超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラス達の前に、大魔導師――ネクロソウルは変神して着地した。機神の操縦だけで疲労困憊している前に、シルヴィオが庇うように立ち塞がる。死霊秘術の魔道書によって生み出されたゾンビの群れは余さず土へと還っていた。
「ウォーミングアップは済んだか?」
「朝飯前よ」
拳を鳴らす。
「おい……ネプテューヌ、ネプギア、ノワール、プルルート……爺さんを、頼む」
「こっちもちょうど変身出来るだけ回復したわ。任せなさい、エヌラス」
「はっ。頼りになるこった……!」
ボタボタと右腕から滴る血を左腕で押さえながらクロックワーク・ファントムを見上げる。
「ここは、私達に狭すぎるわねぇ、兄さま? だから、ちょっとふたりきりになれる場所に行きましょう?」
左腕をかざして、重力弾を生成すると動き出した。それを防ぎながらエヌラスは反撃の拳を突き出す。しかし、それを読んでいたかのように右腕で掴むと巨神が宙へと浮かび上がった。
その行く先には――接近している月。
「ハネムーンと洒落こみましょう! 兄さま!」
「ちょっと月行ってくるぅぅぅ――――!!」
「そんな「コンビニ行ってくる」みたいな気軽さで言われても!?」
掴まれた機神の右腕に引っ張られるようにエヌラスはぐんぐん遠ざかっていく。
それを見届けることなく、ネクロソウルはステッキを突き出す。矛先はシルヴィオだ。どこにでもあるようなステッキを一振りすると炎が巻き起こる。
「ヴーアの無敵の印において――力を与えよ」
そして、大きく刃の反り返った太刀の如く偃月刀が鍛え上げられた。エヌラスに魔術を教えたのは他でもない大魔導師、なんら不思議ではない。
ネプテューヌ達もまた、シェアクリスタルを取り出して変身する。
「大魔導師……なぜ未来を悲観する」
「……大いなる“C”へと辿り着いた者だけが理解できる話だ。シルヴィオ、お前の気に留める事ではない」
「そこに辿り着いた貴方は、一体何を見たと言うの」
「そうだな。言うなれば、虚無とでも。何もなかったのだ。意味など無い、この俺に。俺達の世界に、アダルトゲイムギョウ界の未来に――この塔争にすらも」
「全てが無駄だと言うの!?」
「耐えられるか? 自分たちの全てが徒労に終わると、神の摂理に宣告されて」
守護女神達は答えない。
「お前達が今日この日までしてきた苦労も。世界を救おうとするその浅ましき無遠慮さも、何もかもがゼロへと戻る。振り出しに戻るのだ。そんな戦いの繰り返しに俺は飽きた。“俺はとっくに諦めた”のだ。だからこそ絶望を望んだ。無尽蔵の絶望を。その結果がコレだ。俺は、ようやく終われそうなんだ……邪魔をするな、守護女神。“お前達の守ろうとする人など何処にも居ない”」
世界の全てを巻き込んだ自殺願望。そう語る大魔導師の顔には地上最強の称号など何処にもなく、ただただ疲労し、疲弊し、摩耗し、憔悴し切った人の表情を浮かべている。
何度繰り返したのだろう、この戦いを。
何度繰り返したのだろう、この戦争を。
何度乗り越えてきたのだろう、この絶望を。
絶望こそが救いだったのだ、大魔導師には。
「……哀れね、大魔導師。未来を憂う、たったそれだけで貴方は絶望したの?」
「ああ、そうだとも。紫の守護女神」
「貴方はそうでも、エヌラスは違うわ。何故なら彼は、“絶対に諦めない”からよ」
「そう教えたのは俺だ。アレは神をも殺すバカだ」
声を殺して笑う。――思い出すのは生前、今際の際。
「俺を殺すほどにな。アイツの爆発力は尋常ではない。妹を殺され、恋人をこの俺に奪われたアイツの怒りは間違いない」
「……まさか、それを試すために?」
「ああそうだ。命を捨てるだけの価値はあったよ。間違いない。あいつは“神殺しの刃”に成り得る程のバカだった。今、思い出すだけでも身震いする」
全てを見境なく際限なく破壊する。復讐の憎悪に身を焦がし、何一つ諦めなかったあの時のエヌラスは――破壊神として負の極限に至った悪鬼。
「あの時は、俺という矛先があった。だからこそ、九龍アマルガムの地表都市だけで済んだ。だが、今度はそうもいくまい。俺を殺しても止まらないのだからな。今度のアイツは――次元すら破壊するだろう」
「貴方の目論見が、上手くいくかしら?」
「その為に――お前達には消えてもらわなければならない」
「私達は、アダルトゲイムギョウ界も、私達のゲイムギョウ界も守ってみせます」
「当然でしょ? だってアタシ達ぃ、女神様なんだもの!」
ネクロソウルの偃月刀とアイリスハートの蛇腹剣が交差し、ブラックハートの大剣と火花を散らす。パープルハートの太刀と幾度となく衝突し、パープルシスターの射撃を防ぎきる。
シルヴィオの籠手と刃がせめぎ合う。
「まっこと、哀れよの。国王……九龍アマルガムの成長を共に見届けてきた身として同情の念は禁じえんよ」
「俺は、救われない。だからこそ、この道を選んだのだ。俺を止められなかった貴様らの敗北は決定的だぞ」
「果たして、そうかな――?」
ニヤリと口端をつり上げるシルヴィオの拳が、ネクロソウルの腹部を強打した。
「貴様は、何故だ。銀狼よ」
「人間というのは老いると若い者に縋りたくなるものよ。年金とかでの」
「生々しいな……」
「だからこその、人間よ!
