超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――エヌラス達は急いでいた。それは何度目かの地震で現れ、今まさに目指そうとしていた黄金の塔。キンジ塔に間違いない。
出現した場所はモンスター達が大挙して争っている。その道中を駆け抜けようとネプテューヌ達が変身。女神の力を存分に発揮して突破する。
「
「エヌラス、いけるの!」
「肩慣らしだ!」
左腕に白銀の回転式拳銃を握り、口に偃月刀を咥えてブラッドソウルがパープルシスターの隣に並ぶ。後方からの支援と露払いだ。
「いふほねふひあ!」
「え、え!? と、とりあえず、はい!」
「口に入れたまま喋らない! 行儀悪いわよ!」
「かんふめふへへあけふぁお前がいうふぁ!」
「今のはなんとなく分かったわよ!」
ブラックハートがモンスターの群れを薙ぎ払い、ネプテューヌが先行して切り抜ける。アイリスハートが並行して横から襲いかかるモンスター達を蛇腹剣で弾き返す。不規則な軌道を描いて頭部を的確に撃ちぬく白銀の魔弾。射撃の連続。頭を振りかぶって喉元を切り裂く。
走る。走る――ひた走る。
「ッ、流石にアレはデカイわね!」
山のような巨体のドラゴン。
「退いてろ、ネプテューヌ!」
背中のプロセッサユニットが羽ばたく。ブラッドソウルが銀鍵守護器官を起動させた。左腕の魔術回路を励起する。限界まで出力を上げた極冷温の手刀を振り上げて、脳天から叩き込む。
「ゼロドライブッ!」
――奇しくも、大魔導師から学んだ魔術のひとつ。相反する属性の最大火力を打ち込まれたドラゴンは頭部から決壊してゆっくりと横に倒れていった。その下敷きになっていくモンスターには目もくれず、パープルハート達はキンジ塔へと辿り着く。
扉を押し入る強盗のようにアクセル・ストライクで蹴破ったブラッドソウルは塔内に銃を向けて敵を警戒した。だが、恐ろしくなるほど静寂が広がっている。振り返れば、殺到しようとするモンスター達。
「もう、しつこいわね!」
ブラックハートが迎撃しようと大剣を構えて――次の瞬間、モンスターの群れが一陣の風とともに頭部を切り落とされる。その死骸を押し退け、駆け込むのは竜騎士だった。全身を血に汚して大剣を軽々と振り回すシルバーソウルが一心不乱にモンスターの群れを切り刻んでいる。
「ガァァァ――オオオオォォォォ!!」
竜の咆哮に大気が震えた。だが、その脅威を見過ごせないとモンスター達が更に襲いかかる。結果として足止めを食らう形となっていた姿にブラッドソウルが背中を向けて先を急ごうとして――嫌な気配を感じ取る。直感とも言うべきものが警告信号を発して、振り返った。
シルバーソウルを足止めしていたモンスター達の中からひとりの魔人が出現する。ズルリと身体から這い出るようにして、両手に自慢の得物を握り締めていた。銃と刀の複合武器。奇怪にして奇妙な機械の兵器を巧みに操って周囲のモンスターを瞬く間に掃討すると、今度はマントを翻して巨大なムカデが大柄なモンスターに噛み付いて動きを止める。
その隙にシルバーソウルが羽ばたきひとつでキンジ塔へ飛び込み、ブラッドソウル達を飛び越えた。
「野郎ッ――!」
「ヒャッホーーーウ、血みどろパラダァァァイスッ! 今日はなんのお祭りだい! 血祭りかい!? 仲間はずれはよくないなぁ、よくないネェ!」
「エヌラス、どうするの! ドラグレイスに先を越されるわよ!?」
「お前らは先に行け! アイツとはここでケリつける! 約束通りだ、クロックサイコ! そうだろう!」
「アッハハハハハハハハハハハハ! そうだねぇそうだよぉ! エントリィィィィッ!!」
クロックサイコが跳躍する。ご丁寧にブラッドソウル達の前で立ち止まり、頭を下げる。大仰な一礼に、鼻を鳴らして銃口を突きつけた。相手も
「エヌラス! 私達はドラグレイスを止めるわ」
「ああ、そうしてくれ。俺もすぐ行く」
「……ちょっと?」
「心配すんな、すぐ追いつく」
「ちょっと!?」
「なぁに、負けるわけねぇだろ。ヨユーだヨユー」
「あなたフラグ立ててそんなに死にたいの!?」
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
「誰と!? ねぇ誰と! ここは主人公たる私よね!」
「何言ってるの、私に決まってるでしょネプテューヌ!」
「あら、二人揃ってアタシを差し置いて何盛り上がってるのかしらねぇ?」
「お前らそこにだけ滅茶苦茶食いつくのやめろよ! 一刻を争う状況で言い争うなよ!」
「誰のせいだと思ってるんですか!? あ、でも私とならそれはそれで……」
「うおおおおおぃネプギアー!? 頼むからこいつら止めて早くドラグレイス追いかけてくれぇぇぇい!?」
パープルハート達がシルバーソウルの背中を追う中、クロックサイコは銃口をブラッドソウルから一寸もズラさなかった。その気配が完全に消えてから、互いに銃口を下ろす。
「きひひひひ。彼女達は、賑やかだねぇ。実に賑やかだ」
「ああまったくだ。一緒にいると飽きがこねぇ。ほんっとうにありがてぇことにな」
「永かったねぇ、此処に来るまで」
「ああ、永かった。とんでもねぇ苦労したぜ。過労死するんじゃねぇかと思った」
