超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「“電導”アクセル・ストライィィクッ!」
「Empress Dark!!」
紫電を纏った飛び蹴りと蟲を纏わせた回し蹴りが衝突する。はじけ飛ぶ光と影。至近距離で銃口が互いの額を狙う。撃鉄が起きる、その瞬間に二人の手が相手の銃口をずらした。弾丸が逸れる、ブラッドソウルの足がもう片方の銃刀を跳ね除ける。銃弾が掠める。二人は身体を独楽のように回転させながら弾丸を装填して立ち止まり、再び引鉄を引きながら接近していく。
「アアッハッハッハッッハ、ギャハハハハ!! 愉しすぎて楽し過ぎてイカれちまいそうだよぉぉぉホーホーホー!!」
「とっくの昔にイカれた野郎が何キチがってんだァ!」
飛び交う銃弾と銃弾。魔弾と魔弾。魔術と呪術の応酬、一進一退の銃撃戦。
「片腕でここまで出来ると曲芸師にでもなれるんじゃあないかナ!?」
「大道芸でその日暮らしも悪かねぇ!」
ガォンッ――。
クロックサイコが避けた弾丸が不規則な軌道を描いて反転する。それは無数の魔弾をかいくぐって足を撃ち抜いた。左手を振ると、白銀の回転式拳銃は深紅の自動式拳銃へと姿を変える。体勢の崩れた相手へ立て続けに引鉄を引くが、大きく身体をのけぞらせて頭部への直撃は避けた。更に地面に刀を突き立てて身体を跳ね上げながらのサマーソルトがブラッドソウルの顎を掠める。
「ホッホウ危ないネ」
「クソッタレめ、おとなしく直撃喰らえよ」
「ヤーダヨ。神性の熱量を込めた魔弾なんて、まともに食らったら痛いじゃないカ」
「癖になるかもしれねぇぞ」
「それでもご遠慮だネ! じゃあ次はこっちで遊ぼうか!」
銃撃から剣撃へ。ブラッドソウルは偃月刀を担いでクロックサイコの刀と丁々発止。細長い太刀のどこに偃月刀の魔術を防ぐだけの強度があるのか甚だ疑問ではあるが、相手は狂気の魔人。何をしててもおかしくない。トチ狂ってるのだから無理もない。
「BLACK DETONATOR!」
黒い三日月を防いだ瞬間に、刀身が爆ぜた。衝撃と爆発で後ずさるブラッドソウルの眼前に刃が迫る。三寸、横にずれて躱して――もう一刀。衝撃で引いた返し刃が左目を切り裂いた。だが、撃鉄の付いた日本刀を召喚してクロックサイコの腹に柄頭をあてがう。
「返礼する。“超電磁”抜刀術・壱式――」
「片手でやる気かい?」
「“が、打ち崩し”」
ガチリと起こされる撃鉄にクロックサイコが飛び退けようとするが、射出される日本刀に身体を撃ち抜かれた。
「“火雷”」
「――カッ~~~効ィくネェ! いーい一撃だったヨォ?」
「ほざきやがれ、ピンピンしてんじゃねぇか」
ポタポタと左目から伝う赤い滴が垂れる。一直線に走る刀傷は、思った以上に深い。そして、狂っているがやはり強い。普段からイカれた口調のイカれた風貌でイカれた態度ではあるが、その実力だけで言えば少なくともアダルトゲイムギョウ界でも指折り数える程の実力者だ。だからこそアルシュベイトでさえも正面きって相手することだけは忌避していた。
「さァてさて? 片腕一本、加えて左目一つ。サァ、さぁさぁさぁ! 次はどうする?」
「テメェの得物をぶっ壊す!」
偃月刀と二挺の銃刀が打ち鳴らされる。刃が欠けて片方の刀が砕かれた。
「ヒャ!?」
「どぉりゃああああ!!!」
空いた脇腹へと胴回し蹴りを叩き込む。だが、骨のない肉身を蹴った感触にブラッドソウルが訝しんだ。まるで手応えがない。例えるなら別なものを詰め込んだ袋を蹴ったような感触。
一歩飛び退ったクロックサイコが折れた刀身をまじまじと眺めて、刀身を排出した。マントの中から新しい刀身を取り出すと装着して頷く。
「じゃあ続けよっカ!」
「用意がいいこと!」
片腕片目、そのハンデが開くに連れて力量の差が徐々に現れ始める。離されないようについていくので必死なエヌラスをあざ笑うかのようにクロックサイコの攻撃は激しさを増していった。
「大いなる“C”が一体何者なのか考えたことはあるかい?」
「ねぇよ!」
ぎこちなく動くブラッドソウルの頬に横蹴りが入る。
「アララ~それじゃダメだよダメダメ。キミにはボクを倒してもらってそれから大いなる“C”を倒してくれなきゃ困るんダ」
