超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「はい、エヌラス。あ~ん」
ノワールが仰向けに寝ているエヌラスの口元にスプーンを持っていく。唇を僅かに動かす口内に乗せた食事を入れると、途端に咳き込む。
「ちょっと、大丈夫!?」
慌てて身体を起こして背中を叩くと、むせながらもなんとか頷いた。
致死量レベルの高純度ミードを過剰摂取して更には抑制剤を過分に体内に取り込んだダメージは銀鍵守護器官でさえも快復させるには手間取る。
「まともに食事も飲み込めないとかちょっと洒落にならないんだけど」
「ノワール、ほらほらわたしもー。あーん」
「自分で食べなさいよ。なんで私がアナタの分まで食べさせなきゃならないの」
「んもー、冷たいなぁ」
「しょうがないでしょ!? エヌラスがこんな状態なんだから」
“こんな状態で悪かったな……”
そんな意思を汲み取ってくれる女神様は残念ながらここにはいない。とはいえ、身体は正直なもので、再び腹の音が鳴り出す。
「はいはいわかったわよ。急かさないの。……もう、こうするしかないわね」
そう言うとノワールは作った食事を自分の口に運んで反芻する。しばらく噛んでからエヌラスの顔を逃がさないように――元から逃げられる状態ではないが――掴んで引き寄せた。唇が触れて、舌が入り込む。熱い感触に、流し込まれる噛みほぐされた食事。それを飲み込むと顔を離した。
「ッ、はぁ……どう? 美味しい?」
うんともすんとも言えない。ネプテューヌ達の表情が心なしか怖い。
「もぐもぐもぐもぐ」
“……おい、ちょっと待てネプテューヌ? お前までなんで突然そんなに噛み始める?”
「モグモグ~」
“プルルートまでどうした。おい、待て。お前らまさかとは思うが――!”
まず、ネプテューヌが首に手を回して全身を使って抱きつきながら口移ししてくる。それを飲み込んだ後に、今度はプルルートまでもが乗っかってくる。急に栄養源を流し込まれたエヌラスの傷ついた食道が驚いてむせた。その背中をネプギアが優しく叩くことによって事なきを得る。
「な、なによ二人共!? 仕方ないでしょ。今のコレまともに食事できないんだから」
「だからわたし達も手伝うよ。ノワールばかりずる……」
「ノワールちゃんだけじゃ~、食べてる暇ないしぃ~?」
「そうそう。だからー、わたしとぷるるんもエヌラスに食べさせてあげるからノワールはゆっくり食べてていいよ」
「なんでそうなるのよ!?」
“プラネテューヌの女神ってのはこんなんばっかか!”
「というわけでー、安心していいよエヌラス。プラネテューヌの女神が最高のお食事を提供してあげるから!」
“その前に俺の命が風前の灯火だっつうの!”
