超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「ん~、美味しい~。何もつけてなくても自然の旨味が凝縮されてる天然物はやっぱりそのままでも美味しいわね」
ノワールが魚の丸焼きを頬張りながら歓喜の声をあげていた。同じように串焼きにされている肉(詳細不明)を一口食べたネプテューヌの目が輝く。
「うほぉ~。美味しい! 私が今まで食べてきたお肉の中でも最上級だよぉ! ねぇ、これどんな動物のお肉なの!」
「世の中にはな、知らないほうが幸せな話題もあるんだぞ」
「……えっと、食用のお肉なんだよね?」
「ああ。中でも珍味とされる食料だ」
「珍しいんだよね?」
「ああ。貴重な食材なんだ」
「……美味しいけど、これ何のお肉?」
「ネプテューヌ……」
今日一番、優しい声色でエヌラスがネプテューヌに向き直る。その眼は泣いている子供をあやすように慈愛に満ち溢れていた。
「世の中には、知らなくてもいいことを知ろうとするカミカゼ精神溢れるバカもいるんだぞ?」
「それ、私のことバカって言ってない?」
「美味いか?」
「美味しいよ? で、これ何のお肉なの?」
「……知らないほうが幸せだぞ」
「……」
奇妙な沈黙が流れる。とにかく、どうあろうとエヌラスは肉の正体を伏せたいらしい。それがネプテューヌとノワールをさりげなく気遣っているであろうことを知っているのはネプギアだけだ。しかし、その肉の正体を知っているネプギアとしてはあまり食が進まない。
今はもう赤い肉片と化して姉を喜ばせているが、これが、あの、キモイ生き物の肉だと思うとどれだけの美味であっても食べたいとは思わなかった。
「…………」
「あれ、ネプギア。食べないの? 美味しいよ? プリンには劣るけど、すっごく美味しいのに食べないの?」
「あ、うん。ちょっと……」
「そっかぁ」
割り当てられた携帯食料と魚と肉。その一つを胃に収めないのは、例え少女が如何に少食といえどこれから先の行動を制限するのは間違いない。
エヌラスがネプギアの手から肉を取り上げると、自分の手元に置いていた魚と携帯食料を代わりに渡した。
「嫌なら、無理して食えとは言わない。それで我慢できるか」
「は、はい。すいません……」
「……エヌラスって、ロリコン?」
「今からテメェを八つ裂きにして食っちまうぞ」
「食べても美味しくないよ! ――あ、眼が本気だ!? じゃあ、せめてそのお肉一口だけでいいから分けてよ~、私のプリンは私のもの。ネプギアのプリンは私のもの。つまりそのお肉も私のお肉ってことなんだから!」
「じゃあテメェのプリンは俺が力づくで奪ってもいいんだな?」
「極限の暴論を見た!?」
そう言う間にもエヌラスの胃袋に程よく火の通った肉が流し込まれていく。外見や生態はともかくとして、その珍味と称される程の肉はまさしく絶品であった。過去の偉人でこの肉を口にしようと思った人物は極限状態の飢餓に窮していたに違いない。そうでなければ誰が食うものか。もう一度言おう。誰 が 食 う も の か。
「さて、落ち着いたところでいいかしら? 改めてこの世界の状況を説明してもらえない? まだなんにも納得のいく説明されてないのだし」
「…………」
説明を渋っていたエヌラスが怪訝な表情をしていた。
「お前達。まさか本当に何も知らないのか?」
「うん。全然!」
「胸を張って言うことじゃないよ、お姉ちゃん……」
「……念の為に聞くが、どこから来た」
「プラネテューヌだよ? あ、ネプギアも同じ」
「私はラステイションよ」
「聞いたこと無い場所だな……」
「“ゲイムギョウ界”なんだけど――」
