその刃先が内部に到達することはなく、装甲の隙間を覆う見えない壁に阻まれていた。パープルハート達も同様にかすり傷一つつけることが出来ずに一度距離を置く。

 

「コイツをただのロボットだと思うなよ。俺が一世一代の浪漫を注ぎ込んだ“機械仕掛けの神”なのだからな」

「この波長は……シェアエネルギー?」

「ご明察だ、紫の女神。さしずめ、シェアシールドと言ったところか」

「シェアを世界の破壊に使うなんて!」

「ところが、だ。世の中には一定数、必ずいるものなのだよ。不思議ではない。お前達の世界にもいるはずだ――世界の終わりを願う者がな。コイツも俺も、その信仰心で動いている」

 大魔導師の言葉でパープルハートの脳裏に浮かぶのはひとりの魔女の姿だった。

 手遅れかもしれない。いや、そんなはずはない。

 ここで諦めるようなことなんか絶対にしないはずだ。あの人ならば。

 

「それで? お前達はその微かなシェアで俺達に挑むというのか」

「賭けるだけの可能性はあるわ、大魔導師」

「絶望的だろうがな」

 確かに絶望的かもしれない。女神といえど、その絶対的な質量差は覆せない。それでもと願い、想い、信じている。この状況を自分たちならば何とかできると。

 どこかに必ず弱点があるはずだ。大魔導師も神格者と言えど、完璧ではないはずなのだから。

 

「レイジーズダンス!」

「クリティカルエッジ!」

 ブラックハートとパープルハートの二人が剣撃を重ねて一点突破を試みる。が、しかし異なるシェア同士の反発によって二人の攻撃は装甲を破ることは叶わなかった。届いているのかどうかすらも危うい。

 クロックワーク・ファントムの体表を紫電が奔る。

 

「ニコラ・テスラ」

 指先から光球が放たれ、パープルハート達が避けようとするが追尾を振りきれず、防御に転じた。弾かれるように吹き飛び、歯噛みする間にも絶え間なく迫る光球が視界を白く灼き尽くす――。

 

 

 

 ――ユノスダス中央病院の一室へと向かうエヌラスに手を貸して、ユウコは隣を歩く。時折、転びそうになる身体を支えていた。

 病室に辿り着いて、ベッドに腰掛ける。その表情は、どこか遠くを見つめていた。

 

「……」

 無力感に苛まれて、エヌラスは髪をかき上げる。ここまで来て、諦めるしかないのか――最後は全部ネプテューヌ達に押しつけて、自分はユノスダスでただ待つことしか出来ないのだろうか。

 大魔導師も、ただひとりの妹も。クロックサイコとの因縁も。大いなる“C”への挑戦も。まだやるべきことは残っている。こんなところで悠長に休んでいる場合ではないというのに。

 

「…………」

 ユウコの顔を盗み見ると、口をへの字に曲げて腕を組んでいる。豊満な胸を邪魔そうに持ち上げながらふんぞり返っていた。面白くなさそうな表情で。

 

「なに考えてんだ、バカ」

「バカってなんだよ」

 唐突に口を開いたと思えば罵倒が出てきた。訝しむエヌラスを余所に、ユウコは続ける。

 

「まさかとは思うけれど病院を抜けだしてねぷちゃん達を追っかけようとか思ってない?」

 そんなことはない、と断言したかった。だが本音を言えば、ここで待っているわけにはいかないのだ。何故なら、自分の戦いはまだ終わっていない。

 深々と息を吐いて、ユウコは更に続ける。

 

「止めとけよー? 今のエヌラスじゃどう頑張っても、それこそ天地がひっくり返っても足手まとい以上にはならないんだから。迷惑かけたくなかったらおとなしくしてろって」

「…………」

 分かっていた。誰よりも自分の身体を理解しているつもりだ。なのに、空いた左胸の鼓動がやけに熱い。無理だと言われて、諦めろと言われて。これ以上はもう戦えないのだと専門家に宣告されて、この体はまだ動こうとしている。無謀の極みに思わず鼻で笑ってしまった。

 

「そうだな……」

 ここまで来たのだ――もう、いいだろう。そろそろ休ませてくれても……。

 エヌラスがベッドに身体を預けようとして、ユウコがその肩を掴んだ。

 

「ホントにいいの?」

「しょうがねぇだろ」

 これ以上は無理なのだから、そう言おうとしていたエヌラスの襟首を掴みあげてユウコが肩を揺らす。

 

「だから、ホントにいいのかって聞いてんの!」

「おいばかやめ……! 脳みそ揺れる! 俺に何が出来るってんだ!」

 銀の鍵をただ無くしたというだけならまだいい。だが全身の魔術回路が身体に影響を及ぼす損傷を負ったのだから、これほど深刻なダメージで何が出来る。複雑骨折した状態でスポーツするようなものだ。

