超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユウコがここに自分を案内したということは――その意図は分かる。だが生憎と、今の自分は一文無しだ。一生払いきれないような金銭額を要求されたとしても返せる見込みなどない。いや、そもそも以前から支払いに駆り出されていた未払金の返済さえ満足に終わっているかも危ういというのに。
「ユウコ、悪いが――」
「言ったろうエヌラスー? 今日は世界滅亡キャンペーンだって。在庫処分セールだ! 出血大サービス! 全部持ってけセーラー服!」
「いや、女装趣味はねぇよ」
「呪いのセーラー服なら裏路地の怪しい露店で売ってるけど」
「買わねぇ」
「んで? 今更何を悪びれて謝ろうとしてるのさ」
「俺は、金が無い。分かるだろ、それぐれぇ」
呆れた溜め息を深々とそりゃもう呆れ果てて、眉を八の字にしながらユウコがエヌラスの肩を叩いた。
「知ってるよ、それくらい。お前に足りないもの、それは――情熱思想理念理想気品優雅さ勤勉さ! そして何よりもォォォ――自分らしさが足りてない! まったくこれっぽっちも!」
「気品と優雅からはかけ離れてるが、勤勉さはあるぞ。状況次第で」
「お前が金無し宿なし職なしなことぐらい知ってんだよ! 呆れるほど知ってるわ!」
「職はあるっつの」
「だけど、なんだよ! 今のお前はまるっきり、いつものエヌラスらしくない!」
薄暗くて見づらかったが、目を細めてユウコの顔を見ると頬を伝う一筋の涙が流れている。泣いたり怒ったりと忙しい女だなと間の抜けた事を考えながら、どうして泣いているのか分からなかった。
「専門家に言われたくらいでなんで諦めるんだよ! 諦めないお前が好きな私が馬鹿みたいだろ! 諦めなかったお前だったから、今までずっと好きだったのに、なのに……なんで、この程度で諦めた! まだ戦えるだろ! やれよ! 持ってけよ、全部!」
「――――ユウコ……」
「金が無くてもいい! 宿がなくてもいいよ! 仕事なくても、幾らでも紹介してやるから! だけどさ……! お前のその、諦めの悪さだけはお前じゃなきゃどうしようもないだろ!」
好きだと言われて、そう思われていたとは全く気づかなくて。案外、自分も鈍い男だったのだと思い知らされる。
改めて――地下倉庫内を見渡し、自分に足りていないものは戦う覚悟だけだ。
ネプテューヌ達の為にならこの命の全てを投げ捨ててもいい。本当にそうか? 自分に改めて尋ねる。そうだ、と胸を張れる自分がいた。後悔が無いと言えば嘘になる。だが、ここまで来た以上は引き下がれない。立ち止まる暇さえないのだ。あとは走り抜けるだけ。この体が動いて、壊れて、本当に指一本動かなくなるまで。
剣が折れても腕に括りつけて戦おう。矢が尽き、弾が尽きても骨肉を込めて。足掻いて、藻掻いて、どれだけ惨めで情けなくてもいい。
最後は、ハッピーエンドでお別れしようと彼女たちと約束したのだ。
だから今。ここで自分が折れるわけにはいかない。最強の“
「ありがとな、ユウコ。そういうことなら遠慮無く借りてくぞ、ここにあるやつ。ありったけな」
「返してくれるなら、借りてけ。返せないなら持ってけー」
「んじゃ、貰ってくわ」
「まったくもう、こんな太っ腹な私は二度と無いんだからな!」
見捨ててくれてもいいのに。何もせずともいいのに、ユウコは背中を押した。エヌラスが何を考えているか、本当は彼女たちの傍に居たいのだと知っている。
「脂肪集まるの、胸だけじゃねぇんだな……」
「あったぼうよ! 私は好き嫌いしないから全身にバランスよく肉がつくの!」
「お前はホント、いい女だな。世界がこんなんじゃなけりゃ、俺がこんなんでなけりゃ嫁に欲しかったよ」
「あー……うん、まぁ、そのぉ……エヌラスは、今のままでいいよ……私、尽くされるより尽くしたいし?」
照れ隠しに笑って見せるが、その頬が真っ赤になっていた。当のエヌラスは見向きもせずに装備を吟味している。
「エヌラス」
「んー?」
「これだけは、忘れんな。うちじゃ衣食住、全部用意してやれるから。だから――いつでも来ていいからさ。キミの胃袋はいつでも満たしてやれるだけしてやる余裕、私にはあるから」
エヌラスはユウコに顔を向けず、ただ親指を立てて見せた。
「ああ、頼りにしてる。俺が食ってきた中でお前の手料理が一番美味い」