「はっ? ゲイムギョウ界? 俺の聞き間違いじゃなければ、今そう言ったのか?」
「え、ええ……そうよ? それがなに?」
エヌラスが驚いて、言葉を探している。
「……アダルトゲイムギョウ界って、聞き覚えとかあったりするか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「ないんだな? ないんだろ? そうなんだろ」
三人が神妙な面持ちで頷いた。
「そういうことだ……察しろ……」
『………………えっ!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
つまり、そういうことらしい。此処はゲイムギョウ界とはまた違う異世界。
そう。アダルトゲイムギョウ界という世界。エヌラスが言うには。
「あ、あだ……アダルトってことはもしかしなくても、その……そういう……」
「まぁ、そうなるな。バルド・ギアも国を治める国王の一人だ」
「国王? 守護女神じゃなくて?」
「ああ。まぁ、基本的に男が治める国の方が多いな。……ん? っていうかなんで守護女神なんて言葉知ってんだ?」
「えーっ、と……実は、私達も守護女神なのよね……」
ネプギアはまだ女神候補生ではあるが。
「……オーケー、ノワールとネプギアはわかるがそっちは?」
「何言ってるの!? プラネテューヌの守護女神、パープルハートとはこのネプテューヌ様のことだよ! どうだ恐れ入ったかー、どやぁ!」
「はんっ」
「鼻で笑われた!?」
「いやまずありえねぇ。お前のようなお気楽で脳天気でそれでいて後先鑑みない無駄に行動力のある、かつ真面目とは無縁そうな奴が「私国を治めてるんですぅ」なんて言っても信じない。どうせサボってばかりで業務すっぽかして遊び呆けてるんだろ?」
「く、悔しいけど全部当たってる!」
「ダメじゃねぇかッ!?」
「で、でもお姉ちゃんは変身したら凄いんですよ!」
「へぇ……」
「恐ろしいほど無関心!」
「まぁ、置・い・と・い・てェッ!」
「ぶん投げたー!?」
それとなく脇に置かれると予想していた話題が壁に叩きつけられた。形があったら爆発四散していたことだろう。
「問題は、なんでそんな全年齢推奨のお前達がこの世界に迷い込んでんのかってことだ」
「……実は今のゲイムギョウ界では奇妙な自然災害が多発してるの。その調査に私達三人が乗り出したら、案の定。ネプテューヌが亀裂に落ちて、私達も一緒に来ちゃったってわけ」
「……なるほどな。経緯は分かった」
「あの、私達、元の世界に帰れるんでしょうか?」
「それについては問題ない。すぐ帰れる」
「よかったぁ~……」
胸を撫で下ろすネプギアだったが、ノワールは怪訝な表情する。
「ねぇ、もしかしてとは思うんだけど――」
「ゲイムギョウ界の自然災害と、アダルトゲイムギョウ界が何らかの関係があるんじゃないか。だろ?」
「ええ、そうよ。何か知ってるの?」
「…………知ってるも何も、今こっちの世界は崩壊に向かってる真っ最中だ」
『――エェェェェェエエエエ!?』
「だ、だだだだだだって、戦争!?」
「ああ。やってんな。どこもかしこも似たような状況だ」
「一人で最前線荒らしてるって!?」
「まぁ、そりゃ一身上の都合だ」
「世界が滅ぼうとしてるってのに、なんで戦争なんてしてるのよ!? おかしいじゃない、他の国に協力を仰いで防ごうと思わないわけ!?」
「無理なんだよ」
ノワールの言い分に、エヌラスは断言した。それだけは出来ない、と。明確な敵意を持って断言する。手を取り合うことだけは出来ないと。
「……それだけは、無理だ」
遠い過去に思いを馳せるように。
