超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
episode140 本日はお日柄もよく
「ハァァッ!」
女神ブラックハートの気迫の籠もった一撃を受けて、モンスターが吹き飛ばされてゆく。
「逃しません!」
そして、パープルシスターの射撃で残るモンスター達は蹴散らされて敵わないと思い知ったのか蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
周囲を見渡してから二人は女神化を解く。ノワールは自分の調子を訝しむように掌を見つめていた。
「どうかしたんですか、ノワールさん?」
「女神化してからの調子が悪いと思ったのよ。おかしいわね、特に体の不調はないのに……」
「ノワールさんもですか? じつは、私もなんです。うまく力が入らないというか」
「どうしてかしら」
「それは、多分……私達の女神化って、エヌラスさんからのシェアですから」
「変身するだけのシェアを送れないくらい今は瀕死の状態ってわけね。ホントに呆れるわ」
ノワールが呆れた溜め息をつく。どうしてそう自分の身体を労れないのか。
「大体エヌラスは自己管理が出来てないのよ。財布も。体調管理も。ほんっとうに戦闘以外でなんかの役に立つの?」
「多分、それは本人が自覚してて気にしていると思うので言わない方が……」
「言わなきゃ私の気がすまないのよ。ラステイションで徹底的に性根を叩きなおして真人間にしないとこの先なにを言われるかわからないわ」
「た、確かに……今のエヌラスさんがゲイムギョウ界に来たら……」
想像に易い。
「……絶対にブランさんとベールさんに怒られますよね」
「それどころか取り返しのつかない被害が出るくらいしか思い浮かばないわよ」
崩壊するプラネテューヌ、ラステイション、リーンボックス、ルウィー……そこまで考えて、なぜか二人は同時に悪の幹部のような笑い声をあげるエヌラスを想像した。
『ハッハッハ! 人がゴミのようだ! ていうかゴミだな!』
ハマり過ぎで怖い変神後の言動にかぶりを振る。いやまさかそこまで酷いことは言わない――言わない……イワナ……うん、言わないはずだ。多分きっと恐らくは。
「――まぁ、ともあれ。キンジ塔が出現したらクロックサイコを倒して終わりよ」
「そうですね。そうすればきっと」
アダルトゲイムギョウ界の崩壊も、ゲイムギョウ界も救えるはずだ。
その後はエヌラスと別れなければならない。それを考えるだけでネプギアは少し、胸が締め付けられる思いだった。だけど、笑ってお別れをしようと決めている。
ネプギアとノワールは周囲の警戒を終えて、今のところは安全を確保したとしてネプテューヌとプルルートの待つ山小屋へ戻った。元々はユノスダスの管理下にある輸送業者の休憩所、サービスエリアのような施設を無断で借りている。そこに少しだけ後ろめたさを感じながらも今は非常事態ゆえに致し方なし。
水道電気ガスの三つが揃い、寝床も完備されている簡素な宿ながら利用料金は無料と守銭奴のユウコにしてはやけに太っ腹な施設管理に首を傾げるも、貼られていたスケジュール表を見れば理由が一目瞭然だった。
何時何分、いつ頃にどこの誰が使用するのかを一月分びっしりと書き込まれたスケジュール表には流石に顔が青ざめる。その下に赤い文字で『当施設の賠償請求は管理維持費込の三割増しで要求させていただきます。予めご了承ください。ユノスダス国王ユウコ』と、いつもの調子からは想像出来ない文面に恐怖しか感じなかった。
「ただいまー、お姉ちゃん。プルルートさん」
「おー! おかえりー、ネプギア! ノワールもお疲れ様ー!」
「ネプテューヌ、エヌラスの様子はどう?」
「うーん、相変わらずかなー。目が覚める気配もないし……」
「無理もないわね、滅茶苦茶やりすぎなのよ」
出迎えてくれるネプテューヌに緊張をほぐされながらも、ネプギアとノワールは靴を脱いで寝室へと急ぐ。
