超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラス達はアダルトゲイムギョウ界を歩く。キンジ塔が出現するまでにまだ猶予があるとみて、寄りたいところがあると言い出したのだ。
最初に立ち寄ったのは、ユノスダス。ヌルズと大魔導師との激闘の最中で消滅させられたユウコの治める国。そこには何も残っておらず、ただ他の場所と同じように虚無だけが広がっている。
最後に――せめて、最後にしてやれることでもあればよかった。そんな後悔も後先に立たず。ユウコの為にしてやれることと言えば、自分がこの戦いの最後の勝者になることくらいだ。
「エヌラス……」
「センチメンタルは趣味じゃねぇけど、やっぱり……なんつーかな。何も無くなっても、最後に一目見ておきたいんだよ」
「じゃあ、次はアゴウ?」
「そうだな。そっちに行くか」
街道沿いを歩いていると、フォートクラブが隊列を組んで歩く姿を見かける。
「あれ? フォートクラブって全部破壊したんじゃ……」
「いや、生産工場はぶっ壊したが輸送用とか民間用の機体が残ってるんだろ」
「確かに……武装とかつけてないですね」
背中に取り付けられているカーゴは空になっていた。元は物資輸送用の機体だったのだろう。何処に向かっていたのかまでは分からないが、その挙動は機械的に自分に課せられた仕事をこなしている。
「ったく、ユウコのやつめ。しっかり稼働停止させとけっての。どうせ後で帳簿見て「この電気代とガソリン代使った覚えねぇぇー!」なんて騒ぐんだからよ……」
フォートクラブと並んで歩きながらアゴウへ向かう道中。特に何かあるわけでもなく、ただ城壁の前に辿り着いた。
そこは、アルシュベイトとの死闘の傷跡もそのままにされており、薙ぎ払われた木々や打ち倒された大木、数少ない自然がこれでもかと環境破壊されている。改めて見て――思う。
「これだけ甚大な被害出したのよね」
「おう」
「……アナタとアルシュベイトの二人で」
「おう」
「それでも壊れなかった城壁って一体なんなのよ!?」
「いやー、考えたことねぇや」
見上げるほどに築きあげられた城壁にして城門。最後の防壁。無尽蔵の絶望を押しとどめる最前線の防衛戦線、軍事国家アゴウの最たる特徴。笑ってごまかすエヌラスだが、本当に考えたことはない。むしろどういう素材で造ればそうなるのか逆に聞きたいくらいだ。
城壁の向こう側には何も残っていない。ただ断崖絶壁のように暗闇が広がっている。アゴウ国民が総力を挙げて守りぬいたという国は、跡形も無い。
「兵どもが夢の跡、ってか……これじゃ報われねぇな」
軍事国家アゴウから電脳国家インタースカイまでの道中、初めてネプテューヌ達と出会った場所にも道すがら立ち寄る。見晴らしの良くなった一部の焼け野原は、“超電磁”抜刀術の跡だ。改めて、思う。その火力の直撃を受けてまともに立っていたアルシュベイトが荒唐無稽な鬼神だったのだと。
「懐かしいなー。この辺りでわたし、エヌラスに投げられたり転がされたり吹き飛ばされそうになってたっけ」
「あー、思い出した。バルド・ギアの野郎に追い回されてシェアエネルギー底をつきそうになってたっけな」
「それでぇ~、あたしと出会ったんだよね~」
「そこは思い出したくても思い出したくない」
既にその時点で上下関係が決定づけられたようなものだ。いたいけな少女に襲われた経歴を思い出すだけでもエヌラスは頭痛がしてくる。とはいえ、自分のいいようにしていたとしても通報待ったなしの事案なのでそれはそれでかなりマズイ。結局のところ、いいようにされるしかないのだ。
インタースカイに繋がるはずの海上高速道路は、途中からぷっつりと切れている。その先にはやはり他と同じように崩壊に巻き込まれて消滅していた。
「ドラグレイスと初めて出会った場所でもあるのよね」
「そうなのか」
「ええ。インタースカイに突然現れたと思ったら、わたし達とトライデントを相手にして一歩も退かなかったんだから。結局のところ、一体何者なの?」
「あの鎧の中も空っぽだったみたいですし……」
「なんなんだろうな、あの野郎……」
そのドラグレイスでさえも大魔導師との交戦で胸部を貫かれている。生命力に関して言えばエヌラスと同等かそれ以上のしぶとさを誇っていたが、最期は呆気ないものだ。
「さて――んじゃ、歩き通しで疲れたしそろそろ休むか」
「そうね」
「んもー、なんでそこで一番にノワールが賛成するかな。そこは主人公たるわたしでしょー?」
「別にいいでしょ。そんなこと言ったら私だって主役やってたことあるんだし」
「じゃあ~、ヒロインの座はあたしがもらっちゃってもいいよねぇ~エヌラス~」
「え、あー。いいんじゃね?」
「あー! ぷるるんズルーい!」
「だってぇ、ねぷちゃん達主人公するのにあたしだけ仲間はずれ~。ちょっとぉ、寂しいな~。同じプラネテューヌの女神なのに、ズルいよぉ~」
「うぅ、それを言われちゃうとわたしとしてもちょっとぷるるんに言い返せない。で、でもほら! タイトルでもう名前出ちゃってるし!」