その時だけ、三人はエヌラスの本当の顔を見た気がした。郷愁の念を隠そうともせず、それが二度と取り返せない宝物であるかのように。もう手に入らない思い出を嘆く。
「今はどこの国でも全面戦争の真っ只中だ。だが、恐らくそっちの世界で自然災害や異常気象が観測されているって事は、アダルトゲイムギョウ界の崩壊がそっちのゲイムギョウ界に影響を及ぼしているってことだな。つまり、お互い戦争の早期終結が望ましい。以上だ」
アッサリと、さも当然のように。まるで授業中に投げられた生徒の質問に答える教師の如くエヌラスはノワール達が求めていた回答を弾き出した。
「じ、じゃあ早くこの戦争終わらせないと。平和条約でも友好条約でもなんでも結んじゃえばいいじゃん!」
「生憎と、俺達がやっている戦争はそんな生温くない。白旗挙げても旗ごと国を落とさなきゃ話が進まない」
「どうして!?」
「生存競争だよ。サバイバルバトル、バトル・ロワイアル。“殺らなきゃ殺られる”――最後の一人になるまで、条例も条約もクソッタレも関係ねぇ」
「……だから、バルド・ギアは貴方を狙っていたのね」
「まぁな。仲間も居ない俺は格好の獲物ってわけだ」
「でも、変身してましたよね? ということはエヌラスさんも、私達守護女神と同じで」
「俺も国王の一人だ」
「はんっ」
「てんめぇ、ネプテューヌ。鼻で笑いやがったな……!」
「え~だってぇ~……エヌラスってアレでしょ? 「俺はクールな一匹狼」って気取っておきながら「俺ツエー!」って感じじゃないの? 変身してからの強気な態度とかも何か小物臭するしぃ。それに、国王だって言うならどうしてぼっちで戦ってるわけ? あのロボット達だって味方と協力してたよー? 戦争だよー? 一人で勝てっこないよー」
さっきのお返しと言わんばかりに口で責めるネプテューヌをノワールが小突く。
“ちょっと、ネプテューヌ”
「エヌラス。もしかして本当に友達いないの? 仲間も?」
「…………」
「ネプテューヌ、貴方ちょっと言い過ぎよ」
「いや。別に怒ってねぇよ、気にすんな」
「えっ」
てっきり逆上してくるかと思っていたネプテューヌが驚き、ノワールがその代わりに謝罪しようと口を開こうとして、エヌラスの次の言葉に声を失った。
「バルド・ギアは俺の友人だ」
「――――――――」
「アイツだけじゃない。今、この世界で戦争の指揮を執っている他の国王もだ」
もし。
もし、ゲイムギョウ界で同じような状況になったら……武力によるシェアの奪い合いなどではなく、純粋な生き残りを賭けた生存競争で刃を交える事になったら。
その時自分達は、本気で“友達”と呼んだ相手を斬ることができるだろうか。
ノワールを。ベールを。ブランを。他の三人を犠牲にしてでも得ようと思う勝利があるだろうか? ネプテューヌには、思い浮かばなかった。
エヌラスはやってみせた。“友人”と呼んだバルド・ギアを“殺す気”で、斬ってみせたのだ。それだけでネプテューヌ達を黙らせるのには十分過ぎるほどの効果をもたらしている。
自分が勝つために、国民の力を借りる。それは、守るべき者を戦いに駆り出すという矛盾。守られるべき者達は戦いに赴いて、そして命を失うこととなる。
それを良しとしないからこそ、エヌラスは国を一人離れて一人孤独に戦っているのだと気づいて、ネプテューヌは申し訳ない気分で胸が一杯になった。自分はなんてひどい事を口走ってしまったのだろう。
「エヌラス……ごめん。私……」
「いいさ。何も知らなかったんだろ。もし、知ってて言ったなら――今ここで殺してる」
ゾッとするほどの寒気に襲われた――それが“殺意”だと気づくのに、エヌラスの瞳を見る勇気はネプテューヌに、ネプギアに、ノワールにはなかった。