「住所不定無職二十代が過労死、怖い世の中だヨ」
「その字面はやめろ。色々と物議催すから」
「――ああ、永かった。永かったよ。ほんっっっとうに永かった。実に気が遠くなるほど永い戦いだったよ……キミは何一つ覚えちゃないだろうけど、ネ」
「一つだけ覚えてるのは、テメェが俺の妹を殺した不倶戴天の仇敵だってことだ、糞野郎ッ!」
「アハハハハ!! 感動の再会も血で血を洗って、血は争えないねぇ! じゃあ魔人同士水入らずで戯れようカァアーッハッハハハハハハハゲヒャアハハハハハ!!」
「上等だぁ、そう簡単にぶっ壊れんじゃねぇぞぉ狂い時計!」
引鉄が銃弾を吐き出す。雷管を叩かれた弾丸は空中で無数に相殺して甲高い不協和音を奏でる。音符も楽譜も拍子もない無軌道な狂気の魔人と絶望の魔人の
――パープルハート達がシルバーソウルの背中を追うが、道中で何度も魔術によって足を止められて思うように追いつけない。その当人ですら思うように魔術の制御が出来ないのかキンジ塔を守るドラゴンに足を止められていた。
切り抜けて、追いついた先は巨大な広間。
「ここは……?」
そこだけは今まで見てきた室内と装飾が違っていた。幾つもの配線が壁と床に走り、その先には破壊された装置が無残に打ち棄てられている。それが次元連結装置なのだとすぐに分かった。
シルバーソウルが弱々しく羽ばたくと、変神が解除されて床に倒れる。だが、すぐに大剣を突き立てて立ち上がった。胴体に空いた穴からは、やはり何も無い。空っぽの鎧兜。甲冑騎士。
「お、れの……邪魔を、する気か……! 守護女神!」
もう立ち上がれないほどボロボロのはずなのに、そのはずなのにドラグレイスは立ち上がる。
「俺は――諦めるわけには、いかんのだ。この夢を……ティル・ナ・ノーグを……! おれは、行かねば――行かねば、ならんのだ……ッ!」
「ドラグレイス……」
これから、止めなければならない。夢に取り憑かれた竜の騎士を。だが、刃を交えなければならない。
「貴様らに、何が分かる――夢を奪われ、無駄だと嗤われ、故郷すら亡くしたこの俺の何が分かる……!」
「それを言ったら貴方だって同じじゃなぁい? アタシ達の何が分かるの? 自分の不幸ばかりを他人に押しつけるのはどうかと思うけどぉ」
「お前達が俺を止めるのは、エヌラスの為だろう……」
ギリッ――大剣の柄が鳴り締められる。
「お前達は、お前達の世界を救いたいが為に俺を止めるのだろう……!」
「……ええ、そうよ」
「あの“絶望”を俺達に押しつけてお前達は世界を救うのか」
「っ……それは……」
「この先のない世界で。終わらない戦いの中で帰結させる気か、守護女神……未来永劫、救済措置のない無限に続く破壊を! この世界に押しつけるつもりか、貴様らは!」
「それは違うわ! 私達は、この世界も私達のゲイムギョウ界も――」
「救ってみせるというのか!? 見ろ、俺達のアダルトゲイムギョウ界を! 何が残っている! 何が見える! 何が、お前達の目に映っているのか言ってみろ!」
キンジ塔の最上階から見晴らせるアダルトゲイムギョウ界は、もう何も残ってはいなかった。そこにはただただ暗闇だけが広がっている。もはやこの場所だけが最期に残っていた。
何も無い。夢も希望も未来も明日も。ネプテューヌ達が望むものはそこにはない。
「俺は――この醜い世界を救うに値しないと判断した。だからこそティル・ナ・ノーグを目指したのだ……一度は辿り着いた。約束したのだ、彼女達に……! “次に会うことができれば、世界を救いましょう”と――」
“……ドラグレイスさんも、この世界を救おうとしてたんだ”
「お前達までもが俺の夢を嗤うのか……貴様ら守護女神でさえも、俺の希望を止めると言うのか! あの絶望の為に! 己の世界の為に!」
その叫びは、パープルハート達の目にはあまりに熾烈で苛烈で。憐憫の情すら湧き上がるような一人の騎士の届かない望み。全てを無くし、失い、奪われて。縋れるものはかつて辿り着いた理想郷の夢だけだった。今、自分達はそれすら奪おうとしている。
身体すら残っていない竜騎士の魂の咆哮――俺の夢を奪わないでくれ。夢を笑わないでくれ。
「俺は、諦めるわけにはいかんのだッ! 彼女達の為に!」
そこでようやく気づいた。エヌラスと同じだと。絶対に諦めない男とまったく同じなのだ。
だから、と思う。だからなのだ。ドラグレイスとエヌラスが戦い合うのは。
守りたいものがある。奪い返したいものがある。手に入れたいものがある。
「……やるしかないわ、みんな」
「いい、だろう――貴様ら守護女神が、この俺に残された全てを否定するのなら! 俺は――!」
ドラグレイスが取り出すのは、宝玉。エヌラスの能力が込められた最後の一つ。幾重にも防御魔法が張られたそれを自らの左腕で握り潰す。
幾つもの歯車が宙に舞い、地面に落ちる。ギリリリリリッ――――そして、“巻き戻されて”ドラグレイスの左腕に円盤状の盾として再構成された。歪に歪んだ砂時計。メビウスリング。
「俺の全身全霊を懸けて、貴様らの信じる絶望を砕くだけだ!」
「それでも私達は、ゲイムギョウ界を救うわ! ここで倒させてもらうわよ、ドラグレイス!」