声なき声を聞き届けてくれる察しのいい相手は、生憎とこの場には居合わせていなかった。
「ぬぅぅぅぅう”う”う”う”う”う”う”う”!!!!」
「ねぷっ!? なにその夜中に小さい子が聞いたら泣き出しそうなトラウマものの唸り声!」
「怖いわよ! どうしたのよエヌラス!」
「エヌラスこわいぃ~……」
「あ、もしかしてエヌラスさん銀鍵守護器官使ってます?」
唯一察してくれたネプギアの言う通り、エヌラスは銀鍵守護器官を使って身体に残る黄金の蜂蜜酒、その含有成分である有毒な物を片端から燃焼して第二の心臓に焚べている。それがあまりにもあんまりな理由の神業であることに唸っていた。いくらかマシになった身体でぎこちなく上体を起こして、支えてくれていたネプギアから離れる。
「ころすきか……」
「わぁ片言」
「というか、さすがの回復力ね……」
「あのままではしぬきがした」
「でもぉ、自分で食べられる~?」
「…………………」
実は無理だったりする――ということは、だ。
「じゃあ、あたし達が食べさせてあげるしかないよねぇ~」
「やめてくださいしんでしまいます」
でも背に腹は代えられない。結局はネプテューヌ達にいいようにされるしかないエヌラスは今の自分はゲイムギョウ界の男性諸君に恨み殺されても仕方ないと、子供並の感想しか湧かなかった。
食事の後、エヌラスは自分の身体の調子を確かめる。寝たきりの状態からなんとか声を出せるくらいには(無理やりだが)快復した。だが、日常生活に支障をきたしているのは変わりない。立ち上がろうにも全身に重石をつけられたように動きが鈍い。視界も靄がかかったようにぼやけていた。そんな自分の不調を嘆いているのを察したのか、ネプギアが優しく抱きしめる。
「エヌラスさん」
「……ん?」
「キンジ塔って、何処に出るんですか?」
「しらん……」
その都度場所を変える、神出鬼没のラストダンジョン。本来であればもうとっくに出現しているはずだが、まだその姿を現していないことにネプギアは不安が募る。つい、エヌラスを抱きしめる手にも力がこもっていた。
“……これは、これでマズイよなぁ”
後頭部に当たる、柔らかい小さな膨らみが二つ。決してロリコンであるわけではないが、いやもうここまで来るとその否定要素など皆無に等しいがそこはそれで譲れない一線。断固拒否る。
エヌラスがふと、ゼロクリスタルを手にして眺めた。気を紛らわす為に出来ることと言えばこれぐらいのことしかない。
「それが、エヌラスさんのなんですよね」
「……」
歪んだ双角錐。捻れたクリスタルは奇妙な形で浮いていた。ゼロクリスタル。絶望の始まり。全ての終わりを告げる負の根源。そして、己の存在証明。女神の信仰心とは真逆の負の結晶。
「ああ……」
「触ってみてもいいですか?」
「いいや」
「はい……」
“コレ”に女神が触れたことなど考えたことはない。ヌルズとの戦闘で強制的に女神化が解除されたことを鑑みると、恐らくは変身能力を一時的に失うのだろう。その先は――消滅しかない。そんな危険な物をネプギアに触らせるわけにはいかなかった。
「……エヌラスさんは、絶望の魔人って言われてましたけど、どこで生まれたんですか? あ、別に深い意味はないです。私の純粋な興味本位なんですけれど……」
「どこ……だったんだろうな……考えたことねぇや……」
あらゆる次元、あらゆる世界。様々なゲイムギョウ界――まるで星々のように輝く場所。何も無い闇黒の宇宙。きっとそこは、どの世界にも属さない場所だったんだろう。
「おれは――……そうだな……どこで…………」
「……エヌラスさん、寝ちゃった」
静かな寝息をたてるエヌラスをそっと横に寝かせて、ネプギアはネプテューヌ達がまだ浴室から上がってこないのを確認してから身体を寄り添わせて横になる。身体と腕の間に潜り込み、目を閉じてみた。
すぅ、と息を吸い込めば寄り添ったエヌラスの服の匂い。血と硝煙の香りに混じって少し汗も混じっていた。嗅ぎ慣れない甘い匂いは黄金の蜂蜜酒だろうか。
「ちょっとだけ……ちょっとだけなら……いいよね……」
身体をすり寄せて、少しだけ甘えてみる。最後の戦いが始まる前の、ほんの小さな安らぎ。
「あー、ネプギアがエヌラスに甘えてる! これは姉としてやるべきことはただ一つだよね!」
「お、お姉ちゃん!? エヌラスさん寝てるからそんなに騒いだら」
「そんなこと知るかー、とやー!」
ネプギアの反対側。エヌラスの右腕と身体の間に身体を滑り込ませるネプテューヌ。
「やっぱ姉妹丼は定番だよね」
「でも~他人丼っていうのもあるよねぇ~」
なぜかノワールが顔を赤くしてそっぽを向いていた。