パープルハート達は、大魔導師の操るクロックワーク・ファントムに劣勢を強いられていた。装甲表面を覆うシェアシールド。そして多種多様な魔術行使による攻撃に晒されて突破口が見いだせずにいる。しかし、所詮は巨大なロボット。機械仕掛けの神と豪語した所で弱点は“ソコ”しかなかった。
「こうなったら、コックピットを直接叩くわよ!」
「最初からそれで行ければ、苦労しないわよっとォ!」
光球を大剣で防ぎ、弾き返しながらブラックハートが先行する。その進路をカバーする形でパープルシスターがM.P.B.Lを連射して攻撃を未然に防いでいた。アイリスハートの蛇腹剣が周囲を覆う重力弾をなぎ払う。
眼前までたどり着き、一気に叩こうとして――悪寒が走った。無防備に晒される機械仕掛けの亡霊の首元にある搭乗席が開き、そこから身を乗り出したのは鮮血の如く赤いドレスを纏った小柄な少女。エヌラスの妹、絶望の令嬢、ヌルズ。スカートの裾を持ち上げて一礼すると、薄く微笑む。
「流石ねぇ、女神様達……」
「退きなさい。貴方じゃなくて、用があるのは大魔導師よ」
「そうはいかないわ。だって、まだ兄さまが来ていないもの」
「どういうこと?」
「貴方達を倒すのは、兄さまが来てから。目を覚まさせて、打ちひしがれて、絶望に帰依した兄さまを開放してこそなの」
「……言っている意味が分からないけれど、私達を倒そうっての? 上等よ」
「そうね……」
髪を弄りながらヌルズはブラックハートの突きつける大剣に手を伸ばした。その刀身をまるで愛でるように指先でなぞり、触れていく。
「私や兄さまは、絶望。あらゆる人が願った、零の始まり」
「……?」
「分かるかしら……守護女神とは間逆なの。女神は未来の為に。でもね、私達が生まれた場所はその零すら無い次元――存在すら許されなかった場所」
少女の手に浮かぶのは、双角錐。歪に輝く黒のトラペジウム。
「これは、私達の“
「…………」
守護女神として。ゲイムギョウ界の女神としての役割を考えれば、そうだ。少女の言う言葉に否定する材料はない。しかし、それとこれとでは話が違う。
エヌラスはそうかもしれない。絶望の魔人かもしれない。そうだとしても、今まで隣で見てきたのは何一つ諦めなかった往生際の悪い神格者。神に値する価値のある人間、神様候補生。
どうしようもない馬鹿で、度し難いクズで、ロリコンなのかもしれない気があるが本人全否定の説得力皆無ではあるが――だが。
「絶望、ね。そうね。確かに私達守護女神はそれを望まないわ。ゲイムギョウ界の為に、全てを無かった事にする絶望、ヌルズの存在を許すことは出来ない」
「でしょう?」
「だけどね、あの人はヌルズなんかじゃない。私達が知っているのは、度し難いクズでロリコンのエヌラスなのよ!」
「ひどい言い草……でも、それを知るほど兄さまと深い仲なのね」
トン。ヌルズがブラックハートの大剣を軽く叩いた。すると本人の意思とは関係なしに武装が解除される。呆気に取られて自分の手を見つめるブラックハートに、ヌルズはクスクスと口元を手で隠しながら笑った。
「こういうことなの。シェアクリスタルでも、アンチクリスタルでもない、私達の能力――無に還す。消滅じゃないわ」
言う通り、大剣を再度呼び出してブラックハートは改めて構える。
「んー、そうねぇ……ゼロクリスタルとでも名づけておく? わかりやすい方がいいでしょう?」
「そこを退いてもらうわよ!」
「嫌よ」
振り下ろされる大剣を軽やかに避けて、その後を追う薙ぎ払いを上体を逸らす形で更に避ける。切っ先を沈めた返し刃の切り上げをヌルズは手を添える形で受け流してブラックハートを投げた。空中で体勢を整える。
「今の……!?」
「あら、別に不思議じゃないでしょう? うふふ、だって私、兄さまの妹だもの。当然、こういうのは習ってても当然よ、女神様」
ヌルズの手に纏うのは、黒い手袋――ただ、それのみ。素手。無手。徒手空拳。得物らしい得物を持つこと無く、ブラックハートの攻撃を凌ぐ。
アイリスハートが高速で振るう鞭の先端も一瞬だけ腕をしならせると拳で弾いた。武術の腕だけで言うなれば、エヌラスと互角かそれ以上。
「とんでもない妹がいたものね……」
「古今東西、兄より強い妹は常識なのよ。守られるばかりじゃなくってよ?」
パープルハートの剣筋に合わせて拳を打ち込み、掌打で太刀を逸らすと正拳突きが身体を吹き飛ばした。スカートの裾を持ち上げて頭を下げる。
「はしたなくってぇ、ごめんなさい」
「なんか言い方がいちいちエロいわね……」
だが、コックピットの間近まで接近したことによりクロックワーク・ファントムからの攻撃はない。大魔導師も出てくる様子はなかった。