「お前らメタい発言そこまでにしとけよ!? ホントそこまでにしとけよ!? これ以上すると収拾つかねぇからな!」
『はぁ~い』
座り込み、渋々口を閉じたネプテューヌだったがそれとなくエヌラスの隣に移動する。
「なんだか、段々お姉ちゃんがエヌラスさんと距離が近くなってる気が……」
「大丈夫だよーネプギア! プリンは別腹。それとおんなじだから!」
「プリン扱いかよ」
「そういえば、エヌラス。アナタ右腕の調子はいいの?」
「まるっきり駄目に決まってんだろうが。指一本動かねぇ。ノワールが支えてくれてるおかげで平気だけどな」
エヌラスの右隣には一日中ノワールがピッタリとくっついていた。それに若干の不満を抱いているのがネプテューヌ。頬を膨らませて左腕に抱きついた。
「ねぇ~いいじゃーん! ノワールばっかりじゃなくてさぁー、わたしにも優しくしてよ」
「してんだろうが」
「あ、夜の方じゃなくて日常的にね?」
「その注釈いらなくねぇ!? 優しくしてるつもりだぞ俺!?」
「むぅー。でもプリン……」
「どんだけプリン食いたいんだよ……遊びに行く時にでも買ってやるから」
「今食べたーい」
「どうしろってんだ……!」
そう言いながらも擦り寄ってくるネプテューヌはいつの間にかエヌラスの膝の上に座っている。それに負けじとノワールが右腕を強く抱きしめるが、神経が死んでいるので全く何も感じない。それを今、非常に恨んでいるのが当の本人である。
「エヌラス~」
「なんだ、プルルート」
「えっとねぇ~」
「おう」
「遠目から見てるとねぇ、犯罪者っぽいよ~って思ったんだけどぉ」
「思うだけにしてくれると俺は凄く嬉しかったな! 言わなくてよかったなそういうの!」
「キンジ塔が出るまでの間だけなんだからね、こういうの」
「はいはい分かってますよコンチクショウ」
ネプテューヌの頭を撫でながら、エヌラスは右腕の神経をどうするか考えていた。この先に残っているクロックサイコとの戦い。それを片腕で凌ぐというのは無理だ。
「んもー、朝からネプギアとプルルートはえっちなことしてるし!」
「ねぷっ!? ぷるるんはともかくネプギアまでそんなことしてたの!? お姉ちゃんは悲しいよ! なんでわたしを起こしてくれなかったのさ!」
「あたしはともかくってぇ~、どういう意味かな~ノワールちゃん~?」
「べ、別にお姉ちゃんに秘密にしてたわけじゃないよ!?」
……頼むから少しは静かにしてくれないと考えがまとまらない。
――九龍アマルガム
崩壊した地上。落下した岩盤によって地下帝国は壊滅的打撃を受けており、大魔導師とアサイラム、人狼局との交戦。そして国家規模のテロリストとの総力戦で焼け野原となっている。瓦礫と廃墟だけの忘れ去られたスチームパンク・ファンタジック。そこに一匹の蟲が湧いていた。また一匹、二匹と増えていく。集合した蟲は人の姿へと。異形な魔人へ姿を変えた。
その仮面の見つめる先には、瓦礫に埋もれている朽ち果てた竜の騎士。大剣を握りしめて、がらんどうの胴体には風穴が空いている。
「やァ、オハヨーオハヨー! グッドイブニング! いつまで寝ているつもりダイ?」
語りかけても反応はない。当然だ、死んでいるのだから。彼の握りしめているきらびやかに輝く黄金の大剣が空しい。
「ドラグレイス? 竜騎士? だぁいじょうぶかい? まだ“一回目”だろう?」
「――――――」
「キンジ塔なら明朝にでも、でーてくるよ。さァ、さぁおはようの時間ダ」
ピク、と。僅かに指先が動いた。動くはずのない鎧兜が、甲冑を着込んだ騎士がギチギチと全身を鳴らしながら動き始める。
「――――貴、様……何故それを……」
「さァ? なぜだろうねぇ。なんでかナ? なんで識ってるかって? そりゃあキミと同じ理由だろうネ」
ガラガラと瓦礫から身体を抜き出して立ち上がるドラグレイスだが、風穴の空いた胴体では思うように身体が動かないのか膝をつこうとして大剣を支えにする。
「死んだふりはそこまでにして、サ。クライマックスを飾ろうカ? 彼女達のいる黄金の理想郷――ティル・ナ・ノーグはもう目前まで来てるヨ」
「言われる、筋合いは……ない――!」
ドラグレイスが振るった剣の軌跡からクロックサイコは大きく背中を反らせて避けた。
「おォっと!? 怖いね」
「俺の前から、失せろ……! 貴様に言われるまでもなく、俺は……ティル・ナ・ノーグへ、行くのだ――!」
「じゃあまずはその為にキンジ塔へ急ごうか!? ぼかぁエヌラスの相手をしなきゃいけないからサァ! キャーッハッハッハ!」
無数の羽虫となってクロックサイコは地響きの起こる九龍アマルガムから消えた。ドラグレイスが周囲を見渡せば、世界の崩壊が始まっている。キンジ塔を出現させるために足りないエネルギーをまだ取り出そうとしているようだ。この崩壊に飲まれて終わるのでは、あまりにも味気ない。
ひび割れたシェアクリスタルを取り出す。その輝きは今にも消え失せそうだが、ドラグレイスは自らの身体に埋め込んだ。
「変……神――!」
大剣を担ぎあげて竜が羽ばたく。地上目掛けて飛び去った後の街が奈落へと落ちていく様に一瞥をくれて。