「……今日はもう遅い。明日、お前達を元の世界に帰す為に『インタースカイ』に送り届ける」
「でも、今は戦争中って」
「戦争中でも何でも、次元を越えた迷い人を自分達の戦いに巻き込みたくねぇよ。大体、インタースカイはバルド・ギアの国だ」
「そこ、私達が行っても大丈夫なんですか……?」
仮にも自分達は刃を向けたのだ。敵視されていても文句は言えない。
「大丈夫だ。アイツはアレで良識あるからな。事情を説明すればすんなり帰してくれるだろ。問題はそこに辿り着くまで何が起きるか分からないってことぐらいだけどな」
「不安だなぁ……」
「今日はもう寝ろ。これ以上話しても疲れるだけだ」
毛布を投げ渡して立ち上がるエヌラスが武器を召喚して背を向ける。
「アナタは?」
「もう敵はいないだろうが、念のため見張っておく。見ず知らずの男と一緒に寝るほどケツ軽くねぇだろ、女神様」
その皮肉じみた笑みが、果たして自嘲であったのかを確認するまでもなくエヌラスの姿が夜の闇の中へと消えた。元々黒一色の服装をしていたのだ、灯りのない森の中ではより一層、隠匿性が高まる。
「……私、エヌラスにひどいこと言っちゃったなぁ」
「アナタは悪気ないんだろうけど、たまにすごく無神経なこと言うわよね」
「で、でもすぐに帰れそうですし良かったじゃないですか。原因も分かりましたし」
「ええ。そうよね……」
一つの毛布を大きく広げ、三人で身体を寄せあって包まろうとしてノワールがネプテューヌから距離を置いた。
「ん? どしたのノワール。しっかりくっつかないとネプギアが入るスペース無いよ?」
「そ……そうだけど……」
「照れてるの~?」
「だ、だって当たり前でしょ!? こんな……くっついちゃって」
「私は別に構わないよ? ほら、ノワールも私の事ぎゅーって」
ネプテューヌとネプギアは姉妹仲睦まじく抱き合っている。だが、ノワールは慣れていないからか中々踏み出すことが出来ない。それにやきもきしたネプテューヌが半ば無理やり抱き寄せ、腰に手を回した。みるみる顔を赤くするノワールの肩にネプテューヌが頭を預ける。
「んー、ノワールのいい香り~……むにゃぁ」
「早っ!?」
――夜の森を見渡すエヌラスが立っているのは、木々の頂上。足場にしているのは、軽身功で折れずに済んでいる枝だった。人一人の体重を支えるにはいささか不安の残る太さであっても、素知らぬ顔で成人男性を支えている。
緑の海。その地平線を眺める瞳がライトアップされている遥か遠方の都市を眺めていた。
電脳国家『インタースカイ』――バルド・ギアを国王とするその国は、優れた転送技術により国内外を問わないシェアを集めている。それを武器に転用したことで軍事国家とは同盟関係にあった。元々仲の良かった二人だ。その同盟は誰もが予想していたことだったが、よもや全面戦争と発展した今となっては敵対関係へと早変わりするとは誰が予想していただろう。
そして。それを引き裂いたのが他でもなく自分、エヌラスであるということも。
夜空を見上げる。星々の中に祈りを込めても、きっとこの声は届かない。
「……どうしてこんな事になっちまったんだろうなぁ……」
きっと神は自分を見捨てたのだろう。そうでなければ、こんな――。
「なぁ……聞いてんのか……神様よぉ」
デタラメで。滅茶苦茶で。荒唐無稽な群像劇。誰も彼もが群雄割拠。英雄は誰一人おらず、あるのはただ緩やかに迎える終焉だけ。刻一刻と迫るのは“
――それでも、自分は生き残らなければならない。
国を守るためではなく、世界を救うためでもなく、もう一度“やり直す”為に。
「……俺は認めねぇ……こんな世界を、認めねぇ……!
今度こそ。
今度こそ――、みんなでやり直す。
笑顔で迎える未来の為に――。