 

「なんでだよ! どうしてそこで諦めるんだよ、そこで! 諦めんなよ!」

「他人事だと思ってるから言えるんだよ! いいか、俺は元々“ただの人間”と変わらねぇんだよ! 今まであんな無茶できたのも全部“銀鍵守護器官”のおかげだ! 俺ぐらいのことなんて銀の鍵持ってるやつなら誰でも出来るんだよ!」

 そう。無限の魔力貯蔵庫である銀鍵守護器官があれば、誰でもエヌラスと同じことが出来る。身体に埋め込みさえすればその機能は正しく稼働する。

 

「ただの人間が自惚れて、女神と対等になろうだなんて思い上がったバチが当たったんだろうよ」

「神格者はその為の役職だろうが! 確かにそうだよ、銀の鍵があれば誰でもお前くらい強くなれるさ、ああそうだろうよ! 誰でも出来るかもしんないけど、でも、それでもエヌラス――お前は諦めなかったじゃんか!」

「それぐれぇ、誰でも」

「出来ないよ! 出来るわけないだろ!」

 頭ごなしに否定されて、エヌラスは反論のタイミングを逃した。

 

「銀の鍵があるからといってアルシュベイトと決闘とか私、無理だし!」

「テメェを前例に出すんじゃねぇよ!」

「誰でも出来るとか言ったの、誰 だ よ!」

「俺 だ よ!」

 

「あのーですから病院では静かに……」

 二人に睨まれたナースが涙目で病室から離れていく。

 

「諦めたらお前じゃないだろ!」

「だったらどうしろってんだよ! 銀の鍵も奪われて、魔術回路もボロボロで、満足に身体も動かせない奴が、アイツ等の為に何がしてやれんだ!」

「――――の、バカ野郎ッ! 一緒に来い!」

 言うが早いかユウコはエヌラスの腕を掴んで病室の窓から飛び出していた。当然ながら重傷患者であるエヌラスには寒風を浴びる痛風患者の如く全身に激痛が走る。だがユウコはそんなことお構いなしに突っ走っていた。

 

 

 

 エヌラスが連れてこられたのは、ユノスダスの教会。その地下倉庫。

 

「テッメ……馬鹿か……死ぬかと思ったろうが……!」

「馬鹿は死んでも治らない不治の病だバーーーーカ!」

「今すぐにでも殴り倒してぇ……!!」

 それが叶えばいいが、今の身体では無理だ。ユウコが胸の谷間から鍵を取り出して南京錠を外す。厳重な管理下にある地下倉庫に立ち入るのはエヌラスも初めてだ。もしかすると以前は知っていたのかもしれないが“今回”は初めてである。

 長年開けられることのなかった地下倉庫の錠前が外され、地下の冷えた空気がエヌラスに吹き付けた。そして、ユウコが灯りを点ける。

 エヌラスは眼前に広がる光景に言葉を失った。

 

「お前、これ……」

 それは、犯罪国家九龍アマルガムがまだ可愛く見えるほどのおびただしい量が敷き詰められた違法薬物、違法改造車両、違法改造の銃火器。九龍アマルガムがまだ発展途上だった頃に流通したような超特級危険物までもが保管されていた。ここにある品々だけで一国を征服するなど容易い。ユウコが得意げに腕を組む。

 

「お前、ここを何処だと思ってるんだ? 商業国家ユノスダスだぞ! 金さえあれば命も安い商業国家舐めんなよ! 金で全て解決出来る国を馬鹿にすんな! 何が必要なのか言ってみろ! 出すもん出せばこっちも対価に見合う商品用意してやる!」

「――――」

 高純度の黄金の蜂蜜酒、それもまだ法律が緩かった頃に製造された年代物。その危険性はと言うと、それ一本で魂まで根こそぎ持っていかれるような高揚感と魔術的感覚の鋭敏化。使用した人間が僅か一ガロンで廃人同然になる危険物。臭いだけでも一般流通品の百本分に相当する。

 イブン・カズイの粉薬――これも材料に遺体の埋葬された墳墓の土を使用することから、墓荒しとして厳しく取り締まりされることから入手は困難を極める。

 偃月刀。霊的物質を高める装飾の施された弾丸。威力が高過ぎるが故に採用の見送られた軍事国家アゴウの開発した超長距離支援火砲。まさにアダルトゲイムギョウ界のパンドラの箱とも言うべき絶望が所狭しと押し込まれた技術力の巨大墓地(カタコンベ)だった。

 商業国家ユノスダス。金さえあれば問答無用に合法違法問わずの品が手に入る世界の台所。

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