二段ベッドの下段側でエヌラスは眠っていた。呼吸はとても浅く、いつ死んでもおかしくない。だが、銀鍵守護器官を身体の再生に回しているのか体温は非常に高かった。その反動からか、高熱でうなされているものの、冷えたタオルを額に当ててプルルートが看護している。
「おかえり~、ぎあちゃん、ノワールちゃん」
「はい。今戻りました」
「それにしても、ユノスダスの宿泊サービスには驚かされてばかりね」
「食料の備蓄と生活に必要な家具も備え付けられてますし」
ただし、これはあくまでも商業国家の“副業サービス”であり、主な稼ぎではないというところがユウコの恐ろしいところだ。各国への輸出入管理業務をほぼ一人で片付けるという要領の良さと手際の良さから、ユウコと国民の間に結ばれる連携の良さが伺える。
「でも、本当に使ってもよかったのでしょうか?」
「しょうがないでしょ。エヌラスがこんな状態だもの」
「んもー、ネプギアは固いんだからぁ。ユウコならきっと許してくれるって」
「そうかなぁ……」
だが、そのユウコも今はもういないのだ。
「ノワール。外の様子は?」
「相変わらずね。崩壊は今のところ止まっているし、モンスターはわんさかいるしでキンジ塔はまだ出てきた気配はないわね」
「そっかぁ……うーん、でもそろそろ出てきてもいい頃だと思うけど」
「ユノスダスが世界の崩壊じゃなくて、消滅させられたからじゃないかな」
「そうかもしれないわね」
ヌルズの手によってユノスダスは消滅し、本来であればアダルトゲイムギョウ界に還元されるはずだったシェアも消えている。
「あ~」
「どうしたの、ぷるるん」
「おはよ~、エヌラス~」
「…………」
意識を取り戻したのか、目を開けたエヌラスは身体を起こすことも出来ないようだ。首も僅かに動かすのが精々らしい。
「――――」
「ん、どうかした。ここがどこかって? ユノスダスの管理してる国外宿泊施設だよ」
「……もしかしてアナタ、声出せないの?」
唇を動かしているのは分かるが、肝心の伝えたい内容が聞こえてこなかった。どうやらその通りらしく、ほんの僅かにだが頷く。
「そっか~」
「じゃあ今のエヌラスは悪戯し放題ってこと?」
「……へぇ~、そうなんだ~」
「ちょっと、ふたりとも。よしなさいよ。エヌラス、大丈夫? 身体、動かせるかしら」
ノワールが顔を近づけると、蚊の羽音のように小さな声で「むり」とだけ辛うじて聞こえた。
「何かしてほしいことはある?」
「――――」
ぐぅ~~きゅるるるふたぐぅん……。
「………………」
「いま、すごいお腹の音しませんでした?」
「はぁ……もう、しょうがないわね。ご飯作ってくるからエヌラスのこと頼んだわよ」
「は~い」
ノワールが台所へと消えて、ネプテューヌはエヌラスの額に手を当てる。
「エヌラス、お疲れ様。だけどもうちょっとだけ頑張れる?」
「……」
何かを言おうとしていて、ネプテューヌが耳を近づけると、か細い声で「当たり前だ」と呟いていた。
「それとね、ありがとう。なんかもう結構ヤケクソになって助けてーなんて言ったけどさ。まさか本当に病院抜けだして来てくれるなんて思ってなかったもん。わたし達で頑張る、なんて偉そうなこと言ったけどやっぱ無理だったのはちょっとショックだなぁ……」
落ち込む素振りを見せるネプテューヌにエヌラスが頭を撫でようとするが、思うように身体が動かない。右腕を持ち上げようとしても指先が僅かに震えるだけだ。仕方なく左腕を持ち上げようとするものの、やはり激痛が走って動かせない。それに顔をしかめると今度はプルルートに頭を小突かれた。
「エヌラスの~おバカさん~」
ぐぅの音も出ない。
「あたし達の為にしてくれてるってのはわかるんだけどぉ……もっと自分のこと大事にしないと、あたしぃやだな~……エヌラスのこんな姿見たくないぃ~」
――悪いがそれは無理な相談だ。何がなんでも、何があろうと。何が起ころうと守ると決めた。こんなやり方しか知らないけれども自分はそれでいいと思っている。プルルートの眉を寄せた表情は怒っているのか泣きそうなのかわからないが、あまり良い顔ではないことくらい分かる。
「エヌラスのこといじめていいのぉ、あたしだけなんだから~」
うん、前言撤回。自分がイジメたいだけだこの女神様。