※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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episode137 甘いモノと楽しいことは別腹

 エヌラスが伸ばした手の先で、漆黒が広がっていた。決して届かない先にあったはずの希望が、灯りが全て消し飛んでいる。守ろうとして、守れなくて。それでも諦められなくて、歯を食いしばって血を流し、涙を流して嗚咽を殺し、ひた憎む。憎む。そこにいるのは最愛の妹のはずなのに。

 機神の右腕を振りかぶり、真紅の人型に叩きつける。

 受け止めたはずの片腕が紫電を散らして肘まで粉砕されて、ヌルズは嗤う。その灼熱の痛みを受け止めて。痛覚よりも快楽が勝っている。最愛の兄の一番大切な物を壊してしまった。

 

「守りたくて! 守れなくて! それでもまだ輝望に縋るの、兄さま!」

「うるっせぇぇぇええええッ!!!」

 返せ。もう取り戻せないものを、返してくれ。アイツは、ユウコは。ユノスダスにはなんの罪もないはずだ。自分とは違う。

 

「――どうして!?」

 ヌルズは憤怒の表情で拳を受け止め、極冷温の手刀で粉砕した。エヌラスの腕も酷い凍傷を負うが、構わず肘で殴りつける。怒りに勝る薬はない。

 

「どうして!」

 繰り返すヌルズの叫びに、エヌラスは壊れた前腕部を叩きつけた。一方的な暴力が無機質な轟音と共にゴーストタウンへと響く。魔術を使うための精神統制も、感情の制御も、ましてや理性すら感じられないそれは、ただひたすらに純粋な憎悪と怒りを込めた魂の咆哮。

 リヴェル・レギルスの振り上げた脚が重力波を叩きつける。その一撃を防御しないまままともに衝撃を受けて、エヌラスは瓦礫の街を転がった。全身を激しく打ちのめし、煉瓦の上で止まる。

 

 身体を起こそうと仰向けになったエヌラスは、それが限界だった。変神は解除され、指の一本も動かせない。機神の右腕は螺子と歯車の無数の部品となって光の粒子になって消えていく。

 真紅の復讐神が見下ろしている――そのコックピットから目が痛くなるほど紅い衣装のヌルズが飛び降りると、エヌラスに跨った。

 細い指先が砂埃と血と涙で汚れた頬を優しく撫でていく。

 

「……可哀想な兄さま」

 その指を振りほどいて、今すぐにでも反撃に出たかった。だが、エヌラスの思考に身体は全くついてこなかった。限界に限界を重ねた疲労は最早、致命傷に等しい。それでもまだ、驚異的な精神力が生命を繋ぎ止めていた。

 ヌルズの指は頬から喉へ。そのまま胸板をなぞっていく。

 

「勘違いしないで。私は、兄さまを救ってあげたの」

「――の、口が……! 言いやがる……!」

「だってそうでしょう? 遅かれ早かれ、いつか別れは訪れる。例え“今だけでも”と願っても、それはただ、苦痛を長引かせるだけ……ちがう? 兄さま」

 だからと言って――納得できるはずがないエヌラスを、ヌルズは指一本で制した。

 

「目を背けないで。絶望から。現実から。兄さまの見ている世界が何よりの証拠なの。アダルトゲイムギョウ界はもう終わり。あんな世界にもう縛られることもない。救いもなく、未来もなく、明日もなく。ただただ、落ちぶれていくだけの世界。誰にも知られることのない“ゲイムギョウ界の深層世界(アンダーグラウンド)”での戦いはもうおしまい」

 空を仰ぐ。ナナイトから見える満天の地上は、崩壊している。まるでガン細胞に侵された内蔵のように絶望によって侵食されていた。そんな世界に希望など抱けるはずがない。

 ドラグレイスは言っていた。この世界は醜いと。救うに値しない世界、故にティル・ナ・ノーグを目指しているのだと。

 

「だから、兄さま……もう止めましょう? いたくて、つらいのはもうおしまい――私とずっと、ずぅっとふたりきりで。世界を憎んで、恨んで、妬んで。希望に穢されることなく、永遠に静かな終わりを迎えて眠り続けるの」

 右腕はもう、繋がっているのかもわからない。感覚が死んでいた。全身から血の気が引いていくのが分かる。寒気さえするエヌラスの身体を温めようと、ヌルズが覆いかぶさった。身にまとっていた真紅の衣装がドロリと赤い血となって溶けていく。

 一糸まとわぬ裸身を重ねて、ヌルズは惚けた声色で呟いた。

 

「だいじょうぶよ、兄さま……私が暖めてあげる。寒くないわ」

「……――――」

 脳の奥まで痺れるような感覚に身を委ねて――ネプテューヌ達の顔が脳裏をよぎる――エヌラスは、茫然自失と空を仰ぐ。

 

 

 

 

「――ユノスダス、が……」

 パープルハート達はブラックホールに消えた商業国家のあった場所を振り返る。綺麗さっぱり跡形もなく、地面すら残さず穴が空いていた。

 

