超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
巨神同士の剣が衝突する。剣風だけで台風じみた突風が起きて吹き飛ばされそうになるネプテューヌ達は身体を屈めて飛ばされないようにしていた。シルヴィオは逆にその風圧を利用してゾンビの群れを掃討する。
「オ、オオオオォォォ!!」
エヌラスが吼えた。鬼神の如き形相で叩きつける。偃月刀が金色の十字架を払いのけ、切っ先が脚部の装甲を切断した。が、浅い。まだ内部の動力を破壊するには至らない。その上、片腕というハンデは余りに大きい。クロックワーク・ファントムは左腕に光球を浮かび上がらせる。
防御魔法を展開して防いでいる合間に十字架が核となる箇所を突き崩した。ヒビ割れた防御に光球が叩きつけられ、崩壊する。
「クソッ!」
「相変わらず術式の基礎骨格が甘いな!」
十字架が機神の右腕に深く刺さった。それと同じくしてエヌラスの右腕からも鮮血が溢れる。
「エヌラスさん、血が」
「怪我してんだから血ぐれぇ出るわ! あぁぁぁイッテェェェクソがぁぁぁ!!」
傷口を押さえながら絶叫して、振り払う。拳を作ると、クロックワーク・ファントムの肩口に打ち込んだ。後ずさる巨体に、エヌラスは偃月刀を投げ放つ。それを十字架で弾くとあらぬ方向へ飛んでいき――二つに増えて戻ってくる。背後から飛んできた二本の偃月刀によって右肩と左足が大きく損傷した。
姿勢を崩した間にも機神の手には深紅の自動式拳銃を握りしめている。
「イア・クトゥガ!」
大砲のような銃声が響き渡り、衝撃が地面を揺らした。僅かに身体を逸らして避けた大魔導師は内心冷水を浴びせられたような心地で損傷した箇所を修復する。
その背後で、小型の太陽が二つ。花火のように瞬いて消えた。
「大魔導師、右肩と左足が損傷してるわよ?」
「修復しろ」
「はいはい」
「しかし、どうなっている。あいつは不死身か」
とっくに身体が壊れてもおかしくない薬物乱用と消耗量。常人なら発狂しているか体組織の構造が変異している。くすくすとヌルズが笑っていた。
「あの人は、バカだから。神に値するバカな人。バカにつける薬はないのよ、大魔導師?」
「……それは否めないな。バカの一念、神にも通ずか」
「油断してていいのぉ?」
言い終わる前に、衝撃がコックピットを揺らす。吐き出されるエラーメッセージに、大魔導師は苛立った。
「早く言え!」
「はぁいはい」
ヌルズは捉えようのない笑みを浮かべながら操縦桿を握り直す。
クロックワーク・ファントムはぎこちない動きで機体を制動しようとするが、その前に機神の裏拳で顔面を強打された。
「ふッ――」
構え、整息。体内の氣を練り上げて発勁。短い突きの挙動ではあるが、重心の安定しない体勢から大きく吹き飛ばされたクロックワーク・ファントムが仰向けに倒れた。
「そんなんじゃ転けちまうぞ、大魔導師」
こと、魔術に関する知識量では大魔導師に敵うはずがない。だが、機械仕掛けの神を操ることに関してはエヌラスの方が日が長い。増して、相手は初めて扱うのだから勝手も違う。とはいえ、手加減してやる理由など無い。ここで徹底的に破壊する。
「……これが、エヌラスの本来の力?」
「こんなのゲイムギョウ界で使われたらそれこそ一巻の終わりだよぉ」
たった一時間に満たない戦闘で周囲の木々がたわみ、暴風に晒されたようになっていた。周囲に何も残っていない九龍アマルガムの地表焼土だからまだいいが、ここに建造物があったらと思うとネプテューヌ達はゾッとする。片腕一本、それを振るうだけで教会もプラネテューヌも何もかも壊されてしまう。
神格者、神に値する者。守護神であるはずの者達にひとりだけ破壊神がいた。
バルド・ギアは想い人を。
アルシュベイトは国を。
ドラグレイスは夢を。