空間を掌打で叩く。銀の壁がネクロソウルの偃月刀を受け止め、ブラックハートが身体を独楽のように回転させながら大剣を振り下ろす。
「プレシャス・ストリーム!」
互いのシェアエネルギーがぶつかり、やがて弾かれるようにして二人が離れた。その後を追うように光の欠片がパラパラと舞い散る。
「これは……シェアの欠片? もしかして」
シルヴィオの拳から放たれていることにブラックハートが注視すると、それは自分たちの持つシェアエネルギーとは別な波長が感じ取れた。
「そう。私の籠手にはシェアブラッドが貯蔵されている。人間にも使えるシェアエネルギー。守護神にも至る力を得られるコレのおかげで私は今まで戦って来れた」
「だから、オーナーさんは大魔導師とも互角に?」
「如何にも。真正の吸血鬼ともこれで対等に渡り合えた」
「だが、お前の使う銀槍葬送曲。水銀の粉末とシェアブラッドを兼ねたものだろう? 果たしてその老いぼれの身体がどこまで持つか」
「――!」
ネクロソウルの言葉に、シルヴィオは否定も肯定もしない。
「吸血殲鬼とは言われたものだな。一心不乱に吸血鬼を殺し続けてきたお前の伝説」
「シルヴィオ。後は私達に任せてちょうだい。もう銀槍葬送曲は――」
「いいや」
静かに首を横に振る。穏やかな表情をしていた。
「この葬送曲は、亡き者達に捧ぐ鎮魂歌だ。九龍アマルガムは私の故郷だ。私が生まれ、育ち、そして捨てた故郷だ。この葬送曲は、貴方の為に奏でるのだ――大魔導師。もう二度と、地獄から這い上がれんようにな」
「俺にとってはこの生涯こそが地獄だ。どうせ鳴らすのならば」
ネクロソウルが掲げるは金色の弓矢。そこに束ねた矢は無数に分裂して射出される。金と銀の軌跡が光速で撃ち出される。
「黙示録のラッパでも鳴らしてくれれば、この俺の魂は安らぐ! 貴様の子守唄など、俺には雑音でしかない!」
「どうせフーフー吹くなら、ファンファーレにしてほしいものね! 大魔導師!」
パープルシスターの放ったM.P.B.Lによって金色の弓が破壊され、そこへパープルハートが一気に距離を詰めた。偃月刀を錬成して防ぐと、高速の剣撃が二人の間を疾走る。
弾かれるように後退り、それを追うようにネクロソウルが接近した。それを待っていたとばかりにパープルハートは太刀を構える。
「ネプUスラッシュ!」
「ッ! やってくれる!」
神速の踏み込みから放つ十文字斬り。斬り抜けたパープルハートが離脱しようとして、ガクンと何かに引っ張られるように動きを止めた。その足に黄色の布が巻きついている。
「返礼するぞ。クトゥグア!」
太刀で銃弾を防ぐが、爆発に呑まれて大きく下がったパープルハートのプロセッサユニットは損傷していた。破壊力だけを追求した弾丸は、防御など意味を為さない。
「くっ……! さすがに、エヌラスの師匠というだけはあるわね」
そこでふと、月を見上げようとするが――ネクロソウルはそんな暇すら与えてくれはしなかった。