「令嬢め。はしゃぎ過ぎだ。しかし、流石というべきか……こうも俺の魔術を使いこなすとは」

「なんですって!?」

「重力操作の極致にまさか兄への執着だけで辿り着くとは、愛とは恐ろしいものだ」

 そこに至るまでの苦労を滲ませた吐息を漏らして、大魔導師は右手を掲げる。

 

「こんな風にな」

 空間が歪むほどの重圧にパープルハート達が地面に叩き伏せられた。全身が貼り付けられたように動かない。地面に束縛され、そこへ天狼星(シリウス)を放とうとするが銀の槍が大魔導師の手を弾いた。一瞬だけ緩んだ拘束にブラックハートが駆ける。だがしかし、刃を振り下ろすより先に大魔導師が更に重力を倍加させて凪いだ。

 

「お前達守護女神はシェアエネルギーによって力を発揮する。だが、今の俺はアンチクリスタルとも言うべき邪神の血肉を糧にしている。そうなれば、お前達の攻撃は俺にとって決定打には成り得ない。……理解したか?」

 成る程、道理だ――だがそれで“諦める”守護女神ではない。

 変身を解除され、衝撃で痺れる身体を起こして武器を手にする。

 それが何を意味しているのか、大魔導師は不思議そうに首を傾げていた。

 

「ええ。理解したわよ……」

「“理解しない”ということを理解したもんね」

 ノワールとネプテューヌは大魔導師に武器を向ける。

 

「でも、だからと言って――!」

「それでぇ、諦めるわけにはいかないの~」

 ネプギアとプルルートも立ち上がった。

 シルヴィオは整息して、身体の不調を押し殺す。

 

“……私の銀槍葬送曲も限界が近いか”

 ギリッ――銀の籠手を鳴らして、構える。

 

「女神とは、絶望を知らんらしい。羨ましいものだ」

 それに毒気を抜かれたように大魔導師は肩を竦めた。

 

「休憩がてら昔話でもしてやろう」

「そう? ありがたいわね……」

「だが――これは決して英雄の物語ではない。絶望に折れた男の話だ」

「それって……もしかして」

「俺と。そこにいる、老いぼれた狼の話だ」

 シルヴィオの表情は、あくまでも険しい。共に九龍アマルガムのために尽力してきたはずだった。道を違えたあの日から、二人はすれ違ったまま。

 

「守護神の居ない国がどうなるか、お前達は知っているはずだ。国は荒れ、モンスターは増え、戦火が巻き起こる。そうならない為には誰かが犠牲にならなければならなかった――行く宛のないアダルトゲイムギョウ界を彷徨うシェアの源。シェアブラッドを管理せねば」

「……そうとも。だからこそ人狼局は設立された」

「それを付け狙う吸血鬼達を相手に俺達は戦い続けた」

「だが、戦いは終わらなかった。何故なら、その一部を神格者の一人が奪ったからだ。あの忌々しい吸血姫めがな」

 その言葉に、ネプテューヌ達はムルフェストを思い浮かべた。

 

「戦いは激化した。その最中で軍事国家アゴウが生まれ、そして守護女神が生まれた。国民の総意を得て、一人の女が神へと至った。シェアブラッドではなく、純粋なシェアエネルギーでな」

 だがその人も、大魔導師が望んだ無尽蔵の絶望、ヌルズとの戦いで命を落としている。それから間もなくして新しい守護神が立ち上がった。全ては己の愛した人の為、国家のため――最強の軍神、アルシュベイト。

 

「九龍アマルガムはな、この世界でも異質とも言うべき国家だ。シェアブラッド。アンチクリスタル――俺が国民のシェアによって変神しないからこそ、あの国は犯罪国家となった。だが、そうする以外に生き残る術はなかった」

「そう。守護神が、国民の為ではなく己の為に力を振るう国家――私は裏切られた。他でもない貴方に、大魔導師」

「俺はどうすればこの国が救えるかを考えた。――あの男のようにな」

 全ては大いなる“C”によって委ねられていた。だからこそ、覆そうとした。この世界が夢泡沫と消えようと、意味はあるのだと信じて……。

 だが、大魔導師は裏切られた。人ではなく、国ではなく、世界に。

 

「救えない。報われない戦い。終わらない無限怨嗟に俺は絶望した」

「……」

「だから、全てを終わらせることにした。リセットも、コンティニューもない、ワールドエンドによって」

「その為にエヌラスを利用したっていうわけ」

「アイツだけではない。利用できるものは全て利用した。アイツの妹。アイツの恋人。次元連結装置、武装召喚アプリケーションに魂魄転写……全部だ」

「吐き気を催す邪悪って言うのは、こういうことを言うのかしらね……」

「許せない……」

「……許せなければ、どうする?」

「貴方を、倒します!」

 ネプテューヌ達は武器を手にして大魔導師へと挑む。例え変身できなくても、諦めたりなんかしない。

 

「わたし達は、絶対に絶望に負けたりなんかしないんだから!」

「お前達がそうでも、アイツは――!」

「絶望の魔人だったとしても、エヌラスは別だよ! プリンとゲームは別腹なんだからー、とりゃー!」

「まったく、底抜けに気楽なものだ。女神とは――!」

 金色の十字架と、ネプテューヌの太刀が火花を散らす。

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