「エヌラス、ゲイムギョウ界でそれ使ったら絶交だかんねー!」
「テメェの為以外に使う理由がねぇ!! どぉらっせぇぇぇぇいッ!!」
エヌラスは、ただ目の前の対敵を破壊する。
大魔導師も不利を悟ったのか、距離を離して魔術を放つ。白銀の回転式拳銃を召喚すると迫る重力弾を相殺。だがリロードの隙を突かれて数発が直撃する。装甲が抉れ、部品が撒き散らされた。それに合わせてエヌラスの右腕からも血が吹き出し、顔をしかめる。
「ッテェなクソが! あーあ、骨見えてるし」
「ほ、骨!?」
ゴッソリと抉れた腕の肉だったが、すぐに真新しい肉が傷口を覆っていく。それは治癒ではなく再生に近い。まるで高速で巻き戻しているかのような光景に、ネプギアとノワールの顔から血の気が引いていた。
「うわ、グロ!」
「塩とか塗りこんだら染みそう~」
「やめろよ!? 治したばっかだから超イテェよ!?」
エヌラスは疲弊していた、肉体的にではなく精神的に。魂を限界まで燃焼させて空いた“第二の心臓”の代用を、己の肉体一つで補おうとしているのだから無理もない。爆発しそうなほど鼓動の早まる心臓を左手で押さえ、酸素を求める肺に大きく息を吸い込む。朦朧とする意識と、赤く染まる視界を拭う。鼻血が止まらず、血涙までもが流れ始めた。
それでもまだ、身体は動く。
魔術と剣撃の交差を繰り返し、損傷の都度、修復を繰り返す。そんな泥仕合とも言えるイタチごっこの幾度目かに、ヌルズは嘆息した。大魔導師に聞こえるように深々と。
“このままじゃダメね”
――兄が、まさか片腕だけの機神招喚を使うとは思いもしなかった。使えるとも思わず、時計仕掛けの亡霊は苦戦を強いられている。今一度、自分が握る操縦桿から伝わる機体の操作性を確かめて、違和感の原因を探した。
流石は稀代の大魔導師、その魔術の知識量を最大に活かした機体の構築。システム理論、全てにおいて神業の域でまとめ上げられていた。奇々怪々な程に組み上げられたこの機械仕掛けの神は、なるほど確かに最強の機体だ。シェアエネルギーもゼロクリスタルも組み込まれても問題なく順応している。
ならば、何が原因か――――ヌルズはチラと後ろを振り返った。
「駄目ねぇ、大魔導師。このままじゃ兄さまに負けるわ」
「何を言っている」
「そのままの意味よ」
大魔導師。九龍アマルガム国王、ネクロソウル。一度は兄の憎悪と憤怒を一身に受けて敗北を喫している。あの時は、機神の右腕だけでなく全身を招喚していた。
全身を真紅の血に染めた悪鬼羅刹の機神――
今の大魔導師は完璧なまでに生前と差異はない。その内面を構成しているのが邪神の血肉である点を除いて。ならば、その思想や魂はどうなのか。恐らく、まったくの別物だ。
「“生前”の貴方なら、話は別だけど」
「…………ならばどうする」
「簡単よ。私が操縦するわ、だから貴方は降りて」
「バカを――」
言うな、と続けようとした大魔導師の言葉はコックピットを揺らす衝撃によって遮られる。機神の一撃によって左腕が大破し、歯車や部品を撒き散らしていた。すぐさま修復を始めるヌルズは呆れている。
「残念だけど、機械仕掛けの神様を操作するという点では兄さまは私達を凌駕しているわ」
「ならばどうする」
「ふふ……簡単よ。私を、誰の妹だと思ってるの? ちょっと手を加えさせてもらうけど」
逡巡していた大魔導師の思考は、すぐさま最適解を弾き出した。その考えに一も二もなく大魔導師は太鼓判を押す。
「……積もる話もある。足元をウロチョロとする老いぼれた狼の相手をしてくる」
「女神様達も余裕があればお願いねぇ。私から兄さまを奪った憎らしい人達に変わりはないから」
大魔導師は操縦席から身を翻し、開けたコックピットから飛び出した。
狭いコックピットに一人残されたヌルズは深く吐息を吐き出す。
「……兄さま。ひとりは寂しいわ……ここは、ひとりで居るには寒いの……