超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ブラックハートの大剣とドラグレイスの大剣が衝突する。重厚な衝突音、そして互いに弾き飛ばされた。パープルハートの一閃を左腕の円盤で受け流し、柄頭を打ち込んで反撃すると蹴り飛ばした。その姿をパープルシスターが受け止める。
「ありがと、ネプギア」
「ううん、大丈夫」
アイリスハートの蛇腹剣で絡め取られた片腕だが、逆に自ら手繰り寄せると壁に投げつけた。
「っ~、馬鹿力なんだからぁ!」
「オオオオォォォッ!!」
今度はドラグレイスの大剣がブラックハートの大剣を打ち払う。タックルから盾で打ち上げ、大剣の腹を叩きつける。だが、辛うじて防御が間に合った。
パープルハートが一気に距離を詰め、パープルシスターも接近する。二人の攻撃を凌ぎ、一度身を引いたドラグレイスが大剣を担ぐ。
「狼隠し――」
その姿が霧のように消えていく。気配すらも感じない。あれだけデカイ大剣と甲冑を着込んでいた相手が、だ。
「消えた……?」
「そうみたいねぇ」
「でも、逃げたわけじゃなさそうね」
「それじゃあ炙り出してあげるわ。サンダーブレードキック!」
「ちょっとぷるるん! 私達まで巻き込まないで!?」
「のわぁあああああ!?」
「ああ! ノワールさんが!」
ブラックハートが思いの外直撃を受けていた。これでドラグレイスが出てこなければまったくの骨折り損になるわけだが――出てきた。
「あ、アナタね……! 私になんの恨みが……!?」
「あらぁ~? 別にアタシ、ノワールちゃんに恨みはないわよぉ? ただー、そうね。あまりにもかわいい背中が踏んでほしそうにしてたから。ごめんなさいね」
小さく舌を出してかわいらしく“てへぺろ☆”と言うような仕草をしても、アイリスハートがやるとあまりにもサディスティックに溢れてただのドSな笑みにしかならない。
「……仲間ごと、やるか普通……!」
「えと、普段はこういうことしませんけれど……あ、いや、やるかもしれません……」
「ぎあちゃ~ん?」
「はひ!? なんでもありません! 覚悟してくださいドラグレイスさん!」
「心労を察してやりたいが、こちらも退けんのだ! 神楽迦具土!」
魔術による炎の剣舞。斬撃と魔術の二重攻撃がパープルハート達の猛攻を防ぎきる。
「さっきのお返しよ、プルルート! インフィニットスラッシュ!」
アイリスハートがドラグレイスの攻撃を捌き、その腕に蛇腹剣を巻きつかせると今度は自分から引き寄せて滑るようにその場から離脱した。高速の斬撃を食らったのはドラグレイスただひとり、だが結果オーライなので何も言わずにおく。
「畳み掛けるわよ! ネプチューンブレイクで一気に決めるわ!」
パープルハートが膝を着いたドラグレイスに向けて太刀を振り上げた瞬間に、“それ”は起こった。
左腕の盾が開く。砂時計が起動する。
「時駆――」
カチン。
「――――え?」
四人は、気がつけば並んで武器を手にしていた。その前には胴体に穴の空いたドラグレイス。
自分達はさっきまでドラグレイスと戦っていた。それは、間違いない。だが、この配置は“戦闘が始まる前の状態”だ。
「征け、我が七姉妹!」
「な、なにが起きているの!?」
「わからないわよ! 気づいたらこうなってたんだから!」
迫る七本の軍槍。それをそれぞれが全力で迎撃するが、その相手取っている間にドラグレイスがアイリスハートに向けて大剣を振り上げている。
「
赤い魔力の斬撃がアイリスハートの身体を吹き飛ばす。どうにか受け身を取るが、そのダメージは大きい。
「さっきのお返しぃ? 生意気ね!」
「なんとでも言え」
ひらりひらりと舞い上がる赤いバラの花びら。それが魔術によって生み出される幻影だとわかっていても視界を塞がれてパープルハート達は距離感を失う。
「魔女の薔薇の庭園だ、存分に味わえ」
「くっ……!」
鮮烈な深紅の舞う視界に足元がくらむ。ブラックハートが大剣の切っ先を床に沈め、身体をひねるようにして全身を使い、振り上げる。剣風が花びらを吹き飛ばした。だが、そこにドラグレイスの姿はない。狼隠し。
