超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
前に向かう。絶望が立ち塞がる。未来への障害――ネプテューヌ達を苦しめる最大の敵。
金色の十字架が打ち据えられる。シルヴィオが銀の籠手で刀身の腹を横殴りにして軌道を逸らす。エヌラスが走る。パープルハート達が続く。
左手に白銀の自動式拳銃。すかさず弾倉を空にする。赤と黒の混じった尾を引いて、全て打ち払われる。パープルハートの太刀を左腕の重力弾で相殺し、ブラックハートの大剣をゼロ・ドライブで粉砕し、パープルシスターに投げつけ、アイリスハートの蛇腹剣が十字架を絡め取った。
エヌラスは走った、自らの射程圏へと。偃月刀と金色の十字架が交差し、偃月刀は硝子のように砕け散った。
「
シルヴィオが跳ねる。シェアブラッドを煌めかせながら、口端から血の線を引いていた。酷使される老いた肉体にはあまりに過酷過ぎる。
「
銀の流星が降下した。左腕を食い千切られた大魔導師が顔を歪ませる。着地と同時にシルヴィオが多量に吐血し、膝を着いた。
エヌラスの拳を受け止める。大魔導師は頭突きを受けて二人は睨み合っていた。
「いい加減、貴様も諦めたらどうだ!?」
「ゼッテェ嫌だね! 俺は、もう折れるつもりも諦めるつもりもねぇんだよォォォッ!!」
互いの身体を蹴り飛ばし、エヌラスの振りかぶった偃月刀は避けられる。だが、その刀身を伝う血が大魔導師の身体を汚した。ブラックハートが受け止める。
「馬鹿、前に出過ぎなのよ!」
「知ってる!」
「いくわよぉ、ねぷちゃん」
「いいわよ、ぷるるん!」
片腕の大魔導師は一気呵成に攻め込む守護女神達に歯噛みした。片腕は再生している最中だ。
「ッ……俺を、照らすな。貴様らの希望で、救える世界などない!」
断言する。宣告する。この世界は救われない。救われるべきではないのだと。重縛結界に捕らわれたパープルハート達を前に、ネクロソウルは“銀の鍵”を取り出した。
「我が運命は救えない! 例え御身が神であろうとも――!!」
その誓言に、銀の鍵が変異する。エヌラスが使う剣のとも鍵ともつかぬ形状ではなく、歪み、捻れた刃のない長大な神剣。溢れる無限の魔力を受ければ消滅は免れない、最凶の魔刃。
「此処に――大いなる“C”の権能を代行する!」
「さァせる、かァァァァァッ!!!」
重縛結界が解呪される。
「俺は、認めねぇ!! 夢も希望も明日もない世界を、認めねぇ!」
絶望が吼える。そこに輝望があるのだと。だが、どう足掻くというのか。
「――我が運命は折らせない! 例え御身が神であろうとっ!」
その宣誓は、大魔導師の祝詞。
「……その“権能”は――」
果たして。エヌラスが握るのは、無貌なる漆黒の魔剣。
「此処に大魔導師の原稿を代筆する!」
「ッ、馬鹿な――!? 貴様!」
次の瞬間、ネクロソウルの変神が強制解除される。
もしや、と思うと身体に浴びた血が蠢いていた。大魔導師の魔力の貯蔵庫とも言える魔道書を赤く侵食しながら、記載されている内容を食い潰している。
“さっきの偃月刀は、血を飛ばすためか……! くっ、これ以上の侵食はマズイ――!”
