超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
なんと声を掛けるべきだろう。とにもかくにも武器を転送して丸腰に戻る。泣き止むのを待つにも手持ち無沙汰でなんとも良心の呵責が辛い。
「……あー、っと。ネプギア」
「ひぅっ……えぐっ……ぐすっ」
謝罪する以外に言葉が思い浮かばない。まったくと言っていいほど。
「とりあえず、パンツ穿いてくれ……」
「ふぇ……?」
いまだ丸出しの乙女のデリケートゾーンの白さが眩しい。血しぶきを浴びた自分とは大違いだ。どうりで生臭いと思ったらべまモンを構成していた臓物その他諸々が周囲にぶちまけられている。思わず顔面を跡形もなく踏み潰してしまったが、もう少しスマートに殺すべきだった。
「…………~~」
見られたくなかったのは用を足している姿だったが、それは裸を見られるに等しい。次第に落ち着きを取り戻しつつあるネプギアが耳まで紅潮していく。パクパクと口を開き、声も出なかった。
「ぁ……あ……!」
“あ、やべ”
「き――――」
悲鳴を超えた絶叫を叫ばれそうになるのを口を押さえ込んで黙らせる。普通、返り血を浴びた黒ずくめの男に接近されれば誰しも怖い。
“敵に気づかれたらどうすんだ! 頼むから落ち着いてくれ!”
コクコクと頷くネプギアが鼻水まで垂らし、それでも懸命に平静を取り戻そうとする。周囲を見渡すエヌラスが、先ほど自分のやらかした最大威力のアクセル・インパクトで誰かくるんじゃなかろうかと、今更ながらに冷や汗を拭う。しかし、機人が来なかったのは奇跡に近い。
「……あれで誰にも気づかれてないなら、この周囲の部隊は引き上げたな」
司令塔であるバルド・ギアが撤退した以上、相手方も長居するつもりはなかったのか森の静けさを取り戻していることに気づいた。深々と嘆息したエヌラスは恐る恐る手を離した。ネプギアも会話ができる程度には落ち着きを取り戻しつつある。
「えー……と。……大丈夫、か?」
「は、はい……ぐすっ」
「怪我、は……ないよな」
「はい……」
心の傷、とはあえて踏み込んで言わない。エヌラスがネプギアの当惑した表情に肩を落とす。
「……とにかく、すまん。俺がもう少し周り見るべきだった」
「…………」
「……なんだよ」
「えっ。いえ、あの……」
穏やかな口ぶりでネプギアを気遣っていることに気づき、今度はエヌラスが青ざめた。思わず素の声が出ていたことに顔が引きつるも、落ち着きを取り戻す。しかし時既に遅し、ネプギアからの視線が柔らかい。
「気遣ってくれてるんですね」
「そりゃ、まぁ、そうだが……とにかく、用が済んだなら戻るぞ」
「あ、はい……」
「晩飯持ち帰らねぇとな……」
「えっ、食べるんですかアレ!?」
「そうでもなけりゃ殺してねぇよ。あんなんこっちから全力で願い下げだ」
そう言いながらエヌラスは倭刀で今は顔亡き
「おぉ、見てよノワール! ほらコレコレ!」
「ちょっとネプテューヌ。本当にやめなさいってば。エヌラスに怒られるわよ」
「大丈夫だって。ちゃんと元の場所に戻しておくから」
「それで私までとばっちり喰らいたくないんだけど?」
「……旅は道連れって、言うよね!」
「言うけどね、やめてよ?」
「フリ?」
「フリじゃないってば!」
ネプテューヌの手にあるのは一冊の書物。無地無名の本をカモフラージュと思い込んで本を開いたネプテューヌの顔が曇った。
「…………ぅわぁ」
「なにその顔…………ぅゎ……」
「SAN値下がりそう……」
「下がってるわね、確実に……」
そこには大人しか読んじゃいけない
「…………」
「…………」
沈黙。
「触手とか出てこなくてよかったね、ノワール!」
「うるさいわよ!?」
「今戻ったぞ。って、元気だなお前ら……」
キャイキャイ騒ぐネプテューヌとノワールを見て、げんなりとした表情のエヌラスと目のハイライトが消えたネプギアが戻ってきた。ふらふらとした足取りで最愛の姉に身体を預ける。それにただ事ではない様子を悟った二人の目に殺意が宿る。
「ちょっと、ネプギアに何したの」
「何もしてねぇよ……」
「嘘言わないで。ネプギア、何があったの!」
「うふふ……お姉ちゃん、世界って広いね……」
「こ、これはもしかして……! 上も下もいいようにされて弱みを握られた感じの反応……!」
「何もしてねぇょ!?」
「なんでアナタが涙目になるの!?」
「あぁ……そんな、ネプギアが……ネプギアが私よりも先に大人の階段登るなんて……」
「お姉ちゃん……」
「ずるい! 私の方がお姉ちゃんなのに! ロリコンなら私からでしょ!?」
「たとえ俺が命刺し違えてでも今ここでテメェだけはぜってぇぶっ殺すッ!!
「わぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!? ごめん、ホントごめん! 調子乗ったのは謝るからこの閉所でそれはダメェェェェェ!?」
紫電の奔る鞘を召喚して構えるエヌラスにネプテューヌがネプギアをひしと抱きしめて身体を寄せ合う。何故かその場にいた全員が半泣きというよくわからない状況を落ち着かせる為にノワールが話題を切り出した。
「そ、それで!? 食料は獲れたのかしら?」
「ん? あぁ。四人で食う分には十分な量だ」
「おぉ、アウトドアって感じ! やっぱり串に刺して丸焼きにしちゃう感じかな? エヌラスってやっぱこういうのに慣れてるの?」
「いや、俺がこれ以上の調理方法知らないだけだ」
「…………」
「なんでいきなり不安そうな顔になるんだよお前ら……食えりゃいいだろ……」
「え~と、ごめんエヌラス。私にやらせてもらっていい? アナタ、あのロボット……バルド・ギア、だったかしら? アレと戦って疲れてるでしょうし、私達も助けてもらったお礼がしたいし、いいでしょ?」
「その申し出はありがたいな。俺を台所に立たせたくない理由には十二分過ぎる、任せてもいいか?」
「ええ、任せなさい」
「じゃあ頑張ってね、ノワール!」
「何言ってるの。アナタも手伝いなさいよ」
「え~? 私も疲れてるんだけど」
「あ、じゃあ私が手伝いますね」
「ありがと、ネプギア」
そして。
洞窟の中に残されたのはネプテューヌとエヌラスの二人。
“私も行けばよかったかな……”
“よりによってコイツとかよ……”
互いの顔を見て、視線がぶつかる。決して嫌なわけではない。気に入らない、というわけでもない。悪い相手ではないというのも理解している。それでも、何故か二人の間に流れる空気は微妙な気まずさがあった。
「あ、そういえばさ。エヌラス」
「今度は間違えなかったな。なんだ?」
「本。読んだりとかするのかなーって」
ピクリ。一瞬だけ眉を吊り上げ、反応を見せたエヌラスだったが「……人並みにはな」と短く応えるだけに留めている。それに脈ありと見たのか「へー、そうなんだー」とネプテューヌは聞き流すフリをしながら拠点の中で視線を彷徨わせた。さも、自分が手持ち無沙汰で退屈しのぎをしているかのように見せかけて。
「あ、エヌラスの下着だ」
「ちゃんと洗ってる。勝手に触るな」
「あ、エロ本」
「持ち歩いてない」
「じゃあ部屋にあるの?」
「読みたいのか?」
「そうくるかぁー……」
「貸すぞ?」
「いや別にいいってば!」
思わぬカウンターからの反撃。只者ではないと感じながら、ネプテューヌは話題の核心を突く、先ほどの魔導書を“偶然”見つけた風を装って取り出した。
「お。なんか見つけた。エヌラス、これ――」
「それに、触るな」
レイジング・ブルマキシカスタムの銃口が、ネプテューヌの視線を釘付けにする。エヌラス自身は見向きすらしていないのにも拘わらず、マグナム弾を撃ち出す規格外の拳銃は額にピタリと照準をつけて離れない。
「ネプテューヌ」
「…………」
「二度と。それに触るな。いいか」
そこで、初めてエヌラスとネプテューヌの目が合った。真剣そのものの眼光に射抜かれて、固唾を飲み込み、そっと元の場所に戻すとエヌラスもレイジング・ブルを転送する。
「今の、大事なものなの?」
「……いいや」
「じゃあ」
「お前とは、アレについて話す仲じゃない」
「……確かにそうだけどさぁ。エヌラス、私にだけなんか冷たくない?」
「気のせいだろ。多分、きっと恐らく。……ん? 俺、お前にだけそんな厳しかったっけ?」
「え、無自覚!? ひっどーい! さすがの私も怒るよー!?」
「もう怒ってんじゃねぇか! いいからおとなしくしろよ、俺も疲れてんだよ」
そうこうしている間に、エヌラスの採って来た魚や肉(詳細不明)の調理を終えたノワールとネプギアが戻ってきた。火を起こす道具はあらかじめ持っていたのでそれほど苦にならなかったらしい。