「この、姿を消したり幻術使ったりと卑怯なんだから!」
『手段を選んでやられたら反論も出来まい』
どこからか声が聞こえてくる。だが、出処が掴めない。
「正論ね。ならこちらもそうさせてもらうわよ」
「ネプテューヌ。どうするつもり?」
エヌラスから手段を選ばない実力派の傭兵とは聞いていたが、状態異常まで備えているとは考えもしなかった。
「そんなの決まってるでしょ。どうにかするのよ!」
「答えになってないじゃない! 具体的に言いなさいよ!」
『この一刀を捧ぐ――』
薔薇の花弁が舞う。竜騎士がその手に掲げるのは黄金の輝きを放つ大剣。
「宣誓する。この黄金の輝きに。片翼の夜鷹に。絶対の戒律を持って宣言する」
魔術によって起こる旋風が吹き荒れる。パープルハート達は全力で迎撃せんと構えた。
「この俺は所詮、魔女の駒でしかない。だが構わん。俺は愛そう。ただ一人、お前の理想郷を――ルール・オブ・ベアトリーチェ!」
四人でドラグレイスの一撃を防ぐ。押し負けそうになるが、それでも踏みとどまる。極大の刃は魔力によって構成されており、それが大剣の質量となっていた。
「ッ、こんなのを今まで振り回してたっていうの……!?」
胴体に風穴が空いた、
「オ、オオ――ガァァァアアアアアアッッ!!!!」
振り抜いた大剣が、守護女神を四人諸共に吹き飛ばす。キンジ塔の最上階で薔薇の風が吹き荒ぶ。倒れた四人の女神化が解除された。
ガランと重厚な音に目をやれば、ドラグレイスの右腕が崩壊している。先ほどの全力の一撃に自分の身体が持ち堪えられなかったのだろう。それに無感情な視線を向けていた。兜の下にあったはずの顔は今、どんな表情をしているのだろうか。わからない。
「……俺もかつては、人の身だった。この中に肉体があった」
カラカラと落ちていく破片の中にシェアリングがいくつも混じっていた。
「だがそれも今となってはもう、戻らぬ。俺は全てを置いてきた。あの
足で柄を持ち上げると、左手で掴んで肩に担ぐ。
「この世界に俺の
「……ドラグレイス……」
「俺はもう、夢を見ることでしか救われん。夢を追うことでしか俺は、救われないのだ……いつか見た彼女達の笑顔を思い浮かべることだけでしか俺は……俺は、救われんのだ……」
左腕の盾が開く。砂時計が巡る。
「続けるぞ、守護女神。貴様らが果てるか、俺が朽ちるかのどちらかでしかこの戦いは終わらん」
カチッ――。
ドラグレイスが立っていた。
パープルハート達が立っていた。
対するは竜騎士。対するは守護女神。
その配置は戦闘開始前の繰り返し。時間を巻き戻されている。“無かったことにされている時間”が確かに存在した。
それでも、確かに残るものもある。時間も空間も超越したものが胸に込み上げてくる。
「――バカね」
「ええ、バカね……」
「……救いようがないバカがここにもいたのねぇ」
なんと言われようと、彼は引かないだろう。何が来ても彼は諦めないだろう。
何度繰り返す事になっても、ドラグレイスは夢を追い続けるだろう。決して届かない那由多の果ての、最果てのそのまた先の……そうすることでしか彼の心は救われない。叶わぬ夢のランナーズハイ。立ち止まってしまえば、きっと彼は崩れてしまう。心が折れてしまうから。
だから――だから、こうすることでしか彼を救うことが出来ない。
守護女神は人々を守らなければならない存在だ。これ以上彼が壊れていくのを見ていられない。それが例え、自分達の自己満足だったとしても。
「ドラグレイスさん……此処で、私達が貴方を止めてみせます」
「これ以上、貴方がその夢に押し潰されるのを見ていられないわ」
片腕の竜騎士が構える。時間を巻き戻しても自分の身体は治せないのか、崩れた右腕はそのまま消えていた。恐らくは術者の身体から離れたからだろう。
「俺を哀れと言うな。俺を哀れむな、守護女神。俺は確かに救われているのだ。俺は救われている、この夢に守られている――俺は、騎士なのだ。守るべきものがある限り俺は立たねばならん。守らねばならん。それが俺の使命だ。宿命だ、因果だ。お前たち守護女神と同じようにな」