「テメェの都合で、こっちは動いてねぇんだよ!」
「アハハ、そりゃそぉうだよねぇ!」
クロックサイコののらりくらりとした回避に苛立ったブラッドソウルが白銀の回転式拳銃を立て続けに六連射。空を奔る白銀の魔弾を、全て迎撃して動きを変えて急速に距離を詰める。排莢していたブラッドソウルの足がクロックサイコの胸板を蹴り飛ばす。――やはり、妙な違和感。
「片目が使えなくなって距離感掴めないんじゃないカナ?」
「うっせぇわボケナスが。テメェは鼻が曲がりそうな瘴気撒き散らしてんじゃねぇよ、消し炭にすんぞ」
左手の甲で血を拭う。乾きつつある血糊がペリペリと肌に引っ掛かる。眼球にまで届いた刃は再生能力でも完治は難しいだろう。この際左目は捨てる。その他の快復に専念することにした。しかし、やはりそのハンデ分は大きい。クロックサイコの読めない軌道に対応するので四苦八苦だった。ブラッドソウルに裏拳が打ち込まれ、次いで後ろ回し蹴りから更に二段蹴り。前蹴りで床を転がる姿に両手の銃刀を連射して追い込む。しかし、器用にも片手で防御魔法を展開しながら態勢を立て直して反撃してくる。
「ヒャハッ! スゴイスゴイ!」
「クトゥガ、神獣形態!」
特別製の弾丸を装填された深紅の自動式拳銃から放たれるのは灼熱の炎獣。直線上に存在する全てを焼きつくしながら迫る破壊の申し子に対して、クロックサイコは銃刀に黒い陽炎を纏わせる。
「Elder!」
右足と右手の欠けた黒い五芒星が灼熱の炎獣を阻んだ。その障壁を破ろうと喰いつく猛獣に、クロックサイコは片手を額にあてがう。
「悪いコにはお仕置きだ」
パァン!
炎獣の身体が闇に飲まれて穴だらけになった。その手には黒い瘴気がまとわりついている。
「……テメェ、その力は」
「ン~? これかい? 別に驚くこたぁないヨ? だってぼかぁキミと同じ魔人の一人だからね! キミは絶望したろう? 救われない世界に。救えない世界に。あまりにも報われない世界が多過ぎて! 希望を諦めきれず、笑顔を捨てきれず、後味悪くて、だから破壊してきた! そんな終焉を迎えた世界を! 迎えようとしていた次元を! あらゆる次元を渡り、世界を壊し続けてきた“禍動破壊神”! キミなら大いなる“C”が作り上げた神のロジックすらも破壊出来る! ……かもネェ?」
ケタケタケタと不気味に嗤うクロックサイコの周囲に幾つもの黒い球が浮かび上がった。大魔導師の使う超重力弾に似たものだが、違う。こっちはもっと“タチが悪い”
「“フィスト・オブ・■■=■■■”」
空間がガラス細工のように割れていく。ブラッドソウルがプロセッサユニットを展開して避けた床には暗闇が広がっていた。世界の崩壊と同じ現象――それが出来るということは。
「コイツが使えるってことは大いなる“C”の隷属ってことで間違いねぇんだなッ!!」
「ピンポンピンポーン! ヒントにしては大きすぎたかナ!? さぁさぁどうするつも――」
ガゴンッ!
凶悪な銃声がクロックサイコの掲げていた片手を吹き飛ばした。ブラッドソウルの手には白銀の回転式拳銃でもなければ深紅の自動式拳銃でもない、無骨で鈍重にして凶悪なフォルムのレイジングブル・マキシカスタムが握られている。
「
「コイツは流石に効くぜ? 魔術で勝てねぇなら、こうだ!」
胴体に二発、肩に一発。顔に一発。装弾数、五発を撃ち切ってブラッドソウルがリロードを後回しにして膝を着いたクロックサイコの頭部を横薙ぎに蹴り飛ばした。地面を転がる姿に向け、片腕で“超電磁”抜刀術・壱式、迅雷を奔らせると胴体から真っ二つに斬り裂かれる。
通常であれば、間違いなく即死級の連撃だ。だがしかし、相手が超常の存在であるならば――。
ボロ布から無数の蟲が湧き出し、仮面を食い散らかして再び人の姿へと戻る。そこには無傷のクロックサイコがマントを広げて準備体操を始めていた。
「目覚めスッキリ、爽快気分ッ☆ やぁオハヨウ! エヌラス!」
「……目覚め最悪だぜ、クソが」
まるで効果が無くてもおかしくない。相手の頭以外は。
“さて……こっちはともかく……あいつら大丈夫だろうな”
ブラッドソウルがちらりと見やるのは上へと続く螺旋階段。ドラグレイスを追いかけたネプテューヌ達の身を案じている暇など無い。
ほんの、わずかにだが――右手の指が動く。