大魔導師が“銀の鍵”を振るう――だが、その動きを押さえ込む者がいた。シルヴィオだ。
「銀狼――!」
「諦めよ、大魔導師。貴様の未来は、
「埋葬の華に――」
剣を振るおうとして、力なく崩れ落ちそうになるエヌラスの手をアイリスハートが握る。倒れそうになる背中をパープルハートが支えた。
「アタシが大サービスで手伝ってあげるわよ?」
「――ああ、頼むぜ……」
「埋葬の華に誓って!」
「我は世界を、螺子る者なり――!」
“銀の鍵”の所有権が大魔導師からエヌラスへと書き換えられる。所有権を失った手から弾かれるようにエヌラスは奪い取り、無貌なる漆黒に塗り尽くされた魔剣は銀色に輝く。
希望を奪い、色を奪い、全てを奪う絶望の魔刃が大魔導師の前に立ち塞がる。その神剣に身体を貫かれた瞬間に果てしない情報量を叩きこまれ、空間が割れた。アダルトゲイムギョウ界の許容量を超えたエネルギーを吐き出すために。
そして。大魔導師は、エヌラス達の前から跡形もなく消え去った。
後に残るのは途方も無い疲労感と、虚無感。全ての元凶を倒したという現実。だが、それでも崩壊の一途を辿っているという事実に足を止めそうになる。
「……終わったの?」
「勝っ、た……のよね」
「エヌラス……?」
空を見上げれば月が割れていた。ユノスダスは消滅している。そして、荒唐無稽な機神同士の血闘はようやく終わりを迎えた。
「……――――」
そこで、エヌラスはようやく――ユウコがもういないのだと認識して、涙を流す。
失うものが大きすぎた。手に入れたのは、起死回生の鍵。小さな小さな銀色の鍵だった。
“第二の心臓”として銀の鍵を左胸に当てると、身体の中へと吸い込まれていく。
「――悪い」
「なによ今更」
「そうだよ、便乗するけどもエヌラスはいっつもいっつも」
「ちょっと、くたばるわ」
『――――へっ!?』
ネプテューヌ達が呆気にとられている目の前で、エヌラスは糸の切れた人形のようにガックリと崩れ落ちる。その身体をプルルートとネプテューヌで抱きとめるには無理があったのか、ノワールも慌てて受け止めた。
「あ、あわわわわわ……ま、まさか死ん――」
「縁起でもないこと言わないでよネプテューヌ! エヌラス、大丈夫!?」
「全然だいじょうぶそうじゃないよ~。右手とか……ちょっと」
「目も当てられませんね……と、とにかく今はどこかで落ち着かせないと!」
「いいやぁ、まずは嬢ちゃん達が落ち着いたほうがいいと思うがね……」
パニック寸前のノワール達に、シルヴィオは口端の血を拭いながら声を掛けた。
「そうだな……キンジ塔が現れるまでは、もう少し身を潜めておいた方がいい。キミ達の体力の回復も必要だろうし」
「オーナーさんは?」
「私はアダルトゲイムギョウ界の生存者を探すさ。世界がこんな状況でも生き残っている人がいるだろう。それに、モンスターに襲われているかもしれない」
「じゃあ、ここでお別れですか……?」
「はは。情けないことに、キミ達の戦いにこれ以上私の年齢がついていけそうにない」
笑ってはぐらかしながら背を向ける。
「どこに出るかは、神のみぞ知るというところかな。では、頑張りたまえよ。希望の女神諸君」
そして、シルヴィオの姿が掻き消えた。銀の粒子を残して。
「……オーナーさん、すごい人でしたね」
「というか、コレの周りがトンデモ奇天烈な人達ばかりなだけじゃない?」
「あはは……かもしれません」
寝息はとても小さな虫の息だったが、それでも心臓が小さく脈打っていた。まだ、生きている。それだけでネプテューヌ達は胸が温かくなった。
残る神格者は、ひとり――。
エヌラスの怨敵にして宿敵にして仇敵、クロックサイコだけだ。
くしゃくしゃになった髪を梳くようにして、ネプテューヌとプルルートが撫でる。
「……お疲れ様、エヌラス。ありがと」
「えへへぇ。あたしの膝枕気持ち良そう~」
「まぁ、なんというか。勝ててよかったわ」
「もちろん勝てるに決まってるじゃん!」
「強がり言わないの。途中でエヌラスとオーナーが来てなかったらどうなってたことやら」
「そういえばノワール。謝礼渡されてたけど、中身は?」
「……そうね。ちょっと開けてみましょ」
こんな時にまさか金銭を渡すとも考えにくい。ユノスダスはもう無いのだから、使い道にも困る。
「今思うと、重いわねこの封筒」
「結構ずっしり入ってない?」
改めて封を切り、中身を取り出すと――。
「……これ」
「白い、粉……?」
「これ空港とかで絶対監査に引っ掛かる白い粉末だよー!」
「でも、シェアが感じられるのよね」
「えー? まっさか~? ……あ、ホントだ」
「じゃあ、もしかしてこれってシェアブラッドの粉末なんじゃないですか?」
「そんな大事なもの――」
せめて、なにか一言。お礼を言ってやれればよかったのに、ノワールは少しだけ胸が痛んだ。
――老いた銀狼が、大木に背を預けて座り込む。咳き込み、口元を押さえていた掌には銀の粉末が混じった血痰が塗りたくられていた。
女神達との戦いに、これ以上肉体はついていけない。老いによるものもある。だがそれ以上に、人間以上の力を振るうというのはデメリットもついて回った。大魔導師に裏切られた日から、戦うことはやめて静かに生きようと決めていたが……やはり、歳はとりたくないものだ。シルヴィオは空を見上げる。
真正の吸血姫――アゴウの先代守護女神、九龍アマルガムの大魔導師。三すくみの塔争に介入する
「……スマンなぁ、女神様方。私の仕事を押し付けて……」
ひとりの銀狼が静かに息を引き取る。誰にも看取られない孤独な最期ではあったが、その顔に陰りはなかった。
未来を宅せる希望の女神達を一目拝むことが出来たのだから、長生きはするものだ――。